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水産庁

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(2)水産政策の改革の具体的な方向

ア 新たな資源管理システムの推進

(国際的に見て遜色のない資源管理システムを導入)

漁業の成長産業化のためには、基礎となる資源を維持・回復し、適切に管理することが重要です。このため、資源調査に基づいて、資源評価を行い、漁獲量がMSYを達成することを目標として資源を管理する、国際的に見て遜色のない科学的・効果的な評価方法及び管理方法を導入することとしています(図特-3-1)。

図特-3-1 資源管理の流れ

図特-3-1 資源管理の流れ

(資源評価の高度化を図り、対象を拡大)

資源評価を行うためには、必要なデータを収集する資源調査が重要です。

このため、資源ごとに、1)資源の発生状況等に関する情報、2)年齢ごとの資源尾数、自然の減耗率、漁獲による死亡率等の推定に加え、3)近年の海洋環境の変化が自然の減耗率等に与える影響の把握を行うこととし、これに必要な情報を収集するために調査体制を強化することとしています。

資源評価については、資源ごとに、1)MSYを達成するために必要な「資源量」と「漁獲の強さ」を算出し、2)これらと比較した形で過去から現在までの推移を神戸チャート*1により示し、3)行政機関がMSYを達成するための管理方法の検討を行う材料を提供することとしています。

また、資源調査・評価を行う国立研究開発法人水産研究・教育機構の中に新たに「水産資源研究センター」を設置し、独立性が高く、透明性・客観性のある世界水準の資源評価を実施していきます(図特-3-2)。

資源評価対象魚種については、令和5(2023)年度までに200魚種程度に拡大することを目指し、それ以降もデータの蓄積と資源評価精度の向上を図っていくこととしています。

  1. 96ページ参照。

図特-3-2 水産資源研究センター構想

図特-3-2 水産資源研究センター構想

(産出量規制を推進)

現行のTAC魚種に加え、TAC対象ではない魚種についても、漁獲量が多いものを中心に順次、資源評価の公表と検討会の開催を進め、令和5(2023)年度までに漁獲量ベースで8割をTAC管理とすることを目指しています。このほか、地域漁業管理機関(RFMO)で国際的な資源管理が行われている資源のうち我が国が漁獲しているもの(ミナミマグロ等)については、当該機関で定められた保存管理措置を踏まえ、TAC魚種としていく方針です。

また、IQについては、TAC魚種を主な漁獲対象とする大臣許可漁業において、準備が整ったものから順次、新漁業法に基づくIQによる管理を行うこととしています。

(資源管理協定による自主的な資源管理の取組を促進)

TAC対象とならない魚種についても、漁業生産力を発展させるため、資源管理を行うことで資源を回復させ適切な水準を維持していくことが重要です。新漁業法では、1)非TAC魚種についても、報告された漁業関連データや都道府県の水産試験場などが行う資源調査を含む利用可能な最善の科学情報を用い、資源管理目標を設定する、2)資源管理目標の達成に向け、関係漁業者が新漁業法に基づく「資源管理協定」を策定し、資源の保存及び管理に効果的な取組を実践していく、3)資源管理の状況の評価・検証を定期的に行い、より効果的な取組へのバージョンアップを促進するとともに、検証結果を公表し、透明性の確保を図っていくこととしています。

(漁獲情報の収集体制を強化)

漁獲情報の収集は、資源状況と漁獲状況の把握、環境変動が資源に与える影響の把握、資源管理の取組状況のモニタリングなど、資源評価と資源管理双方にとって重要です。このため、新漁業法では、新たに知事許可漁業に対し、漁獲実績報告を義務付けるとともに、漁業権漁業についても資源管理や漁場の活用の状況の報告を義務付けています。これらの漁獲情報については、電子的な手段で報告・収集することにより、漁業者の負担を軽減しつつ、資源評価に活用するとともに、分析結果を漁業者等に情報提供することも可能となることから、スマート水産業の取組として位置付けて推進しています。例えば、大臣許可漁業においては、電子的な漁獲成績の報告を推進していきます。また、資源評価を高度化するため、全国の主要な漁協や産地市場から水揚情報を電子的に収集する体制や、沿岸漁船の標本船からICT機器を活用して、操業・漁場環境情報を収集する体制を構築することとしています。

(漁業収入安定対策の見直し)

漁業収入安定対策事業は、計画的に資源管理等を行う漁業者の経営を支えるため、漁獲変動等による減収を補てんしています。新たな資源管理システムの下で、IQの導入や新漁業法に基づく「資源管理協定」の策定等を踏まえて、漁業収入安定対策の見直しを行い、新たな資源管理に取り組む漁業者の経営を支えることとしています。

イ 漁業の生産基盤の強化と構造改革の推進

(浜の活力再生プランや漁場の総合的な利用を通じた漁村地域の活性化の取組)

沿岸漁業においては、少量でも多種多様な水産物が水揚げされており、それぞれの地域ごとの実情に即して漁業者の所得向上のために課題解決に取り組んでいくことが重要です。このため、地域の漁業者自らが解決策を考えて合意形成を図っていくことが必要であり、地方公共団体との連携の下でのこうした取組を後押しするものとして、「浜の活力再生プラン」を推進することとしています。例えば、漁協が直売所の運営を開始し、地域の漁獲物の品質向上等によって付加価値を高め、漁業者の所得向上につなげようとする取組などを支援していくことなどが挙げられます。

地域の漁業の活力を維持していくためには、漁業者が漁場を適切かつ有効に活用していくことが求められており、利用されなくなったり利用度が低下した漁場については、協業化や地区内外からの新規参入を進めるなど、その総合的な利用を図っていくことが重要です。新漁業法においては、漁業権設定のマスタープランである海区漁場計画を都道府県が作成するに当たって、当該地区で漁業を営む者だけでなく新規参入を含めた漁場を利用しようとする者の意見を幅広く聞くこととするなど、透明性の高いプロセスの下で水面の総合的な利用を推進する仕組みが導入されています。

事例消費者ニーズを捉えて収入向上へ ~直売所「JF糸島いとしま 志摩しまの四季」~

福岡県糸島市にある「志摩の四季」は、糸島漁業協同組合が糸島市観光協会と協力し、平成19(2007)年に開設した直売所です。かつては、糸島市で水揚げされた魚介類のほとんどが隣接する福岡市にある福岡市中央卸売市場に卸され、福岡都市圏を始め、全国各地へ供給されていましたが、もっと地域の人に糸島で水揚げされる魚介類を届けたいという漁業者・漁協関係者の思いから、この直売所の開設に至りました。

ここでは、丸ごとの魚のほか、家庭ですぐに調理できる形態まで、消費者のニーズに合わせて漁業者自身が、毎朝、一次加工*1しパック詰めした新鮮で安価な魚介類がたくさん並びます。また、家庭ではなかなか調理することができない丸ごとの魚も、3パックまで無料で三枚おろしまで調理してもらえるため、安心して購入することができます。さらに、店内にはカメラが設置され、棚の様子がWebサイトで生配信されているため、いつでもどこでも誰でも商品の品揃えや売行きを見ることができます。一方で、漁業者自身もこの映像を確認することで、商品の追加や値下げのタイミングを計ることができます。

直売所ができたことにより、漁業者の販路が広がり、サイズが不揃いなものなど、これまで市場では値が付かなかった魚介類であっても、漁業者自身が価格を設定し、販売できることから、収入の向上につながっています。

さらに、地元の直売所で糸島産水産物の魅力をPRすることにより、糸島の知名度が向上し、地元のみならず他の地域からの来客が増え、糸島地域の活性化にもつながっています。

  1. 原料を大きく変えずに、物理的あるいは微生物的な処理や、加工を行うこと。魚介類においては主に、下処理をし、開きや切り身、フィレー、むき身などに加工すること。
漁業者自身が一次加工・パック詰めした商品の写真
店内の加工コーナーの写真

(漁船漁業の収益性の高い操業・生産体制への転換を推進)

漁船漁業では、漁船の高船齢化や漁場環境の変化など、漁業者は厳しい状況に直面しています。また、船員等の人手不足も今後更に深刻化していくことが懸念されます。さらに、公海等で操業する漁船については、外国漁船との競争に勝てる能力を持つことも必要となっています。このため、漁業者の生産性の向上に資する収益性の高い操業・生産体制への転換を通じた構造改革を推進していくことが重要です。

また、漁獲物の品質・単価の向上、効率的な漁獲等を図るとともに、操業コストの削減、操業の効率化による従業者の確保又は労働時間の削減を促進していくことも必要となっています。新漁業法においては、資源管理の進展等によりIQの導入が進んだ漁業について、トン数制限など漁船の大型化を阻害する規制を定めないこととする等により、コスト削減や漁船の居住性・安全性の向上に資する許可の仕組みが整備されています。今後は、沖合・遠洋漁業において、資源管理に取り組みつつ、より厳しい経営環境の下でも操業を継続できるよう、高性能漁船の導入等により収益性の高い操業・生産体制への転換を推進していきます。併せて、漁船の居住性・安全性・作業性の向上や洋上でのインターネット環境整備などにより、漁業の労働環境の改善を促進することとしています。

事例沖合・遠洋漁船における労働環境の改善の取組

沖合・遠洋漁業では、長い航海中、船内で過ごすこととなります。しかし、海上では、陸上と異なり、船員の居住スペースが限られ、また、航海中に気軽に家族や友人等とのコミュニケーションをとるための情報通信インフラの整備が遅れています。このような漁業の労働環境も、若者が就職しづらく感じる一因だと考えられます。

そこで、近年、漁業の労働環境を改善するために、船を大型化し、漁船の居住性・安全性・作業性を向上させる取組が行われています。例えば、海外まき網漁業では、ドライミスト噴霧装置設置による暑熱対策やWi-Fiインターネット環境整備を行うことで船員が過ごしやすい環境を整えたり、ヘリコプターを搭載することで魚群探索の効率を飛躍的に向上させたりしています。また、沖合底びき網漁業では、居住空間を拡大するとともに、全て上甲板に配置して、より安全性を高める取組が広まっています。

このように漁船の居住性・安全性・作業性を向上させることで、船員がより良い環境で働けるようになるだけでなく、若者にとって魅力的な職場になることが期待されます。

図:漁船の居住性・安全性・作業性の向上の事例

図:漁船の居住性・安全性・作業性の向上の事例

(新規就業を支援するとともに、ICTの活用等により人材の確保・育成を図る)

漁業を将来にわたって維持・拡大していくためには、新規漁業就業者を継続的に確保・育成し、年齢のバランスのとれた漁業就業構造を構築することが重要です。

このため、新規に漁業に就業しようとする者が漁業経験ゼロからでも就業・定着できるよう、就業に当たって必要な漁船・漁具の取扱いを始めとする漁業に関する知識・技術の習得について支援していくとともに、1)海技士の資格取得の促進、2)ICTも活用したたくみの技の伝承、3)地域外からの就業者を受け入れていく浜の意識改革を推進することとしています。

事例労働条件の改善により若い人材を確保(小田原おだわら市漁業協同組合)

全国的に漁業就業者の高齢化が深刻な問題となっていますが、労働条件を改善し、より魅力的なものとすることにより、就業者の大幅な「若返り」を実現したケースもあります。

神奈川県の小田原市漁業協同組合では、漁協自営の定置網2か統を運営しています。昭和30年代まではブリの大漁により潤っていましたが、その後は、漁獲の低迷により経営が悪化するとともに、漁船員の高齢化が深刻な状況となっていました。

平成10(1998)年、漁具の更新によって漁獲効率が向上したことを機に、雇用形態についても見直しを行い、給与の歩合制を廃止して、一般企業と同様の月給制(固定給)を導入しました。また、年に2回の賞与のほか、水揚状況に応じた加算金も支給することにしました。

それ以降、求人広告や知り合いの紹介により、10代から30代の若い人材が相次いで就業するようになり、見直し前は50代から70代が主体だった漁船員は、令和2(2020)年には、20代、30代が中心で、平均約35歳と大きく若返りました。新規就業者は、新卒者や他業種からの転職など、漁業以外からの就業が多くを占めており、現在の漁労長も23歳のときにアパレル業界から転職してきたそうです。

若い就業者が増えたことにより、体力を要する仕事を機敏に行える貴重な労働力の確保という大きなメリットのほか、様々な効果がもたらされています。例えば、若い就業者は神経締めなどの新たな技術の導入に意欲的で、付加価値向上のための取組に寄与しています。また、若い組合員が増えたことにより、漁協の青年部の活動が活発化し、農業残滓ざんしを利用したウニの蓄養試験などの取組を通じて漁協内に一体感が生まれています。さらに、小田原漁港で毎年開催される「小田原みなとまつり」などのイベントにも積極的に参加しており、浜全体の活性化にもつながっています。

図:小田原市漁業協同組合定置部の年齢構成の推移

図:小田原市漁業協同組合定置部の年齢構成の推移
定置網漁業の作業の様子の写真
作業する若手漁業就業者の写真

(ICT・AI等新技術の積極的な導入等による「スマート水産業」の推進)

漁業就業者の高齢化・減少といった我が国水産業の厳しい現状を踏まえると、生産性や所得の向上を通じた水産業の成長産業化を実現するためには、近年著しい技術革新が図られているICT・IoT・AIといった技術やドローン・ロボット技術を積極的に活用することが求められています。

このため、水産庁では、令和5(2023)年度までに10日先までの漁場予測情報を1,000隻以上の漁船に提供するという目標を掲げて、その開発・普及を推進することとしています。また、2~3年以内に10か所以上の海域で、ICTやAIを搭載した自動給餌機や浮沈式生け簀を導入し、養殖業の高度化を目指していきます。さらに、自動かつお釣り機の開発等により、船上での省人・省力化を推進しています(図特-3-3)。

これらの取組や資源評価で得られるデータなど、生産から流通にわたる多様な場面で得られるデータの連携・共有・活用を可能とする「水産業データ連携基盤」を令和2(2020)年中に構築し、データのフル活用による効率的・先進的な「スマート水産業」を推進することとしています(図特-3-4)。

図特-3-3 運用段階にあるICT・AI技術の例

図特-3-3 運用段階にあるICT・AI技術の例

図特-3-4 スマート水産業が目指す2027年の将来像

図特-3-4 スマート水産業が目指す2027年の将来像

事例IoT・AIの技術を養殖現場で活用

近年、IoT・AI等の最新技術を養殖業の現場で活用する取組が、民間企業において積極的に取り組まれています。例えば、IoT・AI技術を装備し、インターネットに接続された自動給餌機が開発され、愛媛県愛南あいなん町で実証実験が行われています。

この給餌システムは、水中のカメラを通して魚が餌を食べる様子をリアルタイムで確認しながら給餌調整ができるとともに、生け簀内の映像から魚の食べ方をAIにより解析し、食欲低下時にはスマートフォンやパソコンにアラームで知らせる仕組みとなっているため、餌の削減や生育改善につながります。また、海上の生け簀に行かなくても遠隔での給餌操作が可能であることから、作業負担が軽減されます。

この給餌機を利用している養殖業者からは、「今まで気がつかなかった無駄な給餌に気がつくことができた」などの声が上がっています。

アプリ操作画面の写真
養殖場の生け簀で使用されている自動給餌機の写真
AIが魚の食欲解析結果を表示の写真

ウ 漁業者の所得向上に資する流通構造の改革

(マーケットインの発想により、品質・コスト両面で競争力のある流通構造を確立)

近年、我が国の水産物の流通量が減少している一方で、直接取引やインターネットを通じた生産者の直売等による市場外流通が増えています。

こうした情勢変化を踏まえ、水産物流通についても、マーケットインの発想に基づき、生産者と加工業者・流通業者が連携した低コスト化・高付加価値化等による物流の効率化や、スマート水産業の推進の一環としての取引の電子化、ICT・AIを活用した選別・加工技術の導入、新たな鮮度保持技術の導入、水産加工施設のHACCP対応等による品質・衛生管理の強化、国内外の需要に対応した生産などを推進し、輸出を視野に入れて、品質面・コスト面等で競争力ある流通構造の確立を目指しています。

また、産地市場の機能強化を図るため産地市場の統合・重点化を推進するとともに、産地施設の近代化による品質・衛生管理体制を強化し、消費者ニーズに応えた水産物の供給を進めることとしています。

さらに、資源管理の徹底とIUU漁業の撲滅等を推進する観点から、漁獲証明制度の検討も含め、水産トレーサビリティの取組を推進することとしています。

(戦略的な輸出拡大の取組を促進)

国内の水産物市場が縮小する一方で、世界の水産物市場はアジアを中心に拡大しており、世界市場に向けて我が国の高品質で安全な水産物を輸出していくことは、販路拡大や漁業者等の所得向上を図っていく上でも重要となっています。

このような中、令和元(2019)年11月に公布された「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律*1」に基づき、令和2(2020)年4月に、輸出促進を担う司令塔として、「農林水産物・食品輸出本部」が農林水産省に創設されることとなりました。この本部においては、輸出を戦略的かつ効率的に促進するための基本方針や実行計画(工程表)を策定し、進捗管理を行うとともに、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質に関する輸入規制の緩和・撤廃を始めとした輸出先国との協議の加速化、輸出向けの施設整備と施設認定の迅速化、輸出手続の迅速化、輸出証明書発行等の申請・相談窓口の一元化・利便性向上、輸出に取り組む事業者の支援等を推進することとしています。

令和2(2020)年3月31日に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」においては、令和12(2030)年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円とする新たな目標(うち、水産物の輸出額は1.2兆円)が位置付けられました。

水産物の輸出の大幅な拡大を図り、世界の食市場を獲得していくため、輸出先国の条件に合う生産海域の拡大や水産加工施設等の改修・機器整備、バリューチェーン関係者が連携した国際マーケットに通用するモデル的な商法・物流の構築、水産エコラベル認証の活用、EU-HACCP認定が可能な高度衛生管理型荷さばき所の整備、冷凍・冷蔵施設等との一体的整備による集出荷機能の強化、養殖水産物の生産機能の強化等を推進することとしています。

  1. 令和元(2019)年法律第57号

(我が国水産物の販路の多様化につながる水産エコラベルの活用を推進)

エコラベルは、資源の持続的利用や環境に配慮して生産されたものであることを消費者に情報提供するためのラベルの総称です。水産業界においても欧米を中心に、資源の持続性や生態系に配慮して生産された水産物を認証することで、商品に「水産エコラベル」を表示し、活用する動きが始まり、今や世界的に広がりつつあります。

我が国で、主に活用されている水産エコラベル認証には、MEL(マリン・エコラベル・ジャパン)、AEL(養殖エコラベル)、MSC(海洋管理協議会)、ASC(水産養殖管理協議会)がありますが、漁業者や農林水産行政に関心のある消費者における認知度*1は10%前後と低く、流通加工事業者においても、24.3%となっています。このような中、我が国水産業の実態に即した水産エコラベル認証スキームであるMELは、令和元(2019)年12月に、GSSI(Global Sustainable Seafood Initiative:世界水産物持続可能性イニシアチブ*2)から承認を受けました*3。これにより、国際的に通用する規格・認証スキームとして、我が国水産物が持続可能な漁業・養殖業由来であることを世界にPRしていくことが期待されます。

今後、水産エコラベルの認証取得の促進を図り、これが表示された水産物が店頭に置かれ、消費者の目に触れる機会を増やすとともに、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の水産物調達基準を満たすものとして、水産エコラベルの認知度の向上を図り、さらなる認証取得につながる取組を促進し、その普及を図ることとしています。

  1. 農林水産省「食料・農業及び水産業に関する意識・意向調査」(令和2(2020)年3月31日公表)
  2. ドイツ国際協力公社(GIZ)や国際的な水産関係企業及びNPO法人らにより、持続可能な水産物の普及を目的として、水産エコラベル認証スキームの信頼性確保と普及改善などを行うために平成25(2013)年に設置されたもので、現在、MSC、ASCを始めとする9つの認証制度が承認を受けている(令和2(2020)年3月末現在)。
  3. 承認の対象は、漁業Ver2.0、養殖Ver1.0、流通加工Ver2.0。

事例海とともに生きるまち、愛南町 ~愛南のエコフィッシュ~

愛媛県最南端に位置する愛南町は、温暖な気候やリアス海岸など自然に囲まれた地であり、全国有数の養殖生産量と環境に配慮した養殖生産を両立している町です。愛南漁業協同組合では、平成29(2017)年3月にAEL認証を取得し、令和2(2020)年2月にはMELの養殖認証(対象魚種:マダイ)を取得しました。

水産エコラベルの養殖認証は、1)生産活動の社会的責任、2)対象水産動物の健康と福祉、3)食品安全の確保、4)環境保全への配慮の4要素から構成されています。愛南漁業協同組合では、生け簀台数・養殖日数・飼育密度のマニュアルに沿った徹底管理、大学・町と連携した環境モニタリング、養殖魚の健康診断や魚病検査による健康管理といった取組が評価されました。

また、首都圏の百貨店におけるフェアの開催などの機会を通じて、商品や生産者の紹介とともに、水産エコラベルの意義や持続的な養殖生産の重要性の啓発活動を地元の宇和島うわじま水産高校と連携して行っています(写真)。

さらに、水産エコラベル認証を取得したことにより、これまでは単発的であった輸出に対しても、水産エコラベル付きの商品を求める海外のバイヤーとの商談に応じることができるようになり、商談会等を通じて、海外の新たな顧客を獲得するための取組が加速しており、今後の活動の広がりが期待されます。

MEL認証マークの写真
商品プロモーションの様子の写真
宇和島水産高校の生徒による水産エコラベルの説明の写真

エ 養殖業の成長産業化及び内水面漁業の振興

(マーケットイン型の養殖業により、国内・海外の市場における競争力を強化)

我が国で生産された養殖魚は、消費者からの評価も向上しており、今後も商材として一定の需要が見込めると考えられていますが、国内の水産物市場は、人口減少により縮小傾向で推移すると見込まれています。一方で海外における需要は今後も拡大していくと見られており、今後伸びていく需要を取り込んでいくための課題を解決する必要があります。

このため、国は、国内外の需要を見据えて戦略的養殖品目を設定し、生産から販売・輸出に至る総合戦略を立てた上で、養殖業の振興に本格的に取り組むこととし、「養殖業成長産業化総合戦略」を策定することとしました。

同戦略では、国内市場向けと海外市場向けに分けて成長産業化に取り組むとともに、いずれの場合も、養殖業の定質・定量・定時・定価格な生産物を提供できる特性を活かし、需要に応じた養殖品目や利用形態の質・量の情報を能動的に入手し、需要と生産サイクルに応じた計画的な生産を図りながら、プロダクト・アウト型から、「マーケットイン型養殖業」へ転換していくこととしています。マーケットイン型養殖業を実現していくためには、生産技術や生産サイクルを土台にし、餌・種苗等、加工、流通、販売、物流等の各段階が連携・連結しながら、それぞれの強みや弱みを補い合って、養殖のバリューチェーンの付加価値を向上させていくことが重要であり、現場の取組実例を参考に、5つの基本的な経営体の例が示されています(図特-3-5)。

1)生産者協業

複数の比較的小規模な養殖業者の連携

2)産地事業者協業

養殖業者と漁協や産地の餌供給・加工・流通業者との連携

3)生産者型企業

養殖業者からの事業承継や新規漁場の使用等により規模を拡大する地元養殖企業

4)一社統合企業

養殖バリューチェーンの全部又は大部分を1社で行う企業

5)流通型企業

養殖業者の参画を得るなどし、養殖から販売まで行う流通や販売を本業とする企業

図特-3-5 将来の養殖業のイメージ

図特-3-5 将来の養殖業のイメージ

(内水面における資源の増殖と水産生物の生息環境の再生・保全を推進)

河川・湖沼などの内水面は、一般的に海面と比べて生産力が低い一方で、遊漁者等漁業者以外の利用者も多いことや、森林や陸域から適切な量の土砂や有機物、栄養塩類を海域に安定的に流下させることにより、干潟や砂浜を形成し、海域における豊かな生態系を維持する役割も担っていることから、資源の維持・増大や水産生物の生育環境の再生と保全が重要となっています。

これらを踏まえ、漁場を管理する漁協による種苗放流や産卵場の整備等による資源の増殖のための取組を促進するとともに、自然との共生や環境との調和に配慮した多自然川づくりを進めることとしています。この多自然川づくりは、全ての川づくりの基本であり、災害復旧を含む河川管理における全ての行為を対象とし、魚道の設置や改良、産卵場となる砂礫底や植生の保全・造成、様々な水生生物の生息場所となる石倉増殖礁(石を積み上げて網で囲った構造物)の設置等を推進することとしています。

また、河川・湖沼の環境保全は、その役割を広く一般国民に知ってもらうことが重要であることから、内水面漁業者等が行う普及・啓発活動や自然体験活動を推進します。

オ 漁業・漁村が有する多面的機能の発揮

(漁業・漁村の多面的機能の発揮のための取組を促進)

漁業及び漁村は、漁業生産活動を通じて国民に魚介類を供給する役割だけでなく、自然環境を保全する機能、国民の生命・財産を保全する機能、地域社会を形成・維持する機能等の多面的機能を有しています。

平成30(2018)年5月に閣議決定された第3期「海洋基本計画」においては、水産業の振興を図ることが漁業者等を中心とした国境監視機能の強化につながることが位置付けられるなど、漁業・漁村の多面的機能の重要性は更に高まっており、これらについての国民の理解を広く促していくことが求められています。

こうしたことから、新漁業法においては、国及び都道府県は、漁業・漁村が多面的機能を有していることに鑑み、漁業者等の活動が健全に行われ、漁村が活性化するよう十分配慮することが規定されるとともに、漁協等による沿岸水域における赤潮監視や漁場清掃等の漁場保全活動を漁業者以外の者を含む幅広い受益者の協力を得て推進するための仕組みとして、沿岸漁場管理制度が導入されています。

事例多面的機能に対する国民の理解の増進

水産多面的機能を効率的・効果的に発揮するためには、地域住民や非営利団体等と連携して活動組織の維持・拡大を図り、積極的な情報発信等を通じて一層の国民の理解の増進を図りながら進めることが重要です。水産庁では、専門Webサイト(「ひとうみ.JP」)やSNS(Facebook「水産庁suisan」)の活用、各種イベントでのパンフレット配布等を通じて水産多面的機能の意義や概要の普及啓発に取り組んでいます。また、これまで関係者を対象にしていた事業報告会を公開のシンポジウム形式に衣替えし、水産多面的機能に対する国民的な関心の喚起にも取り組んでいます。

平成31(2019)年2月に開催したシンポジウム「里海保全の最前線」では、水産多面的機能発揮対策と小中学校との連携を念頭に、海や川を題材とした環境教育事例の紹介や、学校が外部連携する際のメリットとデメリット(学校側の不安)などについて意見交換を行いました。このほか、第三国不審船漂着の現場での取組など全国に存在する漁村と漁業者による巨大な海の監視ネットワークの実情が紹介され、漁業や漁村が有する国境・水域監視機能の力強さを改めて認識する機会となりました。

水産庁では、水産多面的機能の発揮に資する各地の活動が地元の活動として根付くよう、関係者に対して創意工夫を促しつつ支援していくこととしています。

平成30年度水産多面的機能発揮対策報告会シンポジウム「里海保全の最前線」(東京大学安田講堂)の様子の写真

カ 漁業協同組合制度の見直し

(漁協の事業・経営基盤の強化)

漁協は、漁業者の協同組織として、組合員のために漁獲物の販売等の事業を実施し、漁業者の経営の安定・発展に寄与するとともに、漁業権の管理等の公的な役割も担っています。組合員の減少が進む中、漁協の事業・経営基盤の強化を図ることが重要です。

平成30(2018)年12月に成立した「漁業法等の一部を改正する等の法律」により改正される「水産業協同組合法*1」では、適切な資源管理の実施等により漁業者の所得向上に取り組む上で、漁協がその役割をより一層発揮できるようにするため、漁協が事業を行うに当たっては、水産資源の持続的な利用の確保及び漁業生産力の発展を図りつつ、漁業所得の増大に最大限の配慮をしなければならないことが明記されています。また、漁協の中心的な事業であり、漁業者の収入に直結する販売事業を強化するため、組合の理事に販売の専門能力を有する者を登用することが義務付けられています。水産庁においても、全国の漁協における販売事業の優良事例を収集、紹介し、各漁協における地域の実情に応じた付加価値向上や販路拡大の取組を促進することとしています。

また、漁協系統の信用事業の健全性の確保を図るため、他の金融機関と同様に、組合員等の預貯金の受入れや貸付けなどを行う信用漁業協同組合連合会及び一定規模以上の漁協に公認会計士監査を導入することとなりました。水産庁では、公認会計士監査への移行に際し、十分な移行期間をとるとともに、漁協等に公認会計士を派遣する事業を措置するなど、漁協系統と連携して円滑な移行に向けた準備を進めることとしています。

  1. 昭和23(1948)年法律第242号

事例地域観光業の新たな拠点となる漁協直営事業 ~「JF南郷なんごう 港の駅 めいつ」~

宮崎県日南にちなん市南郷町にある「港の駅 めいつ」は、南郷漁業協同組合が平成17(2005)年度に漁協直営による水産物の販売拠点の構築のために開設した物産館及びレストランです。開設当初から年間売上高は1億5千万円を超え、漁協の新たな収入源となりました。

  

その後、更なる来客数の増加を目指し、平成26(2014)年度に施設規模(延べ床面積)を2.3倍に拡大しました。

また、「水産物の販売拠点」から「地域の観光拠点」へと機能を強化するため、日南商工会議所と連携し、名産であるカツオを用いた新たなご当地料理(カツオあぶり重)やお土産品の開発を行うとともに、観光定置網漁業のモニターツアー等のイベントを新たに企画・開催しました。その結果、平成27(2015)年には年間売上高はおよそ3億円、年間来場者数は38万人に達しました。

さらに、新たな観光資源の創出のため、地元定置網で漁獲され、時期や鮮度管理の厳しい基準で選別した旬のアジを「めいつ美々鯵びびあじ」として平成29(2017)年にブランド化しました。これにより、kg当たりの平均単価は一般のアジと比較して平成29(2017)年に10%、平成30(2018)年には28%上昇し、漁業者の所得向上につながりました。

新たなご当地料理「カツオ炙り重」の写真
開発したお土産品の写真
地元定置網で漁獲されるブランドア「めいつ美々鯵」の写真
図:「港の駅 めいつ」の売上高及び来場者数の推移の写真

コラム新型コロナウイルス感染症への対応

令和2(2020)年1月以降、国内外において新型コロナウイルスの感染が拡大し、大きな問題となっています。水産業においては、ホタテガイ、ブリ類、タイなどの水産物の需要減少による国内価格の下落、輸出の減少、入国規制による外国人材の不足等が発生し、漁業者・水産加工業者の経営が大きな影響を受けています。

このような状況を受けて、農林水産省は、令和2(2020)年3月以降、漁業関係団体に対して新型コロナウイルス感染症の拡大防止の呼びかけや事業継続のための対策等に関する情報提供に努めてきました。また、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた漁業者の資金繰りを支援するため、金融機関に対して、適時・適切な貸出しや既往債務の返済猶予等の条件変更への対応を要請するとともに、農林漁業セーフティネット資金などの運転資金や既往債務の借換資金の実質無利子化・無担保化、保証料助成を行うこととしています。さらに、漁業者の収入減少を補てんする漁業収入安定対策の基金への積み増しを行うとともに、需要減少の影響を受けている水産物について、過剰供給分を一時的に保管するための支援や、学校給食への提供など新たな販路への販売促進の支援等を実施することとしています。

表:新型コロナウイルス感染症に関する水産業関連の対策

表:新型コロナウイルス感染症に関する水産業関連の対策

農林水産省では、今後も水産業における新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、適切に対応していくこととしています。

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097