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水産庁

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(1)水産業における復旧・復興の状況


(水揚げの復旧状況)

平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、全国の漁業に被害をもたらしました。特に甚大な影響を受けた東北地方太平洋沿岸は、全国屈指の豊かな漁場に恵まれて大規模な漁業基地を複数有するとともに、水産加工業等の関連産業も盛んな地域です。

平成29(2017)年3月で、東日本大震災の発生から6年間が経過しました。この間、被災地域では、漁港施設、漁船、養殖施設、漁場等の復旧が積極的に進められてきましたが、いまだ復旧・復興の途上にある地域・分野もあります。国では、引き続き、被災地の水産業の復旧・復興に取り組んでいます。

平成28(2016)年2月~29(2017)年1月の岩手県、宮城県及び福島県の主要な水産物産地卸売市場への水揚げは、震災前(平成22(2010)年3月~23(2011)年2月)と比べて水揚量で70%、水揚金額で90%となりました(図2−5−1)。このうち、東電福島第一原発事故の影響を強く受けている福島県では、震災前と比べ、水揚量で75%、水揚金額で55%となっています。


図2-5-1 水産業の復旧の進捗状況(平成29(2017)年3月取りまとめ)1
図2-5-1 水産業の復旧の進捗状況(平成29(2017)年3月取りまとめ)2

(漁港施設の復旧・復興)

漁港は、漁業の基地となるだけでなく、漁獲物の陸揚げ、流通、加工等の機能が集積する水産業の基盤施設であり、被災地の水産業再生のためにはその機能の迅速な回復が欠かせません。東日本大震災では、北海道から千葉県までの太平洋側7道県319漁港が被害を受けました。国では、平成28(2016)年度末までに被災漁港の全てで陸揚げが可能(部分的に陸揚げが可能な場合を含む。)となることを目指しており、平成29(2017)年1月末までに、316漁港(99%)において陸揚げが可能となりました。

また、被災した漁港のうち、水産業の振興上特に重要な特定第3種漁港である5漁港(八戸(はちのへ)、気仙沼、石巻(いしのまき)、塩釜(しおがま)及び銚子(ちょうし))においては、高度衛生管理対応の陸揚岸壁や荷さばき所等を整備し、新たな水産業の姿を目指した復興に取り組んでいます。


(漁業生産設備等の復旧・復興)

津波は、漁船、養殖施設、定置網漁業や養殖業の漁場等にも甚大な被害を与えました。このうち漁船については、約2万9千隻が被災しましたが、平成28(2016)年12月末までに1万8,439隻(目標である2万隻の92%)が修理又は新船建造を完了しました。平成28(2016)年度以降は、東電福島第一原発事故の影響で復旧が遅れている福島県について、被災地域の要望を踏まえつつ回復を目指しています。

また、養殖施設については、平成26(2014)年3月末までに再開を希望する全ての養殖業者の養殖施設整備が完了しています。平成28(2016)年漁期の収獲量は、震災前と比べ、ワカメで71%、ギンザケで82%となりました。また、平成27(2015)年漁期のホタテガイとカキの収獲量は、震災前と比べ、それぞれ83%と59%となりました。

定置網漁場や養殖漁場等においては、がれきの流入が漁業活動に様々な支障を及ぼしました。国では、漁業者及び専門業者が行う漁場のがれき撤去作業を支援してきており、平成29(2017)年1月末までに定置網漁場及び養殖漁場のそれぞれ99%で撤去が完了しています。


事例:被災地での復興に向けた動き

1.綾里(りょうり)漁業協同組合のアンテナショップ「りょうり丸」(岩手県大船渡市(おおふなとし)、花巻市(はなまきし))
早採りワカメの販売促進会
早採りワカメの販売促進会
(写真提供:綾里漁業協同組合)

平成28(2016)年11月、岩手県大船渡市の綾里漁業協同組合のアンテナショップ「りょうり丸」が、同じ岩手県の内陸部にある花巻市内にオープンしました。

「りょうり丸」の出店を提案したのは、東日本大震災後に地元漁師とともに海底のがれき撤去に取り組んできたボランティアダイバー。綾里の海産物に魅せられ、三陸の新鮮な海の幸を内陸でも食べてもらうことで三陸の復興や綾里をPRするとともに、県の内陸部と三陸の結びつきを強めようと、綾里漁業協同組合と連携して運営会社「あやかぜ」を設立し、2年の準備期間を経て、開店にこぎつけました。

浜の雰囲気が漂う店内は、綾里漁業協同組合から直送された新鮮な魚介類や加工品等を販売する直売所と、新鮮な海の幸を提供する食堂から成っており、多くの人でにぎわっているそうです。

アンテナショップ「りょうり丸」は、海産物の販路拡大だけでなく、三陸の漁業者と内陸の消費者とをつなぐ新たな交流拠点として期待されています。


2.(株)みらい造船(宮城県気仙沼市)
新造船所のイメージ図
新造船所のイメージ図
(資料提供:(株)みらい造船)

宮城県の気仙沼漁港は日本でも有数の水揚げを誇る漁港です。この地で漁業を支えてきた地域の造船施設は、東日本大震災の津波や地盤沈下によって壊滅的な被害を受けました。

地盤沈下のため、現在地での完全復旧は難しく、単独で造船所を移転させるのは資金面で難しいことから、地域の造船会社5社と関連会社2社の計7社が協業体制を構築することとなりました。こうして、平成27(2015)年5月に「(株)みらい造船」が設立され、新たな造船所建設に向け動き始めました。

新たな施設は、国内で3例目となる、船を海から昇降させる大型エレベーターのような上架施設(シップリフト)を導入し、効率的な船の建造や修繕が可能となる予定です。また、津波発生時にも被害を受けにくい防潮堤内で継続操業できるようにするなどの工夫がなされています。

平成28(2016)年10月には、新造船所の起工式が行われ、平成31(2019)年4月の稼働を目指して工事が進められています。


3.「あまころ牡蠣(かき)」の量産化に成功(宮城県南三陸町(みなみさんりくちょう))
あまころ牡蠣
あまころ牡蠣
(写真提供:宮城県)

宮城県南三陸町では、東日本大震災で壊滅的な被害を受けたカキ生産者と、宮城県水産技術総合センター気仙沼水産試験場とが協力し、(研)水産研究・教育機構東北区水産研究所の支援を受けながら、約3年をかけて1年未満の未産卵カキ「あまころ牡蠣」の量産化に成功しました。一般的な宮城県北部産のマガキの養殖期間は2年程度ですが、「あまころ牡蠣」は10か月と短く、夏前に水揚げされます。平成27(2015)年8月に天然採苗された種ガキの中から優良なものだけを選抜して、育成し、平成28(2016)年6月に初めて市場への出荷を果たしました。

「あまころ牡蠣」は、一口サイズで食べやすく、強い甘みが特徴です。また、生産者にとっても、1年未満で出荷でき、単価も高く、春から夏の間もカキで収入が得られること、作業が軽量化できること等多くのメリットがあります。

本格出荷1年目は、復興のシンボルとして、全国にチェーン展開しているオイスターバーで提供されました。今後は、更に生産量を増やし、全国に提供するだけでなく、地産地消を通して南三陸町に観光客を誘致することも考えていきたいとのことです。

 

(加工・流通施設の復旧・復興)

水産物流通の拠点となる水産物産地卸売市場では、岩手県、宮城県、福島県の34施設全てが被害を受けました。このうち、岩手県及び宮城県の22施設については全てが業務を再開していますが、福島県での業務再開は、12施設中、小名浜(おなはま)の1施設のみにとどまっています。

また、東北地方から関東地方にかけての太平洋沿岸では、拠点漁港の周辺に形成された大規模な水産加工団地が地域の経済を支えてきましたが、こうした加工施設も工場の流失、浸水等の被害を受けました。岩手県、宮城県及び福島県では、平成28(2016)年12月末現在、再開を希望する804施設のうち729施設(91%)が業務を再開しました。

一方、平成28(2016)年11月~29(2017)年1月に実施した「水産加工業者における東日本大震災からの復興状況アンケート」によれば、前年と同様、生産能力が震災前の8割以上まで回復したと回答した水産加工業者が約6割だったのに対し、売上げが震災前の8割以上まで回復したと回答した水産加工業者は5割弱にとどまり、依然として売上げの回復が生産能力の回復より遅れている状況にあります(図2−5−2)。また、復興における問題点としては、風評被害を含めた販路の確保を挙げた水産加工業者が約3割と最も多く、次いで人材や原材料の確保も挙げられています(図2−5−3)。このため、国では、引き続き、加工・流通の各段階への個別指導及びセミナーの開催等、被災地における水産加工業者の販路の回復・新規創出に向けた活動を支援していくこととしています。


図2-5-2 水産加工業者における生産能力及び売上げの回復状況

図2-5-3 復興における問題点

事例:「東北復興水産加工品展示商談会2016」の開催

「東北復興水産加工品展示商談会2016」の開催

平成28(2016)年6月7~8日の2日間、仙台国際センター(宮城県仙台市)において、東日本大震災被災地の水産加工業の復興と、水産加工品の情報発信、販路の回復・開拓を目的とした「東北復興水産加工品展示商談会2016」が開催されました。

平成27(2015)年に続いて2回目の開催となった展示商談会には、青森県、岩手県、宮城県、福島県及び茨城県から合わせて118社の事業者がブースを出展し、国内外より約5千名の入場者がありました。また、国内の食品卸、スーパーマーケット、百貨店等から招聘(しょうへい)した53のバイヤーとの事前予約型「個別商談会」では、2日間合わせて600商談が組まれました。

また、米国、シンガポール、ベトナム及びマレーシアの4か国から招聘した海外バイヤーとの個別商談会も行われ、海外展開を目指す事業者が商談に臨みました。会場では、水産加工品の販路回復・開拓に取り組む先進的な事例や海外販路開拓など様々なテーマでセミナーやパネルディスカッションも開催され、水産庁も、水産物における放射性物質の状況について説明を行いました。展示商談会終了後の主催者(復興水産加工業販路回復促進センター)によるアンケートでは、9割を超える出展者が今回の展示商談会全体について「大変満足」「やや満足」と評価するなど、有意義な商談会となったようです。

東北の水産加工業は、被災地域を支える基幹産業の一つであり、その販路の回復・開拓は喫緊の重要な課題です。この展示商談会は平成29(2017)年も仙台で開催が予定されており、こうした機会を通じて被災地の早期復興が図られていくことが期待されます。

 

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