5 マグロ養殖業への期待 (HP1) (HP2)

(世界中で展開される「マグロ・ビジネス」)

 マグロは、我が国で最も好まれている魚種の一つであり、世界のマグロ漁獲量(200万トン)のうち、約3分の1が消費されています。特に、クロマグロ、ミナミマグロの大半は我が国で消費されており、世界の漁場で漁獲され、豪州、メキシコや地中海などにおけるいわゆる「蓄養*1」など、我が国に向けた様々な事業が展開されています*2。

図 マグロの供給量

*1 マグロの蓄養:成魚を短期間飼育し、身質や脂のりを良くして出荷すること。

*2 マグロに関する情報→参考図表III−3参照

(求められるマグロの安定供給)

 近年、マグロ類を対象とする大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)やみなみまぐろ保存委員会(CCSBT)等の地域漁業管理機関において、より一層の資源管理の必要性から、その漁獲規制の強化が相次いで決定されています*1。また、燃油の高騰など経営環境の悪化による廃業などによる供給能力の減少や、世界的な日本食ブームなどを背景とした海外でのマグロ需要の伸びなどからも、将来にわたる我が国のマグロの安定供給が求められています。

*1 漁獲規制の強化→第1部第 II 章第2節(3)参考図表III−4参照

(高まるマグロ養殖への期待)

 我が国では、市場の評価も高いことからクロマグロの養殖による生産が年々増加しています。19年度には4千トンを超えると予想されており、漁獲及び輸入によるクロマグロの国内推定供給量約4万4千トンに比しても、相当の量であると言えます。また、14年に近畿大学が成功した完全養殖*1で、人工孵化させて飼育していたクロマグロの第2世代の親魚が産卵し、第3世代が誕生しています。こうした技術革新に伴い、養殖によるマグロの安定供給への期待が高まっています。

 クロマグロの養殖は、海水温が高く生育が早い海域や、養殖用種苗のマグロ幼魚(ヨコワ)の採捕地に近い海域を中心に行われおり、中でも鹿児島県奄美大島に生産が集中していますが、クロマグロの養殖地が拡がるとともに、企業等のクロマグロ養殖に新たに参入しようとする動きがみられます。

図 研究の進展が期待される完全養殖マグロ

*1 マグロの完全養殖:受精卵を人工孵化させて得た仔稚魚を飼育し、成長させて成熟・産卵するまでを飼育下で行うこと。

(養殖業への企業参入により期待される地域の活性化)

 クロマグロの養殖については、小規模な養殖業者が協業体として行うなどしている場合もありますが、大手水産会社の関連会社が漁業協同組合の組合員として行ったり、漁業関連会社が事業の多角化のために行ったり、養魚飼料等の販売会社が養殖業者と生産組合を結成して行うなど、様々な経営形態があり、企業が参入して、他のブリやマダイなどと比べると大規模な経営体が担っている部分が大きいという特徴があります。

 企業が参入してクロマグロの養殖が行われることによって、雇用の機会が乏しい漁村において貴重な雇用を生み出しています。また、我が国では、クロマグロの幼魚を漁獲して2〜3年かけて飼育する養殖が行われているため、養殖用種苗の漁獲による所得獲得の機会を提供したり、海面の養殖場としての有効活用が図られるなど、漁村地域や漁業協同組合にとっても、様々な経済的な波及効果が生じており、各地でクロマグロの養殖に対する関心が高まっています。

写真1

写真2

(持続的かつ安定的にクロマグロを供給するために)

 クロマグロの養殖については天然の幼魚を養殖用の種苗として利用しているため種苗の確保が不安定であったり、新しい分野であることから、天然資源への影響が明らかでありません。また、養殖漁場についてもクロマグロは大型で遊泳性が高いことなどから制約が多いほか、配合飼料が実用化されていないなど、生産技術やノウハウに関して未だ確立してないといった様々な課題があります。クロマグロの養殖を手がける企業でも、種苗の人工生産技術や生餌に替わる配合飼料の開発等に取り組まれています。

 国としても、優良な人工種苗の生産技術や配合飼料の開発などを進め、クロマグロの安定供給に必要な基盤づくりに取り組んでいます。

 こうしたなかで、文部科学省の「21世紀COEプログラム」に選定された、「クロマグロ等の魚類養殖産業支援型研究拠点」により、クロマグロの種苗生産・養殖技術、漁場環境の保全、配合飼料の開発、品質向上及び経済効果の検証等を総合的に行う近畿大学を始めとする大学、また、クロマグロ養殖を手がける企業でクロマグロ養殖に関する技術の開発等に取り組まれています。

図 持続的かつ安定的なクロマグロの供給に向けて