このページの本文へ移動

水産庁

メニュー

(7)水産物の流通・加工の動向

目標8
目標11
目標14

ア 水産物流通の動向

〈市場外流通が増加〉

近年、水産物の国内流通量が減少しています。また、平成29(2017)年度に消費地市場を経由して流通された水産物の量は、20年前の約5割となり、水産物の消費地卸売市場経由率は約49%と20年前と比較して約3割低下しました(図表2-29)。

図表2-29 水産物の消費地市場経由量と経由率の推移

図表2-29 水産物の消費地市場経由量と経由率の推移

〈産地卸売市場数は横ばい、消費地卸売市場数は減少〉

水産物卸売市場の数については、産地卸売市場は近年横ばい傾向にある一方、消費地卸売市場は減少しています(図表2-30)。

一方、小売・外食業者等と産地出荷業者との消費地卸売市場を介さない産地直送、漁業者から加工・小売・外食業者等への直接取引、インターネットを通じた消費者への生産者直売等、市場外流通が増加しつつあります。

図表2-30 水産物卸売市場数の推移

図表2-30 水産物卸売市場数の推移

コラム食品における電子商取引の拡大

電子商取引(EC)*1の規模と割合は、BtoB*2及びBtoC*3の両方において年々増加しています。

経済産業省による「令和元年度電子商取引に関する市場調査」によると、食品におけるBtoBのECについて、市場規模は増加傾向にあり、令和元(2019)年の市場規模は26兆6,010億円(対前年比9.0%上昇)、EC化率 は59.3%となっています。また、「食品、飲料、酒類」分野におけるBtoCのECについても、市場規模は増加傾向にあり、令和元(2019)年の市場規模は1兆8,233億円(対前年比7.8%上昇)、EC化率は2.9%となっています。

水産物についても、ECを利用した漁業者から消費者への直接販売や、産地と小売企業との間の取引が広がりを見せています。

  1. インターネットを利用して、受発注がコンピューターネットワークシステム上で行われること
  2. Business to Business:企業間取引
  3. Business to Consumer:企業が一般消費者に対して商品やサービスを提供する取引

食品のBtoBのEC

食品のBtoBのEC

「食品、飲料、酒類」分野のBtoCのEC

「食品、飲料、酒類」分野のBtoCのEC

イ 水産物卸売市場の役割と課題

〈卸売市場は水産物の効率的な流通において重要な役割〉

卸売市場には、1)商品である漁獲物や加工品を集め、ニーズに応じて必要な品目・量に仕分する集荷・分荷の機能、2)旬や産地、漁法や漁獲後の取扱いにより品質が大きく異なる水産物について、公正な評価によって価格を決定する価格形成機能、3)販売代金を迅速・確実に決済する決済機能、4)川下のニーズや川上の生産に関する情報を収集し、川上・川下のそれぞれに伝達する情報受発信機能があります。多様な魚種が各地で水揚げされる我が国において、卸売市場は、水産物を効率的に流通させる上で重要な役割を担っています(図表2-31)。

図表2-31 水産物の一般的な流通経路

図表2-31 水産物の一般的な流通経路

一方、卸売市場には様々な課題もあります。まず、輸出も見据え、施設の近代化により品質・衛生管理体制を強化することが重要です。また、産地卸売市場の多くは漁協によって運営されていますが、取引規模の小さい産地卸売市場は価格形成力が弱いこと等が課題となっており、市場の統廃合等により市場機能の維持・強化を図っていくことが求められます。さらに、消費地卸売市場を含めた食品流通においては、物流等の効率化、情報通信技術等の活用、鮮度保持等の品質・衛生管理の強化及び国内外の需要へ対応し、多様化する実需者等のニーズに的確に応えていくことが重要です。

こうした状況の変化に対応して、生産者の所得の向上と消費者ニーズへ的確な対応を図るため、各卸売市場の実態に応じて創意工夫を生かした取組を促進するとともに、卸売市場を含めた食品流通の合理化と、その取引の適正化を図ることを目的として、「卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律*1」が平成30(2018)年6月に成立しました。新制度により、各市場のルールやあり方は、その市場の関係者が話し合って決めることになりました。卸売市場を含む水産物流通構造が改善し、魚の品質に見合った適正な価格形成が図られることで、1)漁業者にとっては所得の向上、2)加工流通業者にとっては経営の改善、3)消費者にとってはニーズに合った水産物の供給につながることが期待されます。

  1. 平成30(2018)年法律第62号

コラム小学生は水産業に関してどんなことを学んでいる?

小学校学習指導要領(平成29年文部科学省告示第63号)の「社会」においては、第5学年の内容に水産業に関する記述があります。そこでは、我が国ではそれぞれの地域の自然条件を生かした食料の生産が行われていること、食料生産が国民の食生活を支えていること、産地の人々が新鮮で良質な食料を生産し出荷するために、生産性や品質を高めるなど様々な工夫や努力を行っていること等について、学習の問題を追究・解決する活動を通して身に付けることができるよう指導することとなっています。令和2(2020)年度から、全国の小学校でこの学習指導要領に準拠した教科書の使用が始まっています。

例えば、長崎漁港に関連した漁業の状況や、水揚げ、市場での競り、トラックでの輸送、スーパーマーケットでの販売の様子、トラフグ養殖の様子、すり身工場やかまぼこ工場の様子等について、現場の様子や関係者の話も掲載しながら、魚が食卓に届くまでの流れがイメージできるような内容が取り上げられている教科書もあります。また、日本の水産業がかかえている課題として、漁場環境の悪化や過剰漁獲による漁業生産量の減少や、漁業就業者の減少・高齢化についても取り上げられています。

これらの学習等を通じて、より多くの子供たちが我が国水産業について理解を深めることが期待されます。

小学校学習指導要領における「水産業」に関する主な記述

小学校学習指導要領における「水産業」に関する主な記述

ウ 水産加工業の役割と課題

〈経営の脆弱性や従業員不足が重要な課題〉

我が国の食用魚介類の国内消費仕向量の7割は加工品として供給されており、水産加工業は漁業とともに車の両輪を担っています。また、水産加工場の多くは沿海市町村に立地し、漁業とともに漁村地域の活性化に寄与しています。

水産加工業は、腐敗しやすい水産物の保存性を高める、家庭での調理の手間を軽減するといった機能を通し、水産物の付加価値の向上に寄与しています。特に近年の消費者の食の簡便化・外部化志向の高まりにより、水産物消費における加工の重要性は高まっており、多様化する消費者ニーズを捉えた商品開発が求められています。

しかしながら、近年では、経営の脆弱性、さらには個々の加工業者では解決困難な課題に対応するための産地全体の機能強化等が多くの水産加工業者にとっての課題となっています。このため、小規模加工業者の負担軽減に資するよう、水産加工業協同組合等が漁協等と連携して行う共同利用施設を整備する取組を支援することとしています。

また、外国人技能実習生や特定技能外国人の円滑な受入れ、共生を図る取組を行うとともに、省力・省人化を図るためのICT・AI・ロボット等の新技術の開発・活用・導入を進めていくことが必要です。

さらに、近年のいか、さんま等の不漁による加工原料不足が大きな問題となっており、原料転換に対応した生産体制の構築が必要です。

加えて、産地全体の機能強化・活性化を図るべく、産地のとりまとめ役となる中核的人材や次世代の若手経営者を育成するとともに、各種水産施策や中小企業施策の円滑な利用が進むよう、国及び都道府県レベルにワンストップ窓口を設置し、水産加工業者の悩みや相談に迅速かつ適切に対応していくこととしています。

エ HACCPへの対応

〈水産加工業における対EU輸出認定施設数は91施設、対米輸出認定施設は501施設〉

HACCP*1は、食品安全の管理方法として世界的に利用されていますが、米国や欧州連合(EU)等は、輸入食品に対してもHACCPの実施を義務付けているため、我が国からこれらの国・地域に水産物を輸出する際には、我が国の水産加工施設等が、輸出先国・地域から求められているHACCPを実施し、更に施設基準に適合していることが必要です。

しかし、従業員の研修が十分に行えていない事業所が多い等の状況もあり、水産加工場におけるHACCP導入率は、低水準(令和元(2019)年10月1日現在で23%*2)にあります。

このため、国では、一般衛生管理やHACCPに基づく衛生管理に関する講習会の開催等を支援しています。また、EUや米国への輸出に際して必要なHACCPに基づく衛生管理及び施設基準等の追加的な要件を満たす施設として認定を取得するため、水産加工・流通施設の改修等を支援するとともに、水産物の流通拠点となる漁港等において高度な衛生管理に対応した荷さばき所等の整備を推進しています(図表2-32)。また、冷凍・冷蔵施設の老朽化が進行しており、その更新が課題となっています(図表2-33)。このため、生産・流通機能の強化と効率化を図りつつ、冷凍・冷蔵施設の整備を推進しています。

特に、認定施設数が少数に留まっていた対EU輸出認定施設については、認定の加速化に向け、厚生労働省に加え農林水産省も平成26(2014)年10月から認定主体となり、令和3(2021)年3月末までに45施設を認定し、厚生労働省の認定数と合わせ、我が国の水産加工業における対EU輸出認定施設数は91施設*3となりました。同年3月末現在、対米輸出認定施設は501施設となっています(図表2-34)。

なお、国内消費者に安全な水産物を提供する上でも、卸売市場等における衛生管理を高度化するとともに、水産加工業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入を促進することが重要です。平成30(2018)年6月に「食品衛生法等の一部を改正する法律*4」が公布され、水産加工業者を含む原則として全ての食品等事業者においては、令和2(2020)年6月1日から、HACCPに沿った衛生管理等の実施に取り組むことが求められることとなっています(ただし、施行後1年間は経過措置期間とし、現行基準が適用されます。)。

  1. Hazard Analysis and Critical Control Point:原材料の受入れから最終製品に至るまでの工程ごとに、微生物による汚染や金属の混入等の食品の製造工程で発生するおそれのある危害要因をあらかじめ分析(HA)し、危害の防止につながる特に重要な工程を重要管理点(CCP)として継続的に監視・記録する工程管理システム。FAOと世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会がガイドラインを策定して各国にその採用を推奨している。
  2. 農林水産省「令和元年度食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況実態調査」
  3. 令和3(2021)年3月末時点で国内手続が完了したもの。
  4. 平成30(2018)年法律第46号

図表2-32 高度な衛生管理に対応した荷さばき所の整備状況(令和3(2021)年3月末時点)

図表2-32 高度な衛生管理に対応した荷さばき所の整備状況(令和3(2021)年3月末時点)

図表2-33 冷凍・冷蔵施設の老朽化状況

図表2-33 冷凍・冷蔵施設の老朽化状況

図表2-34 水産加工業等における対EU・米国輸出認定施設数の推移

図表2-34 水産加工業等における対EU・米国輸出認定施設数の推移

事例塩竈市魚市場(南棟)をEU向け輸出水産食品取扱施設に認定(宮城県塩竈市)

農林水産省は、令和3(2021)年2月に宮城県塩竈しおがま市の「地方卸売市場塩竈市魚市場南棟」をEU向け輸出水産食品取扱施設に認定しました。水産物の産地市場としては、地方卸売市場八戸市第三魚市場A棟に次いで2件目、農林水産省による認定としては初めての施設認定です。

英国、欧州連合(EU)、スイス及びノルウェーは、生産から輸出までのフードチェーン全体で管理を行うことを求めており、施設認定により同市場で荷さばき等を行った冷凍ビンナガや冷凍カツオをEU等各国に輸出することが可能となりました。

同市場は東日本大震災で壊滅的な被害を受けましたが、岸壁等の災害復旧事業と連携をとりながら高度な衛生管理に対応した荷さばき所等の整備を段階的に進め、平成29(2017)年10月に新しい魚市場が全面供用開始されました。

同市場の開設者である塩竈市は、EU等への輸出に際して同市場の利用が可能となったことにより漁船の誘致や取扱量を増やすとともに、並行して国内向けの水産物も含めた市場全体の衛生管理体制の構築を進めていくことにより、同市場で取り扱う水産物の付加価値向上につなげていきたいとしています。

塩竈市魚市場全景
認定を受けた同市場南棟の荷さばき所

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097