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水産庁

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(1)漁業生産の状況の変化

 

(平成期には生産量の減少傾向が継続)

我が国の漁業は、第2次世界大戦後、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと漁場を拡大することによって発展しましたが、昭和50年代には200海里時代が到来し、遠洋漁業の撤退が相次ぐ中、マイワシの漁獲量が急激に増大した結果、漁業・養殖業の生産量は、昭和59(1984)年にピークの1,282万トンとなりました(図特-1-1)。その後、主に沖合漁業によるマイワシの漁獲量の減少の影響により、漁業・養殖業の生産量は平成7(1995)年頃にかけて急速に減少し、その後は緩やかな減少傾向が続いていました。平成23(2011)年には、東日本大震災の被害を受けた地域の生産量が大幅に減少したこと等により前年比10%減少となり、平成24(2012)年には、被災地の復興等により前年比2%増加したものの、その後も緩やかな減少傾向が続きました。マイワシの漁獲量の大きな変動については、海水温等が数十年間隔で急激に変化するレジームシフトによるものであるとする説が有力となっています。

図特-1-1 我が国漁業生産量の推移及び漁業を取り巻く状況の変化

図特-1-1 我が国漁業生産量の推移及び漁業を取り巻く状況の変化

(漁業生産額は平成後期には増加傾向へ)

漁業生産額は、海洋環境の変動等の影響から資源量が減少する中で、漁業者や漁船の減少等に伴う生産体制のぜい弱化や、国民の「魚離れ」による消費量の減少等により、昭和57(1982)年の2兆9,772億円をピークに平成24(2012)年まで長期的に減少してきましたが、平成25(2013)年以降は消費者ニーズの高い養殖魚種の生産の進展等により増加に転じています(図特-1-2)。平成期においては、漁業生産額のうち、海面漁業生産額が6割から7割程度を占めてきました。その額は、昭和58(1983)年以降、減少傾向となりましたが、平成21(2009)年以降は横ばい傾向となりました。一方、海面養殖業生産額は平成3(1991)年をピークに減少傾向となりましたが、平成26(2014)年以降は増加傾向となりました。内水面漁業・養殖業生産額は昭和57(1982)年をピークに減少傾向となりましたが、平成20(2008)年以降、増加傾向となっています。

図特-1-2 我が国漁業生産額の推移

図特-1-2 我が国漁業生産額の推移

(遠洋漁業の縮小が続き、漁船漁業生産量に占める割合は4割から1割に減少)

昭和後期、我が国の遠洋漁業は最盛期を迎え、その生産量は、ピークとなった昭和48(1973)年には400万トンに迫り、我が国の漁船漁業生産量全体の約4割を占めるまでになりました。しかし、昭和52(1977)年には、米国、ソビエト連邦などが200海里水域の設定に踏み切り、事実上200海里時代が到来したことにより、我が国の多くの遠洋漁船が米国200海里水域等の既存の漁場から撤退を余儀なくされました。その後は、公海域におけるカツオ・マグロ漁業等が遠洋漁業の主力となりましたが、公海域においてもマグロ類を中心に多くの外国漁船が操業を始めたこと等から、「大西洋のまぐろ類の保存のための国際条約」等に基づく漁業生産量の国別割当てや禁漁等も含む国際的な漁業管理が強化されました。また、我が国と条約非加盟国等との競合も激化したため、更に多くの我が国遠洋漁船が撤退しました。

こうした状況の中、平成元(1989)年には、遠洋漁業生産量は198万トンと、我が国の漁船漁業生産量全体の約2割となりました。平成期に入って以降も、遠洋漁業の縮小につながる動きが続きました。公海上での大規模流し網漁業については、平成3(1991)年の国連総会決議により平成4(1992)年末をもって停止されました。また、ベーリング公海漁業が平成4(1992)年の関係国会議において一時停止することで合意され、平成7(1995)年の「中央ベーリング海におけるすけとうだら資源の保存及び管理に関する条約」の発効以降も停止状態が続いています。さらに、平成5(1993)年に「北太平洋における溯河さくか性魚類の系群の保存のための条約」が発効し、北緯33度以北の北太平洋の公海における溯河性魚類の漁業が禁止され、さらに、ロシア200海里水域におけるさけ・ます流し網漁業が平成28(2016)年以降禁止されました。このほか、平成11(1999)年には、国際連合食糧農業機関(FAO)水産委員会において、各国が協調して過剰な漁船等を削減することを内容とする「漁獲能力の管理に関する国際行動計画」が採択され、我が国はこの内容に基づき、遠洋まぐろはえ縄漁業漁船の2割に当たる132隻の減船を実施しました。

近年、我が国の遠洋漁業の中心となっているのは、カツオ・マグロ類を対象とした海外まき網漁業、遠洋まぐろはえ縄漁業、遠洋かつお一本釣り漁業等であり、カツオ・マグロ類が我が国の遠洋漁業生産量の約9割を占めています。我が国の遠洋漁船は、公海水域のほか、太平洋島しょ国やアフリカ諸国等の各国の排他的経済水域(以下「EEZ」といいます。)においても操業を行っており、カツオ・マグロ類を始めとする高度回遊性魚類等については、地域漁業管理機関が定めるルールに従って、また、各国のEEZ内では、我が国と入漁先国との間に締結された政府間協定又は民間による入漁契約に基づき、操業が行われています。しかし、入漁先国側は、国家収入の増大及び雇用拡大を推進するため、入漁料の引上げ、現地加工場への投資や合弁会社の設立等を要求する傾向が強まっています。また、海洋環境の保護を重視する国も増加しており、入漁をめぐる状況は厳しさを増しています。

平成30(2018)年の遠洋漁業生産量は、我が国の漁船漁業生産量の約1割に当たる35万トンとなっています。

(沖合漁業は主要魚種であるマイワシやサバ類の生産量が大きく変化)

沖合漁業は、昭和期から平成期に至るまで我が国の漁業生産量の最も大きな割合を占めており、昭和50年代初め以降は、漁船漁業生産量の5割から6割程度を占めていました。しかし、沖合漁業の主要漁獲対象種は多獲性浮魚類と呼ばれる資源変動が激しい種であるため、漁獲魚種の構成については変化が見られます(図特-1-3)。1980年代には、それまでの主要魚種であったサバ類は漸減し、急増したマイワシが主要魚種となりました。1990年代に入るとマイワシが急減する一方でマアジやサンマの漁業生産量が増加しましたが、これら魚種の増加量はマイワシの急減をカバーするほどではなく、その結果、沖合漁業の生産量は急速に減少しました。平成期の中頃には、沖合漁業でかつてのマイワシほど大きな割合を占める魚種は見られず、漁獲魚種の構成は多様なものとなりましたが、近年、サバ類とマイワシの割合が増加してそれぞれ2割程度を占めています。

平成30(2018)年の沖合漁業生産量は、我が国の漁船漁業生産量の約6割に当たる204万トンとなっています。

図特-1-3 沖合漁業生産量が我が国漁業生産量に占める割合及び沖合漁業生産量の主要魚種別内訳の推移

図特-1-3 沖合漁業生産量が我が国漁業生産量に占める割合及び沖合漁業生産量の主要魚種別内訳の推移

(沿岸漁業は海洋環境の変化等により生産量が漸減傾向)

沿岸漁業(海面養殖業を除く。)の生産量は、昭和後期から平成初期にかけて盛んになった栽培漁業によって一部の種では増産効果が見られた時期もあったものの、平成期には総じて漸減傾向にありました。沿岸漁業生産量の減少の要因としては、海洋環境の変化も大きく影響していると考えられており、具体的には、磯焼けの発生や沿岸開発による水産生物の減少・稚魚育成適地の減少やサケ・マスの回帰率の低下などが問題となっています。一方、漁船漁業生産量に占める沿岸漁業生産量の割合については、昭和50年代には約2割を占めていましたが、遠洋・沖合漁業生産量が減少した平成期においては、3割程度のシェアに上昇し、平成30(2018)年には、97万トンとなりました。

沿岸漁業の多くは漁村の産業基盤となっています。漁村及び地域漁業の活性化のためには、漁業所得の向上を目標に、何が問題となっておりその解決のためにはどうすべきかを漁村地域が自ら検討し、解決の方策を決めることが必要です。各浜の漁業協同組合(以下「漁協」といいます。)等は、平成25(2013)年度から、市町村等と共同で地域の実情に即した「浜の活力再生プラン」を策定し、プランに掲げた取組の実施を開始しました。また、平成27(2015)年度からは、より広域的な競争力強化のための取組を行う「浜の活力再生広域プラン」も開始されました。

(海面養殖業は技術の普及・発展に伴い魚類の生産量が安定)

我が国の養殖業は、魚類、貝類、海藻類、さらには宝飾品である真珠といった多岐にわたる品目を生産しており、水産物需要の高級化と多様化に対応して、計画的かつ安定的な生産・供給が可能であるという特性を活かして発展してきました。我が国の海面養殖業の生産量は、平成6(1994)年にピークの134万トンとなった後、緩やかな減少傾向となっています。養殖業を魚種別に見ると、多くの種で生産量が減少する中、ブリ類の生産量は安定しています(図特-1-4)。近年では、既存の養殖業者による経営規模の拡大や協業化の取組が見られるほか、大手水産業者や水産業以外の分野の企業が養殖業に参入する事例も見られています。

また、魚類養殖においては、生餌を中心とした飼育が一般的でしたが、平成期においては、魚種によっては、モイストペレット(養殖現場で粉末配合飼料とミンチにした生餌を混ぜて粒状に成形した飼料)やドライペレット(乾燥した固形飼料)を中心とした、栄養効率や作業効率が良く、環境にも優しい飼育方法の導入が進むとともに、給餌量や飼育密度の適正な管理による品質やサイズの安定した養殖魚の生産が進みました。さらに、クロマグロ等の完全養殖の技術や飼育しやすい魚の開発が進められてきました。

養殖による生産量の割合が大きいホタテガイやブリ類は近年輸出が盛んに行われており、平成20(2008)年から30(2018)年までの直近10年間の輸出量を見てみると、ホタテガイが約7倍、ブリ類が約4倍に増加しました。また、平成17(2005)年に、FAOの水産委員会が、水産資源の持続性や環境に配慮して生産された水産物であることを証明する水産エコラベルに関するガイドラインを採択して以降、その認証を活用する動きが世界中で広がってきました。

図特-1-4 海面養殖業の魚種別生産量の推移

図特-1-4 海面養殖業の魚種別生産量の推移

(内水面漁業は生息環境の変化等により生産量が減少)

内水面漁業では、サケ類を除き、ほとんどの魚類で生産量が大きく減少しています(図特-1-5)。特にシジミの生産量は、ピークの昭和45(1970)年には約5万6千トンとなり、内水面漁業生産量の5割近くを占めていましたが、平成30(2018)年には約1万トンまで減少し、内水面漁業生産量に占める割合も約4割に低下しています。また、アユの生産量は、ピークの平成3(1991)年には約1万8千トンとなり、内水面漁業生産量の2割を占めていましたが、平成30(2018)年には約2千トンとなり、内水面漁業生産量に占める割合も1割以下となっています。

これら内水面魚種の生産量の減少の要因としては、河川工事等による内水面漁業資源の生息環境の変化、オオクチバス等の外来魚や、カワウ等の鳥獣の生息域の拡大と食害等が影響していると考えられています。このような資源状況の悪化を受け、平成期には、魚が行き来しやすい魚道の設置や産卵場の造成等、内水面漁業資源の回復を目指す活動も行われており、琵琶湖では平成20年代以降、ホンモロコやニゴロブナの漁業生産量が増加に転じるなど、一部の内水面漁業資源には回復の兆しも見られています。

図特-1-5 内水面漁業の魚種別生産量の推移

図特-1-5 内水面漁業の魚種別生産量の推移

(内水面養殖業は、コイの需要減少や魚病、ウナギ種苗の採捕量の減少により生産量が減少)

内水面養殖業生産量は、ピーク時である昭和63(1988)年には10万トンでしたが、平成30(2018)年には約3万トンとなりました。内水面養殖は全魚種で大きく減少していますが、特に食用コイ養殖での減少率が大きくなっています。これは需要の減少に加え、コイヘルペスウイルス病による大量斃死が原因と考えられます(図特-1-6)。

図特-1-6 内水面養殖業の魚種別生産量の推移

図特-1-6 内水面養殖業の魚種別生産量の推移

ウナギは、内水面養殖業生産量・生産額の中で大きな割合を占めていますが、養殖の種苗は天然資源であるシラスウナギに依存しており、その採捕量が低水準かつ減少基調にあることから、国内外での資源管理対策の推進が必要です。この問題意識に基づき、平成26(2014)年に日本、中国、チャイニーズ・タイペイ及び韓国の4者で「ニホンウナギその他の関連するうなぎ類の保存及び管理に関する共同声明」が発出され、各国・地域内における池入数量上限が定められ、以降、毎年の非公式協議において、共同声明の遵守状況や次漁期の池入数量の上限等についての確認等が行われています。また、国内における資源管理の強化のため、うなぎ養殖業は、平成26(2014)年11月から「内水面漁業の振興に関する法律*1」に基づく届出養殖業とされ、さらに、平成27(2015)年6月には農林水産大臣の許可を要する指定養殖業とされ、個別の養殖場ごとに種苗の池入数量の制限が行われています。

  1. 平成26(2014)年法律第103号

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