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水産庁

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(3)漁村の活性化

漁村は、豊かな自然環境、四季折々の新鮮な水産物や特徴的な加工技術、伝統文化、親水性レクリエーションの機会等の様々な地域資源を有しています。漁村の活性化のためには、それぞれの地域が有する地域資源を見つけ出して最大限に活用していくことが重要で、地域資源の活用に当たっては、どのような地域資源が存在するのかを把握した上で、都市部からのアクセスの条件や地元の人口規模などの地理的条件を勘案しつつ、具体的な取組内容を選定することが重要であり、取組内容に応じて、水産加工業や流通業、外食産業、観光産業等、関連産業との連携を図っていくことも重要です(図2-5-4)。

図2-5-4 漁村の特性と取組例

地域の条件(集客しやすい,集客しにくい),地域資源(水産物が主,水産物以外が主(文化、自然環境等))による取組例を示した図。「集客しやすい」「水産物が主」:直接訪問してもらって、地元で水産物を食べてもらう,「集客しやすい」「水産物以外が主」:短期滞在型・長期滞在型を含めた総合的な都市漁村交流,「集客しにくい」「水産物が主」:水産物を地域外に販売していく,「集客しにくい」「水産物以外が主」:長期滞在型の都市漁村交流。

国では、日本ならではの伝統的な生活体験や農山漁村地域の人々との交流を楽しむ滞在(農山漁村滞在型旅行)である「農泊のうはく」をビジネスとして実施できる体制を持った地域を2020年までに500地域創出することとしています。このうち、漁村地域においては「渚泊なぎさはく」として推進することとしており、地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げる取組等のソフト対策への支援や、古民家等を活用した滞在施設や農林漁業・農山漁村体験施設等のハード対策への支援を行うこととしています。

さらに、地域の漁業所得向上を目指して行われている「浜の活力再生プラン」及び「浜の活力再生広域プラン」の取組により、漁業振興を通じた漁村の活性化が図られることも期待されます。

こうした取組により、地域における雇用の創出や漁家所得の向上だけでなく、生きがい・やりがいの創出や地域の知名度の向上等を通して、地域全体の活性化につながることが期待されます。

事例兵庫県家島いえしま諸島における「渚泊」の取組(家島諸島都市漁村交流推進協議会)

家島諸島は、播磨灘はりまなだの中西部に位置し、大小44の島々からなります。かつては、採石・海運業や漁業で栄えましたが、雇用の減少・人口の流出が進み、また瀬戸内海は漁獲量の減少という課題に直面しました。

このため、島内の区会、家島・坊勢ぼうぜ漁業協同組合などが参加して「家島諸島都市漁村交流推進協議会」を平成25(2013)年に発足させ、観光業での島の活性化を目指しました。協議会では、島民からの聞き取りを重ね、家島諸島に息づく「漁業」「食」「自然・景観」「歴史・文化」「産業」、そして島の素敵な「人」など島特有の地域資源を活かした体験型観光や島歩きなどの共生・対流プログラム(しまたびプログラム)を開発・整備しました。特に「底びき網の乗船体験」や「養殖いけすでの餌やり体験」など、地元ならではの漁業体験が観光素材となっています。これらを株式会社JTBによって「家島しまたび」としてツアー展開を実現したことで、日帰り観光が増加しましたが、「ホタル観賞」「流星鑑賞」「天神祭り」など、夜間にしか提供できないものや、早朝の漁業体験など、これら観光素材を有効に活用するには宿泊観光も必要となります。

このため、「渚泊」として島内の宿泊施設の活用が始まり、既に数軒で漁家民泊の営業を開始しており、今後、民泊施設の増加を進めていく予定です。また、坊勢漁業協同組合では体験型観光プログラムの充実のため、「はなつぎ網漁*1見学」や「かご網漁体験」など多様な漁業体験ができる専用船の導入を進めており、漁業体験と渚泊を核として漁業と観光業の一体的な連携によって、漁村の活性化や家島諸島全体の振興・発展を目指していきます。

  1. サワラを漁獲する漁法の1つ。2隻の漁船で魚群を囲むように網を入れ、船首を合わせて網を絞っていく。網を巻き上げていき、人力で網を上げ中央部の袋網に魚を追い込み集めて漁獲する漁法。
家島諸島の位置を示した図。瀬戸内海東部の播磨灘にあり、家島,男鹿島,坊勢島,西島などからなる。
漁業見学・体験の様子の写真
漁家民泊施設(坊勢島)の写真

事例小さな漁村に年間約3万人のダイバーが訪れる(静岡県伊東いとう市 いとう漁業協同組合 富戸ふと支所ダイビングサービス)

伊豆半島の小さな漁村である富戸漁港には年間約3万人のダイバーが訪れていますが、いとう漁業協同組合富戸支所は、全国でも先駆けとなる漁業協同組合直営によるダイビングサービスを行っています。

富戸漁港では定置網漁、金目漁、海女漁、伊勢海老漁などを行っていますが、潜り終えたダイバーがその日に観察した魚等をいとう漁業協同組合直営の食事処で味わうことができ、集客ツールの1つになっています。

また、青壮年部で設置しているアオリイカの産卵床は、イカの資源を増やしたい漁師の思いと、産卵行動を観察したいダイバーの思いがマッチしており、神秘的なイカの生態、産み付けられた卵の成長、生まれたてのイカの観察などができ、ダイバーを楽しませています。

最近ではシュノーケリングによる修学旅行生の受入れにも取り組んでおり、近隣のペンション等にも利益が生まれるなど、地域の活性化につながっています。

また、美しい海や自然に魅せられてIターンする若者も多く、その一部は漁業者やダイビング指導員となるなど、漁村への移住の推進にも寄与しており、富戸界隈かいわいで40件近くあるダイビングショップの経営者や従業員の8割以上が都市部からの移住者となっています。

こうした富戸漁港の美しい自然を守りつつ、漁業所得以外でも所得の向上を目指す積極的な活動は、平成29(2017)年に内閣官房及び農林水産省が地域の優良事例として選定する「第4回ディスカバー農山漁村(むら)の宝」に選ばれました。

アオリイカの産卵を観察するダイバー
漁業者による産卵床の設置
都市部からのシュノーケリング体験の受入れ