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水産庁

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(3)水産業の就業者をめぐる動向

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ア 漁業就業者の動向

〈漁業就業者は13万5,660人〉

我が国の漁業就業者は一貫して減少傾向にあり、令和2(2020)年には前年から6.3%減少して13万5,660人となっています(図表2-16)。漁業就業者数の総数が減少する中で、近年の新規漁業就業者数はおおむね2千人程度で推移していましたが、令和元(2019)年は1,729人、令和2(2020)年は1,707人と2年連続で1,700人台となり、平成30(2018)年(1,943人)と比べ1割の減少となりました(図表2-17)。

新規漁業就業者数について就業形態別に見ると、雇われでの就業は新型コロナウイルス感染症の影響等厳しい経営環境の中においても増加傾向にあります。他方、独立・自営を目指す新規就業者(以下「独立型新規就業者」といいます。)については、平成30(2018)年は858人でしたが、令和元(2019)年は633人、令和2(2020)年は574人と減少が続いている状況にあります。独立型新規就業者は年変動が大きく、都道府県の中には増加しているところもあることから、今後の動向を注視していく必要がありますが、独立型新規就業者の減少の背景には、就業希望者を受け入れて育成する現役漁業者の減少・高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響等により、リスクの高い独立型の就業を避ける傾向等があることが考えられます。

また、新規漁業就業者のうち39歳以下がおおむね7割程度であり、若い世代の参入が多く占める傾向が続いています。

図表2-16 漁業就業者数の推移

図表2-16 漁業就業者数の推移

図表2-17 新規漁業就業者数の推移

図表2-17 新規漁業就業者数の推移

イ 新規漁業就業者の確保に向けた取組

〈新規就業者の段階に応じた支援を実施〉

我が国の漁業経営体の大宗を占めるのは、家族を中心に漁業を営む漁家であり、このような漁家の後継者の主体となってきたのは漁家で生まれ育った子弟です。しかしながら、近年、生活や仕事に対する価値観の多様化により、漁家の子弟が必ずしも漁業に就業するとは限らなくなっています。他方、新規漁業就業者のうち、他の産業から新たに漁業就業する人はおおむね7割*1を占めており、就業先・転職先として漁業に関心を持つ都市出身者も少なくありません。こうした潜在的な就業希望者を後継者不足に悩む漁業経営体や地域とつなぎ、意欲のある漁業者を確保し担い手として育成していくことは、水産物の安定供給のみならず、水産業・漁村の多面的機能の発揮や地域の活性化の観点からも重要です。

このような状況を踏まえ、水産庁は、漁業経験ゼロからでも漁業に就業・定着できるよう、全国各地での漁業就業相談会の開催やインターンシップの受入れを支援するとともに、漁業学校*2で学ぶ者に対する資金の交付、漁業就業後の漁業現場でのOJT*3方式での長期研修を支援するなど、新規就業者の段階に応じた支援を行っています(図表2-18)。さらに、国の支援に加えて、地方公共団体においても地域の実情に応じた各種支援が行われています。

  1. 都道府県が実施している新規漁業就業者に関する調査から水産庁で推計。
  2. 「学校教育法(昭和22(1947)年法律第26号)」に基づかない教育機関であり、漁業に特化したカリキュラムを組み、水産高校や水産系大学よりも短期間で即戦力となる漁業者を育成する学校。
  3. On-the-Job Training:日常の業務を通じて必要な知識・技能を身に付けさせ、生産技術について学ばせる職業訓練。
QRコード
漁業就労の情報提供Webサイト「漁師.jp」((一社)全国漁業就業者確保育成センター):https://ryoushi.jp/[外部リンク]

図表2-18 国内人材確保及び海技資格取得に関する国の支援事業

図表2-18 国内人材確保及び海技資格取得に関する国の支援事業

事例漁船乗組員確保養成プロジェクトによる水産高校への働きかけ

「漁業ガイダンス」では、全国の水産高校に漁業者が出向き、少人数のブース形式で生徒が親しみやすい資料や写真・動画を活用して、漁法や漁師の生活スタイル、漁業の魅力等を説明しています。取組を開始した平成29(2017)年度から令和2(2020)年度までの4年間で、延べ81回、3,065人の生徒が参加し、参加した生徒からは「やりがいがあって楽しそうだと思った」、「漁業の仕事の具体的なイメージを持てるようになった」等のコメントが寄せられています。

水産高校への働きかけ
漁業ガイダンスの様子1
漁業ガイダンスの様子2

漁業ガイダンスの開催実績

漁業ガイダンスの開催実績

水産高校生(専攻科含む)の漁業への就職状況

水産高校生(専攻科含む)の漁業への就職状況

ウ 漁業における海技士の確保・育成

〈漁業における海技士の高齢化と不足が深刻化〉

20トン以上の船舶で漁業を営む場合は、漁船の航行の安全性を確保するため、それぞれの漁船の総トン数等に応じて、船長、機関長、通信長等として乗り組むために必要な海技資格の種別や人数が定められています。

海技資格を取得するためには国土交通大臣が行う海技士国家試験に合格する必要がありますが、航海期間が長期にわたる遠洋漁業においては、乗組員がより上級の海技資格を取得する機会を得にくいという実態があります。また、就業に対する意識や進路等が多様化する中で、水産高校等の卒業生が必ずしも漁業に就業するわけではなく、これまで地縁や血縁等の縁故採用が主であったこととあいまって、漁業における海技士の高齢化と不足が深刻化しています。

海技士の確保と育成は我が国の沖合・遠洋漁業の喫緊の課題であり、必要な人材を確保できず、操業を見合わせるようなことがないよう、関係団体等は、漁業就業相談会や水産高校等への積極的な働きかけを通じて乗組員を募るとともに、乗船時における海技資格の取得を目指した計画的研修の取組や免許取得費用の助成を行っています。

このような背景から、国は、平成30(2018)年度から、水産高校卒業生を対象とした新たな四級海技士養成のための履修コースを設置する取組について支援を行い、令和元(2019)年度から、6か月間の乗船実習を含む新たな履修コースが水産大学校で開始されました。また、令和4(2022)年度からは、五級海技士試験の受験に必要な乗船履歴を早期に取得できる仕組みの拡大・実践の取組を支援することとしています。これらによって、水産高校卒業生が四級又は五級海技士試験を受験するのに必要な乗船履歴を短縮することが可能となり、水産高校卒業生の早期の海技資格の取得が期待されます。

また、令和2(2020)年度より、総トン数20トン以上長さ24m未満の中規模漁船で100海里内の近海を操業するものについて、安全の確保を前提に、必要となる措置等を講じた上で、これまでの海技士(航海)及び海技士(機関)の2名の乗組みが必要だったものを小型船舶操縦士1名の乗組みで航行が可能となるよう、海技資格制度の見直しが行われました。

エ 女性の活躍の推進

〈漁業・漁村における女性の一層の活躍を推進〉

女性の活躍の推進は、漁業・漁村の課題の一つです。海上での長時間にわたる肉体労働が大きな部分を占める漁業においては、就業者に占める女性の割合は約11%となっていますが、漁獲物の仕分けや選別、カキの殻むきといった水揚げ後の陸上作業では約36%、漁獲物の主要な需要先である水産加工業では約60%を占めており、女性がより大きな役割を果たしています。このように、海女漁等の伝統漁業のみならず、水産物の付加価値向上に不可欠な陸上での活動を通し、女性の力は水産業を支えています。

一方、女性が漁業経営や漁村において重要な意思決定に参画する機会は、いまだ限定的です。例えば、令和2(2020)年の全国の漁業協同組合(以下「漁協」といいます。)における正組合員に占める女性の割合は5.2%となっています。また、漁協の女性役員は、全体の0.5%にとどまっています(図表2-19)。

図表2-19 漁協の正組合員及び役員に占める女性の割合

図表2-19 漁協の正組合員及び役員に占める女性の割合

令和2(2020)年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」においては、農山漁村における地域の意思決定過程への女性の参画の拡大を図ることや、漁村の女性グループが行う起業的な取組等を支援すること等によって女性の経済的地位の向上を図ること等が盛り込まれています。

また、令和2(2020)年12月に施行された「漁業法等の一部を改正する等の法律*1」による「水産業協同組合法*2」の改正においては、漁協は、理事の年齢及び性別に著しい偏りが生じないように配慮しなければならないとする規定が新設されました。

漁業・漁村において女性の一層の活躍を推進するためには、固定的な性別役割分担意識を変革し、家庭内労働を男女が分担していくことや、漁業者の家族以外でも広く漁村で働く女性の活躍の場を増やすこと、さらには、保育所の充実等により女性の社会生活と家庭生活を両立するための支援を充実させていくことが重要です。このため、国は、水産物を用いた特産品の開発、消費拡大を目指すイベントの開催、直売所や食堂の経営等、漁村コミュニティにおける女性の様々な活動を推進するとともに、子供待機室や調理実習室等、女性の活動を支援する拠点となる施設の整備を支援しています。

また、平成30(2018)年11月に発足した「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」は、水産業に従事する女性の知恵と多様な企業等の技術、ノウハウを結び付け、新たな商品やサービスの開発等を進める取組であり、水産業における女性の存在感と水産業の魅力を向上させることを目指しています。これまで、同プロジェクトのメンバーによる講演や企業等と連携したイベントへの参加等の活動が行われています。このような様々な活動や情報発信を通して、女性にとって働きやすい水産業の現場改革及び女性の仕事選びの対象としての水産業の魅力向上につながることが期待されます。

  1. 平成30(2018)年法律第95号
  2. 昭和23(1948)年法律第242号
QRコード
「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」について(水産庁):https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/suisanjoshi/181213.html

オ 外国人労働をめぐる動向

〈漁業・養殖業における特定技能外国人の受入れ及び技能実習の適正化〉

遠洋漁業に従事する我が国の漁船の多くは、主に海外の港等で漁獲物の水揚げや転載、燃料や食料等の補給、乗組員の交代等を行いながら操業しており、航海日数が1年以上に及ぶこともあります。このような遠洋漁業においては、日本人乗組員の確保・育成に努めつつ、一定の条件を満たした漁船に外国人が乗組員として乗り組むことが認められており、令和3(2021)年12月末現在、4,187人の外国人乗組員がマルシップ方式*1により我が国漁船に乗り組んでいます。

また、平成30(2018)年12月に成立した「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律*2」を受け、新たに創設された在留資格「特定技能」の漁業分野(漁業、養殖業)及び飲食料品製造業分野(水産加工業を含む。)においても、平成31(2019)年4月以降、一定の基準*3を満たした外国人の受入れが始まりました。今後は、このような外国人と共生していくための環境整備が重要であり、漁業活動やコミュニティ活動の核となっている漁協等が、受入れ外国人との円滑な共生において適切な役割を果たすことが期待されることから、国においても必要な支援を行っています。令和3(2021)年12月末現在、漁業分野の特定技能1号在留外国人数は漁業で320人、養殖業で229人となっており、今後の受入れ拡大が期待されます。

外国人技能実習制度については、水産業においては、漁船漁業・養殖業における10種の作業*4及び水産加工食品製造業・水産練り製品製造業における10種の作業*5について技能実習が実施されており、技能実習生は、現場での作業を通じて技能等を身に付け、開発途上地域等の経済発展を担っていきます。

漁船漁業・養殖業分野における技能実習生は年々増加していましたが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う外国からの渡航者に対する入国制限の影響により、漁船漁業職種は1,027人(令和4(2022)年3月1日現在)*6、養殖業職種は2,092人(令和3(2021)年3月末現在、推計値)*7にとどまりました。国は、海上作業の伴う漁船漁業・養殖業について、その特有の事情に鑑みて、技能実習生の数や監理団体による監査の実施に関して固有の基準を定めるとともに、平成29(2017)年12月に漁業技能実習事業協議会を設立し、事業所管省庁及び関係団体が協議して技能実習生の保護を図る仕組みを設けるなど、漁船漁業・養殖業における技能実習の適正化に努めています。

  1. 我が国の漁業会社が漁船を外国法人に貸し出し、外国人乗組員を配乗させた上で、これを定期用船する方式。
  2. 平成30(2018)年法律第102号
  3. 各分野の技能試験及び日本語試験への合格、又は各分野と関連のある職種において技能実習2号を良好に修了していること等。
  4. かつお一本釣り漁業、延縄はえなわ漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、定置網漁業、かに・ えびかご漁業、棒受網漁業及びほたてがい・まがき養殖作業
  5. 節類製造、加熱乾製品製造、調味加工品製造、くん製品製造、塩蔵品製造、乾製品製造、発酵食品製造、調理加工品製造、生食用加工品製造及びかまぼこ製品製造作業
  6. 技能実習評価試験実施機関調べ
  7. 水産庁調べ(漁業技能実習事業協議会証明書交付件数から推計)

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097