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水産庁

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(5)漁場環境をめぐる動き

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目標14

ア 藻場・干潟の保全と再生

〈藻場・干潟の保全や機能の回復によって生態系全体の生産力を底上げ〉

藻場は、繁茂した海藻や海草が水中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給し、水産生物に産卵場所、幼稚仔魚等の生息場所、餌場等を提供するなど、水産資源の増殖に大きな役割を果たしています。また、河口部に多い干潟は、潮汐の作用により、陸上からの栄養塩や有機物と海からの様々なプランクトンが供給されることにより、高い生物生産性を有しています。藻場・干潟は、二枚貝等の底生生物や幼稚仔魚の生息場所となるだけでなく、こうした生物による水質の浄化機能や、陸から流入する栄養塩濃度の急激な変動を抑える緩衝地帯としての機能も担っています。

しかしながら、こうした藻場・干潟は、沿岸域の開発等により面積が減少しています。また、現存する藻場・干潟においても、海水温の上昇に伴う海藻の立ち枯れや種組成の変化、海藻を食い荒らすアイゴ等の植食性魚類の活発化や分布の拡大による藻場への影響、貧酸素水塊の発生、陸上からの土砂の供給量の減少等による藻場・干潟の生産力の低下が指摘されています。

藻場・干潟の保全や機能の回復によって、生態系全体の生産力の底上げを図ることが重要であり、国では、地方公共団体が実施する藻場・干潟の造成と、漁業者や地域住民等によって行われる食害生物の駆除や母藻の設置等の藻場造成、干潟の耕うん等の保全活動が一体となった、広域的な対策を推進しています。

藻場の造成の様子
造成後に海藻類が繁茂している状況(黒い部分)
藻場の保全(ウニの駆除)
干潟等の保全(干潟の耕うん)

イ 内湾域等における漁場環境の改善

〈漁場環境改善のため、赤潮等の被害対策、栄養塩類管理、適正養殖可能数量の設定等を推進〉

波の静穏な内湾域は、産卵場、生育場として水産生物の生活史を支えるだけでなく、様々な漁業が営まれる生産の場ともなっています。

海藻類の成長、魚類や二枚貝等の餌となる動物・植物プランクトンの増殖のためには、陸域や海底等から供給される窒素やリン等の栄養塩類が必要となります。瀬戸内海では、栄養塩類の減少等が海域の基礎的生産力を低下させ、養殖ノリの色落ちや魚介類の減少の要因となっている可能性が、漁業者や地方公共団体の研究機関から示唆されています。一方で、窒素、リン等の栄養塩類、水温、塩分、日照、競合するプランクトン等の要因が複合的に影響することにより赤潮が発生し、魚類養殖業等に大きな被害をもたらすことも指摘されています。

このため、国では、赤潮による漁業被害の軽減対策として、関係地方公共団体及び研究機関等と連携して、赤潮発生のモニタリング、発生メカニズムの解明、防除技術の開発に取り組むとともに、海域の栄養塩類が、漁業資源の基礎を支えるプランクトン等の餌生物等に対して与える影響に関する調査研究、適切な栄養塩類の管理のための基礎的なデータの収集、栄養塩類の供給手法の開発等の漁場改善実証試験の支援を行っています。

また、有明海や八代海では、近年底質の泥化や有機物の堆積等海域の環境が悪化し、赤潮の増加や貧酸素水塊の発生等が見られる中で、二枚貝をはじめとする水産資源の悪化が進み、海面漁業生産が減少しました。これらの状況に鑑み、平成12(2000)年度のノリの不作を契機に「有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律*1」が平成14(2002)年に議員立法により制定され、関係県は環境の保全及び改善並びに水産資源の回復等による漁業の振興に関し実施すべき施策に関する計画を策定し、有明海及び八代海等の再生に向けた各種施策を実施しています。同法では、これらの施策のうち、海域環境の保全、改善等を図るための特定の漁港漁場整備事業に対する国の補助割合の嵩上げの特例措置が規定されています。この特例措置は令和3(2021)年度末が期限となっていましたが、有明海及び八代海等の再生は道半ばであることから、令和3(2021)年3月に同法は議員立法により改正され、特例措置の期限が令和13(2031)年度末まで延長されました。水産庁としては、同法に基づき、引き続き関係県等の事業を支援し、有明海及び八代海等の再生を図っていきます。

そのほか、養殖漁場については、「持続的養殖生産確保法*2」に基づき、漁協等が養殖漁場の水質等に関する目標、適正養殖可能数量、その他の漁場環境改善のための取組等をまとめた「漁場改善計画」を策定し、これを「漁業収入安定対策*3」により支援しています。

新漁業法においては、漁場を利用する者が広く受益する赤潮監視、漁場清掃等の保全活動を実施する場合に、都道府県が申請に基づいて漁協等を指定し、一定のルールを定めて沿岸漁場の管理業務を行わせることができる仕組みを新たに設けました。

  1. 平成14(2002)年法律第120号。平成23(2011)年に法律名を「有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律」に改正。
  2. 平成11(1999)年法律第51号
  3. 図表3-12(142ページ)参照

ウ 河川・湖沼における生息環境の再生

〈内水面の生息環境や生態系の保全のため、魚道の設置等の取組を推進〉

河川・湖沼は、それ自体が水産生物を育んで内水面漁業者や遊漁者の漁場となるだけでなく、自然体験活動の場等の自然と親しむ機会を国民に提供しています。また、河川は、森林や陸域から適切な量の土砂や有機物、栄養塩類を海域に安定的に流下させることにより、干潟や砂浜を形成し、海域における豊かな生態系を維持する役割も担っています。しかしながら、河川をはじめとする内水面の環境は、ダム・堰堤えんてい等の構造物の設置、排水や濁水等による水質の悪化、水の利用による流量の減少等の人間活動の影響を特に強く受けています。このため、内水面における生息環境の再生と保全に向けた取組を推進していく必要があります。

国では、「内水面漁業の振興に関する法律*1」に基づいて策定された「内水面漁業の振興に関する基本方針」(平成26(2014)年策定・平成29(2017)年改正)により、関係府省庁、地方公共団体、内水面漁協等の連携の下、水質や水量の確保、森林の整備及び保全、自然との共生や環境との調和に配慮した多自然川づくりを進めています。また、内水面の生息環境や生態系を保全するため、せき等における魚道の設置や改良、産卵場となる砂礫されき底や植生の保全・造成、様々な水生生物の生息場所となる石倉増殖礁(石を積み上げて網で囲った構造物)の設置等の取組を推進しています。

さらに、同法では、共同漁業権の免許を受けた者からの申し出により、都道府県知事が内水面の水産資源の回復や漁場環境の再生等に関して必要な措置について協議を行うための協議会を設置できることになっており、令和2(2020)年6月までに、山形県、岩手県、宮崎県、兵庫県、東京都及び滋賀県において協議会が設置され、良好な河川漁場保全に向けた関係者間の連携が進められています。

  1. 平成26(2014)年法律第103号

エ 気候変動による影響と対策

〈顕在化しつつある漁業への気候変動の影響〉

気候変動は、地球温暖化による海水温の上昇等により、水産資源や漁業・養殖業に影響を与えます。日本近海における令和元(2019)年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)の上昇率は+1.14℃/100年で(図表3-20)、世界全体での平均海面水温の上昇率(+0.55℃/100年)よりも大きく、日本の気温の上昇率(+1.24℃/100年)と同程度の値でした。一方、日本近海の海面水温は10年規模で変動することが知られており、近年は平成12(2000)年頃に極大、平成22(2010)年頃に極小となった後、令和2(2020)年に至るまで上昇を続けています。さらに黒潮大蛇行等、局所的な海況の変化も日々起こっており、水産資源の現状や漁業・養殖業への影響を考える際には、これら様々なスケールの変動・変化を考慮する必要があります。

図表3-20 日本近海の平均海面水温の推移

図表3-20 日本近海の平均海面水温の推移

気候変動がもたらす影響に関する報告書としては、令和元(2019)年9月に開催された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第51回総会」において承認・受諾された「海洋・雪氷圏特別報告書*1」があります。この中では、気候変動がもたらす海洋環境の変化が、地球全体のレベルで、海洋生物の分布、移動、個体数及び種構成を含む生態系全体に影響を与えており、将来、海洋生物資源の減少に伴って潜在的な漁獲量が減少する可能性が「中程度の確信度」をもって指摘されています。国内では、令和2(2020)年12月に環境省より「気候変動影響評価報告書」が改訂・公表されました。これは、平成30(2018)年6月に公布された「気候変動適応法*2」に基づくものとしては初めての気候変動影響の総合的な評価に関する報告書です。この報告書では、前回評価時(平成27(2015)年)の約2.5倍の引用文献を根拠としており、科学的知見の充実により高い確度で気候変動による影響を評価できるようになりました。

これらの報告書でも指摘されているとおり、近年、日本近海では海水温の上昇が主要因と考えられる現象が顕在化しています。具体的には、北海道でのブリの豊漁(図表3-21)やサワラの分布域の北上、九州沿岸での磯焼けの拡大とイセエビやアワビ等の磯根資源の減少、南方性えい類の分布拡大による西日本での二枚貝やはえ縄漁獲物の食害の増加等が報告されています。中期的な変化としては、北太平洋及び北極海の過去36年分の表面水温データから、サケの夏季の分布可能域(水温2.7℃~15.6℃)が北へシフトし、その面積は約1割減少した可能性があることが報告されています(図表3-22)。

  1. 正式名称:「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書」
  2. 平成30(2018)年法律第50号

図表3-21 北海道におけるブリ漁獲量の推移

図表3-21 北海道におけるブリ漁獲量の推移

図表3-22 北太平洋及び北極海におけるサケの分布可能域の変化

図表3-22 北太平洋及び北極海におけるサケの分布可能域の変化

〈気候変動による影響を調査・研究していくことが必要〉

気候変動はまた、海水温だけでなく、深層に堆積した栄養塩類を一次生産が行われる表層まで送り届ける海水の鉛直混合、表層海水の塩分、海流の速度や位置にも影響を与えるものと推測されています*1。このような環境の変化を把握するためには、調査船や人工衛星を用いたモニタリングを継続していくことが重要です。また、地域の水産資源や水産業に将来どのような影響が生じ得るかを把握するため、関係省庁や大学等とも連携して、数値予測モデルを使った研究や影響評価を行うとともに、取り得る対策案を事前に検討しておく取組も進められており、今後もこれらを強化していくことが重要です(図表3-23)。

  1. 温暖化により表層の水温が上昇すると、表層の海水の密度が低くなり沈みにくくなるため、深層との鉛直混合が弱まると予測されている。

図表3-23 北日本におけるコンブ類11種の種多様性の変化予測

図表3-23 北日本におけるコンブ類11種の種多様性の変化予測

さらに、国際的な連携の構築も重要です。我が国は、各地の地域漁業管理機関のみならず、北太平洋海洋科学機関(PICES)等の国際科学機関にも参画し、気候変動が海洋環境や海洋生物に与える影響について広域的な調査・研究を進めています。令和3(2021)~12(2030)年にかけては、国連による、持続可能な開発目標(SDGs)「14.海の豊かさを守ろう」等を達成するための「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」が始まります。ますます活発化する海洋に関わる国際的な研究活動に、我が国も大きく貢献していきます。

〈気候変動には「緩和」と「適応」の両面からの対策が重要〉

気候変動は、海洋環境を通じて水産資源や漁業・養殖業に影響をもたらします。そのため、気候変動に対しては、温室効果ガスの排出抑制等による「緩和」と、避けられない影響に対する「適応」の両面から対策を進めることが重要です(図表3-24)。

図表3-24 気候変動と緩和策・適応策の関係

図表3-24 気候変動と緩和策・適応策の関係

気候変動の影響の「緩和」に関しては、平成28(2016)年5月に地球温暖化対策を総合的かつ計画的に推進するための政府の総合計画として閣議決定された「地球温暖化対策計画」を踏まえ、平成29(2017)年3月に「農林水産省地球温暖化対策計画」が策定され、水産分野では、温室効果ガス排出削減・吸収源対策として、省エネルギー型漁船の導入等の漁船の省エネルギー対策、二酸化炭素の吸収・固定に資する藻場等の保全・創造対策の推進により、地球温暖化対策を講じていくことが盛り込まれました。さらに、令和元(2019)年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」において、ICTを活用した「スマート農林水産業」の実現や漁船の電化・水素燃料電池化の推進等により温室効果ガス排出削減を図ること、海洋生態系に貯留される炭素(ブルーカーボン*1)について二酸化炭素の吸収源としての可能性を追求すること等が明記されました(図表3-25)。

  1. 国連環境計画(UNEP)により平成21(2009)年に提唱された。

図表3-25 ブルーカーボンによる二酸化炭素吸収・貯留の仕組み

図表3-25 ブルーカーボンによる二酸化炭素吸収・貯留の仕組み

一方、気候変動の影響の「適応」については、平成27(2015)年に、「気候変動の影響への適応計画」が閣議決定されるとともに、農林水産分野における適応策について、「農林水産省気候変動適応計画」が策定されました。平成30(2018)年6月には、気候変動適応を法的に位置付ける「気候変動適応法*1」が公布され、同年11月に「気候変動適応計画」が閣議決定されたことを踏まえて、「農林水産省気候変動適応計画」も改定されました。水産分野においては、海面漁業、海面養殖業、内水面漁業・養殖業、造成漁場及び漁港・漁村について、気候変動による影響の現状と将来予測が示され、当面10年程度に必要な取組を中心に工程表が整理されました(図表3-26)。例えば、海面養殖業では、高水温耐性等を有する養殖品種の開発、有害赤潮プランクトンや疾病への対策等が求められています。高水温耐性を有する養殖品種開発については、ノリについての研究開発が進んでいます。既存品種では水温が23℃以下にならないと安定的に生育できないため、秋季の高水温が生産開始の遅れと収獲量の減少の一因になると考えられています。そこで、育種により24℃以上でも2週間以上生育可能な高水温適応素材を開発し、野外養殖試験を行った結果、高水温条件下での発育障害が軽減されることが観察されたことを受け、実用化に向けた実証実験が進められています(図表3-27)。魚病については、水温上昇に伴い養殖ブリ類の代表的な寄生虫であるハダムシの繁殖可能期間の長期化が予測されています。ハダムシがブリ類に付着すると、魚が体を生け簀の網に擦り付けることで表皮が傷つき、その傷から他の病原性細菌等が体内に侵入する二次感染によって養殖ブリ類が大量に死亡することがあります。そのため、ハダムシの付着しにくい特徴を持つ系統を選抜し、その有効性を検証する試験を行っています。さらに、赤潮については、被害を未然に防止するため、天候や水質等を詳細に解析することにより、3日前までに高精度で発生を予測する技術の開発を進めています。また、海水温上昇による海洋生物の分布域・生息場所の変化を的確に把握し、それに対応した水産生物のすみかや産卵場等となる漁場整備が求められており、山口県の日本海側では、寒海性のカレイ類が減少する一方で、暖海性魚類のキジハタにとって生息しやすい海域が拡大していることを踏まえ、キジハタの成長段階に応じた漁場整備が進められています。

  1. 平成30(2018)年法律第50号

図表3-26 農林水産省気候変動適応計画の概要(水産分野の一部)

図表3-26 農林水産省気候変動適応計画の概要(水産分野の一部)

図表3-27 ノリ養殖における秋季高水温の影響評価と適応計画に基づく取組事例

図表3-27 ノリ養殖における秋季高水温の影響評価と適応計画に基づく取組事例

オ 海洋におけるプラスチックごみの問題

〈海洋プラスチックごみの影響への懸念の高まり〉

海に流出するプラスチックごみの増加の問題が世界的に注目を集めています。年間数百万トンを超えるプラスチックごみが海洋に流出しているとの推定*1もあり、我が国の海岸にも、海外で流出したと考えられるものも含めて多くのごみが漂着しています。

海に流出したプラスチックごみは、海鳥や海洋生物が誤食することによる生物被害や、投棄・遺失漁具(網やロープ等)に海洋生物が絡まって死亡するゴーストフィッシング、海岸の自然景観の劣化等、様々な形で環境や生態系に影響を与えるとともに、漁獲物へのごみの混入や漁船のスクリューへのごみの絡まりによる航行への影響等、漁業活動にも損害を与えます。さらに、紫外線等により次第に劣化し破砕・細分化されてできるマイクロプラスチック*2は、表面に有害な化学物質が吸着する性質があることが指摘されており、吸着又は含有する有害な化学物質が食物連鎖を通して海洋生物へ影響を与えることが懸念されています。

我が国では、平成30(2018)年5月に閣議決定された「第3期海洋基本計画」の中で、関係省庁が取り組む施策として海洋ごみへの対応が位置付けられたほか、同年6月に改正された海岸漂着物処理推進法*3においてマイクロプラスチックの海域への流出抑制のため、事業者による廃プラスチック類の排出抑制の努力義務が規定されました。さらに、令和元(2019)年5月には、「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」が関係閣僚会議で策定されたほか、海岸漂着物処理推進法に基づく「海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」の変更及び「第四次循環型社会形成推進基本計画*4」に基づく「プラスチック資源循環戦略」の策定が行われ、海洋プラスチックごみ問題に関連する政府全体の取組方針が示されました。

  1. Jambeck et al.(2015)による。
  2. 微細なプラスチックごみ(5mm以下)のこと。
  3. 「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」(平成21(2009)年法律第82号)
  4. 平成30(2018)年閣議決定

〈海洋生分解性プラスチック製の漁具の開発や漁業者による海洋ごみの持ち帰りを促進〉

海洋プラスチックごみの主な発生源は陸域であると指摘されていますが、海域を発生源とする海洋プラスチックごみも一定程度あり、その一部は漁業活動で使用される漁具であることも指摘されています*1

そのような中、水産庁では、漁業の分野において海洋プラスチックごみ対策やプラスチック資源循環を推進するため、平成30(2018)年、漁業関係団体、漁具製造業界及び学識経験者の参加を得て協議会を立ち上げ、平成31(2019)年4月に、同協議会が取りまとめた「漁業におけるプラスチック資源循環問題に対する今後の取組」を公表しました。その主な内容は、1)漁具の海洋への流出防止、2)漁業者による海洋ごみの回収の促進、3)意図的な排出(不法投棄)の防止、4)情報の収集・発信であり、これらの取組は上記の「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」等にも盛り込まれたものです。

また、水産庁では、1)上記の「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を踏まえ、令和2(2020)年5月に、使用済み漁具の計画的処理を推進するための「漁業系廃棄物計画的処理推進指針」を策定、2)海洋に流出した漁具による環境への負荷を最小限に抑制するため、海洋生分解性プラスチック等の環境に配慮した素材を用いた漁具開発等の支援や、素材ごとに分解、分別しやすい設計の漁網等のリサイクル推進を念頭に置いた漁具の検討をしています。また、操業中の漁網に入網するなどして回収される海洋ごみを漁業者が持ち帰ることは、海洋ごみの回収のための重要な取組と考えられるため、水産庁は、3)環境省と連携し、環境省の「海岸漂着物等地域対策推進事業」を活用して、海洋ごみの漁業者による持ち帰りの促進、4)水産多面的機能発揮対策事業により、漁業者や漁協等が環境生態系の維持・回復を目的として、地域で行う漂流漂着物等の回収・処理に対する支援を実施しています(図表3-28)。さらに、業界団体・企業等による自主的な取組に係る情報の発信や、マイクロプラスチックが水産生物に与える影響についての科学的調査結果の情報の発信を行っていきます。

一方、環境省では、漂着ごみや漂流ごみ、海底ごみの組成や分布状況等に関する実態調査を行うとともに、地方公共団体が行う漂着ごみ等の回収処理、発生抑制に対する財政支援を行っています。

海洋プラスチックごみ問題に対処するためには、その発生源の1つとなっている私たちの生活における対策も重要です。生活ごみの適切な管理やリサイクルの促進に加え、使い捨て型ライフスタイルの見直しや、用途に応じた生分解性素材を含む代替素材の活用等、日常生活で使用する素材の再検討が求められています。

  1. FAO「The State of World Fisheries and Aquaculture 2020」による。
海岸に漂着したプラスチックごみ
海洋生分解性プラスチックを用いたフロートの試作品
海洋生分解性プラスチックを用いたフロートの実証試験

図表3-28 漂流ごみ等の回収・処理について(入網ごみ持ち帰り対策)

図表3-28 漂流ごみ等の回収・処理について(入網ごみ持ち帰り対策)

カ 海洋環境の保全と漁業

〈適切に設置・運営される海洋保護区により、水産資源の増大を期待〉

漁業は、自然の生態系に依存し、その一部を採捕することにより成り立つ産業であり、漁業活動を持続的に行っていくためには、海洋環境や海洋生態系を健全に保つことが重要です。

平成22(2010)年には、「生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)」の下で、令和2(2020)年までに沿岸域及び海域の10%を海洋保護区(MPA)又はその他の効果的な手段で保全することを含む「愛知目標」が採択されました。このMPAに関する目標は、平成24(2012)年に開始された国連環境開発会議(リオ+20)においても成果文書に取り上げられたほか、平成27(2015)年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」においても同様に規定されています。

我が国において、MPAは、「海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性の保全及び生態系サービスの持続可能な利用を目的として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な手法により管理される明確に特定された区域」と定義されましたが、必ずしも漁業禁止区域を意味するものではなく、「水産資源保護法*1」上の保護水面や「漁業法」上の共同漁業権区域等が含まれます。漁業者の自主的な共同管理によって、生物多様性を保持しながら、これを持続的に利用していくような海域であることは、日本型海洋保護区の1つの特色です。また、適切に設置され運営されるMPAは、海洋生態系の適切な保護を通じて、水産資源の増大にも寄与するものと考えられます。MPAの設置に当たっては、科学的根拠を踏まえた明確な目的を持ち、それぞれの目的に合わせて適切な管理措置を導入することや、継続的なモニタリングを通して効果的に運営していくことが重要です。なお、沖合区域における海底の自然環境の保全を図るため、新たなMPA(「沖合海底自然環境保全地域」)制度の措置を講ずる「自然環境保全法の一部を改正する法律*2」が令和2(2020)年4月に施行され、同年12月に同法に基づき初めての沖合海底自然環境保全地域が指定されました。

  1. 昭和26(1951)年法律第313号
  2. 平成31(2019)年法律第20号

コラムみどりの食料システム戦略

食料供給や農林水産業は、自然災害や気候変動に伴う影響、生産者の減少等による生産基盤の脆弱化や農山漁村の地域コミュニティの衰退等の課題に直面しています。また、国内外において、SDGs(持続可能な開発目標)への対応の重要性が認識されています。

諸外国では、健康な食生活や持続的な生産・消費の活発化やESG投資の拡大に加え、EUでは令和2(2020)年5月に環境や健康に関する「Farm to Fork戦略」を公表し、国際ルールに反映させる動きが見られます。このような中、令和2(2020)年10月から、我が国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるための「みどりの食料システム戦略」(以下「戦略」といいます。)の検討を開始し、令和3(2021)年3月に中間取りまとめを公表しました。以下では、戦略の基本的な考え方を紹介します。

戦略においては、革新的な技術・生産体系を順次開発し、社会実装することにより、令和32(2050)年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現を図ることとしています。

具体的には、資材・エネルギー調達における脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減の推進、イノベーション等による持続的生産体制の構築、ムリ・ムダのない持続可能な加工・流通システムの確立、環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進等に取り組むこととしています。

この戦略の方向性は、水産政策の改革による新たな資源管理と漁業の成長産業化の両立や、養殖業成長産業化総合戦略と一致するもので、水産分野においては、スマート水産業の取組も活用しながら、水産資源の適切な管理、天然資源に負荷をかけない持続可能な養殖生産体制の構築、漁船の電化・燃料電池化等に取り組むことでCO2ゼロエミッション化の実現を図ることとしています。

水産資源の適切な管理に関しては、新漁業法のもとで策定された「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」に従い、令和12(2030)年までに漁獲量を平成22(2010)年と同等のレベルまで回復させることを目指すこととしています。

持続可能な養殖生産体制の構築に関しては、天然資源に依存しない人工種苗による完全養殖への転換に取り組むとともに、配合飼料への転換や魚粉代替タンパク質を用いることで、天然資源に依らない養魚飼料への転換を図ることとしています。

漁船の電化・燃料電池化に関しては、陸上や一般船舶で開発が始まっている燃料電池等の技術を活用しつつ、燃料電池漁船はバッテリー船と比較して長時間・長距離の航行が可能であることから、実用化に向けた開発を進めていくこととしています。

このほかにも、海洋生態系によるCO2固定化(ブルーカーボン)として、藻場の可能性が期待されており、CO2吸収量評価手法や藻場拡大技術の開発等を進めていくこととしています。

図:サンマの分布、主な調査海域及び調査船

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097