1 燃油価格の高騰による影響 (HP)
(燃油価格の高騰)
原油価格の世界的な高騰が続いています。日本を含むアジアの指標原油である「中東ドバイ原油*1」の価格は、平成20年4月23日現在、史上最高の101.94ドル/バーレルを記録し、概ね30ドル/バーレルで推移していた16年から3倍以上の水準となっています。これに伴い、漁業で使用されるA重油価格も、20年4月時点で史上最高額となっています。
価格上昇は、中国やインドなど新興国の経済発展による世界の石油需要の急増や原油産出国の情勢不安に加え、投機資金が金融市場から原油市場に投入されたことなど複雑な要因が絡み合っていると考えられています。原油価格は、現行の水準が今後ある程度継続するものと見込まれています。
*1 中東ドバイ価格:ドバイが産出する代表的原油でアジアの原油市況の指標となっている。
(漁業生産コストの上昇)
原油価格の高騰は、漁業分野にも深刻な影響を与えています。漁業は他産業に比べて経費に占める燃料費の割合が高く、また、価格の動向に敏感な流通業者や消費者の影響等により漁獲物価格への転嫁も困難な状況です。漁労支出に占める油費の割合は、16年度までは、10〜20%でしたが、17年度には20%を超えました。特に、漁場が遠い遠洋や近海かつお・まぐろ漁業、いか釣り漁業は深刻な影響を受けています。
(省エネ漁業への転換)
原油価格の高騰に対しては、19年度に創設された対策基金を活用し、国として漁業経営の構造改革を進めるとともに、漁業者の省エネの取組を推進しています。
具体的には、いか釣り漁業やサンマ漁業について、従来の集魚灯に比べて電力消費量が約30分の1で済む発光ダイオード式集魚灯を使用した漁船の普及を図るなど、省エネ型漁業への転換による燃油使用量の抑制に対して支援を行っています。
また、地域が一体となって省エネ型の操業形態へ転換する場合にも支援するほか、輪番制で休漁し、休漁期間中に漁業者が藻場造成や干潟の整備といった生産力向上の取組を行う場合、その活動経費を支援したり、低利の融資等の経営支援も併せて実施しています。こうした制度を利用し、油タンクの集約・再配置や自動管理システムの導入といった燃油流通の効率化を図った結果、コスト削減に成功した事例もみられます。さらに、燃油高騰など漁業をめぐる最近の情勢や生産現場における取組等について、生産者、流通業者、消費者など関係者の間で情報交換・意見交換を行い、共通の理解醸成にも努めています。
○軽油供給体制の効率化に向けた取組【北海道】
漁船用の燃料には、A重油や軽油が使用されています。しかし、北海道内には軽油の給油施設はほとんど整備されておらず、漁船への供給は地元販売店からローリー配送により対応していました。そのため、軽油価格は地元販売店主導となっており、割高になっていました。
そこで18年12月、北海道内の軽油供給体制を見直し、道内9地区に漁協タンクを新たに整備し、タンクに併設した施設から給油する体制を整えました。燃油流通の効率化が図られた結果、コスト削減が実現しました。
コラム 燃油価格高騰は世界の漁業にも影響
燃油価格高騰は、世界の漁業にも大きな影響を及ぼしています。国連食糧農業機関(FAO)の「世界漁業・養殖業白書(2006年)」によると、2004〜2005年にかけてディーゼル燃料価格が約2倍に増加したため、世界中の漁業経営に大きな損失を生み出したと報告しています。世界の燃油総消費量のうち漁業部門のシェアは0.5%以下であり、今後も燃油価格は高止まりする一方、魚価が上昇するには時間がかかることから、引き続き厳しい経営状況が続くと予測しています。
また、漁業収入に占める燃油費の割合は、2002年・2003年平均と比べて2005年には約2倍に増加しています。発展途上国における燃油費の割合は、先進国の約2倍となっていることから、先進国の方がエネルギー効率が優れているとしています。なお、この差は定置網などの受動的漁業で最も顕著に現れています。
さらに、先進国の燃油費の割合を漁業種類別に比較すると、底びき網等の底魚を対象とした能動的漁業は、他の漁業種類の2倍以上の割合となっていることから、燃油価格の影響を受けやすいことがわかります。
同白書では最後に、OPEC(石油輸出国機構)前議長Yamani氏の「石器時代が石不足によって終わったのではないように、世界が燃油を使い果たすより前に燃油時代は終わりを告げるだろう」という発言を引用し、代替エネルギーへの期待と必要性を訴えています。