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(4)水産高校における水産教育

ア 水産高校の現状

(高校数)

水産高校では、学習指導要領に示された教科「水産」の科目を設置し、専門教育を実施していますが、(1)で紹介したように、第2次世界大戦後の水産教育は水産高校が中心であり、平成31(2019)年3月現在で水産高校は46校*1を数えます(図2-1-2)。このうち、水産に関する専攻科*2を設置している高校は22校となっています。また、水産高校では実習船により、航海実習や漁業実習、海洋調査等を行っています。しかし、近年は経費削減や生徒数の減少等に伴い、実習船の廃止や中・大型実習船から小型実習船への切替え、複数校による共同運営などにより、平成31(2019)年3月末現在で5トン以上の実習船を用いた学習を行っている水産高校は43校、その数は62隻(うち総トン数100トン以上の中・大型実習船は36校で29隻、5トン以上20トン未満の小型実習船は30校で33隻)となっています。

  1. 全国水産高等学校長協会への加盟校の数で、専門学科「水産」を設置している41校及び普通科等で教科「水産」を学ぶことのできる5校
  2. 通常課程を卒業後、更に専門分野を高めるための又は資格取得のための課程。なお、国土交通大臣から船舶職員養成施設として指定を受けている水産高校の専攻科課程を修了した場合は、三級海技士の筆記試験及び乗船履歴が免除される。

図2-1-2 全国の水産高校(平成31(2019)年3月末現在)

図2-1-2 全国の水産高校(平成31(2019)年3月末現在)

(生徒数)

全国水産高等学校長協会(以下「水産校長協会」といいます。)による調査(以下「水産高校調査」といいます。)によれば、平成30(2018)年度の全国の水産高校の生徒数は、9,831人で減少傾向にありますが、全国の高校生に占める割合は約0.3%となっており、横ばい傾向にあります(表2-1-3)。

表2-1-3 水産高校と全国高校の生徒数

表2-1-3 水産高校と全国高校の生徒数

水産高校調査による平成29(2017)年度卒業生の進路状況をみてみると、進学者は35%、水産・海洋関連産業への就職者は38%となっており、 平成19(2007)年度と比べると、水産・海洋関連産業への就職者の割合が14%増加しています(図2-1-3)。これは漁船や商船等の船舶乗船者が増えるなど、身に付けた専門性を生かすことのできる就職先を選ぶ割合が高くなったためです。また、専攻科修了生の就職状況をみてみると、平成29(2017)年度は漁船への就職者は8%、商船への就職者は56%となっています。専攻科においても、平成19(2007)年度と比べ、商船への就職者の割合が増加しています。これは、平成25(2013)年に六級の海技免許に必要な乗船履歴が8か月、三級の海技免許に必要な乗船履歴が1年3か月へ短縮したため、早期に船舶職員として乗船勤務が可能となり、就職機会が増大したことや雇用環境の変化により若年層が不足して求人が増えたことが要因と考えられます。加えて、学校関係者・業界関係者ともに、多くの学校でインターンシップや企業見学、説明会参加等を充実させていることも増加につながっていると考えられます。

図2-1-3 水産高校卒業後及び専攻科修了後の進路状況の推移

図2-1-3 水産高校卒業後及び専攻科修了後の進路状況の推移

(教員数)

水産高校調査によれば、平成28(2016)年の全国の水産教員数は、1,015人で減少傾向にありますが、全国の教員数に占める割合は約0.4%となっており、横ばい傾向にあります(表2-1-4)。

表2-1-4 水産高校と全国の高校の教員数

表2-1-4 水産高校と全国の高校の教員数

平成30(2018)年度に文部科学省が調べたところによると、平成30(2018)年度の「水産の専門科目担当教員」の年齢構成は、41~50歳の階層が31%と最も多く、次いで51~60歳の階層の23%です。40歳以下は35%となっており、将来の教員不足が懸念されます(図2-1-4)。

図2-1-4 「水産の専門科目担当教員」の年齢構成

図2-1-4 「水産の専門科目担当教員」の年齢構成

イ 水産高校の取組

これまでみてきたように、平成に入り、全国各地の水産高校は、従来の専門技術教育に加え、生徒の主体性や探求能力を高めることを目的とした「課題研究」や「総合学習」の科目に力を入れるようになってきています。これらの科目を実施するに当たっては、地方自治体や漁業協同組合(漁協)、各種研究機関等の団体と連携することが多いため、その地域に貢献するような活動にもなっています。

(人材育成)

水産高校では、将来各地域の水産業を牽引けんいんする優秀な人材育成のため、現場と連携した取組や国際的な取組を行っています。

事例地域と連携した現場体験学習

1.産学官連携型漁業後継者育成の取組(岩手県立久慈東くじひがし高校)

岩手県立久慈東高校では、地域漁業の後継者育成を目的に県の県北振興局水産部が実施している「明日の浜人はまびと応援事業」に平成27(2015)年度から参加しています。この事業の中で漁業者が講師となり高校生に職業としての沿岸漁業の魅力を伝えることで、毎年管内の漁協等に卒業生が就職するなど、地域の水産業に従事する生徒が着実に増加しています。

秋サケの定置網水揚げ体験の写真

2.実習におけるKYTの活用
~多様化する環境への対応に向けて~(千葉県立館山総合たてやまそうごう高校)

千葉県立館山総合高校では、職場の安全確保についてリーダーシップを発揮できる人材育成を目的として、乗船実習開始前にKYT(危険予知トレーニング)を行っています。

実習日に自分のコンディションや実習内容を確認し合い、これから行う実習に潜む危険について考え、事故を防止するために何を行うかを仲間と共に考えるものであり、実習の安全な遂行と安全意識の向上に役立っています。また、行動が「~しない」の否定ではなく、「~する」という前向きなものであることや、「乗船するときは必ず船を引き寄せる」など具体的な事案とすることで、確認したことを実践しているかどうかも一目で分かります。KYTでは、毎回重点安全目標を決定しますが、その過程において自分の考えを発表したり、話し合いによる意見の取りまとめ等の経験を積むことができることから、相乗効果として、コミュニケーション能力の向上も図られます。同校では、これらの経験が、今後予想される外国人労働者との協働の際のリーダーシップの発揮につながると考えています。

重点安全目標の決定の写真
重点安全目標を考慮しての実習の遂行の写真

3.地域企業と連携した企業実習(茨城県立海洋高校)

茨城県立海洋高校では2学年全生徒を対象に水産海洋関連企業と連携した企業実習を行っています。企業実習は、単に働くことの体験ではなくその企業で働く人と同じ内容・時間で勤務することが特徴で、生徒にとっては厳しいものです。実施企業も将来の担い手を育成するものであることを理解して、実施しています。平成29(2017)年度は高校に設置されている学科の特色に合わせ、茨城県内の漁協での定置網・刺し網等の実習、地元企業での食品加工・販売、また市場での作業といった実習を生徒1人につき1週間程度行いました。

実習により生徒は業務への適性を把握し、企業等への理解が深まる一方、実習直後は働くことの現実を知り、学校生活との違いに不安感を抱く生徒もいます。しかし、実際に進路を決定する3年生になると、就業への安心感や意欲が向上し、その後、卒業生が実際に就業することで企業からの海洋高校生に対する理解が深まるほか、実習の打ち合わせで教員が頻繁に企業を訪問することにより学校と企業との信頼関係の構築にもつながっています。

結果として、近年、求人が増加し、さらに、漁業や水産海洋関連産業への就職者が増加しています。

定置網漁業実習の様子の写真
市場作業の実習の様子の写真

4.地域の教育力を活用した人材育成(富山県立滑川なめりかわ高校)

富山県立滑川高校では、地元の関連就業先と連携した産業現場における実習を2年生時に行っています。地元を代表する漁業であるホタルイカ定置網実習では、その漁法、定置網の仕組み、漁獲から出荷までの流れを学習し、地元の漁業や水産業について理解を深め、食品製造業でのインターンシップでは、職業意識や勤労観の育成、異世代とのコミュニケーション能力の向上などを図り、将来の生き方を考えています。

参加した生徒からは、「漁業に対するイメージが変わり、楽しく本当にやり通したという実感が持つことができました。私は定置網実習だけでなく、何事も実際にやってみることの大切さを知りました。」、「仕事は支え合っていくことも大事ということを学びました。短い期間でしたが、様々なことを学べてとても良い経験になりました。」などの声が聞かれ、より深く進路を考えるきっかけとして大いに役立っています。

ホタルイカ定置網実習の写真
食品製造業におけるインターンシップの写真

5.漁協及び県と連携した漁業後継者の育成
大津緑洋おおつりょくよう高校水産校舎の「漁業就業体験」~(山口県立大津緑洋高校)

山口県立大津緑洋高校水産校舎は、山口県漁協及び山口県農林水産部水産振興課と連携して「大津緑洋高校水産校舎就職促進事業」を実施しています。事業の目的は、「次代の漁業の担い手となりうる大津緑洋高校水産校舎の生徒等に対し、計画的な漁業実習及び漁業体験を行うことにより、漁業就業に結び付ける。」というもので、漁業就業を目指す生徒や漁業に興味・関心がある生徒は、2年生になると漁業就業体験をします。体験の受入先は、山口県漁協の漁業就業促進コーディネーターが選定・調整し、定置網、一本釣り、まき網漁業など多様な漁業を体験しています。これを機に、本格的に漁業就業を目指す生徒は、山口県漁協が主催する漁業就業支援フェアに参加し、漁業団体、漁師とのマッチングにより、さらに、漁業就業体験をし、漁業者を目指します。

通定置株式会社における定置網漁業就業体験の写真1
通定置株式会社における定置網漁業就業体験の写真2
通定置株式会社における定置網漁業就業体験の写真3

事例水産高校の国際的な交流

1.漁業乗船実習を軸とした各種取組について
~実習船「若竹丸」の有効活用~(北海道小樽おたる水産高校)

北海道小樽水産高校では、生徒自らが漁獲したマグロの流通を実際に見て学ぶことを目的に、小樽市内で「小樽水産高校の「元気まぐろ」(商標登録済み)」を販売しています。これは地元企業の高橋水産株式会社の協力により、乗船実習で漁獲したマグロを小樽港で水揚げし、市内のコープさっぽろの2店舗で、生徒が自分たちで獲ったマグロの説明をしながら販売する取組です。平成27(2015)年から行っており、毎年、店舗の開店前からお客様が待っているほどの人気となっており、地域の住民からも期待される取組となっています。

また、乗船実習中には寄港地のハワイ州オアフ島で現地の小学校を訪問し交流活動を行っています。この交流活動は平成9(1997)年度から行っており、小樽水産高校の校庭に積もった雪を発泡スチロールの箱に詰め、実習船の魚艙ぎょそう(冷凍庫)に保管して現地の小学校に雪を持参し、小樽の自然や文化を紹介しながら小学生に雪遊びを経験してもらいます。こうした子供たちとの交流を通して、生徒が生の英語に触れるとともに日本との文化や習慣の違いを肌で感じるなど、国際理解に資する有効な取組となっています。

生徒がマグロを説明している様子の写真
自校の校庭での雪の詰め込みの写真
雪山を中心に集合(オアフ島の小学校)の写真

2.海洋教育を通した人材育成(北海道厚岸翔洋あっけししょうよう高校)

北海道厚岸翔洋高校では、海洋資源科生産技術コース3年の生徒が、航海当直・機関当直・無線当直の概要を学ぶとともに、遠洋漁業実習を通して海洋及び漁業(マグロはえ縄漁)の実態を体験することなどを目的に、実習船による30日間の長期乗船実習を行っています。このほか、実習においては、パラオ港に寄港し、国立パラオ高校との交流を行い、国際理解を促進する教育に取り組んでいます。実習船にパラオ高校の生徒を招き、英語による厚岸町や学校等についてのプレゼンテーションの実施や、両校の生徒がペアとなり自ら考えた英語による船内案内、パラオ高校訪問などを通して、外国の歴史や文化、言語等を理解する人材の育成に努めています。

また、遠洋漁業実習後は、実習で漁獲したマグロを調理師コース3年の生徒が地元のすし店主の指導の下、解体し、刺身やけ、ねぎま汁など、マグロづくしのメニューを生産技術コースの生徒に振る舞います。調理師コースの生徒の海洋資源に対する理解と、漁獲した人に対する感謝・思いやりの気持ちの育成、そして異なるコース間の連携した取組により、水産業を主とする町における高校として、海洋教育の充実に取り組んでいます。

パラオ高校との交流の写真
マグロ解体の様子の写真

3.ノルウェーの水産業から学ぶ ~男鹿おが海洋高校から発信できること~(秋田県立男鹿海洋高校)

秋田県立男鹿海洋高校では、「男鹿に学んで世界に羽ばたく生徒の育成」という教育目標の下、特に平成30(2018)年度は水産・海洋を題材として『「持続可能な海洋資源の管理」の大切さを理解する』ことを重点目標として指導するため、ノルウェー大使館参事官グンバル・ヴィエ氏(ノルウェー水産物審議会ディレクター)を講師に迎え、男鹿市や関係機関、一般市民も招き「ノルウェーに水産業の魅力を学ぶ」という演題で講演を開催しました。

持続可能な海洋資源の重要性についての意識の高揚を図るため、令和元(2019)年度から、資源管理において先進的な取組を実施しているノルウェーの現状(現場)を生徒が視察することで、将来、地元男鹿の海洋資源、秋田や日本の海洋資源について考えることを目指しています。

アウステヴォル高校校長による学校・ノルウェーの水産業の説明の写真
フサ高校内のプラスチック問題の展示の写真

(地域連携)

また、多くの水産高校では、地域活性化のため、地域の漁業者や加工流通業者と連携して、商品開発やイベント企画などの取組を行っています。

事例水産高校における地域と連携した商品開発

1.地域と連携した6次産業化への取組(北海道函館水産高校)

北海道函館水産高校では、地域の特色を生かした職業教育の充実を目的に、6次産業化に取り組んでいます。この取組は平成27(2015)~29(2017)年度に北海道教育委員会「専門高校Progressiveプロジェクト推進事業」において、同校が取り組んだ次代の地域産業を担う専門的職業人の育成を継承したものです。取組ではチョウザメの生産が盛んな美深町びふかちょうと連携し、研究交流を行い、飼育環境や採卵後の縫合ほうごう*1 方法の技術を習得したほか、七飯町ななえちょうのチョウザメ事業者と連携し、食味の向上やチョウザメ肉の新たな加工方法について研究を行いました。平成30(2018)年度はその取組で得たノウハウを生かし、ブリを活用した6次産業化に取り組んでいます。

  1. チョウザメは生後、採卵するまでに約10年かかるが、腹部を切って採卵を行った後、縫合すれば、約3年で再度採卵することが可能。
七飯町チョウザメ事業者との試食会の写真
美深町との研究交流の写真

2.新・うるめプロジェクト ~ウルメイワシのすり身の研究~
揚げかまぼこ 商品化への道(高知県立高知海洋高校)

高知県土佐市ではウルメイワシを大量に釣るための「多鈎たこう釣り」が漁協の青年部により確立されて以来ウルメイワシが特産品となり、昭和60(1985)年には漁船数が300隻を超えていました。しかし、魚価の低迷や漁業者の高齢化によりウルメイワシ漁は衰退し、現在の漁船数は30隻以下となっています。土佐市宇佐町うさちょうに位置する高知県立高知海洋高校では、このウルメイワシを生かした新たな特産品の開発に取り組みました。すり身の弾力が弱いウルメイワシを天ぷらにするため、様々な試作と試食を重ねた結果、平成30(2018)年に、ウルメイワシのさつま揚げ「うるめがテン!」が完成しました。その後、新聞掲載がきっかけとなり、地元スーパーから製造・販売の申し出が入り、 1)宇佐の一本釣りウルメイワシを100%使用、2)同校の製造方法を遵守すること、3) 相互協力による改良、4)「高知県立高知海洋高校開発」と商品名「うるめがテン!」をパッケージに入れること、以上4つの条件を満たす事業所に認定証を発行し、製造販売してもらうことになりました。

今後土佐市内の事業所にアプローチし、飲食・加工業を問わず多くの事業所に製造してもらい、将来的に土佐市の特産品に成長させたいと考えています。

魚種による練りものへの適性の写真
弾力の確認の写真
  1. 「足」はかまぼこの硬さの強弱、歯切れ、粘りなどを総合した食感のこと。「すわり」は塩、砂糖、調味料を加えた魚のすり身が一定の温度に置かれることで、のり状のすり身が徐々に固まり出してゲル状になる現象。すり身を30~40℃付近で加熱(予備加熱)して坐らせ、続いて75℃以上の高温で本加熱することにより足の強い製品が得られる。

3.さば水煮缶詰のブランド化(青森県立八戸はちのへ水産高校)

八戸水産高校は平成29(2017)年度から八戸市農林水産部水産事務所と連携して、八戸市第三魚市場A棟で水揚げされたサバのPR活動に取り組んでいます。八戸市第三魚市場A棟は、平成27(2015)年3月に国内初となる対EU輸出水産物食品取扱施設に登録され、HACCP*1による衛生管理が実施されており、そこで水揚げされたサバは日本最北端の冷涼れいりょうな漁場で漁獲される脂が乗ったサバで「八戸前沖さば」としてブランド化されています。

八戸水産高校は平成29(2017)年度、「先進的な漁業を学び、将来の水産界を担うプロフェッショナルを育成する。」という目的で、八戸市が推進する「地域漁業の高度衛生管理」の技術や関連施設等に関する講演会に出席し、八戸市第三魚市場A棟での水揚げを見学しました。そして八戸市第三魚市場のPR活動の一環として、そこで水揚げされた良質なサバを使ったさば水煮缶詰を2千缶ほど製造し、学校の文化祭である水産デーや魚市場見学会、各催し物などで配布しました。さらに、平成30(2018)年度は、八戸前沖さばブランド推進協議会事務局より許可を得て、八戸前沖さばを使うことでブランド化を図った「Premiumさば水煮缶詰」を製造・販売しました。生徒は、生産(水揚げ)から販売・PR活動まで、実際に体験し、マーケティングとともに食の安全・安心に関する理解を深めています。今後はふるさと納税返礼品等、販路拡大を検討しています。

  1. HACCPについては125ページ参照。
八戸市第三魚市場A棟の写真
「Premiumさば水煮缶詰」の写真
「Premiumさば水煮缶詰」販売の様子の写真

4.水産高校で開発したサバ缶がJAXA認証の宇宙食に
さば街道を国際宇宙ステーションまで!~(福井県立若狭わかさ高校海洋科学科)

福井県の若狭地域には、古くから、京の都にサバを運んだ鯖街道があります。福井県立若狭高校海洋科学科は平成18(2006)年に全国の水産高校で2例目としてサバ味付け缶詰製造に関し、HACCPの認証を受けました。授業でHACCPシステムを学ぶ過程において、HACCPはアメリカ航空宇宙局(NASA)が安全な宇宙食を作る目的で考案されたことを知った生徒から「私たちの缶詰を宇宙にとばせるのでは」との声が上がり、地元小浜おばま市の特産品であるマサバを宇宙食にすることで福井の加工技術と魚介類の品質の高さを世界中の人に知ってもらいたいとの思いから活動が始まりました。宇宙空間で缶を開封した際に缶の中の液が飛び散ることを防ぐため、サバ缶の調味液にくず粉を加えて粘性をつけ、さらに、無重力では味覚が鈍くなるため、通常より濃いめの味付けをしたサバ缶を開発しました。平成26(2014)年には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙日本食の「食品候補」に選定され、平成30(2018)年11月、ついに宇宙日本食に認証されました。今後、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士の食事として採用される見込みです。

サバを加工する生徒の写真
認証されたサバ缶の写真

事例水産高校によるイベント企画

1.水産高校による小学生対象の水産教室(岩手県立高田たかた高校・沖縄県立沖縄水産高校)

岩手県立高田高校海洋システム科では、平成27(2015)年から小学3・4年生に水産加工品の製造を体験してもらうことを通して、魚食とそれを支える地域の水産業に対する興味や関心を喚起する取組を行っています。年を追うごとに評価が高まり、平成30(2018)年は市内3校で実施することができるなど成果は上がってきており、さらに、この取組により小学生に体験を指導する生徒自身も水産食品の製造に関する知識と技能を一層定着させるとともに、勤労観・職業観がより確かなものとなってきています。

練りもの作りの様子の写真

沖縄県糸満いとまん市は小学生を対象に、学校とは異なる場所で様々な社会体験や共同生活を体験する「わくわくセカンドスクール」を開催しています。この「わくわくセカンドスクール」において、沖縄水産高校生による水産教室が開かれ、高校生によるマグロ解体ショーや手旗信号体験、海洋生物タッチプールが企画されています。沖縄水産高校では、このような体験を通して、小学生に海や水産への興味を持ってもらえるよう、様々な企画を考えています。

マグロ解体ショーの写真
手旗信号体験の写真

2.地域における交流人口拡大イベントの取組(新潟県立海洋高校)

新潟県糸魚川いといがわ市の人口減少率及び高齢化率は高く、地域経済の停滞や税収の減少により、生活の利便性が低下し、人口流出を助長することが懸念されています。

そこで、糸魚川市にある新潟県立海洋高校は、交流人口の拡大による地域振興のために、ユネスコ世界ジオパークのジオサイトの1つである弁天岩がある糸魚川市の魅力ある海を満喫してもらうイベント「まなびリウム」を開催しました。「学べる体験型水族館」をコンセプトに、生徒が企画・運営するミニ水族館やスノーケリング体験、磯遊び、海洋高校特製ランチの提供を行いました。イベントの企画・運営を通して、生徒の企画力・運営力・協働して主体的に取り組む態度を育成し、地域で中核的な人材となることを目指しています。同イベントは、平成29(2017)年度文部科学省委託事業「専修学校による地域産業中核的人材育成事業」で実施したもので、平成30(2018)年度も「まなびリウム」に継続して取り組んでいます。

生徒によるミニ水族館の解説の写真
生徒がガイドをするスノーケリング体験の写真

3.魚をさばく ~うすき海鮮朝市の取組~(大分県立海洋科学高校)

平成24(2012)年10月から大分県漁協臼杵うすき魚市場で毎週土曜日の朝7時半から開催されている「うすき海鮮朝市」に大分県立海洋科学高校の生徒が参加し、一般客が購入した魚の調理サービスを行っています。これは県漁協臼杵支店、臼杵市役所、大分県中部振興局との協同した取組となっています。

「うすき海鮮朝市」は、市場で競り落とされたばかりの新鮮な魚を、一般客が安価な値段で購入できます。また、この魚市場に隣接している食堂では、県漁協女性部が鮮度抜群の海鮮丼を販売しており、これを目当てに県外からも利用客が訪れます。この食堂の調理場で同校の生徒2~3名が、女性部指導の下、一般客が購入した魚の三枚おろしなどの下処理をしています。生徒は固定のメンバーではなく、食品コースの生徒約30名がローテーションで携わっています。

一般客が購入した魚をさばくことは、学校で行う実習とは大きく異なり、魚を預けた人の目の前でさばくため、生徒に程よい緊張感と責任感が生まれます。このような状況に置かれながら参加することでさばきの技術が向上し、度胸も自信もついてきます。校内だけでは育成できない実践的な学習の場となっています。

調理サービスは女性部の指導の下で行い、女性部と生徒と客の会話から魚の調理方法を選択します。例えば、調理が難しい魚が持ち込まれると、女性部の方から「この魚はここからさばくときれいにさばくことができるよ。」などとアドバイスをもらいながら調理を行います。女性部からの指導により技術が向上します。さらに、女性部や客との会話を通して社会性やコミュニケーション能力も育成されます。この「うすき海鮮朝市」は「魚をさばく」ことを通じて、将来、水産加工等に携わる人材育成の場となっているとともに、若い力が浜に活気を届けています。

うすき海鮮食堂の写真
うすき海鮮朝市での活動の様子の写真

4.水産高校生がカツオの魅力を全国に発信 ~枕崎PR隊さつま乙女~(鹿児島県立鹿児島水産高校)

鹿児島県立鹿児島水産高校は平成28(2016)年、日本の子供たちの「魚食離れ」という課題の克服と枕崎まくらざき市の特産品であるカツオの魅力発信のために「かつおさばき隊」を結成しました。そして平成29(2017)年度はコンブの産地である北海道稚内わっかない市と枕崎市が提携を結ぶ「コンカツプロジェクト」の一環として、稚内市でカツオの解体ショーを披露し、たたきを振る舞いました。

その後、「かつお捌き隊」はカツオだけでなく、枕崎の特産品(お茶、紅茶、電照菊等)を広くPRする目的で再結成された「枕崎PR隊さつま乙女」へとつながり、埼玉県越谷こしがや市や愛知県名古屋市の大型量販店でもカツオの解体ショーやたたきの振る舞いを行い、枕崎市の特産品であるカツオの生態や食材としての魅力をPRしました。県内のイベントへの出演依頼もあり、今後の活躍が期待されています。県内・県外のイベントに参加することで、学校経営方針の1つでもある「生徒にチャレンジするチャンスを与える」機会となっている上、地域に根ざした学校あるいは魚を学ぶ生徒による魚食普及につながっています。

埼玉県越谷市での活動の様子の写真

(技術開発)

水産業の発展のため、技術開発や環境保全に取り組んでいる高校もあります。

事例水産高校による技術開発や環境保全の取組

1.「伊豆大島における磯焼け対策」への取組(東京都立大島海洋国際高校)

伊豆大島において大型の褐藻類の1つであるアントクメが、平成11(1999)年を境に急激に沿岸海域から消失しています。いわゆる「磯焼け」現象であると考えられ、東京都などの組織がその原因について研究しています。同校においても、生徒の課題研究で近場の海岸におけるアントクメの植生状況の把握や、アントクメの株に生息する動物群について調査することで浅海域の生態系におけるこの海藻の重要な役割について確認しています。また、この海藻の若い株を、食害すると思われる動物(ウニ類、イスズミなどの魚類)に与えて、その摂餌痕せつじこんを調査し、得られた結果を基に、大島沿岸域における海藻の食害の被害状況を推測する方法について基礎データを集めています。これらは、磯焼けの拡大防止やこの海藻の移植先での捕食圧を減少させる対策を考える際のヒントとなるはずです。

イスズミ飼育実験で得られた摂餌痕(アントクメ)の写真
磯焼け(伊豆大島 泉浜)の写真

2.神奈川発! 産学官連携の農産物残渣ざんさを用いたウニ養殖の取組(神奈川県立海洋科学高校)

神奈川県立海洋科学高校では、これまで「海を豊かに」という思いの下、アワビやヒラメなどの種苗生産、放流を実施してきました。しかし近年、磯焼けが深刻化しアワビは激減し、海藻が消えた岩礁域は、売り物にならないやせたムラサキウニしかいない状態となりました。「せめてウニの身があれば・・・」という漁業者の声に、平成29(2017)年12月に有志の生徒が「ウニ研究会」を発足させました。同研究会は、神奈川県水産技術センターが以前より研究している、流通規格外の三浦特産キャベツを餌としウニの身入りも味も向上させる新開発のウニ養殖法「キャベツウニ」の実用化に向けた実験を、同センターの指導の下、横須賀市大楠おおぐす漁協とともに行いました。そして約2か月間漁業者と試行錯誤しながら育てた「キャベツウニ」を、平成30(2018)年7月に横浜市中央卸売市場内の卸売業者・横浜丸魚株式会社主催の試食会に提供したところ、参加者から「甘い!」「磯臭さがない」などの高評価が得られました。今後も各機関と連携し、実用化・商品化を目指して実験を進めていく予定となっています。

大楠漁協敷地内の養殖施設にての写真
試食会にて、身が肥えたウニの写真

3.水産業を核とした連携から地域活性化へ(京都府立海洋高校)

京都府北部の宮津みやづ市にある京都府立海洋高校は、京都府や国の水産関係機関、大学、漁協等に囲まれ、実習船の係留や様々な海の学びに適した立地条件を生かし、地域と連携した研究に取り組んでいます。

航海船舶コースは、実習船での底びき網漁業実習を通して、京都府農林水産技術センター海洋センターとの連携により、高級魚アカムツ(のどぐろ)の資源を守るため、小型魚を逃がす改良網の研究で成果を上げ、民間船での実用化に向けて研究を深めています。

海洋技術コースは、地元漁協の要請の下、身に付けたダイビング技術を活用し、外敵であるウニやヒトデを駆除し、これを堆肥化(京都府認可)することで農業分野とのコラボを展開しています。里海の環境に影響を及ぼす里山での育樹活動にウニ・ヒトデ堆肥を利用するなど、海と山の環境改善に広い視野で取り組んでおり、堆肥の製造方法を地元で普及させることによる新たな産業の創出に取り組んでいます。

栽培環境コースは、宮津市や地元自治連合会との連携により、廃校した小学校のプールでのホンモロコ*1養殖を軌道に乗せ、耕作放棄田においても養殖を開始しました。また、株式会社NTTドコモとの共同によるICT*2を活用した無人センサー実用化に向けたAI*3研究にも参画しており、今後、休耕田を活用した養殖を拡大することで生産量を増加させ、京都府北部の新たな特産品化を目指しています。

  1. コイ科に属する琵琶湖の固有種で高級魚として関西を中心に食されている。かつて数百トンあった漁獲量が近年は10~20トンで推移している。
  2. Information and Communication Technology:情報通信技術、情報伝達技術。
  3. Artificial Intelligence:人工知能。機械学習ともいわれる。
底びき網漁業の魚の選別の写真
ウニの駆除の写真
ホンモロコの出荷準備の写真

4.地域と連携した水産業の発展に向けた取組(熊本県立天草拓心あまくさたくしん高校)

熊本県立天草拓心高校海洋科学科には海洋航海コースと栽培・食品コースの2つのコースが設置され、それぞれのコースに応じて地域と連携し、水産業の発展につなげる取組に力を入れています。

海洋航海コースでは、東シナ海を中心に、30年以上にわたって毎年調査を行っています。この調査は、水産資源について「科学的根拠に基づいた適切な管理を行い、持続的に利用する。」という理念を実行し、現在の資源状態や近年の資源の増減を調査し、資源管理の方法が適切であるかを把握するために行われており、生徒は資源管理の重要性を肌で感じて学びます。

栽培・食品コースでは、地域の漁業関係者と連携し、アマモ場造成プロジェクトや小学生とのマダイ・クルマエビ稚魚の合同放流、漁業者とのウニの取り込みとアワビ稚貝放流など様々な活動を行っています。生徒はこれらの活動を通して海の生物や環境について学び、海洋環境保全をより意識するようになります。

海洋調査の写真
アマモ場造成プロジェクトの写真

事例海だけじゃない! 水産高校(栃木県立馬頭ばとう高校)

全国の水産高校のほとんどは、その専門性から海の近くに設置されていますが、海から離れた内陸部に位置する高校もあります。その1つが栃木県立馬頭高校で、同校には普通科と水産科が置かれています。水産科では、陸水環境及び淡水生物に関する専門的学習のほか、県内水産関連施設・事業所との連携の下、校内水産実習場において淡水魚の養殖や種苗生産の実習を行っています。また、他県の水産高校と提携した海洋実習や那珂なか川を舞台としたカヌー実習など特色ある取組も行われています。

地域と連携して様々な養殖技術の開発にも取り組んでおり、水産科で行っていたトラフグの閉鎖循環飼育が民間企業による「温泉トラフグ」の陸上養殖に発展するなど、地域貢献の一翼を担っています。また、最近では県内ホテルや栃木県水産試験場等と連携し、チョウザメ「フレッシュキャビア」の生産を行っています。

毎年、水産科の卒業生の約4分の1が水産関連事業所や機関に就職していますが、そのほとんどが栃木県内へ就労しており、県内の水産業の牽引役として貢献しています。

馬頭高校で生産している「フレッシュキャビア」の写真

図:水産科の教育価値モデル

図:水産科の教育価値モデル

(SPH指定校)

文部科学省では、平成26(2014)年度から、専門高校*1において、大学・研究機関・企業等との連携の強化等により、社会の変化や産業の動向等に対応した、高度な知識・技能を身に付け、社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成することを目的とする「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)」事業を実施しており、水産高校では平成30(2018)年度までに静岡県立焼津やいづ水産高校、山形県立加茂かも水産高校、愛知県立三谷みや水産高校、愛媛県立宇和島うわじま水産高校及び鹿児島県立鹿児島水産高校の5校が指定されています。

  1. 高校のうち、農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉の職業に関する専門学科を置く高校。

事例SPH指定校の取組

1.タイで日系水産企業の海外展開を学ぶ水産高校生
~焼津水産高校の「海外インターンシップ」~(静岡県立焼津水産高校)

静岡県立焼津水産高校では、グローバルに活躍できる人材育成を目的とした「海外インターンシップ」を実施しています。インターンシップでは、株式会社紀文食品とタイ現地法人Kibun(Thailand)Co.,Ltd.の協力で、生徒5名が会社概要説明と工場見学、水産練り製品製造の体験の後、同社の幹部スタッフとのディスカッションを通して、世界を舞台に働く人の考え方や企業が果たす役割を現場の声から学び、生徒が将来の進路選択に活用する機会としています。

この企画は、平成26(2014)~28(2016)年度にSPH事業で同校が取り組んだグローバル人材教育を継承し、平成29(2017)年度から株式会社紀文食品の協力で学校のオリジナル企画として取り組んでいます。

Kibun (Thailand) Co.,Ltd.での水産練り製品の製造体験の写真
ディスカッション後の様子の写真

2.地域の子供たちへ「海」を伝える水産高校生
~高校生による海洋教育普及活動の展開~(山形県立加茂水産高校)

山形県立加茂水産高校では「海を活かす・守る・興す人づくり」を基本理念に地域の幼稚園、小学校、中学校と連携した海洋教育を実施しています。近年、海洋教育の重要性がうたわれ、多くの学校が総合学習の一環として海洋教育に取り組む流れができてきており、平成27(2015)年には東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センターと提携し、「海洋教育促進拠点」となりました。また、平成27(2015)~29(2017)年度のSPH事業でも実習船鳥海丸ちょうかいまるや鶴岡市加茂水族館を活用した海・船・水産物に関する教育活動を展開し、継続しています。

高校生が地域の子供たちに教える場面も多く、「伝える」ことの難しさや「伝える」ことの面白さを日々の学習の中で学んでいます。今後も加茂水産高校が地域の海洋教育の中継スポットとなれるよう教育普及活動を続けていく予定です。

大山小学校における標本づくり出前授業の写真
ヒラメ稚魚合同放流におけるレクチャーの写真

3.マルチコプターの機体開発と海洋調査(愛知県立三谷水産高校)

マルチコプターとは、3つ以上の回転翼を用いて飛行する機体を指し、ドローンとも呼ばれています。愛知県立三谷水産高校情報通信科では、2つの側面から研究を進めています。

1つ目は、機体開発と操縦技術の習得です。機体のモーターやバッテリー、回路以外は全て生徒自身が3DCAD*1を使い設計し、3Dプリンターで部品を作っています。また、機体開発と操縦技術を競うため、毎年、日本航空宇宙学会主催の飛行ロボットコンテストに出場しています。このコンテストは、ポスターセッションが英語であることや、総重量が300g以下の機体で様々なミッションを要求されることから、とてもハードルが高く、現在、高校で出場しているのは同校のみとなっています。

2つ目は、搭載したカメラの画像を解析し、アマモ場の面積や水質調査を行う研究です。アマモ場の分布域や水温、塩分、酸素濃度などの調査・分析を行い、成果を地域の環境再生につなげていくことを目指しています。平成29(2017)年度から、空撮映像から面積を算出する実験を行っています。学校のグラウンドを使ったシミュレーションを繰り返して、現在では誤差を低く抑えた算出が可能となっています。

  1. Computer-Aided Design:コンピューター支援設計
生徒が大会用に開発したマルチコプターの写真
海洋調査風景の写真

4.フィッシュガールによる活動(愛媛県立宇和島水産高校)

愛媛県の養殖クロマグロ生産量は、全国6位で知名度が低いため、愛媛県の魚をPRするために宇和島のクロマグロ生産者、愛媛県農林水産部漁政課、宇和島水産高校の3者で協同して平成24(2012)年度からクロマグロの解体ショーを行う「フィッシュガール」の活動を始め、全国各地や海外で活動を行っています。平成30(2018)年度はハワイ州オアフ島ホノルルでも解体ショーを行い、水産に関する知識だけではなくグローバルな視野も身に付く活動となってきています。愛媛県知事からの表彰や感謝状贈呈、その他の賞も受けており、地域活性化の一翼を担っています。

フィッシュガールの活動の写真

(東日本大震災を乗り越えた水産高校)

水産業が盛んな宮城県内には2つの水産高校があります。石巻市にある宮城県水産高校と気仙沼市にある宮城県気仙沼向洋こうよう高校は海岸近くに位置しており、平成23(2011)年の東日本大震災で校舎が被災しました。現在では2校とも新校舎が完成し、将来の宮城県の水産業を始めとした様々な産業を支えるべく、多くの生徒が勉学に励んでいます。

事例宮城県下の水産高校の取組

1.増殖研究部の取組(宮城県水産高校)

水産について学ぶ機会は授業や実習以外にもあります。宮城県水産高校の増殖研究部では生き物好きの生徒が集まり、授業で学習したことを深め、更に新しい知識や技術を求めて研究活動を行っています。主な活動場所である「栽培漁業実習場」では、魚やウミガメなどさまざまな生物が飼育されており、部員それぞれが高い関心を持って取り組んでいます。

実習場に隣接する「万石浦まんごくうら」での長年にわたる生物資源調査を基に、震災前後の環境調査なども研究しています。また、地元大学とも共同研究などにも力を入れています。そうした研究成果を、毎年、日本水産学会春季大会における高校生研究発表会等で紹介しています。

平成30(2018)年度には日本水産学会「高校生ポスター発表会」において「ナンノクロロプシスを餌としてヒラメに投与した場合の効果を検討」という研究が紹介されました。

増殖研究部一同の写真
研究成果の写真

2.より強くなった地元とのつながり(宮城県気仙沼向洋高校)

気仙沼向洋高校は、水産学科である情報海洋科及び産業経済科、並びに工業学科である機械技術科があり、各科はそれぞれ2つの類型に分かれています。

海洋に関する知識と技術を習得する情報海洋科海洋類型では、海技士免許を取得し、船舶関係への就職が多くなっており、特に震災後、その割合が増加しています。また、水産食品を中心とする食品の製造から販売に至る知識や技術等を学ぶ産業経済科食品開発類型及び食品ビジネス類型では、生徒が実際に商品開発に取り組んだり、サンマ缶詰の生産から販売まで行い、実践的な技術を身に付けています。産業経済科では主な就職先は食品会社ですが、震災後、インターンシップ等をきっかけに地元の水産会社に就職する生徒も増えています。

気仙沼向洋高校では、地域の水産業や他の産業に興味を持つようになった生徒が、地域に就職しそのまま定着できるよう、地域や関係機関との連携を深め、気仙沼市の経済を支える人材の輩出に取り組んでいます。

結索(ロープの結び方)の授業(情報海洋科)の写真
シミュレーターを用いた航海練習(情報海洋科)の写真
生徒が製造した「向洋さんま」缶詰(産業経済科)の写真

コラム水産・海洋に携わる即戦力を育てるマリンマイスター顕彰制度

水産校長協会では、水産・海洋系学科等の生徒の学習成果や職業資格の取得、技術・技能検定等の合格を通し、自信と誇りを持って産業界で活躍できるよう励ますことを目的として、平成29(2017)年度から「マリンマイスター顕彰制度」を実施しています。この制度では、資格取得や各種大会で収めた成績を点数化し、上位からマリンマイスター「プラチナ」、「ゴールド」、「シルバー」の3ランクが設置され、平成30(2018)年度までの2年間で、延べ413人が認定を受けています。

認定対象の主な資格は水産・海洋関連産業の現場で有用なものが多いため、これらの資格を積極的に取得している生徒は将来の職業意識が明確であったり、会社で中核的なリーダーとして活躍しようとする高い意欲があったりすると考えられ、人材確保や新規採用の選考を行う企業にとって極めて有益です。

同制度は始まったばかりであり、今後ポスターの配布やシーフードショーなどで業界関係者に広くPRする機会を増やしていく予定です。水産・海洋関連産業に優秀な人材を数多く取り込むとともに、将来の担い手を育成する観点からも、本制度を懸け橋にして業界全体が発展するきっかけになることが期待されます。

認定対象の主な資格名
マリンマイスター ポスターの写真
「プラチナ」ランクの認定証見本の写真