このページの本文へ移動

水産庁

メニュー

(2)東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響への対応


(水産物の放射性物質モニタリング)

東日本大震災に伴って起きた東電福島第一原発事故は、水産業にも深刻な影響を及ぼしました。この事故以降、消費者の手元に届く水産物の安全性を確保するため、「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(以下「ガイドライン」といいます。)に基づき、国、関係都道県及び漁業者団体が連携し、原則的に週1回程度、計画的な放射性物質モニタリングを行い、その結果を随時公表しています。モニタリングの対象となるのは、主にそれぞれの区域の主要魚種や、前年度に50ベクレル/kgを超える放射性セシウムが検出された魚種で、生息域や漁期、近隣県におけるモニタリング結果等も考慮されます(図2−5−4)。


図2-5-4 水産物の放射性物質モニタリングの枠組み

東電福島第一原発事故以降、平成29(2017)年3月末までに、福島県及びその近隣県において、合計10万6,725検体の検査が行われてきました。基準値(100ベクレル/kg)を超える放射性セシウムが検出される検体の割合は、時間の経過とともに着実に低下してきています(図2−5−5)。

福島県においては、東電福島第一原発事故直後には基準値を超える検体が海産種では57%、淡水種では45%を占めていましたが、事故後1年のうちにその割合は半減し、基準値を超える検体は、海産種では平成27(2015)年4-6月期以降なく、淡水種でも平成28(2016)年度には4検体のみとなっています。また、福島県以外においても、基準値を超える検体は、海産種では平成26(2014)年10-12月期以降なく、淡水種でも平成28(2016)年度には7検体のみとなっています。さらに、平成28(2016)年度に検査を行った水産物の検体のうち、約9割が検出限界未満となりました。


図2-5-5 水産物の放射性物質モニタリング結果(平成29(2017)年3月末現在)

コラム:水産物の放射性物質濃度が低下するメカニズム

魚に含まれる放射性物質濃度の減少には、放射性物質の崩壊による物理学的な減少と、体内に取り込まれた放射性物質の代謝・排せつによる生物学的な減少、そして環境中から新たに取り込まれる放射性物質の減少が関わっています。

放射性物質は、放射線を放出して別の放射性元素に変化し、最終的には放射性元素でない安定元素となります。このことによって放射性物質の量が半分になるまでにかかる時間を、「物理的半減期」といいます。セシウム134の物理的半減期は約2年、セシウム137の物理的半減期は約30年です。

海水や餌を通じて魚の体内に取り込まれた放射性セシウムは、カリウムやナトリウムといった他の塩類(ミネラル)と同様に、鰓からあるいは尿とともに排出されます。生物の代謝により放射性物質の量が半分になるまでにかかる時間が、「生物学的半減期」です。生物学的半減期は、代謝活動の活発な若い個体では短く、代謝活動の緩やかな高年齢の個体では長くなります。また、変温動物である魚では、代謝活動が水温の影響を受けることから、水温が高くなると生物学的半減期は短くなります。このように、生物学的半減期は、魚種だけでなく体の大きさや水温によっても異なりますが、室内実験では、海産魚の体内に入ったセシウム137は、およそ50日前後で半分が排出されることが分かっています(*1)。

他方、環境中に放出され、海に入った放射性セシウムは、大量の海水により拡散・希釈されながら海底に移動しました。福島県沖の海水に含まれる放射性セシウム濃度は、次第に震災前の水準に戻りつつあります。また、現在でも原発周辺の海底土からは放射性セシウムが検出されていますが、海底土中の粘土鉱物に強く吸着された放射性セシウムは、生物の体内に取り込まれにくいことがわかっています。このため、海産魚が環境中の放射性セシウムを取り込むことによりひどく汚染される心配はなくなりました。

東電福島第一原発事故が発生してから6年が経過し、当初は高い濃度の放射性物質が頻繁に検出されていた福島県沖の海産魚からも、平成27(2015)年4-6月期以降基準値を超える放射性物質は検出されていませんが、国では、今後とも、関係機関と連携しつつモニタリングを継続していくこととしています。


*1  笠松(1999)による。
 

(市場流通する水産物の安全性の確保)

放射性物質モニタリングの結果、基準値を超える放射性セシウムが検出された水産物は、国、関係都道県、漁業者団体等の連携により流通を防止する措置が講じられており、市場流通する水産物の安全性は確保されています(図2−5−6)。

一方、時間の経過に伴う放射性物質濃度の低下を踏まえ、検査結果が安定して基準値を下回るようになった魚種では出荷制限の解除が行われます。平成28(2016)年度には福島県沖のヒラメ等、海産種で16件の出荷制限が解除され、平成29(2017)年3月末現在で出荷制限の対象とされている海産種は、宮城県沖の1魚種及び福島県沖の12魚種のみとなりました。


図2-5-6 水産物の出荷制限及び出荷自粛措置の実施・解除の流れ

(福島県沖での試験操業・販売の状況)

福島県沖の海域では、出荷制限等の対象となっていない魚種も含め、依然として全ての沿岸漁業及び底びき網漁業の操業が自粛されています。その中で、平成24(2012)年より、漁業の本格再開に向けた基礎情報を得ることを目的に、小規模な操業と漁獲物の販売を行って出荷先での評価を調査するための試験操業・販売が実施されています。

試験操業・販売の対象魚種の決定は、放射性物質モニタリングの結果等を踏まえ、福島県地域漁業復興協議会での協議に基づき行われています。また、試験操業で漁獲される魚種については、各漁業協同組合等が放射性物質の自主検査を行い、放射性物質濃度が自主基準値(50ベクレル/kg)を下回った魚種のみが出荷されます。さらに、販売に当たり、生鮮品については水揚時、加工品については水揚時と加工後に放射性物質の簡易検査を実施するなど、市場に流通する福島県産水産物の安全性を確保するための慎重な取組が行われています。

平成29(2017)年3月末時点で、試験操業の対象海域は東電福島第一原発から半径10km圏内を除く福島県沖全域となっており、対象魚種は当初の3魚種から97魚種まで拡大してきました。また、試験操業への参加漁船数は当初の6隻から延べ1,442隻となり、漁獲量も平成24(2012)年の122トンから平成28(2016)年には2,100トンまで徐々に増加してきました。こうした着実な取組が、福島県の漁業の本格再開につながっていくことが期待されます。


事例:「常磐(じょうばん)もの」ヒラメの試験操業・販売と相双(そうそう)地区での入札の復活

1.「常磐もの」ヒラメの試験操業・販売開始
「常磐もの」ヒラメの試験操業・販売開始
(写真提供:福島県水産事務所)

福島県沖は寒流と暖流が交わる好漁場として有名であり、ここで漁獲される水産物は「常磐もの」と呼ばれ、市場で高い評価を得てきました。中でも、遠浅の砂地が広がる福島県沖のヒラメは一級品とされ、東日本大震災前の平成22(2010)年においては、青森県、北海道に次ぐ全国第3位の漁獲量があり、福島県の漁業の主力を担ってきました。

しかし、東電福島第一原発事故以来、政府による出荷制限等の指示を受け、ヒラメの水揚げは自粛を余儀なくされていました。その後、福島県において放射性物質検査が継続的に行われ、平成26(2014)年3月から平成28(2016)年5月までに1,078検体を検査し、その結果が安定して国の基準値を下回ったため、国と県が協議し、平成28(2016)年6月9日に出荷制限の解除を決めました。これにより、平成28(2016)年9月1日の底びき網漁業の解禁に合わせて、ついにヒラメの試験操業・販売が開始されました。

待ちに待った常磐ものヒラメの水揚げに、いわき市中央卸売市場では、キロ8千円の高値が付きました。風評被害も懸念されますが、福島県漁業協同組合連合会では、試験操業で獲れた魚介類を出荷する前に、独自に放射性物質のスクリーニング検査をし、安全性の確保に努めています。今後、風評が払拭され、ヒラメが常磐もの復活の推進力となることが期待されます。


2.福島県相双地区での入札が復活
福島県相双地区での入札が復活
(写真提供:福島県水産事務所)

平成24(2012)年6月に試験操業・販売を開始する際には、魚の値段や販売数量の見込みが付かないことから、競り・入札を休止し、水揚げされた魚介類を、地元の仲買人組合に全量を一括で売る相対販売がとられました。この販売では、消費地での福島県産水産物の評価を把握するため、試験的に消費地の中央市場を主体として販売がなされたため、地元の小売店等に魚介類が回りづらいという問題が生じていました。

しかし、試験操業の対象魚種が拡大したこと、魚価の見通しがつくようになったことから、相馬双葉(そうまふたば)漁業協同組合では、平成29(2017)年3月のコウナゴ漁から入札による取引が復活しました。4月以降、原釡(はらがま)地区の漁獲物については、全て入札による販売を行う予定です。入札の対象魚種が増えることで、漁業者の漁労意欲の向上につながり、市場に活気が戻ることが期待されます。

 

(風評被害の払拭)

国、関係都道県、関係漁業者団体等による連携した対応により、消費者の手元に届く水産物の安全性は確保されていますが、一部の消費者の間では福島県産の食品に対する懸念が根強くあります。消費者庁は平成25(2013)年2月より半年ごとに「風評被害に関する消費者意識の実態調査」を実施しています。平成29(2017)年2月に行われた同調査では、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」とする消費者の割合はこれまでで最少となりましたが、依然として15%の消費者が福島県産の食品に対して懸念を抱いていることがうかがわれます(図2−5−7)。


図2-5-7 「放射性物質の含まれていない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」とする消費者の割合

「放射能と魚のQ&A」
(資料提供:(研)水
産研究・教育機構)

科学的知見に基づく正しい理解を醸成し、風評被害を防いで消費活動を推進するためには、消費者への適切な情報提供が欠かせません。このため、水産庁では、最新の放射性物質モニタリングの結果や水産物と放射性物質に関するQ&A等をホームページで公表しています。また、消費者、流通業者等への説明会や、一般消費者向けのなじみやすいパンフレット(「放射能と魚のQ&A」)の配付等を通し、正確で分かりやすい情報提供に努めています。


(諸外国の輸入規制への対応)

我が国産の安全な水産物の輸出を促進するためには、海外に向けても適切に情報提供を行っていくことが必要です。このため、水産庁では、英語、中国語及び韓国語の各言語で水産物の放射性物質モニタリングの結果を公表しています。さらに、各国政府に対し、調査結果や水産物の安全確保のために我が国が講じている措置等を説明し、輸入規制の撤廃・緩和に向けた働きかけを続けています。

この結果、東電福島第一原発事故直後に水産物について輸入規制を講じていた53か国・地域(うち18か国・地域は一部又は全ての都道府県からの水産物の輸入を停止)のうち、20か国は平成29(2017)年3月末までに輸入規制を完全撤廃しました。また、輸入規制を維持している国・地域についても、EU等が検査証明書の対象範囲を縮小するなど、規制内容の緩和が行われてきています(表2−5−1)。


表2-5-1 我が国の水産物に対する主な海外の輸入規制の状況(平成29(2017)年3月末現在)

一方、依然として輸入規制を維持している国・地域に対しては、様々な場を活用して規制の撤廃・緩和に向けた働きかけを継続していくことが必要です。

特に韓国については、平成25(2013)年9月以降、福島県等計8県の水産物の輸入を全面的に禁止するなど規制措置を大幅に強化したことから、我が国は、二国間協議やWTOの衛生植物検疫(SPS)委員会における説明のほか、韓国側が設立した「専門家委員会」による現地調査の受入れなどに取り組んできました。しかしながら、韓国側から規制撤廃に向けた見通しが示されないことから、平成27(2015)年より、WTO協定に基づく紛争解決手続を開始しています。我が国としては、今後ともWTOのルールにのっとって手続を進めていくとともに、韓国への二国間での働きかけを継続していくこととしています。


PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader