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水産庁

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(6)水産物の流通・加工の動向

(水産物流通の動向)

近年、水産物の国内流通量が減少しています。また、平成26(2014)年の水産物の消費地卸売市場経由率は52%と20年前と比較して約2割低下し、消費地市場を経由して流通された水産物の量は、20年前の約5割の水準となっています(図2-2-23)。

また、水産物卸売市場の数は産地卸売市場、消費地卸売市場とも減少しています(図2-2-24)。

図2-2-23 消費地市場経由量と経由率の推移

水産物の流通量,消費地市場経由量,消費地市場経由率の年次推移を示した図。いずれも減少傾向が続いている。

図2-2-24 水産物卸売市場数の推移

地方卸売市場(産地),地方卸売市場(消費地),中央卸売市場の各市場数の年次推移を示した図。いずれも減少傾向が続いている。

一方、小売・外食業者等と産地出荷業者との消費地卸売市場を介さない産地直送、漁業者から加工・小売・外食業者等への直接取引、インターネットを通じた消費者への生産者直販等、市場外流通が増えつつあります。

(水産物卸売市場の役割と課題)

卸売市場には、<1>商品である漁獲物や加工品を集め、ニーズに応じて必要な品目・量に仕分する集荷・分荷の機能、<2>旬や産地、漁法や漁獲後の取扱いにより品質が大きく異なる水産物について、公正な評価によって価格を決定する価格形成機能、<3>販売代金を迅速・確実に決済する決済機能、<4>川下のニーズや川上の生産に関する情報を収集し、川上・川下のそれぞれに伝達する情報受発信機能といった機能があります。多様な魚種が各地で水揚げされる我が国において、卸売市場は、水産物を効率的に流通させる上で重要な役割を担っています(図2-2-25)。

図2-2-25 水産物の一般的な流通経路

水産物の流通経路を示した図。漁業者→産地卸売市場(卸売業者→買受人)→消費地卸売市場(卸売業者→買受人)→小売業者・外食業者→消費者への流れとなっているが、産地卸売市場を経由しない場合や、食品卸売業者を経由する場合もある。

一方、卸売市場には様々な課題もあります。まず、輸出も見据え、施設の近代化により品質・衛生管理体制を強化することが重要です。また、産地卸売市場の多くは漁業協同組合によって運営されていますが、取引規模の小さい産地卸売市場は価格形成力が弱いことなどが課題となっており、市場の統廃合等により、市場機能の維持・強化を図っていくことが求められます。さらに、消費地卸売市場を含めた食品流通においては、物流等の効率化、情報通信技術等の活用、鮮度保持等の品質・衛生管理の強化及び国内外の需要へ対応し、多様化する実需者等のニーズに的確に応えていくことが重要です。

国は、平成25(2013)年12月に、農林水産業・地域が将来にわたって国の活力の源となり、持続的に発展するための方策について幅広く検討を進めるために、「農林水産業・地域の活力創造本部」を設置しました。その政策改革の指針である「農林水産業・地域の活力創造プラン」を平成29(2017)年12月に改定しました。この中で、これまでの食品流通の中で卸売市場が果たしてきた集荷・分荷、価格形成、代金決済等の調整機能は重要であり、これについては、卸売業者、仲卸業者等の役割・機能が発揮され、今後も食品流通の核として堅持するべきであるとされています。卸売市場を含めた食品流通の合理化と生鮮食料品等の公正な取引環境の確保を促進し、生産者・消費者双方のメリット向上のための食品流通構造の実現に向けて、一体性のある制度の構築を図ることとしています。

コラム鮮度の良さを追求する取組

生鮮の水産物は一般的に鮮度が落ちるのが早い食材ですが、羽田市場(株)は、「どこよりも早く、高い鮮度で!」をモットーに、究極まで鮮度の良さを求めた水産物を消費者に届けています。流通を簡素化して素早く仕分けるために、羽田空港内に鮮魚を仕分ける鮮魚センターを設け、全国各地から朝一で空輸された水産物を仕分け・加工し、その日の午後には首都圏の飲食店やスーパーマーケット等の量販店に配送しています。このような仕組みを実現するため、地元の漁業者が出漁時刻を早め、地元の市場で売られる前に輸送したり、鮮度維持のために血抜きや神経締めをしています。羽田市場(株)によれば、漁業者には、従来より作業の負担をかけていますが、その分高い値段で水産物を買い取り、その結果、漁業者も従来より高い収入が得られるようになっているとのことです。

羽田市場(株)では、このようにして届けられた鮮度抜群の一級品の鮮魚を「超速鮮魚®」と名付けブランド化しています。これまでは飲食店やスーパーマーケット等の量販店に売っていましたが、平成29(2017)年にオープンした羽田市場銀座直売店では、日中に「超速鮮魚®」を消費者に売り、夜になると居酒屋に様変わりして、「超速鮮魚®」を調理して提供するなど、新たな試みを始めています。

また、羽田空港内に拠点があることを生かし、国内だけでなく、米国や東南アジア等海外への輸出にも力を入れています。今後は、1日に処理できる水産物の量を増やしたり、他の空港にも鮮魚センターを設けることを検討するなど、更なる発展を目指しているそうです。

「超速鮮魚®」のロゴマークの写真
羽田市場銀座直売店に売られている「超速鮮魚®」の写真

(水産加工業の動向)

練り製品、冷凍食品、塩蔵品等の水産食用加工品の生産量は横ばいから漸減傾向で推移しており、平成28(2016)年には、前年から5万トン(3%)減少して163万トンとなりました(図2-2-26)。また、生鮮の水産物を丸魚のまま、又はカットしたりすり身にしたりして凍結した生鮮冷凍水産物の生産量は、平成28(2016)年には前年から1万トン(1%)減少し、140万トンとなりました。

図2-2-26 水産加工品生産量の推移

水産加工品(水産食用加工品,生鮮冷凍水産物),水産食用加工品の内訳(練り製品,冷凍食品,塩蔵品,塩干品,節製品,煮干し品,素干し品,くん製品,その他)の年次推移を示した図。いずれも横ばいから漸減傾向が続いている。

水産加工業の出荷額は、近年、3兆円余りの水準で推移していましたが、平成27(2015)年に3兆5千億円を超えました(図2-2-27)。

図2-2-27 水産加工業の出荷額の推移

水産缶詰・瓶詰,海藻加工品,水産練り製品,塩干・塩蔵品,冷凍水産物,冷凍水産食品,その他の水産食料品の年次推移を示した図。近年は3兆円前後で推移していたが、平成27年に3兆5千億円を超えている。

(水産加工業の役割と課題)

水産加工場のほとんどが従業者数300人以下の中小企業であり、従業者数9人以下の加工場も5割を占めていますが、小規模階層の加工場を中心として水産加工場の数は減少しています(図2-2-28)。

図2-2-28 従業者規模別水産加工場数及び水産加工業の従業者数の推移

工場数(1~4人,5~9人,10~29人,30~49人,50~99人,100~299人,300人以上),従業員数の年次推移を示した図。いずれも年々減少している。

水産加工業は、腐敗しやすい水産物の保存性の向上、家庭での調理の手間の軽減、生鮮品とは違った風味を持つ製品の提供といった機能を通し、水産物の付加価値の向上に寄与しています。近年では、消費者の食の簡便化・外部化志向の高まりにより、水産物消費における加工の重要性は更に高まっており、多様化する消費者ニーズを捉えた商品開発が求められています。

また、我が国の食用魚介類の国内消費仕向量の6割は加工品として供給されており、水産加工業は、我が国の水産物市場における大口需要者として、水産物の価格の安定に大きな役割を果たしています。加えて、水産加工場の多くは沿海市町村に立地し、他産業が成立しにくい漁村において雇用の場を提供するなど、漁業とともに漁村の経済を支える重要な基幹産業でもあります。

しかしながら、近年では、漁獲量の減少や、地域で水揚げされる漁獲物のサイズや魚種構成の変化等により、必要な量やサイズの加工原料の確保が困難となる事例が生じています。こうした事態に対し、これまでは輸入加工原料を用いるなどの対応がとられてきましたが、近年では、海外での水産物需要の拡大と我が国での輸入価格の上昇から、輸入による加工原料の確保も容易ではなくなってきています。さらに、地方を中心として人口減少と高齢化が進む中、技能を有する従業員の確保も水産加工業の重要な課題となっています。

このような水産加工業をめぐる課題に対応していくため、水産加工施設の改良等に必要な長期・低利の資金の貸付けを行うことを目的としている水産加工業施設改良資金融通臨時措置法を平成30(2018)年3月に改正し、法の有効期限を5年間延長しました。

事例水産系残さのリサイクルについて

近年、環境問題についての社会的関心が高まる中で、水産系残さの処理についても注目されています。水産系残さは、水産物の水揚げから消費に至る一連の流通過程の中で発生する生ゴミを中心とする残さであり、水揚時や加工場で発生するもの、あるいは消費地段階で発生するものもあります。

例えば、養殖ホタテガイに付着する外来生物のヨーロッパザラボヤを有効活用しようと、船上で専用の機械を使って分離し、ヨーロッパザラボヤを堆肥用にリサイクルしている事例もありますが、多くの場合は、加工場で発生する残さを処理してリサイクルしている事例が多いと考えられます。

北海道庁の調べによると、北海道内における水産系残さの多くはリサイクルされていますが、残さが最も多いホタテガイの貝殻は、ほぼ100%リサイクルされており、消しゴム、肥料、食品添加物等として利用されています(図)。

図:残さの種類別の量と処理形態の内訳

ホタテウロ,イカゴロ,ホタテ貝殻,その他の貝殻等,付着物,ヒトデ,魚類残さ等における処理形態の内訳(埋立処分,処理(焼却等),循環利用)を示した図。いずれもほとんどが循環利用となっており、ホタテ貝殻はほぼ100%になっている。

(HACCPへの対応)

HACCP*1は、FAOと世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会がガイドラインを策定して各国にその採用を推奨しており、食品安全の管理方法として世界的に利用されています。

  1. Hazard Analysis and Critical Control Point:原材料の受入れから最終製品に至るまでの工程ごとに、微生物による汚染や金属の混入等の食品の製造工程で発生するおそれのある危害をあらかじめ分析(HA)し、危害の防止につながる特に重要な工程を重要管理点(CCP)として継続的に監視・記録する工程管理システム。

米国や欧州連合(EU)等は輸入食品に対してもHACCPの実施を義務付けており、これらの国・地域に我が国から水産物を輸出する際には、我が国の水産加工施設等が米国やEU等その国・地域で、求められているHACCPを実施し、施設基準に適合していることが必要です。また、国内消費者に安全な水産物を提供する上でも、水揚施設や卸売市場における衛生管理の高度化とともに、水産加工業におけるHACCPに基づく衛生管理やHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の導入を促進することが重要です。しかし、施設等の整備に費用が必要となる場合がある、従業員の研修が十分に行えていない事業所が多い等の状況もあり、水産加工場におけるHACCP導入率は、なお低水準に留まっています。

このため、国では、一般衛生管理やHACCPに基づく衛生管理に関する講習会等の開催を支援するとともに、EUや米国への輸出に際して必要なHACCPに基づく衛生管理及び施設基準などの追加的な要件を満たした施設の認定を取得するための水産加工・流通施設の改修等を支援しています。特に、対EU輸出認定施設については、認定施設数が少数にとどまっていたことから、認定の加速化に向け、厚生労働省に加え水産庁も平成26(2014)年10月より認定主体となり、平成30(2018)年3月末までに17施設を認定しました。平成30(2018)年3月末現在、我が国の水産加工業における対EU輸出認定施設数は56施設*1、対米輸出認定施設は363施設となっています(図2-2-29)。

  1. 平成30(2018)年3月末時点で国内手続が完了したもの。

図2-2-29 水産加工業等における対EU・米国輸出認定施設数の推移

対米,対米(うち厚生労働省による認定施設数),対EUの輸出認定施設数の年次推移を示した図。対米,対EUのいずれも増加傾向にあるが、対EUは施設数が少ない。なお、対米は(一社)大日本水産会及び厚生労働省による認定施設数の合計、対EUは水産庁及び厚生労働省による認定施設数の合計。