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水産庁

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(2)地域漁業管理機関による国際的な資源管理


(地域漁業管理機関の役割)

今日の国際秩序の中で、国際的な漁業管理における中心的な役割を担っているのは地域漁業管理機関です。「国連公海漁業協定」の発効等を受けて、これまでに地域漁業管理機関が存在しなかった水域や魚種についても新たな機関の設立が進められてきています。

地域漁業管理機関では、それぞれの設立条約の規定に従って沿岸国や漁業国をはじめとする関係国・地域が参加し、資源評価等の科学的事項を検討するための科学委員会、各国の遵守状況を確認する遵守委員会等における検討の状況を踏まえて、各水域の資源や漁業の実情等に応じ実効ある資源管理を行うための議論が行われます。地域漁業管理機関が導入する保存管理措置の主なものには、漁獲量に関する規制(魚種ごとのTAC等)、漁獲努力量に関する規制(操業隻数の制限等)、及び技術的な規制(禁漁区、禁漁期の設定、漁具に関する規制等)の資源管理のための措置があります。また、衛星船位測定送信機(VMS:Vessel Monitoring System)の導入、漁獲物の運搬船への転載を監視する転載オブザーバー制度、正規の漁業許可を受けた漁船のリスト化、IUU漁船のリスト化及び違法漁獲物の国際流通を防止する漁獲証明制度等の遵守を確保するための措置もとられています。

我が国は、責任ある漁業国として、我が国漁船の操業海域や漁獲対象魚種に関して設立された地域漁業管理機関には原則として加盟し、資源の適切な管理と持続的利用のための活動に積極的に参画しています。


(カツオ・マグロ類を管理する地域漁業管理機関)

世界のカツオ・マグロ類資源は、地域又は魚種別に5つの地域漁業管理機関によって全てカバーされています(図1−3−1)。このうち、WCPFC、全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT(アイキャット))及びインド洋まぐろ類委員会(IOTC)の4機関は、それぞれの管轄水域内においてミナミマグロ以外の全てのカツオ・マグロ類資源について管理責任を負っています。また、南半球に広く分布するミナミマグロについては、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)が一括して管理を行っています。


図1-3-1 カツオ・マグロ類を管理する地域漁業管理機関と対象水域

カツオ・マグロ類の地域漁業管理機関においては、科学委員会等が実施する資源評価を踏まえ、TACの設定、漁獲努力量の規制、禁漁期・禁漁区の設定等の措置が実施されています。この結果、大西洋クロマグロやミナミマグロ等の資源では、一度は悪化した資源状況が回復をみせるなどの成果が出てきています。

一方、これまでの地域漁業管理機関による資源管理に対しては、実効性に乏しい等の批判もありました。従来、地域漁業管理機関では、資源評価結果等に基づき毎年の会合で協議を行い、どのような保存管理措置をとるかを決定してきました。しかしながら、地域漁業管理機関を構成する国・地域の間には、沿岸国と漁業国、はえ縄漁業を主体とする国とまき網漁業を主体とする国等、様々な立場の違いがあります。こうした関係国の利害が対立するような場合、資源状態の変化に対して有効な対策に適時に合意できないこともあり、このことが地域漁業管理機関の課題として指摘されています。

そこで、近年、カツオ・マグロ類の地域漁業管理機関においては、長期的な視点から資源の保存と持続的な利用をより確実なものとするための管理戦略(Management Strategy)に関する議論が活発に行われています。各国の漁業の実態や政治的な背景の違い、十分に信頼できるデータがあるかどうかといった問題等から、管理戦略についても合意を形成することは容易ではありません。しかしながら、こうした取組を通じて、地域漁業管理機関による資源管理の信頼性が向上することが期待されます。


コラム:長期的な資源管理を目指す管理戦略

管理戦略とは、資源評価の手法、そのためのデータ収集、及び資源状態に応じた具体的な資源管理措置の決め方(漁獲制御ルール(HCR:Harvest Control Rule))から成る資源管理のための枠組みです。資源を管理する上では、「漁獲量を最大化する」、「早期に資源回復を図る」というように、一見相反するものも含む様々な目標が考えられますが、管理戦略は、合意された様々な目標を一定のバランスで達成するために、一つのパッケージとして決定されます。

水産資源はその全体像を直接目で見ることができない上、広い海を泳ぎ回って移動し、さらに環境条件等により大きく変動することから、その管理には常に不確実性が付きまといます。その結果、これまでの資源管理では、数年ごとに行われる資源評価の結果によって管理措置が大きく変更され、漁業者もそれに対応しなければなりませんでした。しかし、管理戦略に基づく資源管理では、自然の変動の可能性をあらかじめ想定し、継続的に入手される情報によって微調整する漁獲制御ルールにより、長期的・安定的な管理が可能となります。

管理戦略を策定・実施する上では、管理戦略評価(MSE:Management Strategy Evaluation)というプロセスが欠かせません。これは、資源の加入状況や自然死亡率等、正確にはよく分からないことについて様々なシナリオを仮定し、候補となる管理戦略の案をコンピューターでシミュレーションすることで、不確実性を踏まえた上でそれぞれの管理戦略案が目標に対してどのような成果をもたらすかを評価するものです。その結果に基づいて適切な管理戦略を選択しますが、その際に、どの資源管理上の目標をどの程度優先させるかについて関係者で広く議論し、様々な立場の人が納得できる管理戦略を選択できることが最大のメリットとされています。さらに、管理戦略の実施後にも定期的に評価と見直しを行うことで、不確実性に対し頑健で、資源状態に適切に対応した順応的な管理を可能とします。

CCSBTのMPの概要

カツオ・マグロ類の国際的な資源管理に初めて管理戦略を導入した地域漁業管理機関が、ミナミマグロを管理するCCSBTです。CCSBTでは、10年越しの議論を経て、管理方式(MP:Management Procedure)と呼ばれる管理戦略を平成23(2011)年に採択しました(図)。開発に当たっては、資源を回復させながらも漁業を維持することとされ、そのため、漁獲量の多さ、漁獲量の安定性、及び資源の回復の3つの目的をバランス良く達成することが重視されました。

MPにおいては、暫定的な資源回復目標の達成を目指し、3年ごとにTACの算出が行われますが、CCSBTでは、毎年、資源状態が想定の範囲内に収まっていることを最新の資源指標から確認しています。MPにより、資源状態に応じて、回復目標の達成を可能とするTACが自動的に導き出されるようになったため、各国の立場の相違から困難を極めたCCSBTの資源管理に関する議論は円滑化され、その時々の資源状態に応じた順応的な管理が可能となりました。平成28(2016)年には3回目のMPによるTACの算出が行われ、MPを用いたミナミマグロの資源管理は軌道に乗っています。

管理戦略の策定と導入は手間も費用もかかるため、決して容易ではありません。CCSBTがMPを導入できた背景には、資源管理をめぐって国際裁判にまで至ったCCSBTでは、資源評価の不確実性を踏まえた上で管理方策に合意する手段がどうしても必要であったことに加え、ミナミマグロ漁業が単一の魚種を主にはえ縄漁業とまき網漁業で漁獲するという比較的単純な構造であることや、関係国がそれほど多くないこともあるものと考えられます。

しかしながら、他の地域漁業管理機関においても、管理戦略やその構成要素に関する議論が活発になってきています。ICCATでは、一部の魚種について管理戦略に関する議論が開始されています。また、WCPFCにおいても、長期的な管理目標とそれを達成するための漁獲制御ルールの検討が始まっているほか、IOTCでは、平成28(2016)年、資源状態に応じて漁獲の強度を調節し、資源水準が一定以下になれば漁獲をゼロとする内容の漁獲制御ルールがカツオに対して導入されました。

 

○西太平洋におけるカツオ・マグロ類の管理(WCPFC)

前節で述べた通り、WCPFCは、我が国周辺水域を含む西部太平洋水域でカツオ・マグロ類の資源管理を行っています。この水域では、我が国のかつお・まぐろ漁船(はえ縄、一本釣り及び海外まき網)約650隻のほか、沿岸はえ縄漁船、まき網漁船、定置網、ひき縄漁船等がカツオ・マグロ類を漁獲しています。

WCPFCでは、太平洋クロマグロの資源回復に向けた取組が行われており、WCPFCからの委託を受け太平洋クロマグロの資源評価を行う外部機関である北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)(*1)からの勧告に従い、平成36(2024)年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値(*2)まで親魚資源量を回復させることを暫定回復目標として、30kg未満の小型魚の漁獲を平成14(2002)〜16(2004)年水準から半減させること、30kg以上の大型魚の漁獲を同期間の水準から増加させないこと等を旨とする措置が実施されています。我が国は、責任ある漁業国として、関係国と協調しつつ、資源の適切な保存管理を目指しています。

WCPFCにおいて、北緯20度以北の水域に分布する太平洋クロマグロ等の資源管理措置に関する実質的な協議を行うのは、下部組織である北小委員会です。平成28(2016)年8~9月の北小委員会の会合期間中には、太平洋全域でのクロマグロの効果的な資源管理を目指して、IATTCとの合同作業部会が初めて開催されました。この合同作業部会においては、加入量が著しく低下した場合の緊急措置の導入が我が国の提案に基づいて議論されましたが、合意には至らず、協議を継続することとなりました。また、長期的な管理目標や漁獲制御ルールの設定を含む長期的管理方策についても議論が行われ、平成42(2030)年までの次期の中間目標を平成29(2017)年の次回会合で策定すること、また、そのために必要となる科学的検討を行い、その結果を議論するための関係者会合を同年4月に日本で開催することとなりました。作業部会の結果は、北小委員会で承認され、平成28(2016)年12月に行われたWCPFCの年次会合で採択されました。また、WCPFCの年次会合では、平成29(2017)年の年次会合での採択を目指し、遅くとも平成46(2034)年までに初期資源量(*3)の20%まで資源を回復させる保存管理措置を策定すべきとの示唆を十分に考慮するよう、北小委員会に対して要請がなされました。

熱帯性マグロ類(メバチ及びキハダ)及びカツオについて、我が国は、平成17(2005)年以降、一貫して熱帯水域のまき網漁業の管理強化を主張してきました。その結果、まき網漁業に関しては小型魚を多く漁獲してしまう集魚装置(FADs)を用いた操業の段階的な規制強化、はえ縄漁業に関してはメバチの漁獲量の段階的削減等の措置がとられています。平成28(2016)年の年次会合では、この措置を継続することとなりました。平成29(2017)年には、この措置の見直しが予定されており、更なる措置の強化に向けて取り組んでいくこととしています。


*1  日本、中国、韓国、台湾、米国、メキシコ等の科学者で構成。決定は全会一致。
*2  親魚資源量推定の対象となっている昭和27(1952)〜平成26(2014)年の推定親魚資源量の中間値。
*3  WCPFCの資源評価では、資源評価上の仮定を用いて、漁業がない場合に資源が理論上どこまで増えるかを推定した数値。

コラム:太平洋クロマグロの資源評価

平成28(2016)年2~3月、ISCは、太平洋クロマグロの資源評価を実施しました。今回の資源評価は、平成26(2014)年以来となるものです。今回の資源評価で得られた科学的知見を基に、平成28(2016)年8~9月のWCPFC北小委員会における議論を経て、同年12月のWCPFC年次会合で現行の措置の継続が決定しました。

平成27(2015)年から実施に移された現行の措置の効果が、資源評価に反映されてくるのは、平成30(2018)年に予定されている次回の資源評価以降です。関係者の努力が太平洋クロマグロ資源の回復という形で現れることが望まれます。

以下に、太平洋クロマグロの資源評価に関するトピックをいくつか紹介します。


1.資源評価の方法

海の中にどのくらいの水産資源が存在しているのか、その真の量を観察により把握することはできません。そのため、資源評価においては、<1>まず、現実の世界をモデル化し、<2>そこに入手可能な様々なデータを入力して、資源量を推定する作業が行われます。

モデル化に際しては、実際の漁業の特徴を可能な限り正確に組み込めるよう、科学者による検討が行われます。これにより、太平洋クロマグロの資源評価においては、例えば産卵親魚を漁獲する漁業や、小型魚を漁獲する漁業等、関連する様々な漁業の影響を組み込んだ形で資源評価が行われることとなります。こうしたプロセスは、大西洋クロマグロやミナミマグロ等、他のマグロ類の資源評価と同様です。


2.判明した親魚資源量
図1:太平洋クロマグロの親魚資源量の推移

新たな資源評価の結果、資源評価上の最新年である平成26(2014)年には、親魚資源量は約1.7万トン(初期資源量の2.6%)で依然として歴史的最低水準付近にあること、一方で、平成8(1996)年から続いていた親魚資源の減少に歯止めがかかり、平成22(2010)年以降は増加に転じたこと等が明らかになりました(図1)。

また、親魚資源量の将来予測では、平成27(2015)年に導入されたWCPFCの現行の措置を継続した場合、仮に資源への加入(*1)が少ない状況がずっと続いたとしても、平成36(2024)年までに親魚資源量が歴史的中間値まで回復する確率は62%であるとされました。これにより、太平洋クロマグロ資源は、WCPFCの暫定的な資源回復目標「親魚資源量を平成36(2024)年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値まで回復させること」の達成に向け、順調に回復していることが確認されました。


*1  卵からふ化した仔魚が成長し、漁獲対象となる大きさに達して資源として追加されること。資源に加入するまで生き残れば、生まれた直後と比べ、漁獲以外の要因による死亡の確率は大幅に低下する。太平洋クロマグロの資源評価では、4月上旬に生まれた仔魚が、7~9月に0歳魚として加入するとして計算されている。

3.漁獲削減の対象は小型魚か、大型魚か
図2:太平洋クロマグロの親魚資源量の将来予測

さらに、資源回復に向けた措置の検討に当たり、漁獲削減の対象について、小型魚か大型魚か、どちらがより効果的なのかということを確認するため、現行の措置に加えて、<1>小型魚の漁獲量を現行の措置から更に10%削減する、<2>大型魚の漁獲量を現行の措置から10%削減する、<3>小型魚・大型魚ともに漁獲量を現行の措置から10%ずつ削減する、の3通りの措置を講じた場合についてもシミュレーションが行われました。この結果、平成36(2024)年までに歴史的中間値まで回復する確率はそれぞれ、<1>85%、<2>67%、<3>86%となるとされ、小型魚の漁獲規制が資源の回復により効果的であることが示されました(図2)。


4.産卵に集まってきた親魚の漁獲をしてもよいのか

「産卵に集まってきた親魚を漁獲したら、親魚が減るだけでなく、膨大な数の卵も生まれなくなり、未成魚の発生も少なくなるのではないか?ISCでは産卵を保護する効果の議論は行われていないのか?」との疑問がわきます。一般に、親魚の数が増えるほど、生み出される卵の数も増えます。一方で、太平洋クロマグロの場合、0歳魚の加入量は年によって大きく変動します(図3)。これは、卵からふ化した仔魚(しぎょ)は環境要因による初期減耗が激しく、資源に加入するまで生き残る量が環境要因によって変わるためです。このため、親魚資源量が多くても必ずしも0歳魚の加入が多くなるわけではなく、一方で親魚資源量が少ないときでも大量に加入したりと、親魚資源量と0歳魚の加入量との間に明確な関係は観察されていません(図4)。

ISCの資源評価は、1で述べた産卵親魚を漁獲する漁業の影響に加え、親魚量と加入量に関するこういった情報も組み込まれて、科学的に慎重に行われています。

なお、大西洋クロマグロにおいては、漁獲の約6割が産卵のために地中海に集まる親魚を対象としたまき網漁業によるものですが、資源評価結果に基づく漁獲上限の設定や30kg未満の小型魚漁獲の原則禁止等により、資源の大幅な回復が図られています。


図3:太平洋クロマグロの0歳魚の加入量の推移
図4:太平洋クロマグロの親魚量と0歳魚の加入量との関係
 

○東太平洋におけるカツオ・マグロ類の管理(IATTC)

太平洋の東側でカツオ・マグロ類の管理に当たるのはIATTCです。この水域では、我が国のまぐろはえ縄漁船約80隻が、メバチ及びキハダを対象に操業しています。

IATTCは太平洋クロマグロの東太平洋における保存管理に責任を有していますが、太平洋クロマグロは我が国周辺で生まれ、太平洋の東西を広く回遊するため、WCPFCとIATTCが協力して資源管理に当たることが重要です。このため、これまで、WCPFCにおける保存管理措置に呼応し、年間の漁獲量に上限を設けるとともに、30kg未満の小型魚の漁獲比率を50%まで削減するよう努力する措置がとられてきました。平成28(2016)年10月に開催された年次会合においては、同年8~9月のWCPFC北小委員会との合同作業部会の決定事項を踏まえ、現行の保存管理措置を平成30(2018)年まで継続するとともに、WCPFCに合わせ、暫定回復目標を、平成36(2024)年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値まで親魚資源量を回復させることとすること、平成42(2030)年までの次期の中間目標を平成30(2018)年の年次会合で作成することが決定されました。

熱帯性マグロ類については、まき網漁業に関しては禁漁期間の設定、はえ縄漁業については国別の漁獲上限の設定等の措置がとられています。


○大西洋におけるカツオ・マグロ類の管理(ICCAT)

ICCAT年次会合の議場風景
ICCAT年次会合の議場風景

ICCATは、大西洋全域におけるカツオ・マグロ類等の資源管理を担う地域漁業管理機関です。大西洋においては、我が国のまぐろはえ縄漁船約90隻が、大西洋クロマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガ等を対象として操業しています。

ICCATにおいては、大西洋クロマグロの資源状態の悪化を受け、平成22(2010)年から、西経45度より東側の東系群のTACを大幅に削減する等の厳しい保存管理措置をとってきました。この結果、近年、資源は急激な増加に転じたと推定されており、平成27(2015)〜29(2017)年の3年間で、東系群のTACを段階的に約1万トン増加させることとなりました。平成28(2016)年の年次会合では、この合意に基づいて、平成29(2017)年の東系群のTACを前年から約3,900トン増加させ、2万3,155トン(日本の割当ては約300トン増の1,930.88トン)とすることが確認されました。


○インド洋におけるカツオ・マグロ類の管理(IOTC)

インド洋では、IOTCがカツオ・マグロ類等の資源管理に当たっています。この水域においては、約60隻の我が国のかつお・まぐろ漁船(はえ縄及び海外まき網)が、メバチ、キハダ、カツオ等を漁獲しています。

これまで、IOTCにおいては、熱帯性マグロを対象とする漁獲能力を平成18(2006)年の水準に、メカジキ及びビンナガを対象とする漁獲能力を平成19(2007)年の水準に据え置くといった漁獲能力規制が実施されてきました。こうした措置に加え、平成28(2016)年の年次会合では、資源状態の悪化が指摘されているキハダについて、平成26(2014)年のはえ縄漁業又はまき網漁業の漁獲量がそれぞれ5千トンを超えた国に対し、平成29(2017)~31(2019)年の各国の漁獲量を、平成26(2014)年の漁獲量からはえ縄漁業は10%、まき網漁業は15%、それぞれ削減することが合意され、漁獲量規制が導入されました。また、カツオの資源状況が悪化した際の漁獲制御ルールが採択されました。


○ミナミマグロの管理(CCSBT)

CCSBTは、管轄水域を特定せず、南半球を広く回遊するミナミマグロを一括して管理しています。ミナミマグロを対象として操業を行う我が国の漁船は、まぐろはえ縄漁船約90隻です。

CCSBTでは、平成23(2011)年より、資源回復目標を達成するためのTACを3年ごとに算出する管理方式(MP)に基づくTACの決定が行われています。資源状態の悪化を受け、平成19(2007)年からTACを大幅に削減するなど資源管理を強化してきた結果、近年では資源は回復傾向にあると評価されています。平成28(2016)年の年次会合では、MPを用いた平成30(2018)~32(2020)年のTACの算出が行われ、MPが定める最大の増加幅である3千トンの増加が決定されました。この結果、同期間のミナミマグロのTACは17,647トン(日本の割当ては約1,400トン増の6,165トン)となりました。


(カツオ・マグロ類以外の資源を管理する地域漁業管理機関)

底魚等をはじめとしたカツオ・マグロ類以外の資源に関しては、近年、新たな地域漁業管理機関の設立が相次いでいます。平成24(2012)年には、南インド洋でキンメダイ、メロ、オレンジラフィー等の資源管理を行う「南インド洋漁業協定(SIOFA)」と、南太平洋でアジ、アカイカ等の資源管理を行う「南太平洋公海資源保存管理条約」が発効し、平成27(2015)年には、我が国のEEZと隣接する北太平洋公海においてサンマ、サバ類、クサカリツボダイ、アカイカ等の資源管理を行うNPFCが発足し、資源評価や保存管理措置の採択等、資源管理のための活動を開始しています。

また、このほか、北西大西洋でカラスガレイ、アカウオ等の資源管理を行う北西大西洋漁業機関(NAFO)、南東大西洋でメロ等の資源管理を行う南東大西洋漁業機関(SEAFO)、南極海においてナンキョクオキアミ、メロ等の資源管理を行うCCAMLR等、数々の地域漁業管理機関が、それぞれの水域の自然条件や漁業に応じた保存管理措置を導入し、資源管理を実施しています(図1−3−2)。


図1-3-2 カツオ・マグロ類以外の資源を管理する主な地域漁業管理機関と対象水域

○北太平洋におけるサンマ、サバ類、底魚類等の管理(NPFC)

我が国EEZと接する北太平洋公海水域において、カツオ・マグロ類、サケ・マス類等以外の水産資源を管理する地域漁業管理機関を設立するための漁業条約作成交渉は、平成18(2006)年より、我が国の主導により開始されました。累次にわたる交渉の結果、平成24(2012)年に「北太平洋漁業資源保存条約」が採択され、平成27(2015)年に発効しました。この条約に基づくNPFCは、天皇海山水域のクサカリツボダイ等の底魚類をはじめ、我が国の漁業の重要種であるサンマ、サバ類等の資源管理も担う地域漁業管理機関であり、東京に事務局を置いています。

我が国は、北太平洋公海の水産資源の持続的な利用に向けて、関係国等と協調しつつ、NPFCにおいて引き続き主導的な役割を果たしていくこととしています。平成27(2015)年に開催された第1回会合において、平成29(2017)年に実施される資源評価に基づき新たな保存管理措置が導入されるまでの間、公海でサンマを漁獲する漁船の許可隻数の急激な増加を抑制する措置等が合意されたことに続き、平成28(2016)年の第2回会合では、中国漁船による漁獲が急増しているマサバについて、可能な限り早期に資源評価を完了させ、それまでの間、公海でマサバを漁獲する漁船の許可隻数を増加させないことを推奨する措置が合意されました。さらに、サンマ及びマサバの双方について、科学的なワークショップを開催し、資源評価に向けた作業を進めることとなりました。また、公海でサンマを漁獲する漁船に加え、マサバを漁獲する漁船についても、漁船の位置を監視するVMSの導入を義務付けることとなりました。このように、NPFCによるサンマ及びサバ類の資源管理は緒に就いたばかりですが、まずは過渡的な措置として操業隻数の増加を抑制しながら資源評価を進め、本格的な保存管理措置の導入に向けて一歩ずつ前進しています。

また、天皇海山水域を漁場とするクサカリツボダイに関しては、主な漁獲国である我が国の漁獲上限の設定、禁漁期の設定等を内容とする措置が講じられています。


コラム:クサカリツボダイの不思議に満ちた生活史

クサカリツボダイは干物やみそ漬けとして流通する脂乗りの良い白身魚です。主に天皇海山水域で我が国や韓国漁船によって漁獲されていますが、その一生は不思議に満ちています。

クサカリツボダイが生まれるのは天皇海山水域です。生まれてから数年の間は、北太平洋の中部から東部に広く分散し、海の表層で小さな甲殻類等を食べて生活します。体長30センチ前後まで成長すると、海山に戻って海底で生活するようになり、そこで数年にわたって産卵して一生を終えます。不思議なのは、この数年にわたる着底生活です。この間、クサカリツボダイはエサを積極的に食べず、産卵の度にやせて体高が低くなっていきます。このため、海山に戻ってきてすぐの若い成魚は体高が高く脂乗りが良いのですが、年々、商品価値が低下してしまいます。漁業者や市場関係者は、体高が高い若い成魚を「ホンツボ」、やせた魚を「クサカリ」等と呼んで区別して扱っています。また、海山で着底生活を送る成魚が多いか少ないかにかかわらず、数年~十数年に一度、大量の若い魚が海山に戻ってきて資源に加入します。

通常、水産資源の解析には、漁獲物のサイズ構成や年齢構成、あるいは親魚量と加入量の関係等が用いられますが、クサカリツボダイは、特異な生物学的特性から、他の魚種で広く用いられている資源の解析方法が使えません。NPFCは、この不思議な魚の資源管理と持続的利用のために科学小委員会を設置し、有効な管理方策を見出すための検討を進めています。


着底直前の体高が高い未成魚
着底後2年以上経過した体高が低い成魚
着底直前の体高が高い未成魚(左)と
着底後2年以上経過した体高が低い成魚(上)
(写真提供:(研)水産研究・教育機構)
 

(鯨類資源を管理するIWC)

国際捕鯨委員会(IWC)は、鯨類の適切な保存を通じて捕鯨産業の秩序ある発展を実現することを目指して締結された「国際捕鯨取締条約」に基づき設置されています。我が国は、鯨類は魚類と同様、最良の科学的知見に基づいて持続的に利用できる重要な食料資源であるとの考えの下、IWCで鯨類資源の持続的利用の実現を目指しています。しかし、IWCでは、我が国やノルウェー、アイスランド等の持続的利用を支持する国々と、鯨類を食料資源とみなす考え方を否定して資源状態に関わらない一律的な保護を訴える反捕鯨国との間で根本的な立場の違いがあり、持続可能な商業捕鯨のための資源管理措置さえ合意できない状況に陥っています。食習慣や食文化を含む鯨に対する考え方等の多様性は尊重されるべきですが、この多様性が必ずしも受け入れられていない現在のIWCでは、その設立目的である鯨類資源の持続的利用が図られていません。

昭和57(1982)年にいわゆる商業捕鯨モラトリアムが採択されて以降、この傾向は年々顕著になっています。商業捕鯨モラトリアムを定めた規定は捕鯨の永久禁止規定ではなく、一時的に商業捕鯨を停止して最良の科学的知見を集め、ゼロ以外の捕獲枠の設定について検討する、すなわち持続可能な商業捕鯨を開始するための道筋を定めたものです。しかし、IWCで過半数を占める反捕鯨国は、科学的根拠の有無によらない全世界的な商業捕鯨モラトリアムの維持そのものを目的とするようになり、IWC全体として、商業捕鯨モラトリアム決定時の本来の趣旨(十分な科学的情報を収集し、より適切な捕獲枠を設定すること)が追及されなくなっています。

このような状況において、我が国は、商業捕鯨モラトリアムを修正・撤廃して持続可能な商業捕鯨を開始するために必要な科学的知見を収集するため、鯨類科学調査を行ってきています。また、IWCの本来の目的が達成されるよう、調査で得た知見を国内外に広く共有し、持続的利用を支持する国の維持・拡大に努めるとともに、反捕鯨国に対しても建設的な対話を働きかけています。

鯨類科学調査については、平成27(2015)年度より、平成26(2014)年の国際司法裁判所(ICJ)の判決の指摘事項を踏まえた新たな南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)に基づく調査を開始しました。NEWREP-Aは、クロミンククジラの捕獲枠を算出するための科学的情報の高精度化と、生態系モデルの構築を通じた南極海の海洋生態系の構造及び動態の研究を目的とした12年間の調査計画であり、非致死的手法の実行可能性の検証等、これまでよりも非致死的調査を拡大しています。平成28(2016)年12月~29(2017)年3月には、2年目の調査が実施されました。

また、北西太平洋で実施してきた第2期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN2)が平成28(2016)年で終期を迎えたことから、同年11月、日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻(せいち)な捕獲枠の算出と、沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠の算出を目的とする新たな北西太平洋鯨類科学調査計画(NEWREP-NP)の案をIWC科学委員会に提出しました。同案については、今後、IWC科学委員会における検討を踏まえて最終化されることとなります。我が国は、引き続き鯨類の科学調査を実施し、鯨類の資源管理に貢献していく考えです。

IWC総会の議場風景
IWC総会の議場風景

一方、先述したとおり、IWCでは鯨類の持続的利用を支持する国と鯨類の完全な保護を求める反捕鯨国が長年にわたって対立し、鯨類資源の保存管理という本来の目的について何も意思決定ができない機能不全の状態に陥っています。平成26(2014)年のIWC総会において、我が国は、科学委員会が資源に悪影響を与えない捕獲枠として合意した試算値に基づき、日本沿岸域におけるミンククジラ17頭の捕獲枠設定を提案しました。しかし、投票の結果、この提案は否決されました。総会後、我が国は反対に投票した加盟国に対し、反対した理由を問う質問票を送りましたが、その回答に科学的又は法的な理由を示すものはなく、専ら「全世界的な商業捕鯨モラトリアムの継続を支持する」等の一般的内容にとどまっていました。これは、提案に反対する加盟国が、科学的又は法的な根拠に基づいて商業的な捕獲枠設置に反対しているわけではなく、あらゆる形の捕鯨に反対する国々の政策的立場に基づいた反対であることを示しており、鯨類の利用に対する根本的な立場の相違が明らかになりました。

平成28(2016)年10月に開催されたIWC総会においては、我が国は、このような鯨類に関する根本的な意見の違いを踏まえたIWCの今後の道筋に関し、透明性のある形で議論する場を設けることを提案しました。この議論は、平成30(2018)年の次回総会までの間に、具体的な進め方も含めて関係国から意見を聞きつつ進めていくこととなります。我が国は、根本的な立場の違いのためにIWCで意思決定ができない現状は、決して鯨類の適切な保存と管理につながらないとの認識の下、この議論を主導していきます。


コラム:我が国の鯨類捕獲調査から得られた成果

JARPN2で集められた鯨類の分布量及び胃内容物のデータから、鯨類が人間による漁獲に匹敵する量の魚類等を捕食していることが分かっています。このことは、鯨類も我が国周辺水域における生態系の主要な構成要素であり、資源の利用や生態系の保全を図る上で、鯨類の役割を無視することはできないことを示しています。


1.沿岸漁業と鯨類

最近では、分析手法の改善により、鯨類の捕食量の正確な推定ができるようになりました。その結果、ミンククジラの食性は、釧路沖における沿岸漁業の主要な漁獲物の構成の変化(例えば、サバ類→マイワシ→サンマ)と同調して変化することが分かりました。これは、ミンククジラが特定の魚種を選んで食べているというより、そこにたくさんいる魚種を食べていることを示しています。


釧路沖におけるミンククジラの捕食量推定値(9~10月)

ミンククジラの胃内容物(カタクチイワシ)
ミンククジラの胃内容物
(カタクチイワシ)
ミンククジラの胃内容物(スルメイカ)
ミンククジラの胃内容物
(スルメイカ)

2.沖合域の海洋生態系における鯨類
イワシクジラによるカタクチイワシの捕食量(平成25(2013)年7月)

目視調査から得た我が国周辺水域の鯨類の分布量と、胃内容物調査から得た捕食量を用いて、沖合域における広域の摂餌量を餌となる生物種ごとに推定しました(右図は一例)。この結果、ミンククジラ、イワシクジラ及びニタリクジラは、5~9月の間に、沖合域で、カタクチイワシ72万トン、サバ類7万トン、サンマ6万トンを捕食することが分かりました(平成20(2008)~25(2013)年の平均値)。


我が国では、このようなデータを用いて生態系モデルを構築することで、鯨類とその他の魚種との生態系における関係性を理解し、鯨類やその他の水産資源の管理に貢献することを目指しています。

 

コラム:鳥出(とりで)神社の鯨船行事(三重県四日市市(よっかいちし))

三重県四日市市を中心とする三重県の北勢(ほくせい)地方では、「鯨船」と呼ばれる、大名の使う御座船(ござぶね)を模して意匠を凝らした豪華絢爛(けんらん)な山車で町中を練り回り、張りぼての鯨を銛(もり)で突くという祭りが伝えられています。捕鯨を模した陸上での祭りは、全国的にも珍しいものです。

中でも、同市富田(とみだ)地区に伝わる「鳥出神社の鯨船行事」は最も典型的な姿を伝えているとして平成9(1997)年に国指定重要無形民俗文化財に指定されました。毎年8月14~15日には4隻の鯨船山車が出て、鯨を発見し、追撃し、途中で鯨の反撃にあって後退するも、最後には鯨を銛で突いて仕留めるという一連のストーリーを、迫力のある演技で何度も繰り返します。14日の「町練り」では、結婚等の祝い事があった家の前で鯨突きを行うなどして、町の人々に親しまれています。また、15日には「本練り」と称して神社の境内に練り込み、行事を神社に奉納します。

捕鯨を模した祭りは、かつて捕鯨の盛んだった地域にもみられますが、富田地区には明確に捕鯨を行ったという記録も伝承もなく、捕った鯨を解体処理する組織もありませんでした。なぜ、生業として捕鯨を行っていない地域において、陸上での模擬捕鯨を行う儀式が伝わったのでしょうか。それは、「鯨一頭で七浦潤う」ということわざがあるくらい鯨は経済的な価値を持っており、古来、鯨が富をもたらす象徴とみなされていたことが関係していると考えられています。豊穣(ほうじょう)の象徴である鯨を仕留めることで、大漁や富を祈願しているのです。

この行事は、平成28(2016)年には、「山・鉾(ほこ)・屋台行事」の一つとして、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)無形文化遺産に登録されました。


鯨追撃の様子
鯨追撃の様子
(写真提供:四日市市教育委員会)
鯨を銛で仕留める様子
鯨を銛で仕留める様子
(写真提供:四日市市教育委員会)
 

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