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水産庁

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(2)東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響への対応

(水産物の放射性物質モニタリング)

東日本大震災に伴って起きた東電福島第一原発事故の後、消費者に届く水産物の安全性を確保するため、「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」に基づき、国、関係都道県、漁業者団体が連携して水産物の計画的な放射性物質モニタリングを行っています。水産物のモニタリングにおいては、区域ごとの主要魚種や、前年度に50ベクレル/kg以上の放射性セシウムが検出された魚種を対象としており、生息域や漁期、近隣県におけるモニタリング結果等も考慮されています。原則、週1回程度、モニタリングを行った結果を公表し、基準値100ベクレル/kgを考慮して、出荷するか、自粛や出荷制限するかを判断しています(図2-6-4)。

図2-6-4 水産物の放射性物質モニタリングの枠組み

モニタリングの流れを示した図。自治体によるモニタリング計画作成(区域,対象魚種,頻度)→モニタリング実施→自粛・出荷制限指示(>100ベクレル/kg)/出荷(≦100ベクレル/kg)。モニタリングの結果が基準値に近ければ、モニタリングを強化。

東電福島第一原発事故以降、平成30(2018)年3月末までに、福島県及びその近隣県において、合計12万3,654検体の検査が行われてきました。基準値(100ベクレル/kg)以上の放射性セシウムが検出される検体は、福島県においては、海産種では平成27(2015)年4月以降なく、淡水種でも平成29(2017)年度には8検体のみとなっています。また、福島県以外においても、海産種では平成26(2014)年9月以降なく、淡水種でも平成29(2017)年度には3検体のみとなっています(図2-6-5)。

図2-6-5 水産物の放射性物質モニタリング結果

福島県,福島県以外における海産種,淡水種のモニタリング結果(100Bq/kg以下,100Bq/kg以超,超過率)の年次推移を示した図。基準値(100ベクレル/㎏)を超える海産種は、福島県では平成27年4月以降未検出、福島県以外では平成26年9月以降未検出。淡水種では、福島県では平成29年度に8検体検出、福島県以外では平成29年度に3検体検出。

さらに、平成29(2017)年度に検査を行った水産物の検体のうち、約92%が検出限界未満*1となりました。

  1. 分析機器が検知できる最低濃度であり、検体の重量や測定時間によって変化する。厚生労働省のマニュアル等に従い、基準値(100ベクレル/kg)から十分低い値になるよう設定。

(市場流通する水産物の安全性の確保)

放射性物質モニタリングにおいて、基準値を超える放射性セシウムが検出された水産物は、国、関係都道県、漁業者団体等の連携により流通を防止する措置が講じられているため、市場を流通する水産物の安全性は確保されています(図2-6-6)。

図2-6-6 水産物の出荷制限及び出荷自粛措置の実施・解除の流れ

基準値越え(>100ベクレル/kg)→モニタリングを強化。出荷制限:他の地点でも基準値越え→原子力災害対策本部長による出荷制限指示→各自治体で当該品目の出荷制限を関係漁業団体に要請→複数の場所で、少なくとも1か月以上(計3回以上)の検査結果が全て基準値を安定的に下回る→出荷制限解除。出荷自粛措置:他の地点では基準値越えがない→各自治体、漁業関係団体による出荷自粛措置→調査を強化し、動向を把握→出荷制限指示の解除要件に準じて、基準値を安定的に下回る→自粛解除。

一方、時間の経過に伴う放射性物質濃度の低下を踏まえ、検査結果が安定して基準値を下回るようになった魚種・海域では出荷制限の解除が行われます。平成29(2017)年には福島県沖のウスメバル等、海産種で5件の出荷制限が解除され、平成30(2018)年3月末現在に海産種で出荷制限の対象とされているのは、宮城県沖の1魚種、福島県沖の10魚種のみとなりました。

(福島県沖での試験操業・販売の状況)

福島県沖では、東電福島第一原発事故の後、沿岸漁業及び底びき網漁業の操業が自粛され、漁業の本格再開に向けた基礎情報を得るため、平成24(2012)年より、小規模な操業と漁獲物の販売を行って出荷先での評価を調査することを目的として、試験操業・販売が実施されてきています。

試験操業・販売の対象となる魚種は、放射性物質モニタリングの結果等を踏まえ、漁業関係者、研究機関、行政機関等で構成される福島県地域漁業復興協議会での協議に基づき決定されています。試験操業で漁獲される魚種については、各漁業協同組合等により放射性物質の自主検査が行われます。また、加工品については、加工された後も放射性物質の自主検査を実施するなど、市場に流通する福島県産水産物の安全性を確保するための慎重な取組が行われています。

平成30(2018)年3月末現在、試験操業の対象海域は東電福島第一原発から半径10km圏内を除く福島県沖全域となっており、対象魚種は平成29(2017)年4月以降は「全ての魚介類(出荷制限魚種を除く。)」となっています。また、試験操業への参加漁船数は当初の6隻から延べ1,649隻となり、漁獲量も平成24(2012)年の122トンから平成29(2017)年には3,281トンまで徐々に増加してきました。こうした着実な取組により、福島県の本格的な漁業の再開につながっていくことが期待されます。

事例いわき市にある魚市場の入札による出荷、コウナゴ漁やアオノリ(ヒトエグサ)養殖の試験操業の実施

1.いわき市の各魚市場で入札による出荷がスタート

福島県沖で行われる沿岸漁業及び底びき網漁業では、東電福島第一原発事故後、試験的な操業と販売が実施されています。いわき市内の各魚市場(小名浜おなはま勿来なこそ沼之内ぬまのうち)では、魚の値段や販売数量の見込みがつかないことから、競り・入札を休止し、水揚げされた魚介類を、いわき仲買組合と相対で価格を決め、一括で同組合に引き渡した上で消費地卸売市場に出荷していましたが、各魚市場において平成29(2017)年4月から9月までの間に順次、個々の仲買業者が値段を競り合う入札による出荷を開始しました。入札による出荷が始まったことにより、仲買業者が入札で購入した魚介類をそれぞれの取引先に出荷することで流通が拡大され、漁業者の漁労意欲の向上につながり、市場に活気が戻ることが期待されます。

2.コウナゴは築地市場での産地別取扱高がトップ。アオノリ(ヒトエグサ)養殖の試験操業を開始

平成29(2017)年の福島県のコウナゴ試験操業は3月から5月にかけて行われ、相馬双葉そうまふたば地区で実施された平成29(2017)年3~5月の水揚量は585トンでした。なお、築地市場での平成29(2017)年3~5月におけるコウナゴ干し(加工品:煮干)の産地別取扱高は、福島県産が102トン、2.4億円で全国1位になり、平均単価も全国平均と同程度で扱われています。また、アオノリ養殖による試験操業も開始され、平成30(2018)年2月から出荷されるようになりました。これで、震災前に福島県で行われていたほぼ全ての沿岸漁業についての試験操業が行われるようになりました。

(風評被害の払拭)

前述のように、放射性物質濃度が基準値を超える水産物が流通することのないよう、国、関係都道県、関係漁業者団体等による連携した対応により、消費者に届く水産物の安全性は確保されています。

消費者庁が平成25(2013)年2月から半年ごとに実施している「風評被害に関する消費者意識の実態調査」によれば、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」とする消費者の割合は減少傾向にあり、平成30(2018)年2月の調査では、13%とこれまでの調査で最小となりましたが、依然として一部の消費者が福島県産の食品に対して懸念を抱いていることがうかがわれます(図2-6-7)。

図2-6-7 「放射性物質の含まれてない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」とする消費者の割合

「 放射性物質の含まれてない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」消費者の割合の年次推移を示した図。年々減少傾向にあり、平成30年2月時点で12.7%。

風評被害を防ぎ、1日も早く復興を目指すため、水産庁では、最新の放射性物質モニタリングの結果や水産物と放射性物質に関するQ&A等をホームページで公表したり、消費者、流通業者、国内外の報道機関等への説明会を行うなど、正確で分かりやすい情報提供に努めています。これらを通じ、消費者だけではなく、漁業関係者や流通関係者も正しく理解することが消費活動の推進につながると考えられます。

(諸外国の輸入規制への対応)

我が国の水産物の安全性については、海外に向けても適切に情報提供を行っていくことが必要です。このため、水産庁では、英語、中国語及び韓国語の各言語で水産物の放射性物質モニタリングの結果を公表しているほか、各国政府や報道機関に対し、調査結果や水産物の安全確保のために我が国が講じている措置等を説明し、輸入規制の緩和・撤廃に向けた働き掛けを続けています。

この結果、東電福島第一原発事故直後に輸入規制を講じていた53か国・地域(うち18か国・地域は一部又は全ての都道府県からの水産物の輸入を停止)のうち、26か国は平成30(2018)年3月末までに輸入規制を完全撤廃し、輸入規制を撤廃していない国・地域についても、EU等が検査証明書の対象範囲を縮小するなど、規制内容の緩和が行われてきています(図2-6-8)。

図2-6-8 我が国の水産物に対する主な海外の輸入規制の状況(平成30(2018)年3月末現在)

国・地域名

対象となる都道府県等

主な規制内容

中国

宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、長野(10都県)

輸入停止

上記10都県以外の道府県

政府による放射能検査証明書及び産地証明書の要求

台湾

福島、茨城、栃木、群馬、千葉(5県)

輸入停止

岩手、宮城、東京、愛媛(4都県)

放射性物質検査報告書の要求(注:H27.5.14以前は放射性物質検査報告書の添付が不要)

上記9都県以外の道府県

産地証明書の要求(注:H27.5.14以前は産地証明書の添付が不要)

香港

福島、茨城、栃木、群馬、千葉(5県)

政府による放射性物質検査証明書の要求

韓国

青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(8県)

輸入停止

 

北海道、東京、神奈川、愛知、三重、愛媛、熊本、鹿児島(8都道県)

政府による放射性物質検査証明書の要求

 

上記16都道県以外の府県

政府による産地証明書の要求

 

輸入停止8県以外の都道府県

上記に加え、韓国側の検査で、少しでもセシウム又はヨウ素が検出された場合にはストロンチウム、プルトニウム等の検査証明書を追加で要求

シンガポール

福島

輸入停止

茨城、栃木、群馬(3県)

政府による放射性物質検査証明書の要求

上記4県以外の都道府県

産地証明書の要求

ロシア

福島

放射性物質検査証明書(セシウム134、137及びストロンチウム90)等の要求(注:H30.3.23以前は輸入停止)

エジプト

岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(7県)

政府による放射性物質検査証明書の要求

上記7県以外の都道府県

政府による産地証明書の要求

EU

岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(7県)

政府による放射性物質検査証明書の要求(活魚、甲殻類、軟体動物、海藻類及び一部の魚種は除く)

上記7県以外の都道府県

政府による産地証明書の要求(活魚、甲殻類、軟体動物、海藻類及び一部の魚種は除く)

ブラジル

福島

政府による放射性物質検査証明書の要求

米国

日本国内で出荷制限措置がとられている品目

輸入停止

一方、依然として輸入規制を維持している国・地域に対しては、様々な場を活用しつつ規制の緩和・撤廃に向けた働き掛けを継続していくことが必要です。

特に韓国は、平成25(2013)年9月以降、福島県等計8県の水産物の輸入を全面的に禁止するなど規制措置を強化したことから、我が国は、二国間協議やWTOの衛生植物検疫(SPS)委員会における説明のほか、韓国側が設立した「専門家委員会」による現地調査の受入れなどに取り組んできました。しかしながら、韓国側から規制撤廃に向けた見通しが示されないことから、平成27(2015)年より、WTO協定に基づく紛争解決手続を開始し、同年9月よりパネル(紛争解決小委員会)において検討が行われてきました。パネルの手続の中で、我が国は、韓国の輸入規制措置(8県産の水産物の輸入禁止、日本産の全ての食品に対する追加検査要求)は、「同一又は同様の条件の下における恣意的又は不当な差別」、「必要以上に貿易制限的」であり、WTO/SPS協定に反する等の主張を行いました。

平成30(2018)年2月、パネルは、韓国の措置がWTO/SPS協定に反すると認定し、韓国に対して協定に従って措置を是正するよう勧告する内容の報告書を公表しました(図2-6-9)。

図2-6-9 パネルの報告書の内容

パネルは、以下のように判断し、韓国にWTO/SPS協定に従って措置を是正するよう勧告。

1 8県産水産物の輸入禁止

パネルは、韓国による8県産(青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉)の水産物に対する輸入禁止措置に関し、日本が輸入禁止措置の解除を求める28魚種について、「同一又は同様の条件の下における恣意的又は不当な差別」(SPS協定第2条3)に当たると判断。また、輸入禁止措置は、「必要以上に貿易制限的」(同協定第5条6)であると判断。

(注)我が国が輸入禁止の解除を求めている28魚種

マイワシ、カタクチイワシ、マアジ、マサバ、ゴマサバ、ブリ、スケトウダラ、マダラ、シロザケ、キンメダイ、クロマグロ、ビンナガ、メバチ、キハダ、マカジキ、メカジキ、カツオ、ヨシキリザメ、ネズミザメ、サンマ、スルメイカ、マダコ、ミズダコ、ヤナギダコ、アワビ、ホタテガイ、マガキ、マボヤ

2 日本産の全ての食品に関する追加検査要求

パネルは、韓国の日本産の全ての食品に対するセシウム又はヨウ素以外の核種に関する追加検査要求について、「同一又は同様の条件の下における恣意的又は不当な差別」(SPS協定第2条3)に当たると判断。また、日本産の全ての食品に関する追加検査要求は、「必要以上に貿易制限的」(同協定第5条6)であると判断。

3 措置の不公表及び情報提供の欠如

パネルは、韓国による8県産の水産物に対する輸入禁止及び日本産の全ての食品に対するセシウム又はヨウ素以外の核種に関する追加検査要求について、利害関係を有する加盟国が知ることのできるように速やかに公表することを確保する義務等(SPS協定第7条等)に整合しないと判断。

我が国としては、今後ともWTOのルールに従って手続を進めていくとともに、韓国への二国間での働き掛けを継続していくこととしています。