(3)実効ある資源管理のための取組

ア 我が国の沿岸等における密漁防止・漁業取締り
〈漁業者以外による密漁の増加を受け、大幅な罰則強化〉
水産庁が各都道府県を通じて取りまとめた調査結果によると、令和元(2019)年の全国の海上保安部、都道府県警察及び都道府県における漁業関係法令違反(以下「密漁」といいます。)の検挙件数は、1,556件(うち海面1,498件、内水面58件)となりました。近年では、漁業者による違反操業が減少している一方、漁業者以外による密漁が増加し、暴力団員等による密漁は悪質化・巧妙化しています(図表3-13)。
図表3-13 我が国の海面における漁業関係法令違反の検挙件数の推移
アワビ、サザエ等のいわゆる磯根資源は、多くの地域で共同漁業権の対象となっており、関係漁業者は、種苗放流、禁漁期間・区域の設定、漁獲サイズの制限等、資源の保全と管理のために多大な努力を払っています。一方、こうした磯根資源は、容易に採捕できることから密漁の対象とされやすく、暴力団員等による資金獲得を目的とした組織的な密漁も横行しています。また、資源管理のルールを十分に認識していない一般市民による個人的な消費を目的としたものも各地で発生しています。このため、一般市民に対するルールの普及啓発のため、水産庁ホームページに密漁対策のサイトを立ち上げたほか、ポスターやパンフレットを作成し配布するなど密漁の防止を図っています(図表3-14)。
図表3-14 沿岸密漁防止の普及啓発(ポスター(2種類)、パンフレット)

令和2(2020)年12月1日に施行された新漁業法に基づき、悪質な密漁が行われているアワビ、ナマコ等を「特定水産動植物」に指定し、漁業権や漁業の許可等に基づいて採捕する場合を除いて採捕を原則禁止とし、これに違反した場合には、3年以下の懲役又は3,000万円以下の罰金が科されることになりました。また、密漁品の流通を防止するため、違法に採捕されたことを知りながら特定水産動植物を運搬、保管、取得、処分の媒介・あっせんをした者に対しても密漁者と同じ罰則が適用されることになるなど、大幅な罰則強化が図られました(図表3-15)。
図表3-15 新漁業法に基づく罰則強化の概要

密漁を抑止するには、夜間や休漁中の漁場監視や密漁者を発見した際の取締機関への速やかな通報等、日頃の現場における活動が重要です。
また、取締りについては、海上保安官及び警察官とともに、水産庁等の職員から任命される漁業監督官や都道府県職員から任命される漁業監督吏員が実施しており、今後も罰則が強化された新漁業法も活用しながら関係機関と連携して取締りを強化していきます。
コラムTVアニメとのタイアップによる遊漁のルールとマナーの啓発について
我が国において、釣りは代表的なレジャーであり、多くの国民が釣りを楽しんでいます(令和元(2019)年の釣り参加人口は670万人であり、平成30(2018)年より50万人増加(出展:「2019レジャー白書」(公益財団法人日本生産性本部))。)。
また、令和2(2020)年は、新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、屋内のレジャーが避けられた一方、屋外のレジャーが注目され、海洋レジャーが盛んになる夏場に向けて、多くの国民が釣りを楽しみました。
しかしながら、ルールやマナーを良く知らない人や一部の釣り人によるゴミの放置や駐車違反、漁業者とのトラブル等により、漁港等が釣り禁止になる事態が生じているほか、釣りそのもののイメージ悪化にもつながっています。
水産庁では、これまでも釣りを含めた遊漁に関するルールの周知、マナーの向上を目指しパンフレットを作成し、釣りの各種イベントや釣り団体が行う講習会等で配布し、普及・啓発を行ってきました。
今回は、釣り経験者はもちろん、釣りに興味を持たれている方、釣りをこれからやってみようと思っている方、女性や若年層にとっても、手に取りやすい内容となるよう、TVアニメ「放課後ていぼう日誌」とタイアップし、パンフレットをリニューアルしました。
このパンフレットは、水産庁のホームページ(「遊漁の部屋」サイト)からダウンロード出来るようにしたほか、水産庁や釣り団体が参加する釣りイベントや講習会、全国の釣具店等において無料で配布しました。
〈「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」の成立〉
令和2(2020)年の第203回国会において、違法に採捕された水産動植物の流通過程での混入やIUU*1漁業由来の水産動植物の流入を防止することを目的とした「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律*2」(以下「水産流通適正化法」といいます。)が成立し、同年12月11日に公布されました(図表3-16)。本法律は、特定の水産動植物を取り扱う漁業者等の行政機関への届出、漁獲番号の伝達、取引記録の作成・保存等を義務付けることとしています。本法律は、公布の日から2年以内に施行予定としており、施行までの間に、対象魚種の指定や電子化等について、関係事業者の負担軽減にも配慮しながら検討を進めていくこととしています。
- Illegal, Unreported and Unregulated:違法・無報告・無規制。FAOは、無許可操業(Illegal)、無報告又は虚偽報告された操業(Unreported)、無国籍の漁船、地域漁業管理機関の非加盟国の漁船による違反操業(Unregulated)等、各国の国内法や国際的な操業ルールに従わない無秩序な漁業活動をIUU漁業としている(詳細は177ページ参照)。
- 令和2(2020)年法律第79号
図表3-16 水産流通適正化制度の概要

コラム世界におけるIUU漁業由来の水産物の輸入防止対策について
違法な操業は、以前から国際的にも問題となっており、平成13(2001)年、国際連合食糧農業機関(FAO)においてIUU漁業対策の考え方を取りまとめた「IUU漁業国際行動計画」が採択されました。
その後、EUにおいて、商業漁業に従事する全ての漁船を対象とし、IUU漁業を起源とする水産物がEU域内に入域することを防止、抑止、廃絶することを目的に、平成22(2010)年からIUU漁業規則が全面的に施行され、EU域内に輸出される全ての水産製品(観賞魚等を除く。)には、漁獲証明書の添付が義務付けられました。
米国でも同様に、平成30(2018)年から、特定の水産物を輸入する輸入業者に対して、輸入の際に漁獲情報を報告することが義務付けられました。
水産物輸入量においてEUは世界第一位、米国は第三位の輸入国・地域であり、今般、第四位である我が国においてIUU漁業対策の強化につながる水産流通適正化法が成立したことは、世界的にも極めて大きな意義があります。
イ 外国漁船の監視・取締り
〈我が国の漁業秩序を脅かす外国漁船の違法操業に厳正に対応〉
我が国の周辺水域においては、二国間の漁業協定等に基づき、外国漁船がEEZにて操業するほか、我が国EEZ境界線の外側においても多数の外国漁船が操業しており、水産庁は、これら外国漁船が違法操業を行うことがないよう、漁業取締りを実施しています。水産庁による令和2(2020)年の外国漁船への取締実績は、立入検査1件、拿捕(だほ)1件、我が国EEZで発見された外国漁船によるものとみられる違法設置漁具の押収22件でした(図表3-17)。また、北太平洋公海において、サンマやサバ等を管理する北太平洋漁業委員会(NPFC)が定める保存管理措置の遵守状況を聞き取りにより確認し、延べ68隻の外国漁船等へ注意指導・警告措置を実施しました。
図表3-17 水産庁による外国漁船の拿捕・立入検査等の件数の推移

〈日本海大和堆周辺水域での取締りを強化〉
日本海大和堆(やまとたい)周辺の我が国EEZでの中国漁船及び北朝鮮漁船による操業については、違法であるのみならず、我が国漁業者の安全操業の妨げにもなっており、極めて問題となっています。このため、我が国漁業者が安全に操業できる状況を確保することを第一に、水産庁は、違法操業を行う多数の中国漁船等に対し、放水等の厳しい措置により我が国EEZから退去させてきています。令和2(2020)年3月に就航した大型漁業取締船2隻を含む漁業取締船を、いか釣り漁業の漁期が始まる前の5月から同水域に重点的に配備するとともに、海上保安庁とも連携した対応を行っています。令和2(2020)年の水産庁による退去警告隻数は延べ4,394隻でした。また、同水域では、前年(令和元(2019)年)と異なり、北朝鮮漁船はほとんど確認されなった一方で、中国漁船の延べ隻数は大幅に増加し、中には漁業取締船に威嚇する悪質な中国漁船も見られました。
そのような中で、令和2(2020)年9月29日、大和堆西方の我が国EEZにおいて、漁業取締船が北朝鮮公船を確認したことから、我が国漁船に対して、一時的に一部水域からの移動を要請しました。これに対し、我が国漁業関係者からは、違法操業を行う中国漁船等の取締りと我が国漁船の操業確保について、政府に対する強い要請が行われました。
その後、安全確保の目途が立ったことから、同年10月28日から要請を段階的に解除し、翌29日より、同水域で我が国いか釣り漁船及びべにずわいがにかご漁船が操業を再開しました。今後は、大和堆西方の我が国EEZにおいて中国漁船や北朝鮮公船が出現したときであっても、我が国漁船の安全を確保しつつ、操業を行い得るよう、海上保安庁と連携して対処していきます。
コラム漁業取締り強化に向けた水産庁の取組
水産庁では、令和2(2020)年3月時点で官船*18隻、用船*237隻、計45隻の漁業取締船と4機の取締航空機を全国に配備し、昼夜を問わず我が国周辺水域や遠洋水域の漁業取締りを実施しています。
令和2(2020)年度には55年ぶりとなる新造船の白鷲丸(はくしゅうまる)を竣工し、新潟に新たに配備するとともに、境港に配備されている白嶺丸(はくれいまる)を代船*3(499トンから913トン)したほか、令和3(2021)年度にさらに新造船1隻及び代船(499トンから900トン型)1隻の竣工を予定しています。また、新造船、代船は放水銃の強化や防弾化を施して取締装備の能力を向上させるほか、荒れた海象の下でも取締りに従事できるよう大型化しており、取締体制を強化しています。
また、日本海大和堆周辺水域においては、海上保安庁との連携強化の一環として、令和2(2020)年5月に、新潟港の沖合で、漁業取締船と海上保安庁の巡視船との共同訓練を行いました。
共同訓練には、4隻の取締船と3隻の巡視船艇に加え、海上保安庁のヘリコプターも参加し、巡視艇を違法外国漁船に見立てた実践さながらの連携対処訓練等を行いました。
大和堆周辺水域における違法外国漁船対応を想定し、沖合でこれほど大規模に行われた共同訓練は、今回が初めてです。
- 国が所有する漁業取締船
- 民間船を民間乗組員付きで借り上げ、漁業監督官が乗船して取締りを実施する漁業取締船
- 建造してから年数が経った船を新しく造り直し更新したもの
お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097