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水産庁

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(6)水産物の流通・加工の動向

ア 水産物流通の動向

近年、水産物の国内流通量が減少しています。また、平成27(2015)年の水産物の消費地卸売市場経由率は52%と20年前と比較して約2割低下し、消費地市場を経由して流通された水産物の量は、20年前の約5割の水準となっています(図3-2-20)。

また、水産物卸売市場の数は産地卸売市場、消費地卸売市場とも減少しています(図3-2-21)。

一方、小売・外食業者等と産地出荷業者との消費地卸売市場を介さない産地直送、漁業者から加工・小売・外食業者等への直接取引、インターネットを通じた消費者への生産者直売等、市場外流通が増えつつあります。

図3-2-20 消費地市場経由量と経由率の推移

図3-2-20 消費地市場経由量と経由率の推移

図3-2-21 水産物卸売市場数の推移

図3-2-21 水産物卸売市場数の推移

イ 水産物卸売市場の役割と課題

卸売市場には、1)商品である漁獲物や加工品を集め、ニーズに応じて必要な品目・量に仕分けする集荷・分荷の機能、2)旬や産地、漁法や漁獲後の取扱いにより品質が大きく異なる水産物について、公正な評価によって価格を決定する価格形成機能、3)販売代金を迅速・確実に決済する決済機能、4)川下のニーズや川上の生産に関する情報を収集し、川上・川下のそれぞれに伝達する情報受発信機能があります。多様な魚種が各地で水揚げされる我が国において、卸売市場は、水産物を効率的に流通させる上で重要な役割を担っています(図3-2-22)。

一方、卸売市場には様々な課題もあります。まず、輸出も見据え、施設の近代化により品質・衛生管理体制を強化することが重要です。また、産地卸売市場の多くは漁業協同組合によって運営されていますが、取引規模の小さい産地卸売市場は価格形成力が弱いことなどが課題となっており、市場の統廃合等により、市場機能の維持・強化を図っていくことが求められます。さらに、消費地卸売市場を含めた食品流通においては、物流等の効率化、情報通信技術等の活用、鮮度保持等の品質・衛生管理の強化及び国内外の需要へ対応し、多様化する実需者等のニーズに的確に応えていくことが重要です。

こうした状況の変化に対応して、生産者の所得の向上と消費者ニーズへ的確な対応を図るため、各卸売市場の実態に応じて創意工夫を生かした取組を促進するとともに、卸売市場を含めた食品流通の合理化と、その取引の適正化を図ることを目的として、「卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律*1」が平成30(2018)年6月に成立しました。新制度により、各市場のルールや在り方は、その市場の関係者が話し合って決めることになりました。卸売市場を含む水産物流通構造が改善し、魚の品質に見合った適正な価格形成が図られることで、1)漁業者にとっては所得の向上、2)加工流通業者にとっては経営の改善、3)消費者にとってはニーズに合った水産物の供給につながることが期待されます。

  1. 平成30(2018)年法律第62号

図3-2-22 水産物の一般的な流通経路

図3-2-22 水産物の一般的な流通経路

コラム築地市場から豊洲市場へ

昭和10(1935)年に開場した東京都中央卸売市場築地市場は、水産物のほか青果物を取り扱う、水産物としては、世界一の規模を誇る総合的な卸売市場であり、また、外国人などの一般旅行者も訪れるなど、我が国の代表的な卸売市場として親しまれてきました。しかしながら、施設の老朽化や衛生環境の改善の必要性等、様々な問題が生じてきたこともあり、平成30(2018)年10月11日、豊洲市場に移転しました。 

豊洲市場は、築地市場に比べて敷地が広く、築地市場では開放型であった卸売場や仲卸売場が閉鎖型となり、品質・温度管理が格段に強化されています。また、時代とともに変わってきた顧客ニーズに対応し、加工・小分け・パッケージ等の機能や効率的な物流も強化されています。

平成31(2019)年1月15日からは、競り場の一角に設けられた専用デッキでのマグロの競り見学が始まりました。豊洲市場では衛生管理のため、ガラス越しの見学になりますが、ガラス窓に作られた隙間から競りが始まる合図の鐘の音や競りのかけ声が聞こえて臨場感のある見学が楽しめます。

今後、豊洲市場は築地市場の伝統を受け継ぎつつ、世界有数の大都市の台所として水産物の新たな流れを生み出し、多くの人々でにぎわう活気あふれた市場となることが期待されます。

豊洲市場の写真
マグロ卸売場の写真

ウ 水産加工業の動向

練り製品、冷凍食品、塩蔵品等の水産食用加工品の生産量は横ばいから漸減傾向で推移しており、平成29(2017)年には、前年から6万トン(4%)減少して157万トンとなりました(図3-2-23)。また、生鮮の水産物を丸魚のまま、又はカットしたりすり身にしたりして凍結した生鮮冷凍水産物の生産量は、平成29(2017)年には前年から4万トン(3%)減少し、137万トンとなりました。

水産加工業の出荷額は、近年、3兆円台の水準で推移しており、平成28(2016)年は前年から1千億円(3%)減少し、3兆4千億円となりました(図3-2-24)。

図3-2-23 水産加工品生産量の推移

図3-2-23 水産加工品生産量の推移

図3-2-24 水産加工業の出荷額の推移

図3-2-24 水産加工業の出荷額の推移

エ 水産加工業の役割と課題

水産加工業は、腐敗しやすい水産物の保存性を高める、家庭での調理の手間を軽減するといった機能を通し、水産物の付加価値の向上に寄与しています。特に近年の消費者の食の簡便化・外部化志向の高まりにより、水産物消費における加工の重要性は高まっており、多様化する消費者ニーズを捉えた商品開発が求められています。

また、我が国の食用魚介類の国内消費仕向量の6割は加工品として供給されており、水産加工業は、我が国の水産物市場における大口需要者として、水産物の価格の安定に大きな役割を果たしています。加えて、水産加工場の多くは沿海市町村に立地し、漁業とともに漁村の経済を支える重要な基幹産業でもあります。

しかしながら、近年では、漁獲量の減少や、地域で水揚げされる漁獲物のサイズや魚種構成の変化等により、必要な量やサイズの加工原料の確保が困難となる事例が生じています。こうした事態に対し、これまでは輸入加工原料を用いるなどの対応がとられてきましたが、近年では、海外での水産物需要の拡大と我が国での輸入価格の上昇から、輸入による加工原料の確保も容易ではなくなってきています。さらに、地方を中心として人口減少と高齢化が進む中、技能を有する従業員の確保も水産加工業の重要な課題となっています。

オ HACCPへの対応

HACCP*1は、食品安全の管理方法として世界的に利用されていますが、米国や欧州連合(EU)等は、輸入食品に対してもHACCPの実施を義務付けているため、我が国からこれらの国・地域に水産物を輸出する際には、我が国の水産加工施設等が、輸出先国から求められているHACCPを実施し、更に施設基準に適合していることが必要です。

しかし、施設等の整備に費用が必要となる場合がある、従業員の研修が十分に行えていない事業所が多い等の状況もあり、水産加工場におけるHACCP導入率は、低水準に留まっています。

このため、国では、一般衛生管理やHACCPに基づく衛生管理に関する講習会の開催等を支援するとともに、EUや米国への輸出に際して必要なHACCPに基づく衛生管理及び施設基準などの追加的な要件を満たす施設として認定を取得するための水産加工・流通施設の改修等を支援しています。

特に、認定施設数が少数に留まっていた対EU輸出認定施設については、認定の加速化に向け、厚生労働省に加え水産庁も平成26(2014)年10月より認定主体となり、平成31(2019)年3月末までに23施設を認定し、厚生労働省の認定数と合わせ、我が国の水産加工業における対EU輸出認定施設数は63施設*2となりました。同3月末現在、対米輸出認定施設は411施設となっています(図3-2-25)。

なお、国内消費者に安全な水産物を提供する上でも、卸売市場等における衛生管理を高度化するとともに、水産加工業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入を促進することが重要です。水産加工業者を含む原則として全ての食品等事業者においては、平成30(2018)年6月に「食品衛生法等の一部を改正する法律*3」が公布され、2年を超えない範囲において政令で定める日から、HACCPに沿った衛生管理等の実施に取り組むことが求められることとなります(ただし、施行後1年間は経過措置期間とし、現行基準を適用します。)。

  1. Hazard Analysis and Critical Control Point:原材料の受入れから最終製品に至るまでの工程ごとに、微生物による汚染や金属の混入等の食品の製造工程で発生するおそれのある危害をあらかじめ分析(HA)し、危害の防止につながる特に重要な工程を重要管理点(CCP)として継続的に監視・記録する工程管理システム。FAOと世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会がガイドラインを策定して各国にその採用を推奨している。
  2. 平成31(2019)年3月末時点で国内手続が完了したもの。
  3. 平成30(2018)年法律第46号

図3-2-25 水産加工業等における対EU・米国輸出認定施設数の推移

図3-2-25 水産加工業等における対EU・米国輸出認定施設数の推移