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水産庁

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(3)漁業就業者をめぐる動向

(漁業就業者の動向)

我が国の漁業就業者数は一貫して減少傾向にあり、平成29(2017)年には前年から4%減少して15万3,490人となりました(図2-2-14)。漁業就業者の総数が減少する中で、平成21(2009)年以降全国の新規漁業就業者数はおおむね横ばいで推移していますが(図2-2-15)、新規漁業就業者は39歳以下が7割を占めていることもあり、就業者全体に占める39歳以下の漁業就業者の割合は、近年、横ばい傾向にあります。

図2-2-14 漁業就業者数の推移

漁業就業者数を15~24歳,25~39,40~54,55~64,65~74,75歳以上に分けて年次推移を示した図。就業者数は年々減少する中で、39歳以下の割合は横ばい傾向で推移している。

図2-2-15 新規漁業就業者数の推移

新規漁業就業者数の年次推移を示した図。おおむね横ばい傾向で推移している。

漁業就業者数が減少する中、我が国の漁業者1人当たりの漁業生産量及び産出額はおおむね増加傾向で推移しています(図2-2-16)。個々の漁業者の経営にとって生産性の向上は望ましいものですが、国産の良質な水産物を消費者に対して安定的に供給していくためには、資源を持続的に利用できる範囲内において、我が国の漁業全体として十分な生産量を確保していけるよう、漁業就業者の確保を図りながら、同時に生産性を向上させていくことが重要です。

図2-2-16 我が国の漁業・養殖業の生産性の推移

生産量,産出額の年次推移を示した図。いずれもおおむね増加傾向で推移している。

(新規漁業就業者の確保に向けた取組)

我が国の漁業経営体の大宗を占めるのは、家族を中心に漁業を営む漁家であり、こうした漁家の後継者の主体となっているのは漁家で生まれ育った子弟です。しかしながら、近年、生活や仕事に対する価値観の多様化により、漁家の子弟が必ずしも漁業に就業するとは限らなくなっています。一方、就業先として漁業に関心を持つ都市出身者も少なくありません。こうした潜在的な就業希望者を後継者不足に悩む漁業経営体や地域とつなぎ、意欲のある漁業者を確保し担い手として育成していくことは、水産物の安定供給のみならず、漁業・漁村の持つ多面的機能の発揮や地域の活性化の観点からも重要です。

このため、各地域において、地方公共団体や漁業協同組合等が主体となって新規漁業就業者の確保に向けた取組が実施されています。国でも、就業希望者が漁業の知識や経験を持たなくとも円滑に就業できるよう、全国各地で漁業就業相談会や漁業を体験する就業準備講習会の開催を支援しています。また、道府県の漁業学校等で漁業就業に必要な知識や技術を学ぶ若者に対して資金を交付するとともに、新規漁業就業者に対する漁業現場での長期研修を支援するなど、新規漁業就業者の段階に応じた支援を行うことで、漁業への就業と定着の促進を図っています。

このように、国と地域の両方の継続的な支援により、漁業に参入しやすい環境を整え、漁業の担い手を育成していくことが重要です。

事例若い力で浜に活力を!「ニューフィッシャー(NF)」の育成の取組(山口県漁業協同組合豊浦とようら総括支店)

山口県下関市豊北町ほうほくちょうでは、主に一本釣りや採介藻が営まれていますが、高齢化に伴う漁業者の減少から、水揚量・金額が減少し、漁村地域の衰退が懸念されていました。このため、山口県漁業協同組合豊浦統括支店(豊北地区)では、平成22(2010)年に管内の漁協・漁業者からなる「担い手育成部会」を設立し、国や県の漁業研修制度等を活用しつつ、新規漁業就業者(ニューフィッシャー(NF))の育成を開始しました。漁業研修期間中には、複数の漁業種類にわたって技術や知識を習得することで、平成22(2010)~30(2018)年までに受け入れた研修生10名が全員NFとして就業しました。これらのNFは、その多くが県外出身者で、県外からの就業希望者でも地域に馴染みやすい環境が整えられています。また、今後は、研修を終えたNFも指導者の一員として加わる予定であり、更に自らの新規就業時の体験を基にした指導等により、効率的な研修体制を目指せると期待されています。また、最近では、NFが中心となって、一本釣りで漁獲した活イカの出荷も行われるなど、漁業者の所得向上に向けた取組にも着手しており、豊浦総括支店(豊北地区)では、徐々に浜の活力を取り戻しつつあります。今後もNFを育成し、更なる浜の活性化を目指していきます。

ニューフィッシャー研修修了式の写真

コラム地域の水産業を学ぶ「産業教育」(北海道稚内わっかない市立 宗谷そうや中学校)

北海道稚内市立宗谷中学校は、昭和42(1967)年9月に大岬おおみさき・宗谷・富磯とみいその3つの中学校を統合して開校されました。生徒の多くの家庭が漁業を営む地域性を活かし、漁業の後継者育成を目的とした「ふるさとに学ぶ産業教育」は、昭和43(1968)年に始まり、伝統を引き継ぎながらも時代に合った課題追求を大事にしながら内容を精選して活動を行っており、稚内市をはじめ、宗谷漁業協同組合、地域や保護者の大きな支援により継続してきました。

宗谷中学校は、この活動を最も特色ある教育として位置付けており、現在は、水産活動を通して就労の苦労と喜び、創造性、人と人との関わりを学び「社会の中で活きる力」を育成することに焦点を絞り、また、漁業以外の他業種に触れて就労の姿勢を学ぶ職場体験学習を取り入れています。

平成29(2017)年には開校50周年を迎え、記念式典と「産業教育」の成果を発表する学習発表会が開かれました。学習発表会では、1年生はエビ籠漁の体験などを寸劇で発表、2年生はタコのくん製作りや新商品開発についての発表、3年生はホタテのくん製を作って札幌さっぽろ市で販売した取組を動画や実演で紹介するなど、漁労から加工、販売までの体験活動の成果を発表しました。

学習発表会は、生徒の学びと輝きを地域に発信することのできる貴重な場となっています。今後も、伝統を守りながら、組織的に意欲を高め合い継続・充実・推進することを目指して活動を継続させていきたいとのことです。

タコのくん製作りの写真
ホタテのくん製作りの写真
学習発表会の写真

(遠洋漁業における外国人労働力)

遠洋漁業に従事する我が国の漁船の多くは、主に海外の港等で漁獲物の水揚げや転載、燃料や食料等の補給、乗組員の交代等を行いながら操業に当たっており、航海日数が数週間から1年以上に及ぶことも珍しくありません。このような遠洋漁業においては、日本人漁船員の確保・育成に努めつつ、一定の条件を満たした漁船に外国人が漁船員として乗り組むことが認められており、平成29(2017)年12月末現在、4,593人の外国人漁船員がマルシップ方式*1により日本漁船に乗り組んでいます。

  1. 我が国の漁業会社が漁船を外国法人に貸し出し、外国人漁船員を配乗させた上で、これを定期用船する方式。

(漁業における海技士の確保・育成)

漁船の航行の安全性を確保するため、それぞれの漁船の総トン数等に応じて、船長、機関長、通信長等として乗り組むために必要な海技資格の種別や人数が定められています。海技免許を取得するためには国土交通大臣が行う海技士国家試験に合格する必要がありますが、航海期間が長期にわたる遠洋漁業においては、乗組員がより上級の海技免許を取得する機会を持ちづらいという実態があります。また、就業に対する意識や進路等が多様化する中で、水産高等学校等の卒業生が必ずしも漁業就業するわけではなく、これまで地縁や血縁等の縁故採用が主であったことと相まって、漁業における海技士の高齢化と不足が深刻化しています。海技士の確保と育成は我が国の沖合・遠洋漁業の喫緊の課題であり、必要な人材を確保できず、操業を見合わせるようなことがないよう、関係団体等では、漁業就業相談会や水産高等学校等への積極的な働き掛けを通じて乗組員を募るとともに、乗船時等における海技免許の取得を目指した計画的研修の取組等を行っています。

(女性の地位向上と活躍)

女性の地位向上と活躍の推進は、漁業・漁村の課題の1つです。海上での長時間にわたる肉体労働が大きな部分を占める漁業においては、就業者に占める女性の割合は約14%となっていますが、漁獲物の仕分けや選別、カキの殻むきといった水揚げ後の陸上作業や、漁獲物の主要な需要先である水産加工業においては、女性が重要な役割を果たしています(図2-2-17)。このように、海女漁等の伝統漁業のみならず、水産物の付加価値向上に不可欠な陸上での活動を通し、女性の力は水産業を支えています。

図2-2-17 水産業の従事者における男女の割合

漁業従事者,陸上作業従事者,水産加工場従事者における男性,女性の割合を示した図。女性の割合は、漁業で13.7%,陸上作業で38.4%,水産加工場で61.7%となっている。

一方、女性が漁業経営や漁村において重要な意思決定に参画する機会は、いまだ限定的であると考えられます。例えば、平成27(2015)年の全国の漁業協同組合における正組合員に占める女性の割合は5.6%となっています。また、漁業協同組合の女性役員は、近年少しずつ増えてきてはいるものの、全体の0.5%に過ぎません(表2-2-5)。

表2-2-5 漁業協同組合の正組合員及び役員に占める女性の割合

 

女性正組合員数

女性役員数

平成22年
(2010)

10,111人

(5.7%)

38人

(0.4%)

23
(2011)

9,907人

(5.8%)

39人

(0.4%)

24
(2012)

9,436人

(5.6%)

37人

(0.4%)

25
(2013)

8,363人

(5.4%)

44人

(0.5%)

26
(2014)

8,077人

(5.4%)

44人

(0.5%)

27
(2015)

8,071人

(5.6%)

50人

(0.5%)

平成27(2015)年12月に閣議決定された第4次男女共同参画基本計画においては、農山漁村における地域の意思決定過程への女性の参画の拡大を図ることや、漁村の女性グループが行う起業的な取組を支援すること等によって女性の経済的地位の向上を図ること等が盛り込まれています。

漁業・漁村において女性の一層の地位向上と活躍を推進するためには、女性の役割として固定されがちな家庭内労働を男女が分担していくことや、保育所の充実等により女性の社会生活と家庭生活を両立するための支援を充実させていくことが重要です。また、同時に、固定的な性別役割分担意識を変革していくことも必要です。国は、水産物を用いた特産品の開発、消費拡大を目指すイベントの開催、直売所や食堂の経営等、漁村コミュニティにおける女性の様々な活動を推進するとともに、子供待機室や調理実習室等、女性の活動を支援する拠点となる施設の整備を支援しています。

事例漁村の女性たちによる活動

1.~漁業の未来はチームIKSの力で~(静岡県沼津ぬまづ内浦うちうら漁業協同組合チームIKS)

内浦漁業協同組合がある沼津市は、四季それぞれの雄姿を見せる霊峰富士れいほうふじを仰ぐ駿河湾するがわんの最奥部に位置しており、日本一の生産出荷量を誇る養殖マアジの産地として知られています。

平成27(2015)年5月にオープンした内浦漁業協同組合の直営店「いけすや」のスタッフ、名称「チームIKS」は、内浦の漁業を盛り上げていこうという使命に賛同する地元の女性総勢12人で結成され、伝統の味を受け継いだ地元ならではの料理や、目の前で獲れる美味しい養殖の魚を味わってほしいという強い想いとおもてなしの心で活動しています。

人気メニューのひとつである「二食感活あじ丼」は、「いけすや」のオープンに合わせ、直前まで泳いでいた締めたてのプリプリの食感の活あじと、前日に締めた旨みのある熟成活あじの2種類の違いを食べ比べできる新感覚の丼として完成されました。また、養殖マアジのメニューに加え、地元の漁業者が獲った新鮮なサバのメニューなども提供しています。さらに、「いけすや体験教室」を企画し、魚をさばいたことがない母親たちを対象とした調理体験を行うなど、魚食普及にも貢献しています。

いけすやのスタッフ「チームIKS」の写真
二食感活あじ丼の写真

2.~100年先も安心して生産できる天草あまくさに~(熊本県天草市 益田ますだ沙央里さおりさん)

クルマエビ養殖漁家に嫁いだ益田さんは、リーマンショック以降のクルマエビの市場価格の暴落・原価割れで将来に大きな危機感を抱きました。そこで、前職の広告代理店で得たスキルを生かし、販路開拓のためのチラシを作成し、熊本市内の集合住宅へのポスティングや集客の多いイベント等での配布などを行い、個人向け販売の原型を作り売上げを伸ばしました。

その後、クルマエビの安定供給という消費者の要望に応えるため、同業者間で勉強会を開催するなどして連携し、「天草産車海老」として通年出荷させ、新たな企業間取引につなげています。

また、地元の農林漁業者との交流をきっかけに、「作ること」と「売ること」の両立に苦労していることを知り、生産者に寄り添いながら通販や受注代行等を行う「地域商社」(株)クリエーションWEB PLANNINGを設立し、「天草の生産者を笑顔にしたい」「明るい未来を子どもたちに残したい」との思いで、天草のふるさと納税事業に関わるなど、天草の農水産物を消費者へつなぐ活動も行っています。

また、クルマエビ養殖池に付着するカキ殻を肥料として提供してほしいといわれたことがきっかけで、地元JAの女性部とのつながりができ、現在は、同女性部が行う柑橘ジャム加工の技術を活用したエビの加工品開発・製造を手掛けるなど、生産段階でも農・漁業の連携を行っています。

さらに、熊本地震の被災者との交流を行うなど、業種や地域を越えた連携・つながりも広げています。

一方で、子育てママでもある益田さんは、天草で子育てをするママたちのための情報発信を行うフリーペーパーの発行も行っており、双方向で情報交換できる仕組みを作り、一次産業や食に関する消費者マーケティングにも活用しています。また、このフリーペーパーでの情報交換でつながった女性たちの中には、(株)CWPのスタッフになった方々もおり、自ら率先して、心豊かに暮らせるような働き方を模索・実践し、女性の働きやすい環境整備を行っています。

益田さんは、今後、物流会社と連携し、天草のクルマエビを香港やシンガポールなどに出荷することも視野に入れています。天草のような物流困難地区から多様な生産者直送を実現できれば、全国ほとんどの地方でも流通できることを証明できると考えて、天草産にこだわって売上げにつなげてきたそうです。

このような天草の生産者や取引先、地域を含めて活性化させる活動や、女性の働きやすい環境の整備、才能とバイタリティあふれる女性の発掘等雇用の創設といった地域への貢献が認められ、平成29(2017)年度農山漁村女性活躍表彰で農林水産大臣賞を受賞しました。

クルマエビ勉強会の写真
連携する地域のみなさんの写真