平成13年度 水産の動向に関する年次報告
第1部 水産の動向 概要
 
 
 
目 次

はじめに

トピックス 〜水産この一年〜
 1 水産基本法制定
 2 有明海ノリ不作 〜その後〜
 3 北方四島周辺水域 〜第三国漁船サンマ操業〜
 4 WTO閣僚会議 〜新ラウンド立ち上げ〜
 5 資源回復計画 〜豊かな海を取り戻すために〜
 6 新たな水産公共事業
 7 IWC下関会議に向けて

T 特集 水産資源の現状とその持続的利用に向けた課題
 1 水産資源の現状について
 (1)我が国周辺水域の水産資源の状態
 (2)世界の水産資源の状態
 2 水産資源の減少の要因について
 (1)我が国周辺水域における水産資源の減少の要因
 (2)世界における水産資源の減少の要因
 3 水産資源の持続的利用に向けた課題

U 平成12年度以降の我が国水産の動向
 1 我が国の水産物の需給
 (1)国内漁業生産
 (2)水産物貿易
 (3)水産物の加工・流通
 (4)水産物消費
 (5)水産物の自給率
 2 我が国漁業をめぐる国際動向
 (1)二国間の漁業関係
 (2)多国間の漁業関係
 (3)国際漁業協力の現状
 3 漁業経営
 (1)漁業経営体の動向
 (2)漁業経営の状況
 (3)漁業労働者の状況
 (4)漁業協同組合
 4 漁村の現状と活性化への取組
 (1)漁村の役割と現状
 (2)漁村の生活環境の改善と活性化への取組
 5 水産業・漁村の有する多面的機能

むすび
 
 
 
はじめに
 
 平成13年6月、今後の水産政策の指針となる「水産基本法」が制定された。基本法第10条では、政府は、毎年、国会に、水産の動向及び政府が水産に関して講じた施策に関する報告を提出することとされている。平成13年度の水産の動向に関する年次報告(水産白書)は、新たな基本法に基づく最初の白書であり、この機会に、一層国民に親しまれる白書となるよう、工夫をこらした。
 
 まず第1は、「トピックス−水産この一年−」を創設したことである。水産白書は、毎年の水産の動向を報告するものであるが、総花的な報告とした場合には、かえって毎年の特徴がとらえにくくなるばかりでなく、読者の関心を低下させることになる。このため、この1年間に生じた水産をめぐる重大な動き、国民的に関心を集めた出来事等を冒頭に紹介することとしたものである。これにより、とかく平板になりがちな白書の編集改革に役立つものと考えている。なお、これに伴い、毎年の水産全般にわたる動向については極力簡潔に記載することとした。
 
 第2は、特集テーマの設定である。国民の支持を得ながら政策を展開するためには、何よりも、水産の実態について、国民に正しく理解してもらうことが重要である。こうした観点から、毎年の水産全般の動向だけでなく、特定のテーマについて少し掘り下げた分析を行い、国民全体で共通の認識を醸成していくことも、白書に与えられた重要な役割であると考えられる。
 水産基本法においては、「水産物の安定供給の確保」と「水産業の健全な発展」という二つの理念を実現するための共通の基礎条件として、水産資源の持続的な利用の確保を位置づけている。我が国周辺水域等における資源状態の悪化が進行している中で、「水産資源の現状とその持続的利用に向けた課題」について国民の理解を求めることは、最初の水産白書の特集テーマにふさわしいものであり、第1章でとりあげることとした。
 
 第3は、わかりやすい内容となるように努めたことである。水産分野には国民の日常生活にはなじみの薄いことがらが多くある。そうした実態も踏まえた上で、平易な記述に心がけるとともに、難解な用語には脚注を設け、また、写真や図表も可能な限り用いた。
 
 今後、水産基本法に示された方向に沿って、現場の実情に即し、また、消費者のニーズに的確に対応しながら、政策の改革を進めなければならない。その際、水産白書は、水産の現場と行政、そして国民とを結ぶ重要な役割を担うものである。こうした認識に立ち、また、国民全体の利益の実現をめざすという水産基本法における政策理念の趣旨を踏まえ、水産白書が所期の役割を果たすことを期待するものである。
 
 
 
 
トピックス 〜水産この一年〜
 
1 水産基本法制定
 
 平成13年6月、第151回国会において、「水産基本法」が成立しました。
 この法律は、国連海洋法条約の発効による本格的な200海里体制への移行、我が国漁業生産の減少と水産物自給率の低下など、水産をめぐる状況が大きく変化してきたことを背景に、昭和38年に制定された「沿岸漁業等振興法」に代わる新たな水産政策の指針として制定されたものです。
 水産基本法は、「水産物の安定供給の確保」と「水産業の健全な発展」を基本理念として掲げるとともに、この基本理念の下で講ずべき施策の基本方向を明らかにしています。
 この方向に沿って、基本法の制定の際には、漁業法、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律、漁港法など、主要な水産関係法についても、基本法の内容に即した改正が行われました。また、14年3月には、基本法に基づき、今後の施策の中期的指針となる「水産基本計画」が策定されました。
 今後は、この基本法に示された方向に沿って施策の具体化が進められることになります。
 
  水産基本法の目指すもの 理念の明確化と基本政策の方向付け
 
 有明海ノリ不作 〜その後〜
 
 平成12年12月以降、有明海のノリ養殖は記録的な不作に見舞われました。
 有明海では、諫早湾で干拓事業が行われており、これがノリ不作の原因ではないかとの見方が関係漁業者の間に広がって、工事の中止を求める海上デモや工事阻止行動が行われ、社会的にも大きな関心を集めました。
 農林水産省では、原因究明等のため、外部の有識者による調査検討委員会を設置し、有明海の海洋環境や生物についての調査研究を進める一方、覆砂(ふくさ)・耕耘(こううん)などの漁場環境改善等の対策に取り組んできています。
 13年9月の同委員会「中間とりまとめ」では、12年度漁期のノリ不作の主な原因は、珪藻赤潮の発生に伴う栄養塩濃度の低下による「色落ち」であり、この赤潮は秋期の大量降雨に引き続く晴天の持続に高水温が加わったかなり異常な気象・海象により発生したと考えられるとされています。また、大潮時の潮位差の減少や冬季水温の上昇など、有明海の環境に変化がみられることも指摘されています。
 13年度漁期は、漁期はじめの11月に一部漁場で再び「色落ち」が発生したものの、その後、気象や海象に恵まれたことと、養殖業者がノリの養殖管理の徹底を図ったことから、生産量・金額とも7年度から11年度漁期の5か年平均を上回る結果となっています。農林水産省では、関係機関との連携の下、今後さらに調査を進め、その結果を踏まえながら、有明海の環境改善に向けた取組を進めていくこととしています。
 
3 北方四島周辺水域 〜第三国漁船サンマ操業〜
 
 平成13年8月から10月にかけて、韓国漁船などが、北海道沖の北方四島周辺水域で、我が国の許可を受けずにサンマ漁を行いました。これらの漁船はロシアから許可を受けて操業したものです。
 北方四島は我が国固有の領土であり、その周辺水域は我が国の排他的経済水域です。したがって、このような操業は我が国の主権的権利を無視した行為であり、受け入れられるものではありません。
 我が国は、12年末に、ロシアが韓国等に対して四島周辺水域のサンマの漁獲枠を与えたことが判明して以来、関係国等に再三抗議し、操業が行われないよう申し入れてきました。しかし、我が国の許可のないまま操業が開始されたのです。
 このため、我が国は、四島周辺水域で操業を行った韓国漁船に対して、韓国から申請のあった我が国の三陸沖合水域での操業を認めませんでした。また、その後も、韓国に対しては、四島周辺水域での操業を行わないよう、ロシアに対しては、このような操業を認めないよう求め、関係国と協議を重ねました。
 その結果、ロシアは14年以降この水域で第三国漁船の操業を認めない方針をとることが確認され、14年漁期には韓国漁船がこの水域で操業を行わないことが確保されました。
 
4 WTO閣僚会議 〜新ラウンド立ち上げ〜
 
 2001年(平成13年)11月、中東カタルの首都ドーハで世界貿易機関(WTO)閣僚会議が開かれ、世界貿易の新しいルールづくりのため、今後3年間かけて交渉(新ラウンド)を行っていくことが決定されました。
 水産物については、世界の漁業生産量の3割以上が輸出に向けられており、輸出を目的とした漁獲も多く行われています。しかし、水産資源は適切に管理しないと枯渇する有限の天然生物資源であり、秩序ある貿易が行われない場合には、乱獲を助長し、かえって水産物貿易を阻害することになりかねません。今回の閣僚会議でも、持続可能な開発と環境保護の重要性が強調されています。
 また、水産業・漁村は、水産物の安定供給や地域社会の維持はもとより、沿岸域に居住する漁業者による漁業の共同管理といった特色ある水産資源の保存・管理、漁場の環境保全等の重要な役割を果たしており、貿易ルールにおいても、このような機能が維持されるように、適切な配慮がなされることが必要です。
 このため、我が国は、水産資源の乱獲を助長したり、水産業や漁村の機能が損なわれないよう、新たな貿易ルールが水産資源の特性を十分考慮したものとなるよう主張していくこととしています。
 
5 資源回復計画 〜豊かな海を取り戻すために〜
                             
 平成13年度から、我が国周辺水域の水産資源について、「資源回復計画」の作成が始まりました。
 我が国周辺水域はもともと水産資源の豊かな海でしたが、近年、この水域に生息する魚介類の多くが減少しており、早急に資源の回復を図ることが必要になっています。
 資源回復計画は、特に減少の著しい資源について、幅広い範囲の漁業者、都道府県、国などが協力して、必要な対策を計画的、総合的に行い、資源の回復を図ろうとするものです。計画の中には、減船や休漁といった漁業者にとっては経営に直接影響する厳しい内容も含まれ、関係者間の利害の調整も必要となることから、事前の周到な計画作成と関係者の十分な話し合いが不可欠です。
 13年度には、14年度からの資源回復計画の実施に向けて、瀬戸内海のサワラ資源や日本海西部のアカガレイ資源など、5つの計画作成が進められています。
 
6 新たな水産公共事業
 
 平成13年6月、第151国会において、「漁港漁場整備法」が成立しました。これは、これまで、漁港の整備については漁港法、漁場の整備については沿岸漁場整備開発法に基づき、それぞれ別々の計画制度の下で行われてきましたが、これらの整備を総合的・計画的に推進することを主眼としたものです。この法律に基づき、14年3月には、14年度を初年度とする「漁港漁場整備長期計画」が策定されました。
 新たな長期計画は、水産公共事業について、藻場・干潟などの水産資源の生息環境を保全・創造する事業への転換を図るとともに、これまでの投資額の明示を改め、「消費者・国民」の視点に立って、事業実施により国民に対して実際どのような成果がもたらされるかという、「アウトカム目標」を明示したものとなっています。
 事業の実施に当たっては、コストの縮減、水産施策における資源管理や担い手対策等のソフト施策と組み合せるとともに、事業評価を厳格に行うことなどにより、一層の事業の効率性、透明性の確保を図り、国民的視点に立った水産公共事業を進めていくこととしています。
 
7 IWC下関会議に向けて
 
 国際捕鯨委員会(IWC)は、鯨類資源の保存と有効利用を目的とする国際機関であり、現在43か国が加盟しています。1982年(昭和57年)のIWCの決定により商業捕鯨は全面的に停止されています。
 しかしながら、我が国は、他の水産資源と同様、鯨類も科学的根拠に基づいて資源管理をしながら持続的に利用していくべきであると、一貫して主張しています。
 平成13年7月のIWC年次会議でも、依然として反捕鯨国が多数を占め、商業捕鯨の停止は継続されています。しかし、世界の鯨類が1年間に食べる魚介類の量は世界の海面漁業の漁獲量の3〜5倍にもなり、保護され、増加しつつある鯨類による水産資源の捕食が漁業に与える影響について、国際的に注目されはじめています。13年3月には、国連食糧農業機関(FAO)が調査を進めていくことが合意されました。FAOでの合意は、我が国の主張が国際的に認められつつあることを示す出来事といえます。
 次回のIWC年次会議は、14年5月、我が国の下関市で開かれることになっています。我が国は、これを機に、鯨類の持続的利用の重要性について、一層の国際的理解が得られるよう努めていくこととしています。
 
 
 
 
 
T 特集 水産資源の現状とその持続的利用に向けた課題(報告書p.11〜35)
 
 1 水産資源の現状について(報告書p.11〜17)
 
 (1)我が国周辺水域の水産資源の状態
 
 我が国の排他的経済水域は、国土面積の10倍以上に相当するほど広大。かつ、もともと水産資源が豊かな海であり、世界の主要漁場の1つ。
 しかし、近年、資源量が大幅に減少。
 資源量の減少を反映して漁獲量が減少。漁業経営の悪化のみでなく、水産加工業や、地域の経済、我々の食生活にも影響。
 
世界の主要漁場別海面漁獲量
                              (単位:千トン)


 

1950-1959
年平均

1960-1969
年平均

1970-1979
年平均

1980-1989
年平均

1990年
 

1998
 

 1999
 

北太平洋西部

6,782

10,249

16,234

21,967

22,980

24,782

24,121

北大西洋東部

6,842

8,848

11,554

10,588

8,462

10,951

10,490

南太平洋東部

628

8,674

6,904

10,247

13,873

8,028

14,171

 その他

  8,927

15,995

24,863

30,475

33,572

35,223

35,824

  計
 

23,179
 

43,766
 

59,555
 

73,277
 

78,887
 

78,984
 

84,606
 
  資料:FAO「Review of the State of World Fishery Resources:Marine Fisheries」及び
       「1999 Yearbook of Fishery Statistics-Capture Production(1998、1999年について使用)」
 
 (2)世界の水産資源の状態
 
 水産資源の悪化は、世界的にも重大な懸案。
 FAOによれば、世界の主な魚種のうち、2割以上について資源の回復力を超えた漁獲、約半数が現在以上に漁獲を行うと資源の回復力を超えてしまう状況。
 さらに、特定の水域や魚種についても、多くの資源で大幅な減少が報告されているところ。
 
 2 水産資源の減少の要因について(報告書p.18〜31)
 
 (1)我が国周辺水域における水産資源の減少の要因
 
   ア 資源の回復力を超えた漁獲
 
(我が国漁業の漁獲能力の飛躍的な向上)
これまでの漁業は、獲ることを優先。漁獲量がそれほど多くなかった時には、大きな問題とはならず。しかし、新しい技術や機器の導入等によって漁獲能力が向上。多くの魚種で資源の維持・回復には漁獲量の引き下げが必要。
 


(若齢魚等の漁獲)
漁獲量ばかりでなく、漁獲に当たっての若齢魚等の保護も、水産資源の再生産に特に重要。若齢魚の成長を待って漁獲すれば、資源量を減らさずに利用可能。
しかし、近年のマサバの漁獲に見られるように、若齢魚の大量漁獲が繰り返し行われれば、資源を回復させることは困難。
 
(課題を抱えている規制措置)
従来の漁業許可の規制は、漁業種類間の漁場水域の調整等に重点。
平成9年から、魚種ごとの漁獲量全体に着目したTAC制度が導入されたが、対象魚種は現在7魚種に限られている等の課題も。
 
(外国漁船による漁獲)
これまで、韓国、中国等の漁船と競合的に操業を行う水域が広く存在。漁獲競争に拍車がかかり、資源量の減少が加速。新たな漁業協定が発効したが、これまでの漁獲競争の影響、資源悪化の状況は継続。協定違反の操業も資源量減少の要因。
 
(無視できなくなった遊漁の影響)
遊漁者の数は年々増加傾向。海釣りだけで年間のべ3,000万人超。魚種によっては、一定海域における釣り人の採捕量が漁業者の漁獲量を超えるものも。
 
   イ 水域環境の悪化
 
(排水や廃棄物による水質の悪化)
産業活動や日常生活は、排水や廃棄物による水質の悪化を通じて、赤潮の発生等、水産資源に影響。
 
(藻場・干潟の減少) 
藻場・干潟は、水産生物の産卵・生育の場。沿岸域の水質浄化機能にも注目。しかし、埋立等により消失が進み、水産資源減少の要因。
 
(外来魚による生態系のかく乱)
河川や湖沼では、ブラックバス等の外来魚の増加という新しい形の環境悪化が問題。魚食性で繁殖力・環境適応力が強く、漁業や生態系に悪影響。
 
 (2)世界における水産資源の減少の要因
 
(拡大を続ける水産物需要とそれに伴う漁獲量の増大)
開発途上国を中心とした人口増加、経済成長に伴う食生活の向上等、世界の水産物の需要は拡大傾向。FAOの集計によれば、世界の海面漁獲量は1960年代に比べてほぼ2倍になり、近年では特に中国の伸びが著しく、世界の海面漁獲量の2割を占めるところに。
資源の適正な管理が行われないまま、更に漁獲量を増大させれば、一層の資源悪化を引き起こす懸念。
 
(便宜置籍漁船等による無秩序な漁獲)
地域漁業管理機関等による資源管理は、非加盟国に対しては効力が及ばないという限界。資源管理のための取り決めを逃れる目的で非加盟国等に船籍を置く便宜置籍漁船による無秩序な漁獲が重大な懸念。
我が国は、一国としては世界最大の水産物貿易市場。近年、諸外国において、我が国への輸出を主目的に便宜置籍漁船等によるマグロの無秩序な漁獲などが行われており、我が国の水産物の消費のあり方が世界の水産資源に影響も。
 
(海産ほ乳類による捕食)
鯨類による水産資源の捕食が漁業に与える影響に関する調査をFAOが進めることで合意。今後、海産ほ乳類の捕食が水産資源に与える影響を明らかにしていく必要。
 
 3 水産資源の持続的利用に向けた課題(報告書p.32〜35)
 
(基本的考え方)
水産資源を回復し、その持続的利用の確保が喫緊の課題。漁業関係者はもちろん、国民全体の理解と協力を得て、継続的取組が必要。
国際的な資源管理に積極的に取り組むことも我が国の責務。
 
(具体的な課題)
一部地域では、既に漁業者が協力して資源管理に取り組み、一定の成果。今後、このような取組を全国的に展開していくことが重要。行政としても、資源評価の一層の向上、TAC制度の適切な運用、資源回復計画の実施の支援。
環境に配慮しつつ水産生物を積極的に増殖することも有効。つくり育てる漁業を推進し、種苗の量産、コスト低減や放流効果の向上のため技術開発を図ることが必要。
水産生物の生息環境や生態系の維持・回復が前提条件。漁業者が主体となり、植林活動などの環境保全運動。今後、国民全体の参加と協力を得て、さらに運動の輪を広げていくことが重要。
国際的にも、世界有数の漁業国として、国際漁業管理機関等を通じた資源管理を推進。WTOの場における資源の持続的利用に貢献する貿易ルールの確立に積極的に取り組む必要。
「水産基本計画」に沿って、水産資源の保存・管理、水産生物の生息環境の保全・改善等の施策を推進していくことが急務。
 
 
U 平成12年度以降の我が国水産の動向(報告書p.36〜77)
 
 1 我が国の水産物の需給(報告書p.36〜49)
 
 (1)国内漁業生産
 
12年の漁業生産量は、前年に比べ4%減少し638万4千トン。
漁業部門別生産量の推移
                               (単位:万トン)


 

昭和35年
 

生産量ピーク時
(A)

平成11年
(B)

12年
(C)
C/A
(%)
増減率(%)  C/B  
合計
 遠洋漁業
 沖合漁業
 沿岸漁業
 海面養殖業
 内水面 漁業・養殖業

 
  619
  141
  251
  189
   28
   9

 
1,282(59年)
339(48年)
696(59年)
227(60年)
134 (6年)
23(54年)

 
  663
   83
  280
  161
  125
   13

 
  638
  86
  259
  158
  123
  13

 
 50
 22
 37
 70
 92
 57

 
△ 4
3
△ 7
△ 2
△ 2
△ 2

 
  資料:農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」
  注:表示単位未満の端数は、四捨五入したため計と内訳は必ずしも一致しない。
漁業生産額は、前年に比べ6%減少し1兆8,753億円。
漁業部門別生産額の推移
                            (単位:億円)


 

11年
(A)

12
(B)

増減率(%
 B/A
  19,868   18,753  △ 6

遠洋漁業

  2,479

  2,120

 △ 14

沖合漁業

  4,792

  4,456

 △ 7

沿岸漁業

  5,892

  5,765

 △ 2

海面養殖業

  5,406

  5,272

 △ 2

内水面 漁業・養殖業
 

  1,292
 

  1,133
 

 △ 12
 
      資料:農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」
      注:表示単位未満の端数は、四捨五入したため計と内訳は必ずしも一致しない。
 
 
 (2)水産物貿易
 
12年の水産物輸入は、前年に比べ4%増加し354万4千トン、金額は前年並みの1兆7,340億円。13年には、輸入水産物と国内生産に関する情報の収集・分析体制を構築・強化。また、民間レベルでは海外生産者との情報交換促進、経営体質強化に向けた取組を開始。
12年の水産物輸出は、前年に比べ9%増加し22万2千トン、金額は2%減少し1,384億円。
 
国際的に見ると、我が国は、世界の水産物輸入金額の26%(11年)を占めており、世界最大の水産物輸入国。特に、マグロ類やカニでは、世界の総輸入額の過半。
また、前年に引き続き、中国が数量、金額ともに最大の輸入先であるが、我が国は国際的な水産物市場となっており、輸入先は141か国・地域。
 
 (3)水産物の加工・流通
 
   ア 水産加工
12年の水産加工品の生産量は、食用品が1%減少し243万7千トン、油脂・飼肥料が3%減少し、74万4千トン。
 
   イ 水産物流通
 
(産地流通)
12年の産地市場(産地205港)の水揚量は、前年に比べ5%減少。平均価格は3%低下。
小規模産地市場が多く、産地側の立場を弱め価格不安定化の要因。
国は、13年3月末に「水産物産地市場の統合及び経営合理化に関する方針」を作成・公表。各都道府県で産地市場の統合等に向けた取組を開始。
 
(消費地市場)
12年の主な消費地市場(10都市中央卸売市場)における水産物の取扱量は、ほぼ前年並み。平均価格は前年に比べ3%低下。
 
(品質・安全性の確保)
魚介類、魚介類加工品による食中毒事故は、全事故件数の1割弱。
13年6月、腸炎ビブリオによる食中毒防止のため、生食用生鮮魚介類等について、食品衛生法に基づく規格基準設定。
HACCP方式による衛生管理の導入・促進に取組中。
 
 (4)水産物消費
 
(水産物の消費動向)
12年の魚介類の国内消費仕向量(原魚換算ベース)は、前年に比べ2%増加して1,086万トン。うち食用仕向量は、前年より2%増加して851万トン。
魚介類の消費量は、純食料ベースで、前年より3%増加して、年間1人当たり37.0kg。魚介類は動物性たんぱく質供給の4割。
 
(家計における消費)
12年の家計の魚介類購入への支出額は、前年に比べ4%減少。水産物消費における、外食や調理食品での比率が増大。
 
 (5)水産物の自給率
 
(自給率の現状)
12年の食用魚介類の自給率は、前年より2ポイント低下し53%。
海藻類の自給率は、前年より2ポイント向上し、63%。
 グラフ (海藻数値入り)
(自給率目標の設定)
国民に対する水産物の安定供給を確保するには、水産資源の持続的利用を確保しつつ、我が国の漁業生産の増大を図ることが重要。
水産基本計画では、平成24年を目標とした水産物の自給率目標を設定。
 
水産物の自給率目標の設定


11年度(基準年)

12(参考)

24(目標)

       貝      類

自給率    全 体        (%)        うち 食 用

    56
    55

   53
   53

   66
   65

国内消費仕向量(望ましい水産物消費の姿)        全 体      (万トン)        うち 食 用


  1,066
   831


  1,086
   851


  1,037
   806

  (1人・1年当たり純食料:kg)

  (35.8)

 (37.0)

 (35.1)

国内生産量(持続的生産目標)

 

 

 

        全体       (万トン)

   595

   574

   682

       うち 食 用

   461

   453

   526

       藻       類

自給率               (%)

    61

   63

   70

国内消費仕向量(望ましい水産物消費の姿)                 (万トン)


   112


   103


   96

  (1人・1年当たり純食料:kg)  

  (1.5)

  (1.4)

  (1.3)

国内生産量(持続的生産目標)  (万トン)
 

    68
 

   65
 

   67
 
 資料:農林水産省「水産基本計画」(平成14年3月閣議決定)等から作成
  注:12年度の数値は速報値。
 2 我が国漁業をめぐる国際動向(報告書p.50〜58)
 
 (1)二国間の漁業関係
 
(韓国・中国との関係)
韓国との間では、協定に基づき、相互に相手国水域において操業。
韓国サンマ漁船が我が国の排他的経済水域である北方四島周辺において、我が国ではなくロシアとの政府間の合意に基づき操業を行ったため、これらの漁船の三陸沖での操業を認めず。
中国との間では、協定に基づき、相互に相手国水域において操業。
違反操業の増大と悪質化が目立っており、我が国周辺水域の取締体制の充実・強化が課題。
 
(ロシアとの関係)
地先沖合協定に基づき、相手国200海里水域内に相互入漁。
12年12月の日ロ漁業委員会において、ロシア200海里水域におけるマダラ等の漁獲割当数量の削減が決定。これに伴って我が国のたら等はえ縄漁船については大幅な減船を実施。
 
 (2)多国間の漁業関係
 
   ア カツオ・マグロ類をめぐる動き
 
(便宜置籍漁船等IUU漁船による操業の廃絶に向けた取組)
大西洋まぐろ類保存国際委員会、みなみまぐろ保存委員会等の地域漁業管理機関において、IUU漁船廃絶に向け精力的に取組。
13年に、「社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構」が、台湾資本の便宜置籍はえ縄漁船26隻のスクラップを実施。
 
(中西部太平洋におけるカツオ・マグロ類等をめぐる動き)
中西部太平洋まぐろ条約(通称:MHLC条約)は、関係国の排除、条約作成交渉プロセス、条約自体に問題。
本条約に懸念を有する国及びEU等、関係国間で協議を継続。
 
   イ 国際捕鯨委員会
 
43か国の加盟国が鯨資源の利用に無関係な国に偏っていること等から、長期にわたり正常な機能を果たしていない状態。
2001年(13年)の年次総会も、反捕鯨国が多数を占める状況。
しかし、我が国の要求に支持する国が増えつつあり、鯨類の持続的利用についての理解が進展。
 
 (3)国際漁業協力の現状
 
政府開発援助の一環として、開発途上国の水産業の振興、資源管理に寄与する水産無償資金協力や各種技術協力を実施。
 
 3 漁業経営(報告書p.59〜69)
 
 (1)漁業経営体の動向
 
12年の海面漁業の漁業経営体数は、14万6千。このうち、沿岸漁業経営体が13万9千、中小漁業経営体が7千、大規模漁業経営体が123。
 
 (2)漁業経営の状況
 
   ア 沿岸漁家
 
(沿岸漁船漁家の収支状況)
12年の沿岸漁船漁家の漁業所得は、前年比10%減の195万円。
 
(海面養殖業漁家の収支状況)
12年度の海面養殖業漁家の漁業所得は、ワカメ養殖業漁家等では前年度を下回ったが、ノリ養殖業漁家等では前年度を大幅に上回ったため、前年比19%増の822万円。
 
(沿岸漁家の所得)
12年の沿岸漁家(10トン未満の漁船漁家、小型定置網漁家及び海面養殖業漁家)所得は、前年比1%増の674万円。
漁家世帯所得と全国勤労者世帯所得は、ほぼ同水準。
 
   イ 中小漁業の経営
 
12年度の中小漁業の経営は、漁業収入が1億2百万円に対し、漁業支出が1億5百万円で、前年度に引き続き赤字(△3百万円)。
 
 (3)漁業労働者の状況
 
   ア 漁業就業者の動向
 
12年の漁業就業者数は、前年比4%減の26万人。
男子漁業就業者に占める65歳以上の割合は、2ポイント増の32%で高齢化が一層進行。新規就業者数は、前年並みの1,370人。
 
   イ 漁船労働
 
12年の沖合・遠洋漁業雇用労働者は、前年比3%減の3万5千人。日本人漁船労働者の不足に対応して、「マルシップ方式」等による外国人漁船部員の乗船が認められているところ。
 
 (4)漁業協同組合
 
漁協事業活動は、横ばい又は縮小傾向にあり、漁協の経営は悪化。漁協の事業基盤を強化するため、漁協系統組織の自主的な方針の下で漁協合併が計画的に推進。また、信用事業譲渡により新潟県等6府県で1県1信用事業体制。
 
 
 4 漁村の現状と活性化への取組(報告書p.70〜75)
 
 (1)漁村の役割と現状
 
漁村は、漁業活動の根拠地であるばかりでなく、地域住民の生活の場としての役割。
道路、下水道等生活環境の整備が依然として都市部に比べ大きく立ち後れ。過疎化・高齢化が進展しており、地域全体の活力が低下。
 
 (2)漁村の生活環境の改善と活性化への取組
 
   ア 漁村の生活環境の改善 
 
12年度から取り組んでいる漁村リフレッシュ運動の一環として、13年には、40都道府県において、生活環境整備目標等を定めた漁村リフレッシュ行動計画を策定。
今後、漁村の活性化、振興を図るため、住民の合意の下、この行動計画の着実な実施を図ることが重要。
 
   イ 漁村の活性化への取組
 
漁村では、定期市・朝市の開催による新鮮な魚介類の直接販売や漁村民宿等の滞在型余暇活動や漁業体験学習活動への対応など、都市住民との交流により地域を活性化する活動が活発化。
漁村の中には、漁業との調整を図りつつ、遊漁等を地域の観光資源として活用し、地域の活性化に成果。こうした取組は、新たな就労機会や収入機会を創出。
13年度から意欲と能力のある青年漁業者を中心としたグループが漁業経営の改善を通じ、地域の活性化を図っていこうとする取組が行われているところ。
 
 
 5 水産業・漁村の有する多面的機能(報告書p.76〜77)
 
 (水産業・漁村と国民生活)
水産業や漁村は、水産物の供給のほかにも、海難救助、国境域の監視への貢献、健全なレクリエーションの場の提供、地域色豊かな魚食文化等の固有の文化の継承等、豊かで安全な国民生活を実現する上で、様々な機能。
漁港は、船舶の緊急避難、地域住民の高潮等からの防護、災害時の救援物資の運搬拠点等としての役割。
 
 (多面的機能の評価が課題)
水産基本法においては、こうした水産業及び漁村が有する多面にわたる機能が、適切かつ十分に発揮されるよう施策を充実させていくべきことが位置づけられたところ。
水産分野の多面的機能については、これまで、農業や森林の分野に比べ、十分な議論や調査の積み重ねがなかったが、13年度においては、客観的な評価を行うための基礎的な調査を開始。
今後、WTO新ラウンドにおける水産物に係る交渉等の場で、我が国の立場を説得力あるものとして主張していくためにも、水産業・漁村の有する多面的機能の内容を明らかにし、国民的な理解を深めていくことが課題。
 
 
 
むすび
−水産基本法の下での水産白書の役割について−
 
 
 水産基本法においては、「水産物の安定供給の確保」と「水産業の健全な発展」を基本理念とし、今後の水産政策が目指すべき方向を明らかにしている。
 従来の沿岸漁業等振興法の政策方向と対比してみると、
@ 政策目的については、他産業と比べて立ち後れていた沿岸漁業等の振興から、国民への水産物の安定供給と、それを支える水産業の健全な発展ということに転換するとともに、
A 施策対象についても、他産業との較差の是正が必要な沿岸漁業及び中小漁業に限定していたものから、水産業全体を国民に対する食料供給産業ととらえ、全ての漁業部門のみならず水産加工業・水産流通業も包括的に対象としており、
B また、施策の範囲も、水産物の生産及び消費の両面にわたる指針として水産物の自給率目標を設定することや、遊漁も含めて水産資源の管理を行うこと、さらに、漁村の振興という視点が明確に位置づけられているなど、
国民全体の利益の実現という観点から、大きく転換が図られている。
 
 今後の水産政策は、水産基本法が掲げる基本理念や施策の基本方向に沿って推進されることになる。
 その際、水産基本法においては、単に基本理念や施策の基本方向を抽象的に掲げるのではなく、基本理念の実現を実効性のある具体的施策により担保するとの考え方から、水産に関する施策についての中期的な指針として「水産基本計画」を定めることとされている。そして、この計画は、水産をめぐる情勢の変化や施策の評価を踏まえ、おおむね5年ごとに見直しが行われる。
 
 こうした新たな政策の枠組みの中で、水産物の安定供給という国民全体の利益を実現するためには、行政だけでなく、国民各界各層の政策参加とそれぞれの役割に応じた貢献が求められる。その際、水産白書は、水産に関する動向について、全国各地でみられる新たな芽生えも的確にとらえた上で客観的に分析し、それを国民に正しく伝達する手段として、益々重要な役割を担うものと考えられる。また、現在、国民は、水産物も含めた食品の安全性に対する関心を高めているが、こうした国民からの要請に応え得る情報発信にも心がける必要がある。さらに、今後の政策運営においては、施策の実施状況やその効果についての評価の重要性が高まることから、水産基本計画の定めるところにより講じられる具体的な施策について、その実施状況と施策の評価を国民にわかりやすく開示していくことも期待される。
 このように、水産基本法の制定を機に、水産白書が国民と行政を結ぶ窓口となるよう、その役割を見つめ直し、新たな方向を探っていく努力を積み重ねることは、国民参加型の政策運営にも資するものであると考えられる。
 
 今回の水産白書は、以上のような考え方に立ち、従来の漁業白書からみれば思い切って装いを新たにした。もちろん、水産白書が、国民と水産行政を結ぶ窓口としての役割を的確に果たしていけるようにするためには、内容改善に向けた不断の努力が必要である。そのためにも、多くの国民から、この白書についての意見や要望が寄せられることを期待するものである。
 
◎ 本件に対するご質問・お問い合わせは、下記までお願いします。
 
水産庁漁政部企画課動向分析班
電話(直通)03−3502−7889
FAX     03−3501−5097