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水産庁

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(5)ICTを活用した流通・加工

漁業分野だけでなく、流通・加工分野においてもICTの活用が始まっています。今後、生産者・消費者双方にメリットが生じるような形での水産物の電子商取引の拡大が期待されます。また、高齢化や人手不足等が課題とされている加工現場では、作業の効率化や省力化に加え、精度の高い品質管理や熟練作業員の技術のロボット化などが期待されます。

事例宮城県漁業協同組合が運営する「おらほのカキ市場」(電子卸売市場)

宮城県は全国でも有数のカキの生産地であり、そのほとんどはむき身の状態で宮城県漁業協同組合による共販事業で取引されています。東日本大震災後は産地価格が低迷したこともあり、生産者による直接取引も模索されましたが、定期的な大規模直接取引は経営リスクとコストを伴うため、多くの生産者にとって安定した新たな収益源とはなり得ませんでした。

そのため、平成25(2013)年度より、国立研究開発法人産業技術総合研究所と宮城県漁業協同組合は、従来の共販事業では扱われていなかった殻付きカキの産直販売を促進するための電子商取引市場「おらほのカキ市場」を開発しました。さらに、実証実験として宮城県内の8か所のカキ生産者と、首都圏の飲食店や仲卸などのバイヤーとの電子商取引を行った結果、平成29(2017)年度までに殻付きカキの販売実績が約10万個(約1千万円)となりました。

東日本大震災や高齢化等の影響を受けてむき身作業を行う作業員(むき子)が減少する中、殻付きカキの販売による新たな商品と新たな販路開拓が生産者の収益改善につながることが期待されています。

また、宮城県漁業協同組合は、カキフライやホタテ、ギンザケ等についても電子商取引による販売を開始しており、今後取り扱う商品を更に拡大していく方針です。

なお、(研)産業技術総合研究所では、今回の「おらほのカキ市場」の研究開発成果を宮城県以外にも横展開し、「スマートフィッシュマーケット」として全国的な水産物電子商取引市場に発展させることを目指しています。

おらほのカキ市場(宮城県漁業協同組合直営)のWebサイトの画面

事例生産工程の「見える化」の取組(エビフリッター)

水産加工業界では、高齢化や人手不足等が課題となっていますが、株式会社極洋は東北大学等と連携し、生産工程を「見える化」することにより、作業の効率化や省人化の実現に取り組んでいます。

具体的には、形状や品質の個体差が大きい水産加工品の生産状況をリアルタイムで把握するため、エビフリッター製造ラインに設置したカメラ映像をAI解析し、製造個数や2級品発生個数を計測しています。これまで作業員が勘や経験で算出していた生産個数については、AI解析により99%以上の精度の判定に向上し、また、これまでの目視で行っていた2級品の判別や2級品率の測定についてもAI解析によりスピーディな判定が可能となりました。

今後は、判定精度をより向上させるとともに、原材料の状態や製造環境が2級品の発生にどのような影響を与えるのかなどの因果関係を解析して、2級品発生率の減少につなげていくことを目指しています。

エビフリッターの製造ラインの写真
カメラ画像をAI解析してエビフリッターの1級品と2級品を判定している様子の写真

事例ロボットによるホタテのウロ*1除去

ホタテ加工業界では、高齢化で作業員の確保が難しくなってきており、熟練の作業員も減少してきていることから、品質の維持及び生産量の確保が困難になってきています。その対策の一つとして、ロボットによるホタテのウロの除去作業により、品質を維持するとともに、作業員不足の問題の解消を通じた生産能力の向上、更には水揚量の変動への柔軟な対応にもつながることが期待されています。

ベルトコンベア上のホタテをロボットが1つ1つ撮影して画像処理を行いウロを取る向きを調整することで、品質のばらつきが減少し、処理能力はこれまでの人力作業の約5倍になり、生産性が飛躍的に向上しました。ウロの取り方は、ホタテの貝柱を傷つけることなく、確実にウロのみを除去する「挟み込んでつかみ取る動き」を再現しています。

ホタテを正しい向きに調整している様子の写真
ホタテのウロをロボットにより分離している様子の写真
  1. 中腸腺。ホタテをあけたとき黒く見える部分で、通常は取り除いてホタテを食べる。