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水産庁

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(2)漁業という特殊性に適応したICTの活用

農業分野では、IoT、AIなどを活用した取組が急速に進んでおり、近い将来、農産物の生産工程の全自動化といった時代も到来するのではないかと考えられます。平成29(2017)年12月~30(2018)年1月に農林水産省が実施した「食料・農業及び水産業に関する意識・意向調査」からもわかるように、漁業分野におけるICTの活用は遅れていますが、これは、移動する魚類を対象としていること、陸上から離れた海洋の上での機器使用は陸上に比べて電波が届きにくい、また測定機器を水中に投入すれば故障しやすいといった不利な環境条件にあるだけでなく、陸上に比べて広大な面積を有し、潮流など目まぐるしく変化する海洋に関する様々なデータを取得すること自体、技術面及びコスト面でハードルが高いことが理由として考えられます(図1-4-1)。

したがって、経営が厳しく高齢化が進んでいる零細漁業者が大半を占める我が国漁業において、ICTを導入・活用するためには、小さな漁船にも搭載可能で低コストな機器の開発が望まれます。また、厳しい労働環境にある操業現場における海洋・漁場に関する情報や漁獲量の報告などの作業については、本来の漁労活動をなるべく妨げないよう、操作が簡単な機器や短時間で入力が終わるようなシステムを使用することが必要と考られます。さらに、システム全体の導入及び維持に関する費用が漁業者に負担可能な範囲で行われることが重要です。このような技術の開発が進めば、漁獲量報告などの電子化の推進にもつながることが期待されます。

漁業者は、どの漁場でどの魚をどのくらい獲れたかという漁業情報をリアルタイムでオープンすることに大きな抵抗感を持っています。これは、養殖業や定置網漁業のように占有的に漁場を利用する場合とは異なり、自分で見つけた良い漁場が他の漁業者の知るところとなり、操業の競合相手を増やす可能性があるからです。そのため、ICTを漁船漁業の現場で活用する場合は、情報の公表に一定の配慮を行う必要があります。例えば、北海道留萌町のナマコ漁業者の成功事例*1では、それぞれの漁業者の漁獲量はオープンにせず、漁業者全員の総漁獲量や平均漁獲量のみをオープンにして自主的な資源管理を促しています。

このように、ICTを漁業分野に導入するに当たっては、漁業の特性を十分に理解し、漁業者の理解・協力を求めていくことが重要です。

  1. (2)沿岸漁業におけるICTの活用(21ページ)参照
簡易な観測ブイの写真
研究機関等の大型自動観測ブイ(風向風速計,太陽電池パネル,超音波式流向流速計,点滅灯,空中光電子計,自動昇降装置,多項目水質計)の写真