水産業・漁村地域の活性化を目指して
―令和6(2024)年度農林水産祭受賞者事例紹介―
天皇杯受賞(水産部門)
経営(漁業経営改善)
中辻(なかつじ)清貴(きよたか)さん
北海道最北端の稚内(わっかない)市から海上52kmを隔てた利尻島(りしりとう)の南西部に位置している利尻町(りしりちょう)は、人口の約2割が水産業に従事しており、ホッケのまき網等の漁船漁業、エゾバフンウニ等の磯根資源を獲る漁業、リシリコンブの採藻漁業や養殖業などが主に営まれています。
中辻さんが代表を務める中辻(なかつじ)漁業部では現在コンブ養殖業を中心にウニ漁業、ナマコ漁業にも従事しています。
利尻島でのコンブの乾燥は天日干しが基本であるため、秋の出荷に向け6月末から収穫作業が開始されますが、収穫は乾燥に適した日にしか行うことができないことに加え、7月半ばから品質低下の原因となる付着生物が増加するため、適切な時期での収穫が困難でした。これらの課題を解決し安定的な生産を目指し、中辻さんは室内で作業が行えるよう作業倉庫や機械乾燥を含む大型乾燥施設の導入を行いました。
作業倉庫での工夫によって、作業動線の確保や、省スペース化・省力化など効率化されたほか、人件費の削減に繋がりました。また、乾燥施設の導入により従来晴天時に行っていた収穫が曇天時でも可能となりました。この取組によって、適切な時期での収穫が可能となり、付着生物により品質が低下した製品が減少し、屋内での作業が可能となったことで鳥の糞害を受けなくなりました。
不安定な天候や、付着生物の被害拡大状況を鑑みると、乾燥施設の導入を検討している経営体も少なくないと予想されています。中辻漁業部では見学や視察も受け入れており、今後、乾燥施設を導入する経営体へ有用な情報共有が行われることで、当該地域を中心とした技術普及の進展が期待されます。


内閣総理大臣賞受賞(水産部門)
経営(地域活性化)
株式会社天洋丸(てんようまる)(代表:竹下(たけした)千代太(ちよた)さん)
長崎県雲仙(うんぜん)市は島原半島の北西部に位置している一次産業が主体の地域です。その南端に位置する南串山(みなみくしやま)地区は、橘湾の恵みを受け農漁業が盛んな地域です。
株式会社天洋丸は、中型まき網漁業を主たる業としており、主に煮干原料のカタクチイワシを漁獲し地元加工業者などへ供給しています。まき網漁船は多くの乗組員が必要ですが、高齢のパート従業員が多く安定的な労働力確保が課題となっていました。
そこで同社は、漁業に興味はあるが一生働けるか不安であるという理由で着業に躊躇している人や、生産現場を知り自分の経験値を上げたい方などに向けて着業のハードルを下げることを目的に、気軽に漁師として働けるよう、一年限定の漁師(以下「一年漁師」といいます。)の取組を令和3(2021)年から開始しました。仕事内容や待遇は正社員と同様であり、応募者に既存の取組にはない着業の気軽さと安心感をもたらしました。これまで3名が「一年漁師」を修了し、1名は同社の正社員、残り2名は水産業と関わり得る人材や漁獲物のユーザーとなっています。
「一年漁師」を他の漁業者に普及するためには、受入側が会社経営であることや応募者に合わせた業務を割り当てられる多角的経営であること等の条件が必要となりますが、本取組は現在の若者の働き方への多様な価値観に合致していると考えられ、今後もこうした若者の受け皿となり、当事例も含め類似の事例が増加すれば日本全体の新規就業者数の拡大が期待されます。


日本農林漁業振興会会長賞(水産部門)
産物(水産加工品)
有限会社 三好蒲鉾(みよしかまぼこ)(代表:三好(みよし)忠之(ただゆき)さん)
山口県萩(はぎ)市は、日本海に面しており、沖合には対馬海流が流れ、点在する多くの島々や天然礁の存在があり、県内でも有数の漁獲量を誇る地域です。
有限会社三好蒲鉾の主な事業はかまぼこ製造業であり、からだに優しい練製品づくりを理念としています。
同社が製造する「萩」は、かまぼこの中でも萩地方発祥の「焼き抜き」という種類で、特徴は、低温で加熱し焦げ色を付けないように焼き上げます。かまぼこ等の練製品は一般的には冷凍すり身が使用されますが、「萩」は、萩市産の生鮮の原料を使用しています。原料は時期やサイズ等で品質のばらつきがありますが、同社は人工添加物を使わず、先代からの伝承、自ら築き上げてきた経験や技術により高品質な製品に仕上げることに成功しています。
同社は山口県の特産品である練製品製造を軸にして、地域活性化のイベントの企画等で他地域の水産業振興の見本となるような取組も行っており、こうした取組は日本の各地域に多々ある地域漁業と深く結びつく中小水産加工業の今後の発展の道筋を示すものとして普及性が高いと評価されました。伝統的な手法を用いた近年の健康志向の消費者ニーズにあった製品開発、山口県ブランドへの貢献から更なる発展が期待されます。


お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344