(1)我が国周辺の水産資源

ア 我が国の漁業の特徴
〈我が国周辺水域が含まれる太平洋北西部海域は、世界で最も漁獲量が多い海域〉
我が国周辺水域が含まれる太平洋北西部海域は、世界で最も漁獲量が多い海域であり、令和4(2022)年の漁獲量は、世界の漁獲量の20%に当たる1,885万tとなりました(図表3-1)。
この海域に位置する我が国は、広大な領海及び排他的経済水域(EEZ*1)を有しており、南北に長い我が国の沿岸には多くの暖流・寒流が流れ、海岸線も多様です。このため、その周辺水域には、世界127種の海生ほ乳類のうちの50種、世界約1万5千種の海水魚のうちの約3,700種(うち我が国固有種は約1,900種)*2が生息しており、世界的に見ても極めて生物多様性の高い海域となっています。
このような豊かな海に囲まれているため、沿岸域から沖合・遠洋にかけて多くの漁業者が多様な漁法で様々な魚種を漁獲しています。
また、我が国は、国土の約3分の2を占める森林の水源涵養(かんよう)機能や、降水量が多いこと等により豊かな水にも恵まれており、内水面においても地域ごとに特色のある漁業が営まれています。
- 海上保安庁Webサイト(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/ryokai_setsuzoku.html)によると、日本の領海とEEZを合わせた面積は約447万km2とされている。
- 生物多様性国家戦略2012-2020(平成24(2012)年9月閣議決定)による。
図表3-1 世界の主な漁場と漁獲量

イ 資源評価の実施
〈192種を資源評価対象種に選定〉
水産資源は再生可能な資源であり、適切に管理すれば永続的な利用が可能です。水産資源の管理においては、資源評価により資源量や漁獲の強さの水準と動向を把握し、その結果に基づき設定される資源管理の目標に向けて、適切な管理措置を執ることが重要です。近年では、気候変動等の環境変化が資源に与える影響や、外国漁船の漁獲の増加による資源への影響の把握も、我が国の資源評価の課題となっています。
我が国では、国立研究開発法人水産研究・教育機構を中心に、都道府県水産試験研究機関及び大学等と協力して、市場での漁獲物の調査、調査船による海洋観測及び生物学的調査等を通じて必要なデータを収集するとともに、漁業で得られたデータも活用して、我が国周辺水域の主要な水産資源について資源評価を実施しています。
令和2(2020)年に施行された改正漁業法では、農林水産大臣は、資源評価を行うために必要な情報を収集するための資源調査を行うこととし、その結果等に基づき、最新の科学的知見を踏まえて、全ての有用水産資源について資源評価を行うよう努めるものとすることが規定されました。また、国と都道府県との連携を図り、より多くの水産資源に対して効率的に精度の高い資源評価を行うため、都道府県知事は農林水産大臣に対して資源評価の要請ができることとするとともに、その際、都道府県知事は農林水産大臣の求めに応じて資源調査に協力すること等が規定されました。
このことを受け、水産庁は、広域に流通している種や都道府県から資源評価の要請があった種を資源評価対象種に選定することとし、平成30(2018)年度の資源評価対象種50種から、令和元(2019)年度には17種を加え67種に、令和2(2020)年度には52種を加え119種に、令和3(2021)年度には73種を加え192種に拡大しました。水産庁は、都道府県及び国立研究開発法人水産研究・教育機構と共に、漁獲量、努力量及び体長組成等の資源評価のためのデータ収集を行っています。
そのうち、令和5(2023)年度までに22種38資源について、新たな資源管理の実施に向け、過去の資源量等の推移に基づく資源の水準と動向の評価から、最大持続生産量(MSY)*1を達成するために必要な資源量と漁獲の強さを算出し、過去から現在までの推移を神戸チャート*2により示しました。さらに、資源管理のための科学的助言として、MSYを達成する資源水準の数値(目標管理基準値)案、乱獲を未然に防止するための数値(限界管理基準値)案及び目標に向かい、どのように管理していくのかを検討するための漁獲シナリオ案等に関する助言を国立研究開発法人水産研究・教育機構、都道府県水産試験研究機関等が行いました。また、資源管理の進め方を検討するに当たり、国立研究開発法人水産研究・教育機構等が、関係する漁業者等に、神戸チャート及び科学的助言の説明を行いました。また、過去の資源量の推移等から「高位・中位・低位」の3区分による資源水準の評価について、令和5(2023)年度は36種50資源について評価を行いました。
新たな資源管理の推進に向け、今後とも、国立研究開発法人水産研究・教育機構、都道府県、大学等が協力し、継続的な調査を通じてデータを蓄積するとともに、情報収集体制を強化し、資源評価の向上を図っていくことが重要です。
- Maximum Sustainable Yield:現在の環境下において持続的に採捕可能な最大の漁獲量。
- 資源量(横軸)と漁獲の強さ(縦軸)について、MSYを達成する水準(MSY水準)と比較した形で過去から現在までの推移を示したもの。
ウ 我が国周辺水域の水産資源の状況
〈22種38資源でMSYベースの資源評価を実施〉
令和5(2023)年度の我が国周辺水域の資源評価結果によれば、MSYベースの資源評価を行った22種38資源のうち、資源量も漁獲の強さも共に適切な状態であるものはスケトウダラ太平洋系群*1等の11種13資源(34%)、資源量は適切な状態にあるが漁獲の強さは過剰であるものはウルメイワシ対馬暖流系群等の2種2資源(5%)、資源量はMSY水準よりも少ないが漁獲の強さは適切な状態であるものはマアジ太平洋系群等の10種11資源(29%)、資源量はMSY水準よりも少なく漁獲の強さは過剰であるものはゴマサバ太平洋系群等の8種12資源(32%)と評価されました(図表3-2)。「高位・中位・低位」の3区分による資源評価により、資源の水準と動向を評価した36種50資源について、資源水準が高位にあるものは10資源(20%)、中位にあるものは9資源(18%)、低位にあるものは31資源(62%)と評価されました(図表3-3)。種・資源別に見ると、ニシン北海道やホッコクアカエビ日本海系群については資源量の増加傾向が見られる一方で、マアナゴ伊勢・三河湾やマガレイ日本海系群については資源量の減少傾向が見られています。
- 系群:一つの魚種の中で、産卵場、産卵期、回遊経路等の生活史が同じ集団。資源変動の基本単位。

図表3-2 我が国周辺の資源水準の状況(MSYをベースとした資源評価 22種38資源)

図表3-3 我が国周辺の資源水準の状況(「高位・中位・低位」の3区分による資源評価36種50資源)

コラム漁業調査船「開洋丸(かいようまる)」の竣工(しゅんこう)
水産庁は、各種調査機器や大型表中層トロール網等を搭載する漁業調査船「開洋丸」を運航し、水産生物の高精度な資源調査及び海洋環境調査等の高度な調査を行っています。現在の開洋丸は3代目であり、平成3(1991)年に竣工した2代目開洋丸の老朽化に伴う代船として、令和5(2023)年3月に竣工して以来、調査航海に従事しています。
令和5(2023)年度には、最新鋭の調査機器と高い耐候性能を活かして、高知県地先沖における宝石サンゴ漁場環境調査、天皇海山(てんのうかいざん)海域における冷水性サンゴ類・底魚類等の分布調査、気象条件が過酷な厳冬期の北太平洋公海におけるサンマ資源の減少と分布変動の要因を解明するための北西太平洋冬期サンマ産卵場調査等の資源等調査に加え、令和5(2023)年8月のALPS処理水*の海洋放出に際し、東京電力福島第一原子力発電所沿岸海域においてモニタリング調査を行うなど、近海から遠洋までの広い海域で高度な調査を実施しました。
開洋丸による調査は、国際条約等に基づいて行われる国際共同調査をはじめ、政策的な意義が高く、緊急の対応が必要な調査や、水産生物及びその環境に関する新たな知見を得るための調査であり、極めて重要なものです。水産庁は、今後も開洋丸による調査を通じて各種の貴重な科学的データを収集し、水産資源の持続的な利用に活かしていきます。
- 多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)等によりトリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たすまで浄化処理した水
お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344