1 漁船漁業の構造改革等
(1)沿岸漁業
ア 沿岸漁業の持続性の確保
日々操業する現役世代を中心とした漁業者の生産活動が持続的に行われるよう、操業の効率化・生産性の向上を促進しつつ、多様な生産構造を地域ごとの漁業として活かし、持続性の確保を図ります。その際、海洋環境の変化を踏まえ、低・未利用魚の活用も含め、漁獲量が増加している魚種の有効活用を進めるとともに、地域振興として新たに養殖業を始める地域における必要な機器等の導入を促進します。
また、沿岸漁業で漁獲される多種多様な魚については、生産と消費の場が近いなどの地域の特徴を踏まえ、消費者に届ける加工・流通等を含むサプライチェーン上の関係者による高付加価値化等の取組を推進します。
さらに、養殖をはじめとする漁場の有効活用を推進します。
イ 漁村地域の存続に向けた浜プランの見直し
次世代への漁労技術の継承、漁業を生業とし日々操業する現役世代を中心とした効率的な操業・経営、漁業種類の転換や新たな養殖業の導入等による漁業所得の向上に併せ、海業(うみぎょう)の推進や農業・加工業等の他分野との連携等漁業以外での所得を確保することが、地域の漁業と漁村地域の存続には必要であることから、浜の活力再生プラン(以下「浜プラン」という。)の見直しを踏まえ、これまで各浜で取り組んできた漁業収入向上・漁業コスト削減の取組について、PDCAサイクルの着実な実践により継続・発展させつつ、新たに海業や渚泊(なぎさはく)等の漁業外所得確保の取組や、地域の将来を支える人材の定着等の漁村の活性化に向けた幅広い取組についても位置付けた浜プランの策定・実行を推進します。
また、漁業や流通・加工等の各分野において、女性も等しく活躍できる環境が各地域で整えられる取組を推進します。
ウ 遊漁の活用
遊漁が秩序を持って、かつ、持続的に発展することは漁村地域の振興・存続にとって有益であり、漁業と一貫性のある資源管理を目指す中で、漁場利用調整に支障のない範囲で水産関連産業の一つとして遊漁を位置付けています。特に、遊漁船業は漁業者にとって地元で収入が得られる有望な兼業業種の一つであり、登録制度を通じた業の管理を適切に行うとともに、地域の実情に応じた秩序ある業の振興を図り、漁村の活性化に活用します。また、陸上からの釣りやプレジャーボート等の遊漁については、関係団体との連携によるマナー向上やルールづくり等を進めます。
また、令和6(2024)年4月1日に施行された「遊漁船業の適正化に関する法律の一部を改正する法律」(令和5年法律第39号)に基づき、遊漁船業の安全性向上等を図っていきます。
エ 海面利用制度の適切な運用
海面利用制度が適切に運用されるよう制定された「海面利用ガイドライン」を踏まえ、各都道府県で漁場を有効利用し、漁場の生産力を最大限に活用します。
1) 都道府県等への助言・指導
漁業・養殖業における新規参入や規模拡大を進めるため、新たな漁業権を免許する際の手順・スケジュールの十分な周知・理解を図るとともに、漁場の活用に関する調査を行い、令和5(2023)年9月以降に行われた漁業権の一斉切替えの結果も踏まえ、都道府県に対して必要な助言・指導を行います。
また、国に設置した漁業権に関する相談窓口を通じて、現場からの疑問等に対応します。
2) 漁場の有効利用
漁業権等の「見える化」のため、漁場マップの充実を図り、漁場の利用に関する情報の公開を図るほか、漁業法に基づき提出される資源管理状況や漁獲情報報告を活用した課題の分析を行い、漁場の有効活用に向けて必要な取組を促進します。
(2)沖合漁業
近年の海洋環境の変化等に対する順応性を高める観点から、資源変動に適応できる弾力性のある漁業経営体の育成と資源の有効利用を行っていく必要があります。このため、漁業調整に配慮しながら、漁獲対象種・漁法の複合化、複数経営体の連携による協業化や共同経営化、兼業等による事業の多角化等の複合的な漁業への転換を段階的に推進します。
この際、TAC/IQ対象資源の拡大が複合的な漁業において効果的に活用されるよう制度運用を行います。くわえて、許可制度についても、魚種や漁法に係る制限が歴史的な経緯で区分されていることを踏まえつつ、TAC/IQ制度の導入、近年の海洋環境の変化への適応や複合的な漁業の導入も見据え、変化への弾力性を備えた生産構造が構築されるよう制度運用を行います。
また、労働人口の減少により、従来どおりの乗組員の確保が困難である状況において、水産物の安定供給や加工・流通等の維持・発展の観点から、沖合漁業の生産活動の継続が重要であり、機械化による省人化やICTを活用した漁場予測システム導入等の生産性向上に資する取組を推進します。
さらに、経営安定にも資するIQ導入の推進と割当量の有効活用、透明性確保等の的確な運用を確保し、併せて、IQが遵守される範囲であれば漁法等に関係なく資源に与える漁獲の影響が同等であることを踏まえて、関係漁業者との調整を行い、船型や漁法等の見直しを図ります。
このほか、IQの導入に併せて、加工・流通業者との連携強化による付加価値向上、輸出も視野に入れた販売先の多様化等、限られた漁獲物を最大限活用する取組を推進するとともに、新たな資源管理を着実に実行し、資源の回復による生産量の増大を図っていくことに併せて、陸側のニーズに沿った水揚げ、低・未利用魚の活用等の取組を推進し、収益性向上を図ります。
(3)遠洋漁業
ア 遠洋漁業の構造改革
我が国の遠洋漁業は、近年、主要漁獲物であるマグロ類の市場の縮小や養殖・蓄養品の増加等による価格の低迷、船員の高齢化となり手不足、高船齢化、操業の国際規制や監視の強化、沿岸国への入漁コストの増大等、その経営を取り巻く状況は厳しいものとなっており、現行の操業形態・ビジネスモデルのままでは、立ち行かなくなる経営体が多数出てくることが懸念されます。
こうした状況を踏まえ、業界関係者と危機意識を共有しつつ、将来にわたって収益や乗組員の安定確保ができ、様々な国際規制等にも対応していくことができる経営体の育成・確立が求められます。このような経営体への体質強化を目指し、従来の操業モデルの変革を含め、操業の効率化・省力化、それを実現するための代船建造や海外市場を含めた販路の多様化、さらに必要な場合は経営の集約化も含め様々な改善方策を検討・展開します。
また、入漁先国のニーズやリスクを踏まえ、安定的な入漁を確保するための取組を引き続き推進します。
イ 国際交渉等
漁業交渉については、カツオ・マグロ等公海域や外国水域に分布する国際資源について、RFMOや二国間における協議において、科学的根拠に基づく適切な資源評価と、それを反映した適切な資源管理措置や操業条件等の実現を図りつつ、我が国漁船の持続的な操業を確保するとともに、太平洋島しょ国をはじめとする入漁先国のニーズを踏まえた海外漁業協力の効果的な活用等により海外漁場での安定的な操業の確保を推進します。
また、サンマ、サバ、スルメイカ等主たる分布域や漁場が我が国排他的経済水域内に存在する資源又は我が国排他的経済水域と公海を大きく回遊する資源であって、かつ、我が国がTACにより厳しく管理している資源が我が国排他的経済水域のすぐ外側や暫定措置水域等で無秩序に漁獲され、結果的に我が国の資源管理への取組効果が減殺されることを防ぐため、関係国間や関係するRFMOにおける協議や協力を積極的に推進します。特に、我が国周辺資源の適切な管理の取組を損なうIUU漁業対策については、周辺国等との協議のほか、PSM協定等のマルチの枠組みを活用した取組を推進します。
さらに、気候変動の影響への適応については、従来のRFMOによる取組に加え、国内外の研究機関が連携して地球規模の気候変動の水産資源への影響を解明するなど、国際的な連携により資源管理を推進します。
くわえて、水産資源の保存及び管理、水産動植物の生育環境の保全及び改善等の必要な措置を講ずるに当たり、海洋環境の保全並びに海洋資源の将来にわたる持続的な開発及び利用を可能とすることに配慮しつつ、海洋資源の積極的な開発及び利用を目指します。
ウ 捕鯨政策
我が国の捕鯨は、科学的根拠に基づいて海洋生物資源を持続的に利用するとの我が国の基本姿勢の下、国際法に従って、持続的に行われています。捕鯨の実施に当たっては、鯨類を含む水産資源の持続的利用という我が国の立場に対する理解の拡大を引き続き推進する必要があります。
このため、「鯨類の持続的な利用の確保のための基本的な方針」に則り、科学的根拠に基づく鯨類の国際的な資源管理とその持続的利用を推進するべく、鯨類科学調査を継続的に実施し、精度の高いデータや科学的知見を蓄積・拡大するとともに、それらをIWC(国際捕鯨委員会:日本はオブザーバーとして参加)等の国際機関に着実に提供しながら、我が国の立場や捕鯨政策への理解と支持の拡大を図ります。
また、鯨類をはじめとする水産資源の持続的利用の推進のため、我が国と立場を共有する国々との連携を強化しつつ、国際社会への適切な主張・発信を行うとともに必要な海外漁業協力を行うことにより、我が国の立場の理解と支持の拡大を推進します。
さらに、捕鯨業の安定的な実施と経営面での自立を図るため、科学的根拠に基づく適切な捕獲枠を設定するとともに、操業形態の見直し等によるコスト削減の取組や、販路開拓・高付加価値化等による売上拡大等の取組を推進します。
お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344