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水産庁

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(4)漁業労働環境をめぐる動向

ア 漁船の事故及び海中転落の状況

〈漁業における災害発生率は陸上における全産業の平均の4倍〉

令和6(2024)年の漁船の船舶事故隻数は464隻、漁船の船舶事故に伴う死者・行方不明者数は22人となりました(図表2-25)。漁船の事故は、全ての船舶事故隻数の約3割、船舶事故に伴う死者・行方不明者数の約4割を占めています。漁船の事故の種類としては衝突が最も多く、その原因は、見張り不十分、操船不適切、居眠り運航といった人為的要因が多くを占めています。また、船体機器整備不良や気象海象情報の確認不足といった発航前検査の不十分による事故も多く発生しています。

漁船は、進路や速度を大きく変化させながら漁場を探索したり、停船して漁労作業を行ったりと、商船とは大きく異なる航行をします。また、操業中には見張りが不十分となること、さらに、漁船の約8割を占める5トン未満の小型漁船は大型船からの視認性が悪いことなど、商船にはない事故リスクを抱えています。

図表2-25 漁船の船舶事故隻数及び船舶事故に伴う死者・行方不明者数の推移

図表2-25 漁船の船舶事故隻数及び船舶事故に伴う死者・行方不明者数の推移

船上で行われる漁労作業では、不慮の海中転落*1も発生しています。令和6(2024)年における漁船からの海中転落者数は63人となり、そのうち38人が死亡又は行方不明となっています。また、海中転落以外にも、漁船の甲板上では、機械への巻き込みや転倒等の思わぬ事故が発生しており、漁業における労働災害発生率は、陸上における全産業の平均の約4倍と、高い水準が続いています(図表2-26)。

  1. ここでいう海中転落は、衝突、転覆等の船舶事故以外の理由により発生した船舶乗船者の海中転落をいう。

図表2-26 船員及び陸上労働者における労働災害発生率

図表2-26 船員及び陸上労働者における労働災害発生率

イ 漁業労働環境の改善に向けた取組

〈海難事故の防止に向けた取組〉

海中転落時には、ライフジャケットの着用が生存に大きな役割を果たします。令和6(2024)年のデータでは、漁業者の海中転落時のライフジャケット着用者の生存率(82%)は、非着用者の生存率(47%)の約1.7倍です(図表2-27)。

ライフジャケットの着用については、原則、船室の外にいる全ての乗船者に着用が義務付けられるとともに、乗船者に着用させなかった船長(小型船舶操縦者)に対し、違反点数が付与されます*1。しかしながら、令和6(2024)年の海中転落時におけるライフジャケット着用率は約5割となっており、着用義務付けから6年が経過しているにも関わらず、依然として未着用による死傷災害が頻発しています。漁労作業を伴う漁業では、一般船舶に比べ海中転落の危険が高いことから、命を守る手段として、ライフジャケットの着用を徹底することが極めて重要です。

このため、政府では、都道府県、漁業関係団体と連携して、確実なライフジャケットの着用に向け、引き続き周知・啓発を行っていくこととしています。

また、水産庁では、漁船による海難事故の防止に向け、関係省庁と連携してAIS*2や衝突事故等を回避するスマートフォンアプリ*3の周知・啓発等を通じ、これらの普及の促進を図っています。

  1. 着用義務に違反した場合、船長(小型船舶操縦者)に違反点数が付与され、違反点数が行政処分基準に達すると最大で6か月の免許停止(業務停止)となる場合がある。
  2. Automatic Identification System:船舶自動識別装置。洋上を航行する船舶同士が安全に航行できるよう、船舶の位置、針路、速力等の航行情報を相互に交換し、衝突の予防に役立てることができるシステム。
  3. AISの搭載が難しい小型漁船の安全性向上のため、漁船の自船位置及び周辺船舶の位置情報等をスマートフォンに表示し、他の船舶の接近等について漁業者にアラームを鳴らして知らせることにより、衝突事故等を回避するアプリケーション。

図表2-27 ライフジャケットの着用・非着用別の漁船からの海中転落者の生存率

図表2-27 ライフジャケットの着用・非着用別の漁船からの海中転落者の生存率

〈農林水産業・食品産業の分野を横断した作業安全対策の推進〉

漁業労働における安全性の確保は、人命に関わる課題であるとともに、漁業に対する就労意欲にも影響します。これまでも、技術の向上等により漁船労働環境における安全性の確保を進めるとともに、水産庁では、全国で「漁業カイゼン講習会」を開催して漁業労働環境の改善や海難事故の未然防止に関する知識を持った安全推進員等の養成を通じ、漁業者自らが漁業労働の安全性を向上させる取組を支援してきました。

また、農林水産省では、農林水産業・食品産業の分野を横断して作業安全対策を推進しており、具体的には、現場の事業者や事業者団体が取り組むべき事項や共有すべき認識を整理した「農林水産業・食品産業の作業安全のための規範」を策定し、広く周知・啓発を行っています。引き続き、漁業等の現場の従事者の方々に作業安全の取組をチェックしていただき、安全意識の向上を図っていくこととしています。

QRコード
漁船の安全操業に関する情報(水産庁):/j/kikaku/anzen.html
QRコード
農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策(農林水産省):https://www.maff.go.jp/j/kanbo/sagyou_anzen/

コラム漁業における人材確保のための「減らさない努力」

一般社団法人全国漁業就業者確保育成センター(以下「漁師.jp」といいます。)では、漁業就業者の確保・育成を通じた水産業の発展と漁村の活性化に取り組んでいます。

漁業就業者数は減少の一途を辿り、これまでにも増して深刻な人手不足が課題となっています。しかし、そのような状況下でも「漁師になるのが子供の頃からの夢でした」という若者からの相談が絶えません。

漁師.jpでは、夢を叶えて漁師になった人が長く続けられるような環境を整えることが、今一番求められていると感じ、「減らさない活動」に力を入れています。

減らさない活動1「漁船事故を減らそう」

漁業における労働災害発生率は、他の産業に比べて高く、毎年複数の死亡事故も発生しています(図表2-26)。死亡事故があると、直接的に漁師が減るだけでなく、危険な産業というイメージが広まり、漁師を志す人が家族などに反対されるケースも多くあります。

漁師.jpでは、平成25(2013)年から安全な操業や航行などの知識を持った安全推進員を養成する「漁業カイゼン講習会」を各地で開催し、事故の未然防止に取り組んでいます。また、令和6(2024)年には「漁船事故を減らそう」というハッシュタグを付け、SNS等に漁師が自ら投稿する安全啓発活動を行いました。画像投稿は16.7万回閲覧され、動画投稿は5万回再生されるなど、多くの人の目に触れることとなりました(令和7(2025)年1月末時点)。

事故防止には、日頃からの安全意識が重要です。漁師が自ら発信することで、漁師自身の意識を高め、業界全体へ普及する効果を期待しています。

減らさない活動2「漁師の意識改革」

新人漁師の早期離職理由は「人間関係」が多い傾向にあります。漁師.jpでは令和4(2022)年に漁師.jpサポーター制度を立ち上げ、「新人漁師を大事に育てる」などいくつかの項目をクリアする漁業会社の募集を始めました。サポーターには各種講習会への参加を促し、より意識の高い会社となるよう取り組んでいます。

また、漁師に向けた「選ばれる船であるために」と題したハラスメント対策講習会を実施しています。この講習会では、若者の特性を理解し、「漁業の慣習」を見直し、意識改革を働きかけています。

参加者には、アンケートを通じて、労働環境について自分たちで改善できることを考えてもらいます。

減らさない活動3「漁師の役割の再認識~魚を獲ることだけではない~」

漁師は、日本の食文化を支える重要な仕事です。それだけではなく漁村や各地の伝統芸能を守るなどの役割を果たしています。こうしたことを漁師自身が認識し、職業を誇りに思えるよう、漁師.jpでは「漁師の日」を制定しました。漁師の日は魚が食べられることに感謝し、漁師にとってはゆっくり過ごせるような日になるよう、国民の祝日である海の日と同日の7月第3月曜日としました。

漁船事故を減らそうキャンペーン
ハラスメント対策講習会の様子

〈海上のブロードバンド通信環境の普及を推進〉

漁業においては、狭い船内が主な生活の場となり、陸上に比べて生活環境が十分に整っているとはいえず、船内環境の改善が強く望まれています。特に近年、陸上では、大容量の情報通信インフラの整備が進み、家族や友人等とのコミュニケーションの手段としてSNS等が普及しています。一方、海上では、衛星通信が利用されているものの、その通信容量は限定的であること、利用者が船舶関係者に限定され需要が少なく初期投資費用や通信料金が高額であること等、陸上と異なる制約があるため、ブロードバンドの普及に関して、陸上と海上との格差(海上のデジタルディバイド)が広がっています。

このため、労働人口が減少していく中で、従事者を確保していく観点からも陸上と同じようにスマートフォンを利用できる環境を目指し、利用者である船舶サイドのニーズも踏まえた海上ブロードバンドの普及が喫緊の課題となっています。また、海上でブロードバンド通信環境が普及すれば、様々な情報通信サービスの利用により、例えば漁場予測精度の向上や航行の効率化等が進み、水産業の競争力強化にも資することになります。そのため、水産庁では、総務省や国土交通省と連携し、漁業者のニーズに応じたサービスが提供されるよう通信事業者等を交えた意見交換の実施や、水産関係団体に対する新たなブロードバンドサービスの情報提供の実施などに取り組んでいます。

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344