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水産庁

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(4)多様な漁業分野におけるICTの活用

これまでは、生産に関わる現場でのICTの活用事例を紹介してきましたが、密漁防止や内水面におけるカワウ被害対策などの分野においても、様々なICTの活用がなされています。今後、これまで活用が見られなかった分野でも、ICTが活用され、省力化等につながることが期待されます。

事例青森県陸奥湾における密漁監視システム

青森県陸奥湾ではホタテとともにナマコも生産されていますが、高級食材であるナマコは比較的沿岸の浅いところに生息し、移動が遅いことから簡単に採捕できるため、密漁が横行しています。資源管理を行っている漁業者による密漁監視にも限界があり、資源の枯渇が懸念されています。

このような状況を踏まえ、青森県漁業協同組合連合会はむつ湾漁業振興会と連携して効率的に監視できるシステムを導入しました。

密漁監視システムは陸奥湾に15台のカメラを設置し、AIがカメラの画像から漁船か密漁船かを判断し、密漁船と判断すれば、自動的に関係漁業協同組合等に警報が発信される仕組みになっています。

このシステムは24時間365日リアルタイムで監視することが可能で、平成29(2017)年4月からの運用開始以降、密漁件数の減少傾向が見られており、ナマコの資源回復・維持が期待されます。

密漁船の写真
監視カメラの写真

事例ドローンを活用したカワウ被害対策

カワウによるアユ等の食害が全国の内水面漁業者等にとって大きな問題となっています。一般に行われる被害対策には、漁場での銃器等による駆除や追い払い、卵をふ化させないための巣へのドライアイスの投入や、カワウが漁場付近に定着するのを防ぐためにカワウが嫌がる音の出るプラスチックテープ(環境に配慮した生分解性プラスチック)の樹木への張り渡しがあります。しかしながら、銃器の使用が困難な地域、崖の上や高い樹木の上等の人の立入りが困難な場所にカワウが巣を作ることも多く、組合員の高齢化や減少という問題を抱える各地の内水面漁業協同組合は、より効果的な被害対策がないかと頭を悩ませています。そこで、(研)水産研究・教育機構を中心とした共同研究機関は、ドローンを利用した、カワウ被害防止技術の開発を進めています。例えば、地元の漁業協同組合と協力して、ドローンを用いて、高い樹木に生分解性プラスチックテープを張ったり、ドライアイスを巣の中に投入したりする技術開発と、それらの効果を評価するための実証実験を行っています。今後、より安全で省労力な手法の開発により、全国のカワウ被害に悩む内水面漁業者の負担が軽減されることが期待されます。

アユを食べるカワウの写真
カワウの巣にドライアイスを投入するドローン(山梨県笛吹川(ふえふきがわ))の写真

事例福井県竹田川たけだがわ漁業協同組合の遊漁券オンラインシステム「フィッシュパス」

第5種共同漁業の免許を受けた漁業協同組合は、漁業法に基づき、河川等における種苗放流等により資源を増殖する義務が課され、その経費の一部を賄うため、遊漁者から遊漁料を徴収することが認められています。この徴収は一般に、漁業協同組合が発行する遊漁券を地元の商店や河川の現場等で遊漁者に販売する形で行われています。しかしながら、遊漁券を取り扱う商店が早朝に開店していなかったり、漁業協同組合職員等の高齢化により漁場の見回り活動が困難になりつつあることから、遊漁料徴収が十分に実施できないといった課題があります。

こうした課題を解決するため、最近、一部の漁協では、民間事業者が開発したオンライン遊漁券購入システムの導入を始めています。

このシステムの導入により、遊漁者は、いつでもどこでもスマートフォン端末から遊漁券を購入することが可能となり、また、漁業協同組合側にとっても、これまで遊漁料徴収が困難であった釣り人からの徴収が可能となることで収入増大が図られるとともに、オンライン情報を通じて遊漁券を購入した人の数や位置を把握することで、漁場の見回り活動の際に遊漁券を購入していない者の発見が容易となるといったメリットが出ています。福井県の竹田川漁業協同組合では、平成29(2017)年にこうした機能を持つ「フィッシュパス」を試験的に導入したところ、遊漁券の販売額が前年を上回るとともに、漁場の見回り活動時間が短縮されました。

こうしたICTの活用が、遊漁券の販売だけでなく、駐車場の位置、イベント開催、防災等、遊漁者にとって有益な情報の提供を通じて内水面の漁業協同組合と遊漁者の結びつきをより強め、漁業協同組合を中心とした内水面漁業の振興に大きく役立つことが期待されます。

スマートフォンのフィッシュパスのアプリ画面の写真

事例ICTを活用した効率的な漁場整備

水深が深い海域における漁場整備の施工中及び完成後の構造物の形状確認については、従来の音響測深機による方法では、構造物の形状の把握に時間を要したり、精度が水深の影響を受けたりすることがありました。しかしながら、マルチビームソナーによる詳細な3次元データを活用することにより、水深が深い沖合域においても石材やコンクリートブロックの設置状況を短時間に高精度で把握することが可能になり、施工中及び完成後の構造物の形状確認を効率的に行うことができるようになっています。

また、遠隔操作型無人探査機を使用し、水深が深い海域に設置した構造物や水産生物の生息状況を詳細に調査することにより、漁場整備の効果をより多角的に把握することが可能となっています。

全球測位衛星システム(GNSS)による位置の測定と、マルチビームソナー(広範囲を面的に調査でき沖合の深い地域でも高精度に調査できる扇状の測深幅を持つ)による3次元データにより、構造物の形状確認を行うイメージ図