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水産庁

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第1節 水産業に関する技術の発展の歴史

水産物という海の恵みを古くから食してきた我が国国民は、その時代時代において様々な技術を駆使しながら「水産業」というものを築き上げてきました(表1-1-1)。

第1節では、水産業に関する技術の発展に焦点を当てて、時代ごとにどのような発展を経てきたのかを見てみることにしましょう。

◯近世までの水産業

縄文時代の貝塚などから推測すれば、日本人は古くから魚を食していたと考えられますが、港町や漁村が多く形成され始めたのは、国内海運・国際貿易が盛んになった室町時代の頃と考えられています。

江戸時代に入ると、漁業を職業として専業的に営む者が増え、また、漁村への定住化が進み、現在のような形の漁村が形成されていきました。また、大坂(大阪)は、全国の流通の中心となり、都市周辺の漁村から魚介類が供給され、水産物を扱う市場が形成されました。江戸においても、水産物の消費が拡大するにつれて流通業が発達していきました。当初は、漁師たちが幕府に魚を納めた残りを町中で販売していましたが、鮮度を魚の目とえらの色で判断するなど独特の技術(目利めききの技)を持つ「仲買人なかがいにん」という職業が発達し、生産と流通の分業化が進みました。

各地域では、特色のある漁業が営まれていました。紀伊半島や九州北西部などでは沿岸捕鯨も盛んに行われるようになり、九十九里などの遠浅の砂浜海岸では、大きな網を引きやすいことから地曳じびき網漁業が発展し、岩石が多く地曳網に向かないところでは一本釣り漁業が営まれ、地形や海流の関係で魚が集まりやすい場所ではたて網(定置網)漁業が営まれました。また、農業用の肥料原料としてのイワシ漁も盛んに行われるようになりました。

この時代は、まだ発動機等による動力が存在しないことから、沿岸域の人手による漁業が中心であり、また漁獲された水産物は、火を利用して加熱調理したりくん製品を作ったり、あるいは寒風にさらして乾燥したり塩蔵にするなどして腐敗を防止・抑制することで保存を可能にしてきました。

いわば、この時代までは、自然環境をうまく活用し、また自然環境にうまく適応した水産業が確立されてきたといえます。

◯発展の礎を築いた明治期の水産業

明治政府は、漁業生産を発展させるため、新しい技術の開発による水産業の振興を課題の一つとしていました。明治6(1873)年にウィーンで開催された万国博覧会を始め各国で開催された博覧会に参加し、外国の水産事情を学ぶとともに、日本でも水産博覧会を開催し、技術の開発と普及に努めました。また、明治27(1894)年以降、多くの県で水産試験場や水産講習所が設立され、水産業の発展に大きな役割を果たしました。

その後、漁船の動力化を図るため、明治32(1899)年にノルウェー式捕鯨船、明治39(1906)年にカツオ漁船、明治41(1908)年に英国式トロール漁船技術の導入を図るとともに、明治末期には、石油発動機が漁船に導入され実用化されました。

漁船の動力化とともに、我が国の漁業技術に画期的変革をもたらしたものは、綿網と機械製網の開発でした。江戸時代に麻糸であった網材料は、明治時代には、麻糸より柔軟で保存耐久力もあり、重量も軽く、価格が安い外来綿が普及し、明治30(1897)年の水産博覧会に漁網用綿糸の出品後、漁網用綿糸の製造がはじまりました。また、編網機の開発は明治10(1877)年頃から始まり、明治45(1912)年に初めて動力式編網機が完成されました。

また、漁船の動力化に伴い、漁船の安全確保、漁獲物処理の利便の向上等のため各地に船溜が整備されました。さらに、水産物のおいしさを長期間維持するため、瓶詰めや缶詰などの長期保存技術の開発も進みました。缶詰の本格的な生産は、明治10(1877)年に北海道の石狩いしかり缶詰所でサケを対象としたのが始まりといわれています。

◯飛躍的に発展した大正期から昭和初期にかけての水産業

明治政府の政策が実を結んできたのが、大正期から昭和初期にかけての時代です。

漁網を製造できる機械技術がほぼ整い、網具の大型化・強度化が進むと、漁船の大型化も進みました。漁船内で水産物を冷凍保存できる技術を取り入れるようになると、遠方での操業も可能になりました。漁船に初めてディーゼル機関が装備され、電気式集魚灯、無線装置などが搭載されたのも、この頃です。

また、漁船の大型化等に応じた漁港の大規模化も進展しました。沿岸漁業でも、小型漁船の動力化が進むとともに、ノリ養殖、カキ養殖、真珠養殖等の技術が全国的に普及しました。

◯第2次世界大戦後の水産業の技術の発展

第2次世界大戦後の水産業は、食糧難からの脱却を目指し、遠洋漁業を復興させ鯨や魚の生産を拡大させることから始まりました。昭和21(1946)年の南氷洋捕鯨が国民の食糧不足の緩和に大きな役割を果たしました。凍結装置を持つ冷凍船を捕鯨船団に加え、遠い南極海から新鮮な冷凍鯨肉を運び、缶詰やソーセージの加工も発展しました。

北洋におけるサケ・マス、カニ漁業は、漁獲したベニザケ、タラバガニなどを原料とする高級缶詰の欧州向け輸出の拡大とともに発展しました。

その後、昭和46(1971)年の変動相場制の導入に伴う円高の影響により、輸出が打撃を受け、我が国漁船の漁獲物は国内向け供給が増大し、また、その頃までには船内冷凍装置も急速凍結に対応したものとなり、ベニザケの消費は国内でも徐々に浸透していきました。また、まぐろはえ縄漁船にマイナス55℃の凍結装置を積むなどマグロの超低温保管が可能となりました。漁船の造船技術も急速に発展しました。多くの小型漁船は木造船でしたが、昭和30年代・40年代には、FRP*1漁船やアルミ合金漁船が登場し、FRP漁船は、容易に成形でき頑丈であるなどの利点から普及し、昭和50年代には木造船の隻数を上回りました。漁船のエンジンの開発も進み、戦後、5トン以上のほとんどの漁船には焼玉エンジン*2が搭載されていましたが、馬力のあるディーゼル機関や小型漁船で使用されている船外機の普及も進みました。最近では、燃費や馬力性能に加えて、窒素酸化物等の削減を目指す環境対応型エンジンの開発が進んでいます。

  1. Fiber-Reinforced Plastics:ガラス繊維などの繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料。
  2. 重油等を燃料とする内燃機関。焼玉と呼ばれる球状の部品を加熱し、焼玉の内部に燃料を吹き付け爆発させることでピストンを動かした。低出力で燃費も悪いが、構造が簡易で廉価に製造できたため、小型の漁船や河川の渡し船等に普及した。

高度経済成長期には、まき網漁船の揚網等の漁労機械の機械化が進み、省力化が進みました。また、2度のオイルショックを経験し、いか釣り漁船やさんま棒受け網漁船の新たな集魚灯ランプの開発など漁船の省エネ技術が発展し、近年はLED*1集魚灯も登場しました。

また、無線設備、レーダー、船位測定装置などの技術が発展し、多くの漁船に搭載されるようになりました。

さらに、水産資源そのものにアプローチする技術の開発も始まりました。最も革新的な技術としては、魚群を探索する「魚群探知機」、そして操業した位置を正確に記録しておくことができる「全球測位衛星システム(GNSS)」があげられます。

養殖業においても、様々な技術開発が行われ、ノリの人工採苗技術やマダイ人工種苗生産技術の開発等により、養殖の生産効率が大幅に向上しました。近年では、資源の減少が問題となっているニホンウナギや太平洋クロマグロについて、資源の回復を図りつつ天然種苗に依存しない養殖種苗の安定供給を確保するため、人工種苗を量産する技術開発が進められています。

一方、水産業振興上重要な基盤である漁港・漁場においては、近年、水産物の品質・衛生管理対策を推進するため、海水滅菌装置など、新しい技術を導入し、高度衛生管理型荷さばき所等の整備が行われるようになり、また、サイドスキャンソナー*2などの技術を活用し、排他的経済水域の水深が深い海域において、水産資源の保護・増殖を図るための漁場整備が行われるようになりました。

  1. Light Emitting Diode:LEDはこれまでの白熱ランプや蛍光ランプ等と異なり、半導体結晶の中で電気エネルギーが直接光に変化する仕組みを応用した光源。
  2. 海底に向け発射した超音波の後方散乱波の強度を面的に測定し画像化することにより、海底地形や底質、障害物の有無などを調査する装置。
表1-1-1 水産業に関する技術の発展の歴史

分野

~近世

明治期

大正~昭和初期

戦後の昭和期

平成期

漁労(漁船、漁具等)

  • 製塩、海運等との兼業
  • 地曳網、定置網等
  • 魚肥のためのイワシ漁
  • 麻糸漁網
  • 動力漁船(ノルウェー式捕鯨業、英国式トロール漁船、カツオ漁船)
  • 外来綿糸漁網
  • 動力式編網機
  • 母船式遠距離捕鯨
  • 動力漁船(タラ、カニ、サケ・マス、マグロ漁業)
  • 沿岸小型漁船の動力化
  • 冷蔵・冷凍運搬船
  • 漁網大型化
  • 捕鯨、マグロ漁業、北洋漁業
  • 魚群探知機・ソナー
  • 冷凍機(-25℃→-55℃)
  • FRP小型漁船
  • アルミ漁船
  • ディーゼル機関
  • 漁労機器の動力化等
  • GPS航海装置
  • 環境調和型漁業技術
  • 低コスト化技術
  • LED集魚灯

養殖・増殖

  • コイ養殖
  • カキ養殖
  • ノリ養殖
  • ニジマス養殖
  • ウナギ養殖
  • 真珠養殖
  • ノリ養殖、カキ養殖、真珠養殖の全国的な普及
  • ハマチ小割生簀養殖
  • ノリ人工採苗
  • ワカメ養殖
  • ノリ網冷凍保存
  • クルマエビ、マダイの種苗生産
  • 中間育成
  • 配合飼料
  • 養殖技術の多様化(ギンザケ、シマアジ等)
  • バイオテクノロジー
  • 陸上養殖
  • クロマグロ完全養殖
  • ニホンウナギ完全養殖

加工・流通

  • 干・塩蔵・節物
  • 市場(大坂、江戸等)
  • 流通拡大(鉄道輸送、汽船輸送)
  • サケ缶詰製造
  • 急速冷凍技術
  • 魚肉ハム・ソーセージ
  • 冷凍すり身
  • コールドチェーン
  • 活魚流通
  • 無菌充填等包装技術
  • スーパーチルド(氷温冷凍技術)
  • DHA、EPAの商品化
  • HACCP

漁港・漁場整備

 

・船溜の整備

・漁港大規模化

・沿岸漁場の改良・造成

  • 高度衛生管理型荷さばき所
  • 沖合域への漁場整備の展開

コラム「魚群探知機」と「全球測位衛星システム(GNSS)」

明治期以降、漁船の動力化や大型化、漁網の進化など、魚を獲るための「道具」が発展してきました。それに加え、そもそも海の中のどこに魚がいるのか把握できないのか、またたくさん魚が獲れた場所を記録できないのか、という課題が解決できれば、更に効率的な漁労作業に貢献できます。

戦後まもなく、海中の魚群を見つけようという画期的な試みが始まり、海軍が水深の測定や潜水艦の発見のために使用していた音響測深機を改良し、昭和22(1947)年、魚群を見つける海上実施試験に着手しました。当時は魚群が発見できる訳がないというのが漁業者の共通認識でした。

この「魚群探知機」は、自船から海中下方へ発射した超音波が、反射して返ってくる時間を計測し、海の中の物体(魚群)を探知し、海面からの距離を推計するというものです。

その後、魚群探知機は数々の改良が加えられて、今では魚のサイズもわかるようになるなど、製品性能が向上しています。

魚群探知機は超音波を下方に発射するため、漁船が海中の魚群の真上にいて初めて効果を発揮するものです。まき網漁業など魚群を追って漁獲する漁業においては、前後左右、斜め下方に魚群を発見できれば更に効率的な漁業が行えます。そのためサーチライトソナー(送受信機の向きを機械的に自由に動かすことによって、前後左右、斜め下方に超音波を発射し受信する機器)を使用して広範囲に探索を行えるようになりました。

さらに、昭和45(1970)年には、電子的にビームを回転させ、全周の映像が瞬時に得られるスキャニングソナーが開発され、魚群を発見するチャンスが更に大きくなりました。

当初の魚群探知機と得られた記録紙
当初の魚群探知機と得られた記録紙の写真
魚群探知機からのデータ(最新)
魚群探知機からのデータ(最新)の写真

もう一つ漁労を効率的に行えるようにしたのは、自船位置の正確な把握です。今自船がどこにいるのか、どの方向へ何ノットで航行しているのか、魚がたくさん獲れた位置はどこなのかといった情報を正確に把握し記録にできれば、効率的な漁業が行えるようになります。

かつては、陸地の数か所の地点を目視し、そこから自船の位置を推定していましたが、誤差は大きいものでした。その後、数か所の陸地から発射した電波を受信計測して測位する方法が用いられましたが、やはり自船の位置を把握するには誤差がありました。

1970年代には人工衛星からの電波を受信してGNSSを運用することにより、自船の位置を正確に把握できるようになってきました。人工衛星を利用した自船の位置の把握は、当初人工衛星の数が少なかったこともあり、測定する場所が限定されたり、連続した測定ができませんでしたが、現在では、地球を周回する人工衛星の数が増加し世界中のどの場所においても24時間連続して自船位置を測定できるようになり、自船の運航ルートや漁獲した場所の記録をすることで飛躍的に効率的な操業が行えるようになりました。

このように、今や魚群探知機とGNSSは漁業にとってなくてはならないものとなり、日本のほぼ全ての漁船にこれらが搭載されています。

GNSSから取得した自船の位置の記録
GNSSから取得した自船の位置の記録の写真