第2節 我が国漁業をめぐる国際動向

(1)二国間の漁業関係

(韓国・中国との関係)

 日韓両政府は、日韓漁業協定に基づき、19年漁期における相互の操業条件*1を決定し、両国漁船はともに相手国から受けた許可及び漁獲割当の範囲で、相手国水域において操業を行いました。また、暫定水域の資源管理措置等については、両国は、ベニズワイガニ・ズワイガニ資源の保護のため、必要かつ可能なあらゆる措置を実施すること、現在進められている民間協議が進展するよう、特に浜田沖の懸案事項について早急に合意に達するよう積極的に支援・指導・助言を行うこと等につき意見の一致を見ました。

 日中両政府は、日中漁業協定に基づき、19年漁期における相互の操業条件*2を決定し、両国漁船はともに相手国から受けた許可及び漁獲割当の範囲で、相手国水域において操業を行いました。

*1 操業条件:我が国は、相手国の排他的経済水域で、まき網、底びき網など60,500トンの漁獲量が割り当てられ、韓国は、我が国の排他的経済水域で、まき網、いか釣など60,500トンの漁獲量が割り当てられた。

*2 操業条件:我が国は、相手国の排他的経済水域で、まき網、底びき網など12,397トンの漁獲量が割り当てられ、中国は、我が国の排他的経済水域で、底びき網、いか釣に12,397トンの漁獲量が割り当てられた。

(ロシアとの関係)

 日ロ両政府は、日ソ地先沖合漁業協定に基づく18年12月の日ソ漁業委員会において、日ロ双方の漁船の相手国200海里水域における操業条件*1を決定し、両国漁船はともに相手国から受けた許可隻数及び漁獲割当の範囲で、相手国水域において操業を行いました。

 また、19年漁期の日本漁船によるロシア系サケ・マスを対象とした操業については、日ソ漁業協力協定に基づく日ソ漁業合同委員会において我が国200海里水域における漁獲量が決定され、さらに、19年4月の政府間協議においてロシア200海里水域における漁獲量が決定され、我が国漁船が操業を行いました。

 北方四島周辺水域における操業については、19年においても北方四島周辺水域操業枠組協定に基づき、我が国漁船が、スケトウダラ、ホッケ、タコ等を対象とした操業を行いました。

*1 操業条件:日ロ両国漁船が相互に相手国200海里水域に入漁する相互入漁として、我が国は、さんま棒受網、はえ縄など51,297トンの漁獲量が割り当てられ、ロシアは、トロールなど51,297トンの漁獲量が割り当てられた。さらに、日本漁船は有償でロシア200海里水域に底びき網6,024トンの漁獲割当量を獲得した。

(その他二国間漁業関係)

 太平洋島しょ国、アフリカ諸国の200海里水域内においては、政府間協定あるいは民間による契約の締結により、我が国のかつお一本釣漁船、まぐろはえ縄漁船等が操業を行っています。

(2)外国漁船の取締り

 我が国排他的経済水域及び領海において、漁業取締船・巡視船艇・航空機が連携して、外国漁船の監視・取締りを行っています。19年の水産庁の拿捕(だほ)*1件数は13件、立入検査件数は81件、漁具押収件数は40件となっています。

 韓国漁船、中国漁船及びロシア漁船に対しては、農林水産大臣が我が国水域での操業許可証を交付していますが、操業条件を守らなかったり、許可を得ないで操業する事例が後を絶ちません。また、無許可で操業する台湾漁船も見られます。特に最近は、漁具に浮標を付けず取締船の摘発を逃れたり、レーダーマストを高く改造して漁業取締船等の接近をいち早く発見し逃走するなど、違反の態様が巧妙化しています。また、高額で取引されるズワイガニを狙った密漁も多くなっています。

 こうした外国漁船による違反操業は、水産資源の回復や適切な資源管理への取組に対し大きな障害となっていることから、密漁漁具設置多発海域へ漁業取締船等を重点的に配備するとともに、水産庁、海上保安庁等の関係機関はもとより、関係国とも連携をとりながら監視・取締りの強化に努めています。

図 II −2−1 水産庁による外国漁船の拿捕・立入検査件数等

表 II −2−1 外国漁船拿捕件数の国別内訳

表 II −2−2 水産庁による外国漁船の違法設置漁具の押収

写真1

写真2

写真3

写真4

*1 拿捕(だほ):船舶を押収し、または船長その他の乗組員を逮捕すること。

(3)多国間の漁業関係

ア カツオ・マグロ類をめぐる動き

(便宜置籍漁船等IUU漁船による操業の廃絶に向けた取組)

 海洋を広く回遊する高度回遊性魚種であるカツオ・マグロ類については、国連海洋法条約を踏まえ、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT*1)をはじめとする5つの地域漁業管理機関*2(図 II −2−2 マグロ類の地域漁業管理機関と資源状況)において、資源管理が行われています。我が国は、17年7月に中西部太平洋まぐろ類保存条約(WCPFC*3)に加入し、すべてのマグロ類の地域漁業管理機関に加入した世界で最初の国となりました。

 資源状態が悪化しているマグロ類については、地域漁業管理機関を通じた適切な資源管理に努めています。また、国際的な枠組みの外で無秩序な操業を行うIUU*4(違法・無報告・無規制)漁業や条約非加盟国による漁業が問題となっており、正規許可船リスト又は正規蓄養場リスト(ポジティブリスト)に掲載された漁船又は蓄養場から漁獲されたもののみ輸入を認める措置、IUU漁船の船籍国として地域漁業管理機関で特定された国に対する禁輸措置を各地域漁業管理機関を通じて行っています*5。

*1 ICCAT:International Commission for the Conservation of Atlantic Tunas 44か国+ECが加盟(19年12月現在)。

*2 地域漁業管理機関:ある一定の広がりをもつ水域 (例:インド洋)の中で、漁業管理をするための条約に基づいて設置される国際機関。関係国の参加により、対象水域における対象資源の保存・管理のための措置を決定する。カツオ・マグロ類の5つの地域漁業管理機関は、ICCAT、CCSBT、WCPFC、IATTC、IOTC。

*3 WCPFC:Western and Central Pacific Fisheries Commission 23か国+EC、台湾が加盟(19年12月現在)。

*4 IUU漁業(漁船):IUUとはIllegal Unreported and Unregulated(違法・無報告・無規制)の略称。国際的な資源管理の枠組みを逃れて操業する漁業(漁船)。

*5 主な地域漁業管理機関における国際規制→参考図表III−4

(大西洋におけるマグロ類の保存管理をめぐる動き)

 19年11月に開催されたICCATの年次会合では、20年会合において各国の東大西洋クロマグロの保存管理措置の遵守状況をチェックし、必要に応じ保存管理措置を見直すことが合意されました。またECの東大西洋クロマグロの漁獲について、19年漁期に約4,440トンの過剰漁獲が判明したことから、21〜23年の3年間に毎年約1,480万トンを返済(当該年度のEC漁獲枠より削減)することが決定されました。さらに我が国の提案により、大西洋クロマグロについて漁獲から市場までの全ての流通実態を一つの文書に記録し、流通の透明性を確保する「漁獲証明制度」が採択されました。20年3月に東京で開催された「ICCAT東大西洋クロマグロ関係者会合」では、東部大西洋クロマグロ資源の持続的利用に関する共同声明が合意されました。

(ミナミマグロの保存管理をめぐる動き)

 19年10月に開催されたみなみまぐろ保存委員会(CCSBT*1)の年次会合では、みなみまぐろの総漁獲枠並びに国別割当について昨年の合意が確認されました。また、18年に合意された豪州蓄養事業における漁獲管理の不透明さを正すための調査に進展が見られないため、我が国から最新の技術である音響カメラを用いた実験を行うよう働きかけを行った結果、豪州は我が国の協力を受け入れることとなりました。漁獲証明制度の導入に係る具体的な提案については合意が得られず、20年年次会合において引き続き議論することになりました。

*1 CCSBT:Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna 4か国が加盟、拡大委員会には台湾が参加(19年12月現在)。

(中西部太平洋におけるマグロ類の保存管理をめぐる動き)

 19年12月に開催されたWCPFCの年次会合では、メバチ及びキハダの保存管理措置について、まき網漁業での集魚装置(FADs)の使用禁止期間や、はえ縄によるメバチ漁獲量の削減等が議論されました。しかし、合意が得られず、20年に予定されているメバチの資源評価の結果を待って、20年年次会合で再度検討することとなりました。また、20年から既存のオブザーバー制度*1を利用してオブザーバー乗船を開始することとなりました。なお、北太平洋で生鮮マグロの漁獲を行う漁船等に対するオブザーバー乗船については、今後更に議論していくこととなりました。さらに、北緯23度以北及び南緯30度以南の水域で操業するはえ縄漁船が導入する海鳥混獲回避措置として、日本が提案した軽量トリポール*2の使用等について合意されました。

*1 オブザーバー制度:漁業活動が資源や生態系に及ぼす影響を詳細に把握することを目的として、漁船への科学オブザーバーが乗船して調査を行うこと。

*2 トリポール:餌の付いた漁具に鳥が近づけないように、鳥よけのひもを付けた棒(ポール)。

(インド洋におけるマグロ類の保存管理をめぐる動き)

 19年5月に開催されたインド洋まぐろ類委員会(IOTC*1)の年次会合においては、公海及び排他的経済水域で操業するまき網漁船の漁獲記録の提出様式について合意しました。

 また、昨年採択された熱帯マグロ類(メバチ・キハダ)対象の操業船の隻数制限と同様に、メカジキ及びビンナガ対象の操業船についても、20年から22年の3年間、加盟国及び協力的非加盟国は、毎年の実操業隻数を19年レベルで制限することになりました。さらに、インド洋で操業する漁船のIOTCへの登録について、昨年決定された熱帯マグロ類・メカジキ対象漁船に加え、ビンナガ対象漁船についても登録することとなりました。

*1 IOTC:Indian Ocean Tuna Commission 26か国+ECが加盟(19年12月現在)。

(東部太平洋におけるマグロ類の保存管理をめぐる動き)

 19年6月に開催された全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC*1)の年次会合では、20年以降のメバチ・キハダの保存管理措置について議論されましたが、合意に至りませんでした。このことを受けて、19年10月及び20年3月に特別会合が開催され、さらに議論がなされましたが、なお合意には至らず、20年6月の年次会合で引き続き議論することになりました。

*1 IATTC:Inter-American Tropical Tuna Commission 15か国が加盟(19年12月現在)。

イ 国際連合食糧農業機関(FAO)

 地球規模で農林水産業の発展に取り組む国連機関であるFAOは、水産資源の持続的な利用と世界の水産業の健全な発展に大きな役割を果たしています。19年3月に開催された第27回FAO水産委員会では、脆弱な海洋生態系の特定や漁業の影響評価を含む、深海漁業管理のための技術ガイドラインを策定すること、責任ある漁業に関する4つの国際行動計画(漁獲能力、IUU漁業、サメ、海鳥)のうち海鳥について実施の促進のためのガイドライン策定作業に、FAOが関係機関等と協力して取り組むこと等が合意されました。

(4)国際漁業協力の現状

 我が国は、政府開発援助の一環として、開発途上国の水産業の振興及び資源管理に寄与するための水産無償資金協力や(独)国際協力機構(JICA)を通じた技術協力を実施しているほか、(財)海外漁業協力財団においても我が国漁船が入漁している沿岸国の漁業への技術移転事業を行っています。また、東南アジア地域における持続可能な漁業の実現のため、国際機関である東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC*1)への財政的、人的支援も行っています。

*1 SEAFDEC:Southeast Asian Fisheries Development Center(シーフデック)。東南アジア地域の漁業開発促進を目的として1967年(昭和42年)に設立された国際機関。ASEAN諸国と我が国がメンバー国。