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水産庁

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(3)漁業就業者をめぐる動向


(漁業就業者の動向)

我が国の漁業就業者数は一貫して減少傾向にあり、平成28(2016)年には前年から4%減少して16万20人となりました(図2−2−14)。漁業就業者の総数が減少する中で、65歳以上の高齢漁業就業者数は比較的安定的に推移していることから、漁業者の高齢化率は漸増しており、前年から1ポイント上昇して37%となっています。


図2-2-14 漁業就業者数の推移

漁業就業者数が減少する中、我が国の漁業者1人当たりの漁業生産量及び生産額は増加傾向で推移しています(図2−2−15)。個々の漁業者の経営にとって生産性の向上は望ましいものですが、国産の良質な水産物を消費者に対して安定的に供給していくためには、資源を持続的に利用できる範囲内において、我が国の漁業全体として十分な生産量を確保していけるよう、漁業就業者の確保を図りながら、同時に生産性を向上させていくことが重要です。


図2-2-15 我が国の漁業・養殖業の1人当たりの生産量及び生産額の推移

(新規就業者の確保に向けた取組)

我が国の漁業経営体の大宗を占めるのは、家族を中心に漁業を営む漁家であり、こうした漁家の後継者の主体となっているのは漁家で生まれ育った子弟です。しかしながら、漁業経営が厳しい中で、漁家の子弟が必ずしも漁業に就業するとは限らなくなっており、特に小規模の漁業経営体を中心として後継者不足が深刻化しています。漁業就業者の減少と高齢化が進行する中、漁村地域では、地域のコミュニティの維持が困難となったり、漁業の生産規模の縮小が関連産業の縮小につながったりする例も生じています。他方で、近年、生活や仕事に対する価値観の多様化により、就業先として漁業に関心を持つ都市出身者も少なくありません。こうした潜在的な就業希望者を後継者不足に悩む漁業経営体や地域とつなぎ、意欲のある漁業者を確保して担い手を育成することは、水産物の安定供給の確保のみならず、漁業・漁村の持つ多面的機能の発揮や地域の活性化の観点からも重要です。

このため、各地域において、地方自治体や漁業協同組合等が主体となって新規就業者確保に向けた取組が実施されています。国でも、就業希望者が漁業の知識や経験を持たなくとも円滑に就業できるよう、全国各地での漁業就業相談会や漁業を体験する就業準備講習会の開催を支援しています。また、道府県の漁業学校等で漁業就業に必要な知識や技術を学ぶ若者に対して資金を支援するとともに、漁家の子弟を含む新規就業者が漁業現場で行う長期研修を支援するなど、段階に応じた支援を行うことで、漁業への就業と定着の促進を図っています。

全国の新規漁業就業者数は平成21(2009)年以降おおむね横ばいで推移しており、平成27(2015)年には1,915人が漁業に就業しました(図2−2−16)。これらの新規就業者は比較的若い世代が多く、40歳未満の者が約7割を占めています。こうした新規就業者が継続的に漁業に従事できる環境を整えることにより、将来にわたる漁業の担い手を育成していくことが重要です。


図2-2-16 新規漁業就業者数の推移

事例:「ニューフィッシャー」育成の取組(山口県光市(ひかりし)  山口県漁業協同組合光支店)

小型底びき網漁業等が営まれる山口県光市では、漁業者の高齢化や減少に伴い、水揚量・水揚金額も減り続けていました。そこで、山口県漁業協同組合光支店では、国や県の漁業研修支援制度を活用し、平成20(2008)年度より、新規漁業就業者の育成を開始しました。

漁業の経験の有無を問わず、全国からやる気のある若者を募集し、複数の師匠について長期研修を実施します。複数の研修生が同時に研修を受けることから、良きライバルとなるとともに独立後の操業仲間もでき、新規就業者の定着につながっています。こうした取組の結果、平成28(2016)年度までに6人が「ニューフィッシャー」として光市の漁業の現場で活躍を始めており、さらにニューフィッシャーの子弟が漁業後継者を志す例も出てきています。ニューフィッシャーは、光市における漁業の主力の一端を担うまでになりました。

平成26(2014)年からは、ニューフィッシャーからの提案に基づいてサザエやアワビを対象とした素潜り漁も十数年ぶりに解禁され、地域の漁業を活気づけています。

 

(遠洋漁業における外国人労働力)

遠洋漁業に従事する我が国の漁船の多くは、主に海外の港等で漁獲物の水揚げや転載、燃料や食料等の補給、乗組員の交代等を行いながら操業に当たっており、航海日数が数週間から1年以上に及ぶことも珍しくありません。このような遠洋漁業においては、日本人漁船員の不足に対応して、一定の条件を満たした漁船に外国人が漁船員として乗り組むことが認められており、平成28(2016)年12月末現在、4,992人の外国人漁船員がマルシップ方式(*1)により日本漁船に乗り組んでいます。


*1  我が国の漁業会社が漁船を外国法人に貸し出し、外国人漁船員を配乗させた上で、これを定期用船する方式。

(漁業における海技免状保持者の育成)

漁船の運航と操業の安全性を確保するため、それぞれの漁船のトン数等に応じて、必要な海技資格や人数が定められています。海技資格には、航海、機関、通信等の区分ごとに級があり、免許を受けるためには乗船履歴を取得した上で国土交通大臣が行う海技士国家試験に合格する必要があります。しかしながら、航海期間が長期にわたる遠洋漁業においては、乗組員が上級の海技資格を取得する時間的余裕を持ちづらく、また、漁期の限られる沖合漁業においては、必要とされる乗船履歴を取得するのに何年もかかるという実態があります。このような背景から、海技免状保持者の高齢化と不足が深刻化しており、近年では、海技免状保持者を確保できないことから出航が危ぶまれるようなケースも生じています。

海技免状を保持する船員の確保と育成は我が国の遠洋漁業等の大きな課題の一つとなっており、関係団体等では、漁業就業相談会や水産海洋高等学校等への働きかけを通じて乗組員志望者を募るとともに、乗船時等における海技資格の取得を目指した計画的研修の取組等を行っています。


事例:将来の漁業を支える漁船員の育成

1.コミュニケーションを大切にした漁船員の確保・育成(宮城県気仙沼市(けせんぬまし)  宮城県北部船主協会)

宮城県気仙沼市の宮城県北部船主協会では、就業希望者との面接を経て漁業経営体とのマッチングを行ったり、海技資格の取得をサポートしたりするなど、きめ細やかな支援により漁船員を確保・育成しています。採用担当者は、就業希望者には漁業現場の厳しさをはっきりと伝え、新人漁船員として出漁した後も、仕事に慣れずつらい思いをしている漁船員がいればメールを通じて支えるなど、1対1のコミュニケーションを大切にしています。また、公式ブログでは漁船員の生活や収入などを包み隠さず発信するとともに、新人漁船員の洋上日誌も掲載し、遠洋漁業の過酷さと達成感など、現場の生の声を余すことなく伝えています。

こうした取組により、東日本大震災以降、これまでに約90人の新人漁船員が誕生しました。この中からは、24歳で遠洋まぐろはえ縄漁船の船長となった若者も生まれています。


2.漁師になるための全寮制の職業訓練校(静岡県焼津市(やいづし)  静岡県立漁業高等学園)
ロープワークの練習をする生徒
ロープワークの練習をする生徒

静岡県焼津市の静岡県立漁業高等学園は漁師になるための職業訓練校です。1年間のカリキュラムは航海専攻と機関専攻に分かれており、それぞれ海技資格の取得を目指して勉強と実技訓練に明け暮れます。また、全寮制となっているため、規則正しい共同生活を送る中で漁船での生活への適応性も養われます。さらに、静岡県立焼津水産高校の実習船を用いて行われる1か月間の乗船実習中には、実際に船員の仕事やかつお一本釣り漁業を体験し、漁業現場での即戦力となる人材が育成されています。

学園生は、静岡県内だけでなく全国から集まっており、県内の漁業経営体に就職していきます。近年では、1年当たり10~16名の卒業生全員が、将来の我が国の漁業を担う人材として、遠洋漁業をはじめとする漁業に就業しています。

 

(女性の地位向上と活躍)

女性の地位向上と活躍の推進は、漁業・漁村の課題の一つです。海上での長時間にわたる肉体労働が大きな部分を占める漁業においては、就業者に占める女性の割合は1割程度となっていますが、漁獲物の仕分や選別、カキの殻むきといった水揚げ後の陸上作業や、漁獲物の主要な需要先である水産加工業においては、女性が重要な役割を果たしています(図2−2−17)。このように、海女漁等の女性に受け継がれた伝統漁業のみならず、水産物の流通に不可欠な陸上での活動を通し、女性の力は漁業を支えています。

一方、女性が漁業経営や漁村において重要な意志決定に参画する機会は、いまだ限定的であると考えられます。例えば、平成26(2014)年の全国の漁業協同組合における正組合員に占める女性の割合は5%となっています。また、漁業協同組合の女性役員は、近年少しずつ増えてきてはいるものの、全体の0.5%に過ぎません(表2−2−5)。

平成27(2015)年12月に閣議決定された「第4次男女共同参画基本計画」においては、農山漁村における地域の意志決定過程への女性の参画の拡大を図ることや、漁村の女性グループが行う起業的な取組を支援すること等によって女性の経済的地位の向上を図ること等が盛り込まれています。

漁業・漁村において女性の一層の地位向上と活躍を推進するためには、女性の役割として固定されがちな家庭内労働を男女が分担していくことや、保育所の充実等により女性の社会生活と家庭生活を両立するための支援を充実させていくことが重要です。また、同時に、固定的な性別役割分担意識を変革していくことも必要です。

国は、水産物を用いた特産品の開発、消費拡大を目指すイベントの開催、直売所や食堂の経営等、漁村コミュニティにおける女性の様々な活動を推進するとともに、子ども待機室や調理実習室等、女性の活動を支援する拠点となる施設の整備を支援しています。


図2-2-17 水産業の従事者における男女の割合
表2-2-5 漁業協同組合の正組合員及び役員に占める女性の割合
 

事例:漁村の女性たちによる活動

1.ハタハタのしょっつる等で付加価値向上(秋田県八峰町(はっぽうちょう)  秋田県漁業協同組合北部地区女性部ひより会)
しょっつるを造るひより会のメンバー
しょっつるを造るひより会のメンバー

秋田県漁業協同組合北部地区女性部のある秋田県八峰町八森(はちもり)地区は、ハタハタが有名ですが、魚価の低迷が続いており、付加価値の高い水産加工品の開発が求められていました。そこで、同女性部では、平成7(1995)年度から、秋田県総合食品研究センターや水産普及指導員の支援を受けて、地元で水揚げされるハタハタを使って、秋田の伝統調味料である魚醤(ぎょしょう)「しょっつる」造りに取り組み、平成14(2002)年に商品化にこぎつけました。しょっつるの商品化に際して女性部内に結成された、魚介類の加工販売や特産品の開発等を目的とする別組織「ひより会」は、その活動の幅を徐々に広げています。

町の温泉観光施設に隣接した農林水産物直売所のオープンに合わせ、地元で水揚げされる不ぞろいで低価格の魚を使ったつみれや、しょっつるを活用した一夜干し等の製造・販売を開始しました。さらに、町内外の学校給食センターや特別老人ホームにも、魚介類の加工品を納入しています。学校給食では、ひより会のメンバーが給食時間に学校を訪問して、魚食普及のための食育授業を行い、子どもたちの魚や漁業に対する興味を深めるのに一役買っています。また、老人ホームでも、ひより会の魚は新鮮でおいしく口に合うと利用者から好評を得ているとのことです。

こうしたひより会の地場の魚介類を加工して付加価値を付けて販売する取組は、地域の漁家所得の向上につながっています。


2.「おさかなカルタ」による地域活性化(熊本県天草市(あまくさし)  天草漁業協同組合天草町(あまくさまち)支所女性部)
おさかなカルタを楽しむ子どもたち
おさかなカルタを楽しむ子どもたち

天草漁業協同組合天草町支所女性部では、地域の子どもたちに魚や海を好きになってもらいたいとの思いが詰まった「天草おさかなカルタ」による地域活性化の取組が行われています。

このカルタは、平成25(2013)年に熊本で開催された「第33回全国豊かな海づくり大会」の関連イベントとして、女性部のアイディアに基づいて、「第33回全国豊かな海づくり大会記念天草おさかなカルタ」として作成されたものです。全国から応募された約5千句の中から選ばれた46の読み句に、地元の小中学生が絵を描き、読み句と絵札ができました。

海づくり大会終了後、天草市役所がイベント用の特大絵札を作成し、女性部と共同でおさかなカルタ大会を開催しました。カルタ大会では、優勝した子どもに、地元の旬の魚がおいしい食べ方の説明付でプレゼントされました。このため、親の応援にも力が入り、カルタ大会は非常に盛り上がりました。景品の魚をもらった子どもが魚を家族に自慢しながら旺盛に食べるのにつられて、魚が苦手だった兄弟も魚を食べるようになったなど、とても喜ばれたそうです。

その後も学校関係や地域イベントでおさかなカルタ大会が開催され、カルタ遊びを通して多くの子どもたちが天草の魚に親しんでいるとのことです。

 

(水産業における外国人技能実習制度)

「外国人技能実習制度」は、国際協力の一環として実施されている制度です。開発途上国には、経済発展や産業振興の担い手となる人材を先進国に派遣し、進んだ技能、技術や知識を修得させ、自国の発展に役立てたいとの要望があります。このような要望に応えるため、諸外国から、技能実習生を最長3年間産業界に受け入れて実習が行われています。

水産関係においては、漁業・養殖業における9種の作業(*1)及び水産加工業における8種の作業(*2)に技能実習生を受け入れており、技能実習生は、現場での作業を通じて、より高い技能等を身に付けていきます。

一方、外国人技能実習制度をめぐっては、これまで、「国際貢献という本来の目的を外れ、安価な労働力の確保の手段とされている」、「技能実習生の人権が侵害されている」といった批判がありました。こうした指摘を踏まえ、技能実習の基本理念を定めて国の責務を明らかにするとともに、技能実習の適正な実施と技能実習生の保護を図ることを目的とする「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)(*3)」が、平成28(2016)年11月に公布されました。新たな技能実習制度においては、監理団体の許可制、実習実施者の届出制等の管理監督体制の強化とともに、一定の要件を満たした優良な監理団体や受入れ企業に対し、実習期間の延長や受入人数枠の拡大等の拡充も行われることとされています。


*1  かつお一本釣り漁業、延縄(はえなわ)漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、曳網(ひきあみ)漁業、刺し網漁業、定置網漁業、かに・えびかご漁業及びホタテガイ・マガキ養殖作業
*2  節類製造、加熱乾製品製造、調味加工品製造、くん製品製造、塩蔵品製造、乾製品製造、発酵食品製造及びかまぼこ製品製造作業
*3  平成28(2016)年法律第89号

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