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水産庁

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(2)マーケットインの取組の方向

ア 漁業における取組の方向

〈産地における情報交換から可能となる計画的な生産と工夫〉

漁業においては、天候・海況によって生産活動が制限されるなど、養殖業に比べ、定質・定量・定時・定価格の魚介類を計画的に生産することが比較的難しい側面があると考えられますが、他方では、養殖コストや養殖期間に課題があるなど養殖技術が確立していない天然の魚介類を生産することができます。

このような天然の魚介類には、アジ、サバ類等の多獲性浮魚類や漁獲量が少なく高値で取引される高級魚等があります。多獲性浮魚類については、漁具・漁法によっては、一度に大量に漁獲されるなど、水揚げが不安定になることがありますが、例えば、定置網漁業において、生簀網を定置網の一部に設け、水揚げが不安定な魚を生きたまま保管し、直販所や飲食店等のニーズに応じた出荷をできるようにしたという事例を第2節の中で取り上げました。これは直販店や飲食店等が魚を必要とするタイミングで必要な量だけ提供するというニーズに応えたマーケットインの取組に該当します。

一度に大量に漁獲された場合に冷凍保存し、時化等で生鮮魚介類を供給できない場合に、水産加工業者や小売店等に対して、代替品を供給することもマーケットインの取組に該当します。

また、ICT*1の活用により、各地の水揚状況や取引価格等の情報を把握しつつ、必要なところに必要なものを必要な量だけ供給できるよう、計画的かつ効率的に操業することも水産物の価値向上につながります。今後、漁獲割当(IQ)方式による産出量規制が導入されることとなる状況においては、これらの情報に基づく、計画的かつ効率的な操業を行うこと自体がマーケットインの取組になり、水産物の価値を高める取組になることが想定されます。

さらに、漁業協同組合や産地商社等が加工・流通・販売段階に関わる事業者から把握したニーズを漁業者に対して伝えることで、例えば、漁獲量が少ない高級魚については、船上での血抜きや神経締め等の高付加価値化や高品質化に関する漁業者の取組を可能にします。

このように漁業者自身がバリューチェーン全体の中で、水産物の価値を向上させる取組の一翼を担っていることを意識するなど、漁業者によるマーケットインの取組を拡大していくためには、生産段階にとどまらず、バリューチェーンにおける加工・流通・販売段階までに目を向けることが必要です。

  1. Information and Communication Technology:情報通信技術、情報伝達技術。

イ 養殖業における取組の方向

〈養殖業の強みを認識し商品を提供する〉

養殖業においては、漁船漁業では対応しづらい商品の提供を目指すことが重要であり、季節を問わずに、比較的安定的に、品質の高い養殖魚への需要や外食需要に対応することができます。あわせて、海外から輸入している水産物に代替する商品を開発・生産して国内市場でのシェア拡大を図るとともに、定質・定量・定時・定価格の生産物を提供できる養殖業の特性を最大限に生かし、需要に応じた養殖品目、利用形態や質・量の情報を能動的に入手し、需要と生産サイクルに応じた計画的な生産を図ることで、マーケットイン型の養殖業に取り組むことが必要です。

マーケットイン型の養殖業を実現していくため、養殖経営体は、自らが有する養殖技術、飼育する養殖品目の生産サイクル、水深や水温・漁場の広さ等の漁場環境条件、使用可能な労働力、対象とする市場の質や規模、市場との距離、連携可能な関係者等の経営資源の内容を十分に把握した上で、養殖業に関する生産機能(餌・種苗、養殖)、加工機能、流通機能、販売機能及び物流等の各段階の機能が連携・連結し、効率性を高めながら、養殖のバリューチェーン全体の付加価値を向上させていくことが重要です。

養殖経営体の目指す姿として、養殖経営体を分析して5つの形態(生産者協業、産地事業者協業、生産者型協業、1社統合企業及び流通型企業)に分類しています。例えば、1社統合企業の形態をとる場合は、種苗調達から販売までのバリューチェーン全体を自社で行うことでマーケットインにも対応しますが、一方で、生産者協業の形態をとる場合は、生産者は販売業者との委託契約といった形で特定の消費者ニーズに対応することができます。いずれの形態をとる場合も、自らの経営資源を最大限に活用しながら、バリューチェーンの各機能との連携の仕方を明確にした上での経営を行うことが重要です。

ウ 加工・流通における取組の方向

〈SNS等を活用したニーズの把握と新たな商流を生み出す〉

水産物の流通拠点となる卸売市場は、商品の集荷・分荷、価格形成、決済、情報受発信の各種機能を有していますが、このうち、川上・川下の双方に伝達する情報受発信機能は、マーケットインの取組に必要な情報のフィードバックや好循環を生み出すことを可能とするものであり、「卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律*1」の下、積極的な取組が期待されます。

一方、今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で消費者が産地に足を運びにくくなったことや、生活様式が変化してきていることも踏まえ、産地における流通・加工の取組にも変化がみられ、漁業者自身や漁業団体等がインターネットやSNS等を通じて直接販売を行うとともに、取引先の消費者や顧客の声を聴いて、生産・加工方法の改善、水産物の特性や価値に関する情報発信を積極的に行うなど、新たな取組が広がっています。

これらの取組には、小売店や飲食店等の企業や一般消費者を対象としたものなど、その形態は様々ですが、例えば、一般消費者に対しては、魚のさばき方や、おいしい調理方法の指南をインターネット動画等で行うとともに、生活様式の変化から消費者の間に食の簡便化志向が高まっていることを意識し、調理の手間を省ける加工形態や調理・調味済み製品を直接販売するなどの取組が重要です。

また、魚を上手にさばける人材の確保が困難となりつつある小売店や飲食店に対しては、例えば、ICT・AI*2やロボット技術等を活用した選別・加工技術を導入しつつ、必要な部位を必要な形態に調理・調味し、真空パックにして急速凍結した商品を提供できるように取り組むといった新たな技術の活用による効率的かつニーズに応えた新商品の開発も必要です。

なお、季節ごとの祭やイベント、正月のおせち料理等は、地域によって異なりますが、それぞれの風土を生かし、単なる商品価値に留まらない文化的価値を伝統的な加工技術によって訴求できる可能性がある点も考慮した取組が効果的であると考えられます。

大手の通信販売業者が、インターネット等を活用し、本や雑貨等の製造業者から、直接消費者に製品を結び付ける取組を行っているのと同様に、漁業者や加工業者においても産地と全国の消費者や顧客との間に、新たな取引機会や販路を創造し、多種多様な形で水産物の供給を行うことは、水産物の価値向上にもつながるとともに、漁業者の所得増大に資することが期待されます。

  1. 平成30(2018)年法律第62号
  2. Artificial Intelligence:人工知能。機械学習ともいわれる。

コラム食品製造業における国内産地との取引の意向と課題

株式会社日本政策金融公庫が実施した、食品製造業を対象とした「食品産業動向調査(令和2年7月調査)」によると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえた今後の国内産地との取引については、「増やしたい」との回答が、製造業で29.0%、卸売業で44.1%、小売業で36.8%、飲食業で27.7%となっています。国内産地との取引を増やしたい理由は、「販売先(消費者サイド)のニーズ増加」との回答が、製造業、卸売業、小売業で最も多くなっています。

一方で、国内産地との取引を行う際の課題については、全業種で「価格が合わない(高い、相場が不安定)」との回答が最も多く、次いで「ロットが合わない(定量確保が困難)」、「物流に課題がある」、「通年(決まった時期)の取引が難しい」のいずれかが続いています。

このように、国産産地との取引のニーズが見込まれる中で、水産物についても関係者が上記の課題の解決に取り組むことによって販路拡大・消費拡大につながることが期待されます。

図表1 今後の国内産地との取引について

図表1 今後の国内産地との取引について

図表2 今後の国内産地との取引について(増やしたい理由 業種別/3つまでの複数回答)

図表2 今後の国内産地との取引について(増やしたい理由 業種別/3つまでの複数回答)

図表3 国内産地との取引の課題(業種別/3つまでの複数回答)

図表3 国内産地との取引の課題(業種別/3つまでの複数回答)

エ 海外の需要を掴むための取組の方向

〈バリューチェーン全体を「マーケットイン」に転換することで輸出拡大を加速〉

水産物の輸出拡大を加速する上で、最も必要なことは、海外市場で求められるスペック(量・価格・品質・規格)の水産物を専門的・持続的に生産・輸出し、あらゆる形での商流を開拓する体制の整備です。つまり、生産から現地販売までのバリューチェーン全体をマーケットインに転換することが求められます。この認識の下、日本の強みを有する品目を輸出の重点品目として選定し、品目ごとのターゲット国・地域の特定や具体的な輸出目標・手段の明確化を行うことが求められます。しかしながら水産関係事業者だけでは、海外のニーズを把握し、海外販売までを手がけることは困難であるため、特定の品目ごとに、生産・流通・輸出販売等に取り組む関係事業者を包括する団体を組織し、当該団体が主体となって、生産から輸出に至るバリューチェーンを拡大し、ターゲット国・地域に係る情報収集、販売戦略づくり、ブランディング、商談・販路開拓支援、現地の商流との連携強化等に取り組むことを推進しています。特に漁船漁業に比べて安定供給を図りやすい養殖業において、重点品目とされた魚種について大規模化や沖合養殖を推進し、輸出に必要となる養殖生産物を増産することを推進する必要があります。

オ HACCP対応と水産エコラベル認証取得による国内外の販路拡大

〈HACCP対応や水産エコラベル認証取得により販路を拡大〉

世界的に、食品安全に関する意識の高まりを背景として、HACCP対応を国の輸入条件としたり、HACCP認証取得を企業の調達基準とする動きが広がっており、HACCPが世界のスタンダードになりつつあるとも言える状況となってきています。我が国においては平成30(2018)年6月に「食品衛生法等の一部を改正する法律」が公布され、令和2(2020)年6月1日から、HACCPに沿った衛生管理等の実施に取り組むことが求められています。

また、世界的に持続可能な漁業・養殖業を広げていこうとする動きが活発になってきており、消費者や顧客に持続可能な漁業・養殖業の重要性を共有してもらう手段である水産エコラベル認証の取得を企業の調達基準とする動きが広がっているほか、我が国においても、水産エコラベル認証を取得した商品を積極的に取り扱う動きが広がりつつあります。このため、近い将来、漁業・養殖業において持続可能性に配慮した取組を行っていることが当然のこととなる可能性もあると考えられます。

こうした中、将来にわたって我が国水産物の新たな販路を広げていくためには、水産物を生産する漁船、水揚げを行う漁港から流通、加工に至るまでの各段階におけるHACCP対応やそのために必要となる高度衛生管理を促進していくことが必要です。また、我が国水産業が世界的な水産エコラベル認証の広がりに遅れずに対応していくため、水産関係事業者が水産エコラベルを積極的に取得し、取引に活用するとともに、消費者や顧客の認知度向上を図ることが必要です。

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097