このページの本文へ移動

水産庁

メニュー

  24水管第684号

平成24年6月8日

都道府県知事宛

  水産庁長官

漁場計画の樹立について

 

平成25年9月から予定されている共同漁業権、区画漁業権及び定置漁業権の次期一斉切替えに当たり、漁業法(昭和24年法律第267号。以下「法」という。)第11条の規定に基づきあらかじめ行うこととされている免許の内容等の事前決定(以下「漁場計画」という。)等について留意すべき点を、下記のとおりとりまとめましたので通知します。

また、漁業権の免許事務及び漁業権行使規則の認可事務の具体的処理については、「漁業権の免許に関する事務処理について」(平成9年9月10日付け9水振第1702号水産庁長官通知、一部改正:平成14年10月31日付け14水管第2403号、平成20年5月13日付け20水管第273号)及び「漁業権行使規則等作成について」(昭和37年11月13日付け37水漁第6242号水産庁長官通知、一部改正:平成4年8月7日付け4水振第1761号水産庁長官通知、平成14年10月31日付け14水管第2403号)を整理補足し、別途通知することとしていますので、留意してください。

なお、この通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言です。

 

第一 全般的事項

1.漁場計画の立て方

(1)基本方針

平成24年3月23日に閣議決定された新たな水産基本計画においては、平成23年3月に発生した東日本大震災(以下「震災」という。)及び東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)の被害からの水産業の復旧・復興を図ることを極めて重要な課題と位置付けています。また、平成23年度に開始した資源管理・漁業所得補償対策を中核施策とし、漁業発展の足場となる資源管理の一層の推進と漁業経営の安定を図るとともに、その足場に立って、漁業者が多様な経営の発展を目指すこととされています。加えて、漁港機能の保全・強化の一環として、風力発電などの再生可能エネルギー導入に向けた取組を推進することとしています。

今回の漁場計画の樹立に当たっては、この水産基本計画の考えを踏まえたものとなるようにしていく必要があります。

また、平成22年3月に開催された「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)」締約国会議を契機に、資源管理について国際的に高い関心が集まっています。このため、太平洋くろまぐろを手始めに広域的な回遊を行う魚種に対しては、これまでの資源管理の取組に加え、漁業権の内容たる漁業(以下「免許漁業」という。)についても、関係の都道府県が協調してこの取組を進めていく必要があります。

漁場計画は、公共水面につき、その漁業上の総合利用を図り、漁業生産力を維持発展させるためには免許漁業の免許をする必要があり、かつ、当該免許をしても漁業調整その他公益に支障を及ぼさないと認められるときは、必ず定めなければなりません。

漁場計画は、より合理的かつより高度な漁業上の総合利用を図るために定めるものであることから、現在免許をしている漁業権についても、時日の経過によって自然的及び社会経済的条件が変化しているということを十分考慮しつつ、水面を漁業上総合的に利用し、漁業生産力を積極的に開発するという観点から再検討しなければなりません。

例えば、従来漁業権の対象としていた漁業であっても、漁業権を整理統合した方が良い場合や、操業実態の変化等から許可漁業等として取り扱うことが望ましい場合もあるため、漁業権の内容として免許すべきかどうか慎重に検討することが必要です。

一方、原発事故の影響により、現在、操業が制限されている水域又は自粛している水域においては、放射性物質による影響が順次解消されれば、漁業を再開させていくことになるため、漁場計画を樹立すべきです。

現に漁業権の免許が行われていない沖合の水域又は都道府県境付近の水域の全部若しくは一部を漁場の区域として新たに漁場計画を樹立する場合には、漁業管理主体(国又は都道府県)の異なる漁業との調整問題の発生等を防止することが必要であることから、必ず当該管理主体との間で然るべき協議を経て、了解を得た上でこれを行うこととしてください。なお、このことについては、既に法第11条第6項の規定に基づき別途指示(平成14年8月6日付け農林水産省指令14水管第1746号)しているので、十分に注意してください。

(2)委員会との関係

漁業秩序は、漁業者及び漁業従事者(以下「漁業関係者」という。)自身の意志によって維持されるべきであり、知事は、法第11条及び第130条第4項の規定に明らかなように、海区漁業調整委員会又は内水面漁場管理委員会(以下両者を総称して「委員会」という。)との緊密な連絡のもとに漁場計画を樹立しなければなりません。具体的には、漁業権の設定、行使その他漁場の利用に関する漁業関係者の声を十分把握し、これを基盤として委員会と相互の意見交換等密接な連絡を保ちつつ種々の検討を加え、漁場計画案として責任あるものを委員会に示し、その意見を聴いた上で漁場計画を決定し公示するという手続が必要です。この場合、委員会に対する諮問は必ず具体案を示し、それについて委員会の意見を聴く必要があります。

(3)スケジュール

漁業権の一斉切替えの予定は各都道府県のそれぞれの事情によって相違すると思われますが、例えば、平成25年8月31日に現漁業権の存続期間が満了するものについては、次のようなスケジュールが適当と思われますので、これを参考として手続を進めてください。

○漁業関係者の要望及び漁場条件の調査 平成24年10月末まで

○漁場計画の原案作成 平成24年12月末まで

○委員会への諮問 平成25年1月初旬

○委員会からの答申 平成25年2月中旬

○漁場計画の決定及び公示 平成25年3月1日

○免許の申請期間 平成25年3月1日から5月31日まで

○適格性、優先順位の審議及び答申 平成25年8月中旬まで

○免許 平成25年9月1日

なお、法第11条の2の規定により、現漁業権の存続期間の満了日又は免許予定日の3ヶ月前までに必ず漁場計画を樹立し、これを公示しなければならないことになっているので、知事は、委員会における公聴会の開催、答申の作成等に要する期間を勘案の上、早めに漁場計画の諮問をする必要があります。

また、公示の時期については、申請者が漁業協同組合(以下「組合」という。)である場合は、公示後漁場が確定された後に漁業権の取得等につき総会の議決をする必要があるので、十分余裕をもって定める必要があります。

 

2.法第11条の解釈運用について

(1)漁業権免許の必要性

「漁業上の総合利用を図り、漁業生産力を維持発展させるためには漁業権の内容たる漁業の免許をする必要」がある場合とは、その水面の自然的条件すなわち水深、水温、潮流、資源の状況等が免許漁業を営むのに適しており、かつ、漁業生産力の維持発展を図る上において水面の総合利用の一環として免許漁業を営むことが適当である場合を指します。

したがって、従来免許漁業として取り扱ってきたものでも漁具、操業方法等の変化によりむしろ知事許可漁業として扱った方が好ましい場合もあるので、このような漁業を漁業権の内容として免許すべきかどうか慎重に検討する必要があります。

また、経済的に価値のないものを漁業権の内容とすべきでなく、従来漁業権として免許されていたにもかかわらず操業実態のほとんどないもの又は免許しても漁海況条件等からみて操業されそうにないもの等についても漁場計画に含めるべきではありません。

以上の条件を検討した結果、漁場の条件が免許漁業を営むのに適当である場合には、漁業調整その他公益に支障を及ぼさない限り漁場計画を立てなければなりません。

(2)公益上の支障について

漁業上の総合利用を図り、漁業生産力を維持発展させるために漁業権を免許する必要がある場合であっても、漁業権を免許することが漁業調整その他公益に影響を及ぼし、免許の必要性と当該公益への影響を比較衡量し公益上の影響が上回ると認められるときは、当該漁業権に係る漁場計画を樹立しないこととされています。

公益とは一般に不特定多数者の利益を指しますが、ここでいう「公益」については、免許する必要のある漁業権を排斥するものであり、その範囲はおのずから限定されます。すなわち、法第39条に例示する船舶の航行、てい泊、けい留、水底電線の敷設のほか土地収用法(昭和26年法律第219号)その他土地収用に関する特別法により土地を収用し又は使用することができる事業(例えば、港湾施設、漁港施設、海岸保全施設、航路標識の設置等)の用に供する場合は、ここでいう「公益」に該当しますが、地域開発計画による単なる工場誘致のための埋立てであって土地収用法の対象とならない事業等の用に供する場合は、ここにいう「公益」には該当しません。

また、公益上の理由があるからといって漁場計画の樹立を差し控えることについても、慎重に検討すべきです。すなわち、ただ単に公益上の理由が存在するというだけで、当該「公益」を実現する上で免許する必要のある漁業権が具体的にどの程度支障となるのかという検証を行うことなく、安易に漁場計画を樹立しないことは避けなければなりません。したがって、公益上の支障が生じると認められる場合には、免許しようとする漁業権の漁業種類、漁場の区域等の内容について具体的に公益に与える影響を検討し、まず公益に支障を及ぼさないよう原案を変更して漁場計画を樹立すべきであり、全く漁場計画を樹立しないことについては、漁業権を免許しないことが当該公益にとって必要不可欠な場合に限定し、いたずらに漁業関係者に不安をもたらすようなことは避けなければなりません。

例えば、公益上の理由によって港湾法(昭和25年法律第218号)による港湾区域内の水域施設に漁具を固定してする漁業を免許しないことは妥当といえますが、将来公益事業が実施される場合に単に補償問題が起こるからという理由で漁場計画を樹立しないことは妥当ではありません。たとえ土地収用法によって漁業権が収用された水面等であっても当該事業による工事の施行が相当期間行われる見込みのないものについては、知事は、あらかじめ当該事業を実施する国の機関等と協議の上当該事業に支障を及ぼさない範囲内で漁場計画を樹立すべきです。

また、過去に漁業補償が行われた際に、事業者と漁業権の免許を受けた者(以下「漁業権者」という。)等との間でいわゆる漁業権の放棄等に対する「永久補償」を行う旨の契約が交わされたことを受け、事業実施後もなお水面が残存するような場合に、当該残存水面を漁場計画から除外する、いわゆる「白抜き免許」が行われている実態が見受けられますが、このような運用は、上記の法第11条の趣旨に照らして適当でないばかりでなく、当該残存水面の利用を巡って新たな漁業調整問題を惹起する例が多く、極めて問題があります。このような場合、事業者側が残存水面における漁業活動を問題とするのであれば、組合が漁業権の免許を受けた上で、その制定する漁業権行使規則において補償契約の内容を担保するという方法もあるので、参考としてください。

(3)他の法令と漁場計画との関係について

水面を漁業に利用する場合には、漁業法による規制があるほか漁業の用に供する施設等について港湾法、河川法(昭和39年法律第167号)等他の諸法令によってもそれぞれの法の目的によって重複的に規制を受けることになります。したがって、漁場計画を樹立する場合には、これらの諸法令を考慮に入れ、必要に応じて関係機関と連絡のうえ、調整を図るように措置してください。

なお、次の事項については、特に留意してください。

ア 漁場区域の全部又は一部が、港湾法第2条第3項の港湾区域内にあるときは当該区域を管理する港湾管理者の長に、港則法(昭和23年法律第174号)の港の区域内その他船舶交通のふくそうする水域内にあるときは当該区域を管轄する海上保安監部長又は海上保安部長(特定港にあっては港長)に、あらかじめ協議して調整を図る。

イ 港湾法第12条第5項の規定により公示された水域施設内又は船舶交通のふくそうする水域内においては、漁具を固定してする漁業は原則として免許しない。

ウ 河川又は海岸保全区域における漁場計画の樹立に際しては、漁場の区域等免許の内容及び免許に当たり漁業権に付される制限又は条件について、あらかじめ河川法による河川管理者又は海岸法(昭和31年法律第101号)による海岸管理者(直轄事業区域にあっては当該河川又は海岸の管理者及び地方整備局長又は北海道開発局長)との間で調整を図る。

 

3.制限又は条件

漁業権の免許の際に制限又は条件を付ける際は、以下の点に注意してください。

(1)制限又は条件を付すことの適否

漁業権に付けた制限又は条件に違反して漁業を営んだ者には法の最高罰則が適用されることから、規制内容の適否については、漁業取締り上の観点から必要に応じて各地方検察庁と協議するなど、十分慎重に検討してください。特に共同漁業については、法第9条の規定から漁業権に基づかない操業は禁止されておらず、同じ行為をした場合でも漁業権に基づかない場合と著しいアンバランスが生ずることを考慮すると、安易に制限又は条件を付すことは適当でなく、規制の必要があれば、原則として委員会指示や漁業権行使規則により対応してください。

(2)制限又は条件の内容

ア 将来予想される埋立工事等のため免許期間を制限する旨の制限若しくは条件又は将来における埋立工事を予想して漁業被害に対する補償要求をしてはならない旨の制限若しくは条件等は、法の目的から逸脱しており、付けることができません。

イ 共同漁業の漁場が漁業の種類により著しく異なるときは、例え関係地区が同一であっても、別個の漁業権の漁場の区域として考えるべきであり、これらを単一の漁業権としておいてその中のある漁業についてだけ制限又は条件で操業区域を縮小するようなことは、適当ではありません。また、漁業時期についても同様に考えるべきです。

ウ 共同漁業権について、「○○地区の組合員のみ操業する」というような形で行使者を特定しているようなものは、制限又は条件でなく漁業権行使規則で規定してください。

エ 「○○組合の入漁を拒んではならない」というような入漁に関する制限又は条件を付けることは、適当ではありません。入漁を認められるべき者として「○○地区」や「○○組合」等のように明示できるものは、漁場計画樹立の際当然関係地区や地元地区に含めて公示できる性質のものであって、関係地区等に含める方法がとれないものは、入漁に関する制限又は条件よりも委員会指示又は入漁権の裁定等により措置してください。

 

4.免許後の漁業権の変更について

(1)基本的な考え方

漁場計画に基づいて免許された漁業権の変更は「漁業権切替後の漁業の免許及び漁業権の変更免許に関する件」(昭和27年3月25日付け27水第2290号水産庁長官通知)に示してきましたが、震災復興上必要な場合、漁海況の著しい変動による場合や、資源的に見て明らかに計画が不適当であることが判明した場合には、必要に応じて漁業権の変更を柔軟に行っても差し支えありません。

(2)法第22条の漁業権の変更について

漁業権の変更をする場合には、法第22条第3項において準用する法第13条第1項第2号の規定上、漁場計画を見直し、法第11条第1項の規定に基づきこれを事前に決定の上公示しなければなりません。このことは既に政府見解(昭和61年参議院議員久保亘君提出共同漁業権の一部放棄及び漁業補償についての漁協の権限に関する質問に対する答弁書及び平成元年衆議院議員岩垂寿喜男君提出共同漁業権の漁場区域の一部削除に関する質問に対する答弁書)として明らかにしてきたところであり、それ以前の「漁業法第二十二条の事務取扱上の解釈について」(昭和27年10月2日付け27水第7902号漁政部長通知)については、都道府県における事務手続の混乱を防止する観点から既に廃止しています。

(3)漁業補償契約等による「漁業権の変更」について

   漁業補償の際に、組合の総会の議決を経た上で、事業者との間で「漁業権の変更(一部放棄)」等を約する旨の契約が交わされる事例が見受けられますが、かかる契約行為はあくまでも当事者間の民事上の問題であり、法第22条の規定上、このことにより漁業権が当然に変更されるものではありません。

なお、かかる私法上の契約行為といえども、組合が当該事項の意思決定をしようとする際には水産業協同組合法(昭和23年法律第242号。以下「組合法」という。)第50条の総会の特別決議が必要とされることは言うまでもなく、この場合、特定区画漁業権及び第一種共同漁業権に係るものにあっては、当該議決に先立ち法第31条の組合員の同意が必要となります。

 

5.法第13条第1項第4号の運用について

(1)海面下に没する私有地の取扱い

漁場の敷地が他人の所有に属するか否かの判断に当たっては、海面下に没する私有地の取扱いに関する法務省の見解(昭和36年11月9日付け民事甲第2801号)を引用し、「漁業権の免許について」(昭和42年12月7日42水漁第8646号水産庁長官通知)において通知したところですが、その後の最高裁判決(昭和61年12月16日最高裁第三小法廷判決)を踏まえて、次のとおり取り扱うこととしてください。

社会通念上の海(海水とその敷地とをもって構成される統一体としての海)は公共用物であって、特定人の排他的支配が許されないものであり、そのままの状態では所有権の客体たる土地とはなりません。したがって、法第13条第1項第4号に係る所有権は認められません。ただし、以下の場合はこの限りではありません。

ア 過去において現行法とは異なる立法政策の下に国が海の一定範囲を区画してこれを私人の所有に帰属させた事実がある場合は、当該区画部分は今日でも所有権の客体たる土地としての性格を保持している。

イ 私有地が自然現象により海没した場合であって、人による支配利用が可能であり、かつ、他の海面と区別しての認識が可能である限り、所有権の客体たる土地としての性格を失わない。

(2)公有水面埋立法との関係

漁場区域の全部又は一部が、公有水面埋立法(大正10年法律第57号)による埋立免許のなされている水域内にあるときは、埋立権者の同意を得た上で免許してください。

 

6.都道府県漁業調整規則との関係

知事が法第65条第1項及び第2項並びに水産資源保護法(昭和26年法律第313号)第4条第1項及び第2項の規定に基づいて定める規則(以下「規則」という。)の禁止区域、禁止期間等についての規定は、免許漁業に対しても当然適用されます。例えば、漁業権の漁業時期であっても、規則の禁止期間中は免許漁業を行使することはできません。したがって、漁業権の漁業時期が規則の禁止期間だけであるようなものは無意味ですが、規則の規定が漁業権の内容を全面的に禁止するものでなければこれら禁止期間を含んで漁場計画を立てることは差し支えありません。

なお、共同漁業権の内容となっている漁業が規則による知事許可漁業でもある場合に、当該漁業が許可されれば、その許可の効力は当該漁業を内容とする漁業権の漁場の区域にも及ぶこととなります。したがって、免許漁業と知事許可漁業との間で調整上の問題があるときは、知事許可漁業に対する制限又は条件や委員会指示によって措置してください。

 

7.資源管理・漁業所得補償対策との関係

平成23年度から実施されている資源管理・漁業所得補償対策の中で、漁業については、都道府県が策定する資源管理指針に基づき、漁業者が資源管理措置を記載した資源管理計画を作成し実施すること、養殖業については、持続的養殖生産確保法(平成11年法律第51号)に基づき、組合等が作成する漁場改善計画において定める適正養殖可能数量を遵守することとしています。

次期漁場計画の樹立に当たっては、これらの計画との整合性が図られるよう配慮が必要です。

 

8.法人への移行措置

定置漁業又は区画漁業の法人経営化については、漁業経営の改善及び再建整備に関する特別措置法(昭和51年法律第43号)第4条の規定により改善計画の認定を受けた個人である漁業者であって定置漁業権又は区画漁業権を有する者が、当該改善計画に従い法人化する場合には、知事が委員会の意見を聴いてこれを認可したときは、同法第10条の規定により当該法人に対して漁業権を移転することが認められています。このため、この制度の活用により免許期間途中での法人化も可能であることを十分理解の上、実情に応じて漁業関係者に対して法人化を指導してください。

 

9.漁場計画の公示について

漁場計画の公示の例と留意点を以下に示すので、参考としてください。

(1)公示番号

定(区、共、内区、内共)第○○号

(注)免許予定の漁業権の一連番号を漁業権の種類別に、例えば定第○号、区第○号、共第○号、内共第○号と付してください。

(2)免許の内容たるべき事項

ア 漁業種類、漁業の名称及び漁業時期

漁業種類漁業の名称漁業時期

第一種区画漁業はまち小割り式養殖業 ○月○日から○月○日まで

(注)漁業の名称は、共同漁業及び定置漁業については「かれい刺網漁業」、「ぶり定置網漁業」等魚種名及び漁法を冠して表示し、単一の魚種名を冠することが困難なものについては主な漁獲目的魚種がある場合にはその2,3の魚種名を冠し、主な目的魚種を挙げることができない場合には「雑魚」又は「磯魚」という語を冠して表示してください。

ただし、第一種及び第五種共同漁業については、「はまぐり漁業」、「あゆ漁業」等漁獲物の名称のみで表示し、第三種共同漁業であるつきいそ漁業については「つきいそ漁業」と表示してください。

区画漁業については、原則として「かき垂下式養殖業」、「はまち小割り式養殖業」のように魚種名及び養殖方法を冠して表示してください(第三の2参照)。

イ 漁場の位置

○○市○○町(大字○○)地先

ウ 漁場の区域

次の基点第1号、(ア)、(イ)及び基点第2号の各点を順次に結んだ線と最大高潮時海岸線とによって囲まれた区域

基点第1号○○市○○町大字○○番地に設置した標柱

(ア)基点第1号から○度○○分○○メートルの点

(イ)基点第2号から○度○○分○○メートルの点

基点第2号○○市○○町○○岬岩礁に設置した標柱

(注1)漁場の区域のうち陸岸に接する部分について最大高潮時海岸線という表示を用いることは差し支えありませんが、この部分に河口がある場合は必ず基点を定める等により河口部分の境界線を明確にしておいてください。なお、境界線についてはそれぞれの委員会の意見を聴いて決定することとしてください。

(注2)河川における「○○川本流及び支流」のような表示は明確性を欠くので、橋梁や等を利用して可能な限り漁場の区域を明確にするようにしてください。

(注3)近年、衛星測位及び地理情報システムの技術の発達により、水面における緯度経度の情報を容易に得ることが可能となっていることから、漁場の区域を明確にし、適正な管理を行うため、これらの技術の活用により、漁場の区域を順次、緯度経度の表記に改めることについても積極的に検討してください。

なお、この場合において、従来の基点と緯度経度とを併記して漁場の区域を定めることは差し支えありません。

(3)免許予定日

      平成○○年○月○日

(4)申請期間

      平成○○年○月○日から平成○○年○月○日まで

(5)地元地区(関係地区)

   ○○市○○町(大字○○)

(6)制限又は条件

(7)存続期間

   平成○○年○月○日から平成○○年○月○日まで

(注)免許予定日、申請期間、存続期間については同一のものを一括して巻頭又は巻末に表示して差し支えありません。

 

第二 共同漁業について

1.総論

共同漁業は、組合による漁場管理がなされ、その漁業権の関係地区の漁業者が共同して漁場を利用するというところにその特徴があります。このため、免許を受けた組合が自主的に漁場管理及び資源の増殖管理を行う必要があることはその概念に当然に包含されるものであり、漁場計画の樹立に当たっては、このように漁場を組合の管理に委ねることが漁業生産力の維持発展という漁場計画制度の趣旨に照らして妥当か否かという観点から検討すべきです。

2.漁場の区域

(1)共同漁業権の漁場の区域は、一般的にはその漁業に必要な最小限度の海面で、組合が管理できる範囲内で定めるべきであり、この際他種漁業との調整にも十分注意を払う必要があります。

(2)共同漁業権の漁場の区域の区分についても、あくまで漁場の利用及び管理の実態に基づいて定められるべきであり、組合の地区や陸上の行政区画にとらわれるべきものではありません。特に組合の地区が非常に大きくなっているような場合には、ある程度分割した漁場の区域を定める方が適当な場合が多いと考えられます。

ただし、逆に漁業の対象となる水産動植物の性質上分割すると繁殖保護に不都合をきたすおそれのある場合又は複雑な入会関係があって漁場の分割が困難な場合は、漁場の区域を大きく設定することもやむを得ません。

(3)内水面における第五種共同漁業権は、従来から「一河川一漁業権」を原則としてきており、今回の漁業権の一斉切替えに当たっても、この方針を維持し、その漁場の区域は河川における増殖及び漁場の管理面から考えてその河川全体とすることを原則とすることが適当です。

ただし、河川の性状、水産動植物の棲息、分布、増殖等の条件及び流域の社会経済的条件からみて「一河川一漁業権」の原則を適用することが困難と考えられる場合は、実情に沿って区分することもやむを得ません。

 

3.関係地区

関係地区について、法上は定義されていませんが、法第11条第1項の地元地区と同様自然的及び社会経済的条件により当該漁場が属すると認められる地区をいうと解すべきものです。

関係地区の法上の意義は、法第8条の漁業権行使規則(第一種共同漁業権)の制定及び改廃に当たっての同意を要する組合員の範囲、法第14条の免許についての適格性の判定に係る組合員の範囲及び法第31条の組合が第一種共同漁業を内容とする共同漁業権の分割、変更又は放棄を行おうとするときに事前に同意を要しなければならない組合員の範囲を規定するものです。また、関係地区ごとに設置される組合の総会の部会において、総会に代わり漁業権の得喪又は変更等に関する意思決定を行うことができることとされています(組合法第51条の2)。

次期漁場計画の樹立に当たっては、このような関係地区の意義を踏まえ、特に以下の点に留意しつつ、十分な検討を加えることとしてください。

(1)震災被害への対応

 震災による津波で住居が流れ壊滅的な状態にある地域や、原発事故により漁業者が一時的に他地域に避難している場合がありますが、関係地区の決め方は、そのことにとらわれる必要はなく、震災前の関係地区の設定をそのまま維持することを基本としてください。この場合、法第14条第8項の免許についての適格性の住所要件が問題となってきますが、一時的に避難生活をしている沿岸漁業者が当該関係地区での操業を継続する意思表示を示している場合は、同地区に住所を有している者として取り扱うことは差し支えありません。また、漁村集落が高台に移転するなどしたため、従来と異なる関係地区を定める場合にあっては、漁業権行使規則中に「行使する資格を有する者は平成○○年○○月○○日の漁業権の免許の切替時点において○○地区に住所を有していた者に限る。」との項を入れるなどの対応を取ることにより、いたずらに漁業関係者に不安をもたらすようなことは避けなければなりません。

(2)組合の地区等との関係

関係地区は、漁場利用の観点から、自然的及び社会経済的条件により決定するものであり、組合の地区や陸上の行政区画にこだわるべきものではありません。したがって、合併により組合の地区が大きくなっている場合であっても、漁場利用の観点からは、原則として従来どおりの関係地区を定める方が漁場管理を行う上で適当であると考えられます。さらに、既に合併後の組合の地区に合わせて関係地区を統合している場合であっても、行使及び漁場管理を旧組合単位で漁場を分割して行っている場合には、実態に合わせ今回関係地区を見直すこととしてください。

(3)部会制度の活用

組合法第51条の2の規定により、組合は、特定区画漁業権又は共同漁業権を有しているときは、総会(総代会は除く。以下同じ。)の議決を経て、当該特定区画漁業権に係る地元地区又は当該共同漁業権に係る関係地区ごとに総会の部会を設け、当該漁業権に関し、その得喪又は変更、漁業権行使規則の制定又は変更等についての総会の権限を部会に行わせることができることとなっています。

組合が部会を設置できるのは、同条の規定により「特定区画漁業権又は共同漁業権を有しているとき」であるため、漁業権の一斉切替え時については、基本的には一旦組合が知事から漁業権の免許を受けた後で部会を設置することとなります。この場合、組合は漁業権の免許取得に必要な総会を開催し、その後部会設置のための総会を改めて開催する必要が生じます。漁業権の免許の一斉切替えに当たって、これらを効率よく行うための実務的な手続が求められています。この具体的な手続としては、漁業権取得のための組合の総会において「漁業権の免許を受けた場合は免許の日から当該漁業権の関係地区に部会を設置する。」旨の停止条件付きの議決を行う方法が最も簡便かつ適当です。

ただし、組合が特定区画漁業権又は共同漁業権を有しているときであって、その存続期間満了後に切れ目なく当該漁業権の切替えが行われ、漁場計画の樹立によりそれまで部会が設置されていた地元地区又は関係地区が変更されず、かつ、切替え後の漁業権の免許内容(漁業種類、漁場の位置及び区域、漁業時期)が切替え前の漁業権の免許内容と同じである場合については、既に存在している部会の設置に関する総会の議決において、既に存在している部会を切替え後も存続させ、権限を与え事務を行わせるとの合意があるものと解されるときには、既に存在している部会を引き続き存続させることができます。この場合、漁業権の一斉切替え時に、切替え後の特定区画漁業権又は共同漁業権に関し、組合法第48条第1項第8号から第10号までに掲げる事項(第9号にあっては漁業権行使規則又は遊漁規則の制定)、具体的には漁業権の取得や漁業権行使規則の制定については、既に存在している部会の権限により行うことが可能です。ただし、部会設置時の総会の議事録は、部会廃止まで保存することとしてください。

なお、特定区画漁業権又は共同漁業権の存続期間中に、漁業権を変更して漁場を拡大したり、漁業種類を追加したりする場合は、現に設置されている部会で漁業権の変更の決議を行い、変更後の漁場計画の公示に基づき漁業権変更の免許申請(法第22条)を行うことが可能です(組合法第48条第1項第8号)。

(4)共有の場合

数組合にまたがる関係地区を定める場合は、当該漁業権は当該数組合の共有となりますが、共有漁業権については、管理主体が不明確となり、管理意識が低下し、適正な漁場管理がなされない事態が生ずるおそれがあるので、慎重に取り扱う必要があります。具体的には、漁業の対象となる水産動植物の性質や複雑な入会関係の都合上、漁場の区域及び関係地区を大きく設定することが真にやむを得ない場合以外は、安易にこのような選択肢をとることは避けるべきです。

なお、現在共有で漁業権の免許を受けているにもかかわらず、行使及び漁場管理を各組合が漁場を分割して行っているものについては、(2)と同様の観点から今回再検討してください。

(5)漁業種類ごとの考え方

関係地区は、第一種、第二種等の漁業権の種類ごとに分けて考えるべきものです。特に、第一種共同漁業権と第五種共同漁業権の漁場の区域及び関係地区については、おのずとその範囲に大きな差があるものと考えられるため、結果的に免許を受ける組合が同一であることが予想されるからといってこれらをまとめて同一の関係地区として取り扱うことは適当ではありません。

 

4.第一種共同漁業について

(1)第一種共同漁業は、その前提として漁業関係者による資源の保護培養と自治的な漁場管理を特に必要とするものであるから、これらに対する漁業関係者の意欲のいかんを重視して対象水産動植物を選定し、漁場計画をとりまとめる必要があります。

(2)対象となる水産動植物のうち、法第6条第5項第1号の農林水産大臣が指定する水産動物の種については、「定着性の水産動物指定」(昭和25年3月14日農林省告示第51号、昭和26年3月7日農林省告示第69号、昭和28年2月12日農林省告示第61号)により指定した上で、同告示に掲げられた名称に含まれると解される標準和名等を「漁業法の規定に基き農林大臣の指定する定着性水産動物に関する件」(昭和26年6月30日付け26水第4057号漁政部長通知)において示してきたところです。しかしながら、第一種共同漁業権の対象種として適当な種は、本来地域ごとに多様性があるものであり、漁業権の免許事務が都道府県の自治事務であることに鑑み、上記告示の解釈運用に当たっては、上記通知の内容を参考としつつも、地域の実情を踏まえ、告示の範囲内において柔軟に対応することとしてください。

 

5.第二種共同漁業について

(1)第二種共同漁業は網漁具を移動しないよう敷設して営む漁業ですが、この「移動しないよう敷設」の意味はかなり厳密に解すべきであり、漁場が一定しておらず機動性を有するものは漁業権とはなり得ません。例えば、両端を錨止めして行う固定式刺網であっても広範囲にわたって操業するようなものは漁業権とすべきではなく、知事許可漁業として取り扱ってください。

(2)小型定置漁業については、各網ごとの設置区域を限定して計画する向きもありますが、このような計画を立てることは、組合が漁場を管理するという共同漁業権の趣旨に反し、定置漁業権のようなものにしてしまうおそれがあるため、このようなことにならないよう注意してください。また、長期にわたり行使者が特定の組合員に固定しているものについては、知事許可漁業として取り扱うこととしてください。

(3)第二種共同漁業の漁場の区域については、他の漁業との調整上、特に必要最小限にとどめるべきです。

 

6.第三種共同漁業について

(1)地びき網漁業については、実際の操業実績がほとんどないようなものがありますが、このようなものについては、漁場計画から除外し、規制の必要がある場合には知事許可漁業として取り扱ってください。

(2)つきいそ漁業とは、その漁法のいかんを問わず漁業関係者によって管理又は設置された魚礁に集まる魚を対象として行われる漁業ですが、漁場計画に当たっては、次の点に注意してください。

ア 「つきいそ」とは本来人工的に設置された魚礁をいい、何等人為的なものが加えられていない天然の魚礁や沈船の周囲の好漁場で漁業を行うものは、つきいそ漁業とはいえません。

イ 漁場の区域の設け方については、原則として魚礁を中心とする必要最小限の区域とすべきで、他の共同漁業権の漁場と同様の広い範囲に漁場の区域を設定することはしないようにしてください。

ウ 国の補助事業により設置した魚礁については、漁業調整その他公益上支障がなく、漁業生産力の維持発展に資すると認められる場合には、つきいそ漁業権を設定しても差し支えありません。ただし、これらの事業の性格を十分考慮し、設定位置は原則として既存の共同漁業権漁場内に限るとともに、遊漁との調整についても十分配慮する必要があります。

既存の共同漁業権の漁場の区域外の魚礁は、関係する組合が広範囲にわたり、入会的利用状況となっていることが多いため、つきいそ漁業権の設定については慎重に対応してください。このような魚礁については、資源管理を充実させ、魚礁設置の目的を十分達成させるため、漁業関係者による自主的な取決め、漁場利用協定、委員会指示等により魚礁利用のルール化を図るようにしてください。 


7.第五種共同漁業について

(1)第五種共同漁業権の設定には、法第127条の規定により、当該内水面が増殖に適していること及び免許を受けた者が増殖を行うことが必要です。

(2)法第127条でいう「増殖」とは人工ふ化放流、稚魚又は親魚の放流、産卵床造成等の積極的人為手段により採捕の目的をもって水産動植物の数及び個体の重量を増加せしめる行為に加え、堰堤等により移動が妨げられている滞留魚の汲み上げ放流や汲み下ろし放流もこれに含まれるものとし、養殖のような高度の人為的管理手段は必要とはしませんが、単なる漁具、漁法、漁期、漁場及び採捕物に係る制限又は禁止等消極的行為に止まるものは、含まれません。

(3)個別種への対応

ア 特定外来生物

オオクチバス、コクチバス及びブルーギルについては、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という。)及び特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令(平成17年政令第169号。以下「外来生物法施行令」という。)により、特定外来生物に指定され、平成17年6月1日以降、環境大臣及び農林水産大臣の許可を受けた場合(例えば、学術研究等の目的で適正に管理する施設等を有する場合)等を除き飼養等が禁止され、かつ、飼養等に係る特定外来生物を特定飼養等施設の外に放つことも禁止されています(外来生物法第4条、第5条及び第9条並びに外来生物法施行令第1条)。

そのため、野外の湖沼等において特定外来生物を放流することは認められていませんが、特定外来生物の種指定時において既に当該外来生物に係る業を営み、飼養等を行っている者が生業の維持の目的で、一定の基準を満たす特定飼養等施設を有している場合は、環境大臣及び農林水産大臣の許可を受けて飼養することができます(外来生物法第4条及び第5条)。また、特定外来生物を、原則として、特定飼養等施設の外で飼養等をすることはできません(環境大臣及び農林水産大臣が所掌する特定外来生物に係る特定飼養等施設の基準の細目等を定める件(平成17年5月25日農林水産省・環境省告示第4号)第2条)。

ただし、特定外来生物の指定の際、現に当該外来生物が第五種共同漁業の対象となっている場合には、当該共同漁業が既に行われていることを考慮して、当該漁業権が設定されている内水面が「特定飼養等施設」として扱われ、この施設が一定の基準を満たせば、飼養等の許可を受けることができます(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行規則(平成17年農林水産省・環境省令第2号。以下「外来生物法施行規則」という。)第9条)。この許可を受けることができるのは、オオクチバス(平成17年4月27日指定)及びウチダザリガニ(平成17年12月14日指定)の2種のみです(第五種共同漁業権に係る特例を定める件(平成17年5月25日農林水産省・環境省告示第5号)、第五種共同漁業権に係る特例を定める件(平成18年1月25日環境省告示第28号))。

なお、上記の特例は外来生物法第5条第3項第2号の「特定飼養等施設」に関するものであり、指定後新たに漁業権を設定し、放流等を行うこと(指定後に新たに業を開始し、飼養等を行うこと)は、外来生物法施行規則第3条第3号に定める「生業の維持」に該当しないため、許可されないことから、漁場計画は樹立しないようにしてください。

イ こい

コイヘルペスウイルス病のまん延防止の観点からこいの放流・移植に当たっては、都道府県水産試験場等の公的試験研究機関に安全の確認を得た上で行う必要があります。この場合、増殖を行う意思があっても、実際に増殖行為を行うことができないこととなりますが、漁業権者の責めに帰することができないため、法第128条第1項に定められている「免許を受けた者が当該内水面における水産動植物の増殖を怠っていると認める」必要まではありません。

ウ うなぎ

近年しらすうなぎの採捕量が低位に留まっている情勢を踏まえ、うなぎの資源管理については、漁業権の次期一斉切替えを待つことなく、(2)に示した漁具、漁法、漁場及び採捕物に係る制限又は禁止等も含め多様な手段により、地域の実情を踏まえ最も効果的な繁殖保護措置を講じることについて検討してください。

(4) 漁場管理又は漁業取締り上漁業権の対象魚種と密接な関係がある魚種であっても、その魚種自体を増殖する行為がなければ漁業権の免許対象とはならないため、注意してください。

なお、当該魚種について繁殖保護等の必要があれば、規則による採捕の制限、禁止措置又は委員会指示によって規制してください。

(5)第五種共同漁業権については、漁業権者が増殖をする場合でなければ設定できず、また、漁業権者が増殖を怠った場合には当該漁業権を取り消さなければならないものであるため、以下の事項に留意してください。

ア 免許時の増殖指針の公表

水産動植物の種類、増殖方法及び増殖規模等を内容とする増殖指針について、免許の可否の基準として免許申請者の便宜を考慮して知事が別途公表してください。

ただし、この指針は、免許する際の一応の基準なのであって、免許期間中、固定化して考えるべきものでないことを指導してください。

イ 毎年度の目標増殖量等

漁業権免許後は、漁業権者が計画的に資源の拡大的増殖を行うよう、委員会が、毎年その年度の目標増殖量等を各漁業権者に示し、かつ、委員会名でこの目標増殖量等を県公報で一括公示してください。

委員会が毎年目標増殖量等を決定するに当たっては、漁場環境の変化、天然再生産等、技術的な調査、専門家の意見、過去の実績及び漁業権者の経済的負担能力等を十分勘案し、適正なものとするよう考慮してください。

また、必要に応じ内水面の豊度に応じた放流のほか、産卵床の造成等繁殖のための施設の設置、によってそ上が妨げられている滞留稚魚を上流に汲み上げ再放流する等在来資源のそ上の確保等についても、その効果が顕著であると認められる場合は、これらの組合せ等についてもあわせて検討してください。

一方、震災及び原発事故の影響により、従来と同様の増殖行為を行うことが困難な場合があります。増殖目標の設定に当たっては、これらの影響に配慮するとともに復旧の状況に応じて増殖目標を柔軟に見直すこと等により、実効性のある増殖を行うよう漁業権者を指導してください。

知事及び委員会は、漁業権者がこの目標増殖量等を達成するよう指導するとともに、毎年、漁業権者から増殖実施量等の報告を求めることとしてください。

ウ 法第128条の増殖計画

漁業権者の増殖実施が目標増殖量等を達成していない場合には、知事は、当該目標増殖量等を検討し、当該年度における水面の生産力、種苗供給状況及び当該漁業権者の経済的負担能力等を勘案して、委員会の意見を聴いて増殖計画を定め、当該漁業権者に対し当該計画に従って増殖するよう命じる必要があります。

なお、震災及び原発事故の影響により、増殖を行う意思があっても、漁業権者の責めに帰することができない事由により、実際に増殖行為を行うことができない場合については、法第128条第1項で規定する「免許を受けた者が当該内水面における水産動植物の増殖を怠っていると認める」必要まではありません。

(6)遺伝的多様性を維持した増殖を推進するとの観点から、人工ふ化放流、稚魚又は親魚の放流に際しては、当該河川湖沼における在来種の繁殖保護に留意してください。

(7)組合による増殖事業は内水面の水産資源の維持及び増大に大きな貢献をしているところであり、この努力を広く国民に知らしめるとともに、河川湖沼の現場において遊漁者の理解を得ることは漁業制度を円滑に運用する上で極めて有用であると考えられています。

ついては、水産動植物の増殖や漁場の管理の内容等を組合発行の遊漁承認証の裏面を活用して公表する等、組合による積極的な情報開示について指導してください。

(8)内水面における漁場の管理に関して、水産動植物の繁殖保護又は漁業調整のため必要な場合には、組合、地域住民、釣り人等に対し、密放流等の違反に関する情報提供等についての協力依頼、関係者に対する委員会の指示、さらに委員会と連携した適時適正な指導が行われるよう配慮してください。


第三 区画漁業について

1.総論

区画漁業の営まれる水面は相当強度に独占排他されることとなるため、漁場計画の樹立に当たっては、その水面の総合利用という観点に立って、その地区の漁業関係者全体の生業に注意し、特に共同漁業との関係を慎重に考慮する必要があります。

また、区画漁業は、民間企業による参入ニーズもあるところ、漁業者や関係組合の意向を的確に把握しつつ、漁業者や関係組合と企業の間の仲介、マッチングを推進し、これらのニーズにも応えうる漁場計画を柔軟に検討していくことも必要です。

更に、養殖場として利用されていない沖合域について、漁業関係者から漁場計画の樹立について要望がある場合には、同水域で操業を行う漁船漁業関係者との調整や漁場条件の調査を行い、水面の総合利用を図り漁業生産力を発展させるという観点から妥当であれば、合理的な漁場計画を策定するよう努めてください。 


2.漁業種類の定め方

(1)一漁業権一漁業種類の原則について

漁業種類に関しては、養殖対象種を特定することにより、漁業調整に資する趣旨で、従来、一漁業権一漁業種類の原則をできるだけ堅持することを基本としてきたところであり、二種以上を一漁業権とする混養や、機動的な養殖経営の実現を図るため特に要望の強い魚類養殖業のように対象魚種が不明確な免許については、漁場の高度利用及び養殖業の振興のために特に必要と認められる場合に限るよう通知してきました。これら漁場の高度利用等のための免許については、地域の事情に応じて各都道府県が個別にその適否を判断すべきものですが、その際は、養殖の技術水準や漁場の条件等を踏まえつつ、無秩序に漁業関係者からの自由裁量の拡大要望を受け入れることなく、免許の内容として必要な事項は知事が定めるという漁場計画主義の原則を念頭に置いて対応するよう努めてください。

なお、くろまぐろ養殖業については太平洋くろまぐろの管理強化を図る観点から、既に、法第11条第6項に基づき、「免許の内容たるべき事項の決定又は変更に当たり、漁業種類及び漁業の名称においてくろまぐろ養殖を内容とするものと、くろまぐろ養殖業以外の養殖業を内容とするものとを区別して決定又は変更するものとする」旨の指示(平成22年7月29日付け農林水産省指令22水管第861号)をしたところであり、漁場計画の樹立に当たっては、この指示の内容に従い対応してください。

(2)公示の方法

上記(1)に掲げたような個別の事情により一漁業権一漁業種類の原則どおり漁場計画を樹立できない場合であっても、適格性又は優先順位の異なる種類の養殖業(例えば、特定区画漁業権たるものとそうでない区画漁業権たるもの)を併せて一漁業権として公示することはできません。特に、かき養殖業、真珠母貝養殖業は漁法を冠しなければ特定区画漁業権の対象かどうか判然としないので、注意してください。


3.漁業時期

区画漁業の漁業時期は、養殖業を営む期間について定められるもので、漁業時期を外れて営んだ場合は、定置漁業と同様法第9条違反となります。

しかし、いかだ、ひび、いけす等を固定するための支柱・杭等が漁業時期終了後もそのまま残されている場合は、それのみで漁業を営む行為とはいえないため、法第9条違反に該当するとはいえません。したがって、漁場利用の面から問題が生ずるおそれがあるときには、漁業時期内又は漁業時期終了後一定時間内に撤去するよう委員会指示等によって処理してください。


4.地元地区

特定区画漁業権の地元地区については、共同漁業権の関係地区と同様、地元地区の意義を踏まえ、第二の3の「関係地区」の箇所を参照の上、十分に検討してください。 


5.漁場の区域

特定区画漁業権について、一漁場に一行使者を念頭に漁場計画を樹立し、組合管理漁業権として免許しているケースがありますが、このような漁場計画は、多数の漁業者が参入しやすく、参入する者を一部の者に特定させるべきではない組合管理漁業権たる特定区画漁業権の性格からみて、適切ではありません。組合管理を念頭において漁場計画を樹立する場合は、漁場利用の態様、行使者の数、団体管理の必要性を十分勘案した上で、漁場の区域を決定してください。 


6.漁場環境保全等のための措置

漁場内に敷設できる漁具の規模や数について、単に養殖生産物の経済価値の保持のみの見地から漁業権行使規則等によりこれを制限することは避けなければならないのはもちろんですが、養殖業は過密養殖等により漁場環境を悪化させることが少なくないため、漁具の過剰敷設等により漁場価値の低下を招くおそれのある場合には、漁業調整の見地から、筏数、養殖尾数、給餌方法(生餌の禁止等)等の制限を行う等の措置を講ずる必要があります。また、魚病の発生、まん延等が懸念される場合には、過密養殖の是正等を併せて指導することが必要です。

漁業権の次期一斉切替えに当たってこれらの措置等を検討する際には、持続的養殖生産確保法第3条第1項の規定により農林水産大臣が定めた持続的な養殖生産の確保を図るための基本方針(平成11年8月30日農林水産省告示第1122号)の趣旨を踏まえ、また、同法第4条の規定により組合等が基本方針に基づいて作成する漁場改善計画の内容、特に資源管理・漁業所得補償対策との関係で同計画に設定した適正養殖可能数量との整合性が図られるよう、漁業権行使規則の作成の指導等を行うこととしてください。 


7.漁業法の特例について

東日本大震災復興特別区域法(平成23年法律第122号)第14条に規定する「漁業法の特例」は、法が想定していない例外的な状況についての措置であり、特定区画漁業権に係る免許の優先順位に関する部分について特例を定めています。この運用については、既に、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、新潟県及び長野県知事に対して「漁業法の特例について」(平成23年12月26日付け水漁第1563号水産庁長官通知)で通知したとおりであり、漁場計画の樹立に当たり、漁業関係者の懸念にも配慮し、その適切かつ円滑な運用に留意してください。 


8.くろまぐろ養殖業への対応

くろまぐろ養殖業については、まぐろ資源の保存及び管理の強化に関する特別措置法(平成8年法律第101号)第2条に基づく基本方針(平成8年10月28日農林水産省公表)及び「「太平洋クロマグロの管理強化の対応」について」(平成22年5月11日農林水産省発表プレスリリース)に基づき、くろまぐろを対象とした養殖場を国に登録するとともに、くろまぐろ養殖業者に対して養殖実績の提出を求め、そのとりまとめ結果を本年3月に公表するなど、管理体制を強化しています。

くろまぐろ養殖業に供給されている種苗は主に天然種苗であることから、活込尾数の増加を前提とした漁場の新たな設定、生け簀の規模拡大については、全体としてみれば未成魚の漁獲圧力の急激な増加につながるため、慎重に対処してください。なお、人工種苗を対象とした漁場はこれの対象外ですが、その場合は、制限又は条件により、例えば人工種苗による活込みに限る旨の適切な規定を明記し、かつ、実効ある遵守措置によりこれが担保されるようにしてください。このことに関連して、くろまぐろを対象とする養殖の実態把握については、既に地方自治法第245条の4第1項の規定に基づき、各都道府県知事に対して資料の提出を求めておりますが(平成22年7月29日付け22水推第451号農林水産大臣通知)、当該通知に基づき、くろまぐろ養殖場について、正確かつ迅速な資料の提出に、引き続き留意してください。

なお、太平洋くろまぐろを巡る情勢については、引き続き、関係者に対して情報提供を行い、認識の共有を図ることにしていますので、留意してください。


9.試験操業について

水産試験場等の地方公共団体の試験研究機関が本来の試験研究のために、又は水産業改良普及職員がその職務のために行う場合は、法第9条の漁業を営む行為に該当しませんが、これら以外の者にあっては一連の行為が営利的要素を含む場合が非常に多く、営む行為であるか否かの判断が極めて困難であるので、原則として免許を受けて実施させてください。特に、民間企業が養殖行為を行う場合は、生産物を売れば営利となるため、このような行為を漁業権の免許を受けずに行うことはできませんので、必要な場合は漁場計画を樹立するようにしてください。

なお、試験研究機関等が行う試験操業のため、漁場の使用に関し調整をする必要がある場合には、原則として委員会指示により対応してください。


10.増殖との関係

(1)第三種区画漁業たる貝類養殖業については、単に放苗するだけのものや年に1、2回まき換えをする程度のもの等、計画的・集約的な管理及び収穫が行われておらず養殖とは認めがたいものを免許している事例が見られます。区画漁業については、養殖目的物を逸散させずその区域内に保有でき、これを把握・管理できるように他の水面から区画された水面において、収穫の目的をもって養殖目的物の発生、成育を助長させる特別の人為的手段を反復継続して施すことを要するものであることから、これに該当しない増殖程度のものについては第一種共同漁業として取り扱ってください。

(2)かんがい用溜池等に設定されている内水面の区画漁業権の中には、粗放的な管理であって養殖と認められるまでに至っていない増殖程度のものを免許している事例が見られるので、漁場計画の樹立に際しては、種苗確保の計画性、積極的投餌等によって水産動植物の個体の量等を顕著に増進させ、かつ、計画的、集約的に収穫し得るよう、常に漁業権者の高度の管理下に置かれるものであるかどうか慎重に検討してください。


第四 定置漁業について

1.定置漁業の性格

定置漁業は、漁具を敷設する位置がその漁獲を大きく左右し、その周辺において操業する他種漁業及び他の定置網の操業によって大きな影響を受ける一方、広い漁場を独占し、他漁業にも影響を及ぼす性格のものです。したがって、漁場の位置、区域及び統数を定めるに当たっては、他種漁業との調整を十分に行った上で特に慎重に検討してください。


2.漁場の区域

土俵又は錨は漁場の区域からはみ出して差し支えありませんが、定置漁業の漁場の区域は、漁具を敷設し得る一定区域の水面とすべきであり、漁場の区域を広くとり、その中で任意に漁具の敷設位置を決めさせることは適当ではありません。また、一つの漁場の区域内に敷設される漁具は、一つの身網と垣網の組合せをもって一ヶ統の漁具として取り扱うこととしてください。


3.漁業時期

定置漁業の漁業時期は、実際に土俵、錨等を入れて建込みを始める時から取り除き終わる時とすべきであり、漁期に変動があるものについては、漁業時期を比較的長くとり、必要ある場合はその年の漁況により委員会指示によって調整してください。 


4.地元地区

定置漁業の地元地区については、第二の3の「関係地区」の箇所を参照の上、定置漁業の特性を考慮して定めてください。


5.資源管理の取組について

(1)海洋生物資源の保存及び管理に関する法律との関係

海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号)第4条の規定に基づく「都道府県計画」において、例えば免許統数については現状どおりとして従来と同様の規制に基づいて操業することを定めているものがあります。定置漁業については現状では漁獲量の制限が事実上困難であるものの、他種漁業が厳格な漁獲量規制等を行っていることに鑑み、定置漁業の漁場計画については、単に免許統数に限らず、漁業時期、漁場の区域、敷設位置、網目等について、「都道府県計画」との整合性を確保するよう措置してください。

(2)さけの産卵親魚の確保

 回遊魚はその回遊水域が複数の都道府県に及ぶため広域的な漁業調整の必要がありますが、特にさけについては積極的な資源増殖を図るため計画的な増殖事業を実施しているところであり、この取組の十分な実効を図るためには、さけを漁獲する漁業関係者の配慮により再生産に必要な親魚の母川への回帰、そ上を確保することが必要不可欠となっています。

このような状況を踏まえ、さけが地先沿岸を回遊する道県においては、定置漁業の漁場計画に当たって、さけの回遊路を著しく遮断することがないようにするなど、さけ親魚の確保に十分配慮するとともに、必要に応じ漁業権に制限又は条件を付すことにより、操業期間の制限、垣網の短縮、二階網、沖垣網等特定漁具の使用の制限等の措置を講じてください。

(3)くろまぐろの漁獲抑制

太平洋くろまぐろ資源の管理強化のため、定置漁業については既に法第11条第6項の規定に基づき「くろまぐろの漁獲量が増加することのないよう十分に配慮してください。特に、当分の間、くろまぐろを主たる漁獲物とする定置漁業については、現に免許されている数を超える新たな決定を行ってはならない」旨の指示(平成22年1月29日付け農林水産省指令21水管第1998号)をしているところであり、当該指示の内容に従い対応してください。

また、くろまぐろが入網する蓋然性の高い定置漁業を対象として、法第134条第1項の報告徴収規定の活用を図ることにより、より正確かつ迅速な漁獲実績の把握に努めてください。

お問合せ先

資源管理部漁業調整課
担当者:沿岸調整班
代表:03-3502-8111(内線6701)
ダイヤルイン:03-3502-8476
FAX:03-3595-7332