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水産庁

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(2)我が国の資源管理


(我が国の漁業の特徴)

我が国が位置する太平洋北西部海域は、太平洋中西部海域、大西洋北東部海域(ヨーロッパ沿岸部)、太平洋南東部海域(南米大陸西岸部)等と並んで世界の主要な漁場の一つであり、平成27(2015)年には、この海域で世界の漁業生産量の24%に当たる2,242万トンが漁獲されています(図2−1−3)。

この豊かな海域にあって、我が国は、面積で世界第6位となる広大な領海及び排他的経済水域(EEZ)を有しています。また、南北に長い我が国の沿岸には多くの暖流・寒流が流れ、海岸線も多様であることから、我が国の周辺水域には、世界に生息するとされている127種の海生哺乳類のうちの50種、約300種といわれる海鳥のうちの122種、約1万5千種といわれる海水魚のうちの約3,700種(うち日本固有種は約1,900種)(*1) が生息しており、世界的にみても極めて生物多様性の高い海域となっています。さらに、内水面においても、我が国は、国土の7割を占める森林の水源涵養(かんよう)機能や、世界平均の約2倍に達する降水量等により豊かな水に恵まれています。

こうした豊かな自然環境の下、我が国でははるか昔より盛んに漁業が営まれてきており、さらに、近代になってからは、漁労・造船技術の進歩により、漁場をより遠くの海へと拡大してきました。こうした成り立ちを背景に、我が国の漁業には、沿岸域から沖合・遠洋にかけて多くの漁業者が様々な魚種を多様な漁法で漁獲しており、また、他の多くの先進国と比較して小型漁船の割合が高いという特徴があります。資源管理に当たっては、このような我が国の漁業の特徴に即した措置をとることが重要です。


*1  生物多様性国家戦略2012-2020(平成24(2012)年9月閣議決定)による。

図2-1-3 世界の主な漁場と漁獲量

コラム:我が国の沿岸漁業の特徴

自然の環境条件に恵まれた我が国では、多様な魚介類を食べる食文化が発達し、沿岸の多様な資源を利用する小規模な漁業が古くから受け継がれてきました。今日においても、我が国の漁業・養殖業生産量の約2割は沿岸漁業によるものです。

我が国の沿岸漁業の内容をみてみると、定置網漁業(大型定置網漁業、さけ定置網漁業及び小型定置網漁業)による生産量が、沿岸漁業全体の約4割と大きな割合を占めています(図1)。定置網漁業は、岸からそれほど遠くない海中で、魚の通り道を遮るように垣網を張り、身網(袋網)に誘い込まれた魚を漁獲するものです(図2)。地域ごと、季節ごとに様々な魚種が漁獲され、その数は100種を超えるともいわれており、多彩な沿岸の魚介類を市場に供給する役割を担っています。

定置網漁業は「待ちの漁業」であり、省エネ型の漁業である反面、特定の魚種を選択的に漁獲したり漁獲対象から外したりすることが難しいという側面も有しています。我が国沿岸の資源管理に当たっては、こうした漁業の特色も踏まえて、措置を講じていく必要があります。


図1:沿岸漁業の生産量の漁業種類別内訳
図2:小型定置網漁業
 

(我が国の資源管理制度)

資源管理の手法は、<1>漁船の隻数や規模、漁獲日数等を制限することによって漁獲圧力を入り口で制限する投入量規制(インプットコントロール)、<2>漁船設備や漁具の仕様を規制すること等により若齢魚の保護等特定の管理効果を発揮する技術的規制(テクニカルコントロール)、<3>漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)の設定等により漁獲量を制限し、漁獲圧力を出口で制限する産出量規制(アウトプットコントロール)の3つに大きく分けられます(図2−1−4)。我が国では、各漁業の特性や関係する漁業者の数、対象となる資源の状況等により、これらの管理手法を使い分け、組み合わせながら適切な資源管理を行っています。


図2-1-4 資源管理手法の相関図

○漁業権制度と漁業許可制度

沿岸の定着性の高い資源を対象とした採貝・採藻等の漁業、一定の海面を占有して営まれる定置網漁業や養殖業、内水面漁業等については、都道府県知事が漁業協同組合やその他の法人等に漁業権を免許します(図2−1−5)。例えば、共同漁業権を免許された漁業協同組合は、漁業を営む者の資格の制限(投入量規制)、漁具・漁法の制限や操業期間の制限(技術的規制)等、地域ごとの実情に即した資源管理措置を含む漁業権行使規則を策定し、これに沿って漁業が営まれます。

一方、より漁船規模が大きく、広い海域を漁場とする沖合・遠洋漁業については、資源に与える影響が大きく、他の地域や他の漁業種類との調整が必要な場合もあることから、農林水産大臣又は都道府県知事による許可制度が設けられています。許可に際して漁船隻数や総トン数の制限(投入量規制)を行い、更に必要に応じて操業期間・区域、漁法等の制限(技術的規制)を付すことによって資源管理を行っています。


図2-1-5 漁業権制度及び漁業許可制度の概念図

○TAC制度

産出量規制である漁獲可能量(TAC)制度は、<1>漁獲量及び消費量が多く国民生活上又は漁業上重要な魚種、<2>資源状態が悪く緊急に管理を行うべき魚種、又は<3>我が国周辺で外国漁船により漁獲されている魚種のいずれかであって、かつ、TACを設定するための十分な科学的知見がある7魚種(*1)を対象に実施されています。

TAC制度においては、資源評価の結果等に基づいて魚種ごとのTAC数量が決定され、原則として漁業種類や都道府県ごとに配分されます。配分されたTACは、更に漁業者による自主的な協定等に基づいて海域ごと・時期ごとに細分され、操業を調整しながら安定的な漁獲が行われる仕組みがとられています。


*1  サンマ、スケトウダラ、マアジ、マイワシ、サバ類(マサバ及びゴマサバ)、スルメイカ及びズワイガニ。

○個別割当(IQ)方式による資源管理

個々の漁業者又は漁船ごとに年間の漁獲量の上限を定めて管理を行う個別割当(IQ:Individual Quota)方式は、産出量規制の一つの方式です。

IQ方式については、漁船ごとに漁獲枠を配分することにより漁獲枠の厳格な管理が確保される効果や、経営の改善効果等が期待されます。他方で、価格の低い小型魚等が洋上で投棄される可能性や、監視取締りコストがかかるといった問題も指摘されています。IQ方式の導入を検討するに当たっては、このような効果や課題を総合的に勘案することが必要です。

我が国は、ミナミマグロ及び大西洋クロマグロを対象とする遠洋まぐろはえ縄漁業、並びにベニズワイガニを漁獲する日本海べにずわいがに漁業に対し、国によるIQ方式を導入しています。これらの漁業は、対象漁船や水揚港、水揚げの頻度が限られているという特徴があります。

平成26(2014)年10月からは、北部太平洋で操業する大中型まき網漁船(1そうまき)を対象に、サバ類についてIQ方式による管理が試験的に実施されています。平成27(2015)年10月~28(2016)年3月には、対象とする漁船を大中型まき網漁船の全船に拡大し、IQ方式による試験的な管理が本格的に実施されました。この試験の結果、TAC管理の実効性が確保されたことが確認されましたが、他方で、価格の高い大型魚を選択的に漁獲することによる経営の改善効果については確認されませんでした。これは、平成25(2013)年生まれのマサバ(以下「平成25(2013)年級群」といいます。)が環境条件等に恵まれて大量に資源に加入したことで、平成25(2013)年級群が漁場を占め、より大型の魚から成る魚群の選択的な漁獲が困難であったことによります。

平成28(2016)年10月~29(2017)年3月には、引き続きIQ方式による試験的な管理が実施されており、今後、結果の分析が行われることとなっています。


(漁業者による自主的な資源管理の取組)

我が国の資源管理においては、制度に基づく公的な規制に加え、漁業者の間で行われる休漁、体長制限、操業期間・区域の制限等の自主的な取組が重要な役割を果たしています。こうした漁業者による自主的な取組は、資源や漁業の実態に即して実施可能な管理手法を柔軟に導入することができ、資源を利用する当事者である漁業者の合意に基づいたものであるため決められたルールが遵守されやすいという長所があります。また、漁業者同士の相互監視が機能するため、監視取締りのコストを低減することができるともいわれています。このように、公的機関と漁業者が資源の管理責任を共同で担い、公的規制と自主的取組の双方を組み合わせて資源管理を実施することを共同管理(Co-management)といい、多数の小規模漁業者が存在する地域における有効な資源管理の枠組みとして、世界的に注目されています。我が国における資源管理は、共同管理が長年にわたって機能してきた例の一つとして、国際的にも高い評価を受けています。

国では、累次の事業により、漁業者による自主的な資源管理の取組を支援してきました。平成23(2011)年度からは、水産資源に関する管理方針とこれを踏まえた具体的な管理方策をまとめた「資源管理指針」を国及び都道府県が策定し、これに沿って、管理目標とそれを達成するための公的・自主的管理措置を含む「資源管理計画」を関係する漁業者団体が作成・実践する資源管理体制を実施しています。国は、この体制の下、基本的に全ての漁業者が「資源管理計画」に基づく資源管理に参加することを目指しています。

平成27(2015)年度からは、策定から5年目を迎える「資源管理計画」について、順次、評価と検証を実施し、結果を踏まえて必要な取組の改善の指導等を行いつつ、継続的な取組を図っているところです。また、平成29(2017)年3月までに、1,930件の資源管理計画が策定されており、我が国の漁業生産量の約9割が「資源管理計画」の下で生産されています。

さらに、「資源管理計画」の取組を支援するため、計画的に資源管理に取り組む漁業者を対象に「資源管理・収入安定対策」を実施し、漁業者が、資源管理措置の実施に伴う一時的な収入の減少をおそれず積極的に資源管理に取り組める環境を整えています(図2−1−6)。


図2-1-6 資源管理・収入安定対策の概要

事例:漁業協同組合青年部等による資源管理の取組

1.資源管理、増殖場の整備及び種苗放流が一体となったナマコ資源の増殖(青森県むつ市  川内町(かわうちちょう)漁業協同組合青年部)
耕耘機で貝殻を耕す様子
耕耘機で貝殻を耕す様子
(写真提供:川内町漁業協同組合青年部)

青森県むつ市の川内町漁業協同組合では、ナマコが重要な漁獲対象種の一つとなっており、漁獲されたナマコは、高品質な乾燥ナマコに加工され輸出されています。

同漁業協同組合は、以前から、ナマコの資源管理のため、体長制限や保護区の設定、親ナマコの放流等に取り組んできました。しかし、平成16(2004)年をピークに漁獲量が減少傾向になったことから、以前からの資源管理に加えて、より積極的な資源増殖の取組が必要になりました。そこで、同漁業協同組合では、陸奥湾(むつわん)特産のホタテガイの貝殻を海底に敷設することでナマコに隠れ場所を与え、ナマコの蝟集や発生を促す増殖場造成の取組を開始しました。また、増殖場の経年変化を調査したところ、年数の経過とともに砂泥の堆積や潮流による貝殻の風化等によって貝殻の隙間が減少し、増殖場としての効果が減衰していくことが分かったため、同協同組合青年部では、増殖場の機能維持・回復に向けて貝殻を耕すための耕耘(こううん)機を開発しました。試作と実証を繰り返して開発した耕耘機は、古い増殖場の機能回復に寄与しています。この他にも漁業者自身が簡単に区域ごとの資源量を調査できるモニタリング手法を開発し、増殖場の適地の選定や資源管理に役立てています。

さらに、現在、青年部では、青森県、(地独)青森県産業技術センター水産総合研究所、県内種苗生産機関等からの協力も得て、ナマコの人工採苗試験に取り組んでいます。徐々に種苗の生産量も増加しており、今後は、これまで取り組んできた資源管理、増殖場の造成と維持管理、種苗放流を組み合わせて、将来も安定してナマコを漁獲するための体制づくりを行っていくこととしています。


2.アサリ復活への取組(福岡県行橋市(ゆくはしし)  行橋市漁業協同組合青壮年部)

福岡県行橋市が面している豊前海(ぶぜんかい)は、かつては日本でも有数のアサリ漁場でしたが、昭和61(1986)年の1万1千トンをピークに急激に漁獲量が減少し、近年は数十トンの非常に低い水準で推移しています。

行橋市漁業協同組合青壮年部は、このような状況の中で一念発起し、平成24(2012)年から、組合員のみならず一般客のアサリ採捕を全面禁止して資源の復活に向けた取組に着手しました。この取組の主役となったのが、福岡県水産海洋技術センター豊前海研究所が開発した「かぐや」です。これは、干潟に設置された竹の杭(くい)の内部から様々な大きさのアサリが発見されたことに着想を得て開発されたもので、海の自然の力を活用したアサリ稚貝を育成する簡易な装置です。この装置を使って良質なアサリ稚貝を自分たちで育てることで資源を復活させようと考えたのです。

「かぐや」の設置場所や管理、製作コストの削減等について、豊前海研究所とともに試行錯誤を重ね、アサリ稚貝の生産個体数は、平成24(2012)年度の1万個から平成27(2015)年度には120万個にまで増加しました。「かぐや」で育成した稚貝は、網袋に入れて干潟に設置し、育成します。網袋の中で大きく育ったアサリが産卵し、再生産していることも確認され、母貝育成の場としても期待できることが分かりました。こうした取組により、平成27(2015)年8月には、ついに同漁業協同組合として20年ぶりのアサリの出荷にこぎつけました。出荷されたアサリは品質も良く、高値で競り落とされました。

「かぐや」によるアサリの育成は、コストが低く抑えられ、手軽にできることから、新しいアサリの増殖手法として期待されています。今では、同漁業協同組合青壮年部のこの取組が評価されたこともあり、福岡県内各地で本手法によるアサリの増殖試験が行われているほか、県外でも取組を始めたところがあるそうです。


稚貝育成装置「かぐや」(塩化ビニル管を流用)
稚貝育成装置「かぐや」
(塩化ビニル管を流用)
(写真提供:福岡県)
「かぐや」垂下作業(左)と育成稚貝(右)
「かぐや」垂下作業(左)と
育成稚貝(右)
(写真提供:福岡県)
 

コラム:文化13年の資源管理

古くから漁業が盛んであった日本では、資源や漁場をめぐる紛争も昔から存在していました。今から200年前の文化13(1816)年6月には、江戸(東京)湾内で操業する漁師たちが集まり、紛争解決のため、「江戸内湾漁業議定書」を策定した記録が残っています。

この議定書は、江戸内湾で漁業を営む武蔵(むさし)、相模(さがみ)及び上総(かずさ)の国の44浦の名主・漁業総代等が神奈川浦(今の神奈川県横浜市神奈川区)に集まって、<1>毎年集まって会議を開くこと、<2>既存の38漁具・漁法以外による新たな漁業を始めないこと、及び<3>規約を遵守することを内容とする規約書をつくり、署名押印して取り決めた画期的なものです。

この時代、魚類や海藻類は食用としてだけでなく、肥料としても用いられ、その需要は増大していました。江戸内湾の狭い漁場では多数の漁業者が多種多様な漁具で操業し、既に飽和状態となっていたものとみられます。そのため、江戸湾内の限られた資源を紛争なく秩序をもって漁獲できるよう、漁獲の効率を制限できる漁具・漁法の規制を導入したようです。漁具規制により漁獲性能を制限する方法は、現代の資源管理の手法の一つとしても行われているものです。この議定書のもう一つの特徴は、漁業の当事者による枠組みであるという点です。当事者同士の話合いでルールが定められることにより遵守が促進され、また相互監視が違反の防止にも役立ちます。200年前に取り交わされた議定書の精神は、今日の我が国における漁業者の自主的な資源管理にも受け継がれているようです。


文化十三年六月江戸内湾漁業組合四十四浦規約書
 

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