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水産庁

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(4)漁業労働環境をめぐる動向

ア 漁船の事故及び海中転落の状況

〈漁業における災害発生率は陸上における全産業の平均の約4.8倍〉

令和4(2022)年の漁船の船舶海難隻数は449隻、漁船の船舶海難に伴う死者・行方不明者数は21人となりました(図表2-22)。漁船の事故は、全ての船舶海難隻数の約2割、船舶海難に伴う死者・行方不明者数の約3割を占めています。漁船の事故の種類としては衝突が最も多く、その原因は、見張り不十分、操船不適切、居眠り運航といった人為的要因が多くを占めています。

漁船は、進路や速度を大きく変化させながら漁場を探索したり、停船して漁労作業を行ったりと、商船とは大きく異なる航行をします。また、操業中には見張りが不十分となることもあり、さらに、漁船の約9割を占める5トン未満の小型漁船は大型船からの視認性が悪いなど、事故のリスクを抱えています。

図表2-22 漁船の船舶海難隻数及び船舶海難に伴う死者・行方不明者数の推移

図表2-22 漁船の船舶海難隻数及び船舶海難に伴う死者・行方不明者数の推移

船上で行われる漁労作業では、不慮の海中転落*1も発生しています。令和4(2022)年における漁船からの海中転落者は65人となり、そのうち43人が死亡又は行方不明となっています(図表2-23)。

また、船舶海難や海中転落以外にも、漁船の甲板上では、機械への巻き込みや転倒等の思わぬ事故が発生しがちであり、漁業における災害発生率は、陸上における全産業の平均の4.8倍と、高い水準が続いています(図表2-24)。

  1. ここでいう海中転落は、衝突、転覆等の船舶海難以外の理由により発生した船舶の乗船者の海中転落をいう。

図表2-23 漁船からの海中転落者数及び海中転落による死者・行方不明者数の推移

図表2-23 漁船からの海中転落者数及び海中転落による死者・行方不明者数の推移

図表2-24 船員及び陸上労働者災害発生率

図表2-24 船員及び陸上労働者災害発生率

イ 漁業労働環境の改善に向けた取組

〈海難事故の防止や事故の早期発見に関する取組〉

海中転落時には、ライフジャケットの着用が生存に大きな役割を果たします。令和4(2022)年のデータでは、漁業者の海中転落時のライフジャケット着用者の生存率(69%)は、非着用者の生存率(45%)の約1.5倍です(図表2-25)。

平成30(2018)年2月以降、原則、船室の外にいる全ての乗船者にライフジャケットの着用が義務付けられ、令和4(2022)年2月からは当該乗船者にライフジャケットを着用させなかった船長(小型船舶操縦者)に対する違反点数付与の適用が開始されています*1。令和4(2022)年の海中転落時におけるライフジャケット着用率は約5割となっており、政府は、確実なライフジャケットの着用に向け、引き続き周知・啓発を行っていくこととしています。

さらに、海難事故の防止に向け、関係省庁と連携してAIS*2の普及促進のための周知・啓発等による利用の促進を図っていくとともに、AISの搭載が難しい小型漁船の安全性向上のため、漁船の自船位置及び周辺船舶の位置情報等をスマートフォンに表示して船舶の接近等について漁業者にアラームを鳴らして知らせることにより、衝突、乗揚事故を回避するアプリのサービスが開始されており、漁業現場への普及が期待されています。また、事故の早期発見のために、落水を検知する専用ユニットとスマートフォンにより、落水事故の発生を即時に検知して周囲にSOSを発信するアプリ等の開発といった取組も見られています。

  1. 着用義務に違反した場合、船長(小型船舶操縦者)に違反点数が付与され、違反点数が行政処分基準に達すると最大で6か月の免許停止(業務停止)となる場合がある。
  2. Automatic Identification System:船舶自動識別装置。洋上を航行する船舶同士が安全に航行するよう、船舶の位置、針路、速力等の航行情報を相互に交換することにより、衝突を予防することができるシステム。

図表2-25 ライフジャケットの着用・非着用別の漁船からの海中転落者の生存率

図表2-25 ライフジャケットの着用・非着用別の漁船からの海中転落者の生存率

〈農林水産業・食品産業の分野を横断した作業安全対策の推進〉

漁業労働における安全性の確保は、人命に関わる課題であるとともに、漁業に対する就労意欲にも影響します。これまでも、技術の向上等により漁船労働環境における安全性の確保を進めるとともに、水産庁は、全国で「漁業カイゼン講習会」を開催して漁業労働環境の改善や海難の未然防止に関する知識を持った安全推進員等を養成し、漁業者自らが漁業労働の安全性を向上させる取組を支援してきました。

くわえて、漁業だけでなく、農林水産業・食品産業の現場では依然として毎年多くの死傷事故が発生しており、若者が将来を託せるより安全な職場を作っていくことが急務となっています。そのため、農林水産省は、これらの産業の分野を横断して作業安全対策を推進しています。令和3(2021)年2月には、「農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策に関する有識者会議」での議論を踏まえ、「農林水産業・食品産業の作業安全のための規範」を策定し、広く周知・啓発を行っています。引き続き、漁業等の現場の従事者の方々に作業安全の取組をチェックしていただき、安全意識の向上を図っていくこととしています。

図表2-26 仕事猫とコラボした作業安全を普及啓発するステッカー

図表2-26 仕事猫とコラボした作業安全を普及啓発するステッカー
QRコード
漁船の安全操業に関する情報(水産庁):https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/anzen.html
QRコード
農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策(農林水産省):https://www.maff.go.jp/j/kanbo/sagyou_anzen/

〈海上のブロードバンド通信環境の普及を推進〉

狭い船内が主な生活の場となる漁業は、陸上に比べて生活環境が十分に整っているとはいえず、船内環境の改善が強く望まれています。特に近年、陸上では、大容量の情報通信インフラの整備が進み、家族や友人等とのコミュニケーションの手段としてSNS*1等が普及しています。他方、海上では、衛星通信が利用されていますが、陸上に比べて衛星通信サービスの通信容量は限定的であること、利用者が船舶関係者に限定され需要が少ないこと、従量制料金のサービスが中心で定額制料金のサービスが始まったばかりであること等、陸上と異なる制約があるため、ブロードバンドの普及に関して、陸上と海上との格差(海上のデジタルディバイド)が広がっています。

このため、船員・乗客が陸上と同じようにスマートフォンを利用できる環境を目指し、利用者である船舶サイドのニーズも踏まえた海上ブロードバンドの普及が喫緊の課題となっています。また、海上でブロードバンド通信環境が普及すれば、様々な情報通信サービスの利用により、例えば漁場予測精度の向上や航行の効率化等が進み、水産業の競争力強化にも資することになります。そのため水産庁は、総務省や国土交通省と連携し、漁業者のニーズに応じたサービスが提供されるよう通信事業者等を交えた意見交換を実施したり、新たなサービスについて水産関係団体へ情報提供を行ったりするなど、海上ブロードバンドの普及を図っています。

  1. Social Networking Service:登録された利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービス

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344