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水産庁

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(1)我が国周辺の水産資源

(資源評価の実施)

水産資源には、人の目で全体を見ることができない、広く移動する、環境等の影響を受けて変動するといった特徴があり、水産資源の管理には、資源評価により資源量やその水準と動向を推定し、結果に基づいて適切な管理措置をとることが不可欠です。我が国では、国立研究開発法人水産研究・教育機構を中心に、市場での漁獲物の調査、調査船による海洋観測及び漁獲調査等を通じて必要なデータを収集するとともに、漁業によるデータも活用して、我が国周辺水域の主要な水産資源について資源評価を実施しています。

近年では、気候変動等の環境変動が資源に与える影響の把握や、外国漁船の漁獲の増加による資源への影響の推定が、我が国の資源評価の課題となっています。このため、今後とも、継続的な調査を通じてデータを蓄積するとともに、情報収集体制を強化し、資源評価の精度の向上を図っていくことが必要です。

コラム漁獲物データ等の利用と調査船調査について

1 CPUEや漁獲物データ

漁獲努力量とは、漁獲を得るために投入される漁船の隻数や漁具数等のことですが、漁獲量や漁獲努力量は、漁業者が提出する漁獲成績報告書*1等を基に集計されます。漁獲量は資源状況を把握するための重要な情報の一つですが、資源状況のほか、漁獲努力量の影響も強く受けます。同じ資源状況でも、漁獲努力量が多ければ漁獲量は多くなり、漁獲努力量が少なければ漁獲量も少なくなります。そのため、漁獲努力量の影響を取り除くために、漁獲量を漁獲努力量で除することによって求めた単位努力量当たりの漁獲量(CPUE)が、資源状況をより反映した指標として利用されています。

また、漁業によって漁獲された漁獲物からも様々な情報が得られます。資源評価においては、漁獲物のサンプルを市場から購入し、体長、体重や生殖腺重量等を測定したり、うろこや耳石にある年輪の数を基に年齢を推定することにより、資源評価を行う上で不可欠な、成長や成熟等の生物学的情報といった対象資源の生態に関する情報を得ています。さらに、漁獲物の年齢組成がわかれば、年齢別の資源量を推定することが可能となり、資源管理を行う上で重要な、毎年新たに漁獲対象に加わる加入量や、再生産を行う親魚量に関する情報も分析・予測することが可能となります。

2 調査船調査

トロール調査は、調査海域内に設けられた一定数の定点においてトロール網を曳くことによって、各定点における対象資源の数(密度)を求め、それを基に資源量等を推定する調査です。トロール調査では、調査対象種により曳網えいもうする深度が異なります。例えば、表層ではサンマやサケ・マス類を、中層ではイワシ類やサバ類等の浮魚類を調査対象とし、タラ類やカレイ類等の底魚類を対象とする場合はトロール網で底を曳いて調査します。

プランクトンネット調査は、調査海域内に設けられた複数の定点において、目合の細かな小型のネットを曳くことによって、卵や仔魚しぎょ(幼生)等のプランクトンを採集し、その種類を分類したり、量の把握などを行う調査です。卵や仔魚の発生状況は、産卵期、産卵場及び成育場の把握等に利用されます。また、産み出された卵の総数が推定できれば、それを一匹当たりの親が産み出す卵数で除することによって、親の数を推定することも可能となります。

精度の高い資源評価を実施するためには、漁業から得られた情報と調査船調査から得られた情報をバランスよく利用することが大切です。また、調査船調査を行った際には、通常、同時に水温、塩分、餌となるプランクトン量等の海洋環境も調べます。これら海洋環境に関する情報は、対象資源の資源量等との関係を調べることにより、各資源の資源変動メカニズムの解明等に利用されています。

調査船で巻き上げ途中の着底トロール網の写真
プランクトンネット調査で得られた採集物の選別作業の写真

3 科学者と漁業者間の情報共有

資源評価を行う上では、可能な限り多くの情報を収集・利用することが重要です。漁業からは、漁獲成績報告書を通して、漁獲量や漁獲努力量等の数値情報が得られますが、漁業者はそれらからは読み取れない情報についても多く持っています。例えば、ある月の漁獲努力量が大幅に減っていた場合に、それが魚が少なくなったためによるものか、魚はたくさんいたが時化しけによるものか、もしくはその他の要因によるものかは、数値情報のみから判断するのは困難であり、漁業者から情報を得る必要があります。そのため、近年は、資源評価を行う際に、資源評価を担当する科学者と漁業者がそれぞれの情報を共有するための場が数多く設けられています。また、資源管理は、基本的に資源評価の結果を踏まえて行われます。そのため、多くの魚種について、資源評価結果を説明し、科学者と漁業者の間で資源評価の方法や資源状況等について共通認識を醸成するための機会が設けられています。

  1. 国や都道府県が特定の漁業者に対して、漁獲等の報告を義務付けている。

(我が国周辺水域の水産資源の状況)

平成29(2017)年度の我が国周辺水域の資源評価結果によれば、資源評価の対象となった50魚種84系群*1のうち、資源水準が高位にあるものが14系群(17%)、中位にあるものが31系群(37%)、低位にあるものが39系群(46%)と評価されました(図2-1-1)。魚種・系群別にみると、マイワシ太平洋系群やサワラ瀬戸内海系群については引き続き資源量に増加の傾向が見られる一方で、マアジ太平洋系群やスルメイカ冬季発生系群については資源量に減少の傾向が見られています。

  1. 一つの魚種の中で、産卵場、産卵期、回遊経路等の生活史が同じ集団。資源変動の基本単位。

図2-1-1 我が国周辺の資源水準の状況と推移(資源評価対象魚種)

我資源評価対象魚種を高位(16.7%),中位(36.9%),低位(46.4%)に分けた割合を示した図。また、高位,中高位,中位,低中位,低位に分けた割合の年次推移も示している。

また、資源評価対象魚種のうち、我が国の漁業や国民生活の上で特に主要な魚種*1の15魚種37系群についてみてみると、平成29(2017)年度には、15魚種37系群のうち、資源水準が高位にあるものが8系群(22%)、中位にあるものが16系群(43%)、低位にあるものが13系群(35%)となりました(図2-1-2)。近年、主要魚種の資源水準は6~7割が中位又は高位にあります。

  1. <1>TAC(漁獲可能量)制度対象魚種、<2>漁獲量が1万トン以上で生産額が100億円以上の魚種、又は<3>生産額が10億円以上で国の資源管理指針に記載されている魚種のいずれかに該当する魚種(ただし、TAC制度対象魚種であるサンマは、国際機関により資源評価が行われることとなったため、平成28(2016)年度から除く。)。

図2-1-2 我が国周辺の資源水準の状況と推移(主要魚種)

主要魚種を我資源評価対象魚種を高位(21.6%),中位(43.2%),低位(35.1%)に分けた割合を示した図。また、高位,中高位,中位,低中位,低位に分けた割合の年次推移も示している。