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水産庁

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(2)新規漁業就業者や若手漁業者等の育成

ア 新規漁業就業者の育成

我が国の漁業経営体の大宗を占めるのは、家族を中心に漁業を営む漁家であり、こうした漁家の後継者の主体となってきたのは漁家で生まれ育った子弟です。しかしながら、近年、生活や仕事に対する価値観の多様化により、漁家の子弟が必ずしも漁業に就業するとは限らなくなっています。一方、就業先として漁業に関心を持つ都市出身者も少なくありません。こうした潜在的な就業希望者を後継者不足に悩む漁業経営体や地域とつなぎ、意欲のある漁業者を確保し担い手として育成していくことは、水産物の安定供給のみならず、漁業・漁村の持つ多面的機能の発揮や地域の活性化の観点からも重要です。

水産庁が新規就業者にアンケートを行ったところ、就業初期の課題は漁業に関する必要な知識・技術、漁船・漁具の取扱いなどであることが分かりました(図2-2-4)。

このような状況を踏まえ、国では、漁業経験ゼロからでも漁業に就業・定着できるよう漁業に関する技術や知識の習得に重点をおき、漁業学校で学ぶ学生が技術習得に専念できるよう資金を交付するとともに、就業希望者が、漁業就業後も引き続き漁業に定着するよう漁業現場でのOJT*1方式での長期研修を支援するなど、新規就業者の段階に応じた支援を行っています(図2-2-5)。

  1. On-the-Job Training:日常の業務を通じて必要な知識・技能又は技術を身に付けさせる教育訓練。

図2-2-4 新規漁業就業者の初期の課題(複数回答)

図2-2-4 新規漁業就業者の初期の課題(複数回答)

図2-2-5 国の支援事業

図2-2-5 国の支援事業

漁業への就業を目指す若者に、より実践的な漁業技術や知識を教育し、即戦力となる漁業就業者を育成する漁業学校の設立が進んでおり、現在、全国17か所に設立され、今後も増加していく見込みです(図2-2-6、図2-2-7)。

図2-2-6 全国の漁業学校

図2-2-6 全国の漁業学校

図2-2-7 漁業学校の推移

図2-2-7 漁業学校の推移

これらの漁業学校は、「学校教育法*1」に基づかない教育機関であるため、より漁業に特化したカリキュラムを組み、水産高校や水産系大学よりも短期間で即戦力となる漁業者を育成することができます。

  1. 昭和22(1947)年法律第26号

こうした漁業学校は、寮等も備えた受入体制をとっていたり、また県外の学生を募集していたりするところもあります。漁業界からは即戦力を育成する機関として大きな信頼が寄せられており、卒業生の漁業への就職率も非常に高いものとなっています(図2-2-8)。

図2-2-8 漁業学校の受入人数と漁業就業者数

図2-2-8 漁業学校の受入人数と漁業就業者数
みやぎ漁師カレッジの研修生の写真

さらに、国の支援に加えて、各都道府県・市町村においても地域の実情に応じた各種支援を行っています(表2-2-1)。

表2-2-1 地方自冶体による支援の例

表2-2-1 地方自冶体による支援の例

このほか、各地域において、地方自治体や漁協等が主体となった新規漁業就業者の確保に向けた取組が実施されています。国でも、就業希望者が漁業の知識や経験を持たなくとも円滑に就業できるよう、全国各地で漁業就業相談会や漁業を体験する就業準備講習会の開催を支援しています。特に、平成14(2002)年度より開催されている漁業就業支援フェアは、漁業就業希望者と全国の漁業経営体や漁村地域をつなぐ場であり、東京・大阪・福岡等の都市部を中心に開催しており、1会場当たりの出展団体数及び1会場当たりの就業希望者の来場者数も近年増加傾向にあります(図2-2-9)。中でも東京会場は出展団体数、来場者数ともに過去最高となりました。徐々に漁業就業者フェアの取組が世間に認知されてきており、今後、ますます新規就業者の獲得の場として活用されていくことが期待されます。

図2-2-9 1会場当たりの出席団体及び来場者数(平均)

図2-2-9 1会場当たりの出席団体及び来場者数(平均)
みやぎ漁師カレッジの研修生の写真

コラム漁師への道

そもそも、漁師(漁業者)にはどうやってなるのでしょうか。

漁師になるとしても、漁業の種類や地域によって、働き方や生活が大きく異なります。まずは、どのような漁業があり、自分がどのような漁師になりたいのか決めることが重要です。漁業就業支援フェアや漁業体験などに参加することによって実際の仕事ぶりや生活を見ることができます。

目指す漁師が決まったら、就職活動です。漁師として働き始める際、資格は特に必要ありません。沿岸漁業の場合は弟子入りする漁師や就職する漁業会社を、沖合・遠洋漁業の場合は就職する漁業会社を探します。各種求人サイトや就業イベントで探したり、漁協や漁業会社に問い合わせたりして、情報を集めることができます。また、漁業研修制度や各地の漁業学校で就業前に指導を受けたり、経験を積むこともできます。

就職した後は、沿岸漁業では、独立して自分で生計を立てるか、漁業会社の従業員としてキャリアを積むかによってアプローチが異なります。独立するためには、漁船を動かすための小型船舶免許と無線免許(海上)が必要となるほか、漁協の組合員になったり、漁業の許可を受けることが必要になる場合があります。沖合・遠洋漁業では、漁船に乗船して経験を積み、幹部職員である航海士や機関士になるための資格を取得し、そしてリーダーの漁労長や船長を主に目指します。

図:漁業者になるための流れ

図:漁業者になるための流れ

コラム水産高校生に対する漁業就業への働きかけ(漁船乗組員確保養成プロジェクト)

漁業就業者の減少と高齢化が進行する中、特に沖合・遠洋漁業においては、漁船の運航に必要な海技士の確保が深刻な課題となっています。

漁船漁業の乗組員不足に対応するため、平成29(2017)年2月に官労使からなる「漁船乗組員確保養成プロジェクト」(事務局:大日本水産会)が創設され、水産庁もこの取組を支援しています。

プロジェクトの取組の1つに水産高校生を対象とした「漁業ガイダンス」があります。これは、全国の水産高校に漁業経営者自らが出向き、求人活動を行ったり、漁業の魅力や実際の漁労作業等を生徒に直接説明し、漁業を知ってもらう活動です。

ガイダンスを実施した背景として、今まで漁業関係者と水産高校との連携があまり進んでなく、漁業の情報が水産高校に十分に発信されず、求人票も水産高校に届いていないという現状がありました。また、教育現場で漁船漁業を経験した指導者も少なくなっており、生徒が漁業に対するイメージを持ちにくいという実態もありました。

ガイダンスを実施したことにより、ガイダンスに参加した生徒からは「具体的なイメージがわいた」、「漁業に興味を持った」、「漁師は大変そうだけど楽しそうにも思った」等のコメントがあり、また、参加した企業からも、生徒だけでなく先生とのつながりを持つきっかけとなり、次につながっていくと高く評価されています。

取組を開始した平成29(2017)年度は16校の水産高校において延べ614人の生徒が参加し、水産高校生の漁船漁業への就業者数も148人と前年度(114人)より約3割増加するといった成果が現れています。

平成30(2018)年度は24校、延べ1,426人が参加し、前年度を上回るペースで開催され、プロジェクトの取組が拡大しており、今後、水産高校生の漁船漁業への就業が期待されます。

図:漁船乗組員確保養成プロジェクトによる水産高校への働きかけの概念図

図:漁船乗組員確保養成プロジェクトによる水産高校への働きかけの概念図

表1:平成30(2018)年度の漁業ガイダンスの開催実績

表1:平成30(2018)年度の漁業ガイダンスの開催実績

表2:水産高校生の漁船漁業への就職状況

表2:水産高校生の漁船漁業への就職状況

事例早田はいだ漁師塾(三重県)

急激に過疎化が進行し、「地区の存続のためには、基幹産業である大型定置網の存続が不可欠である。」と考えた三重県尾鷲おわせ市早田町では、市などの関係行政機関の支援の下、地元漁協が主体となって取組を進め、漁業への就業を促進するための育成機関である「早田漁師塾」を平成24(2012)年度に開設しました。

早田漁師塾では、毎年2~3名の塾生を募集し、4週間の研修の中で、地域で行われている漁業体験、ロープワーク、漁業に必要な知識に関する座学などのプログラムを実施しています。あわせて、現地に滞在することによって、実際の漁村での生活を経験することができます。

これらの取組によって、平成18(2006)年には定置網20名の乗組員のうち40代以下はわずか1名でしたが、平成30(2018)年には半数以上となり大幅に若返っています。

なお、三重県では、早田地区を先進事例として取り組み、漁協が作成した「漁師塾マニュアル」等を活用し、他地区における「漁師塾」の立ち上げを支援しています。

早田漁師塾の様子1の写真
早田漁師塾の様子2の写真

事例フィッシャーマン・ジャパン(宮城県)

「フィッシャーマン・ジャパン」は、漁業のイメージをカッコよくて、稼げて、革新的な「新3K」に変え、次世代へと続く未来の水産業の形を提案していく、宮城県内で活動している若手漁師集団です。メンバーは漁師や流通業者、IT関係、デザイナー、料理人など多種多様な人材で成り立っています。

設立から10年後の令和6(2024)年までに、三陸に多様な能力をもつ新しい職種「フィッシャーマン」を1千人増やすというビジョンを掲げ、新しい働き方の提案や業種を超えた関わりによって水産業に変革を起こすことを目指しています。平成30(2018)年末現在、フィッシャーマンの中でも新規就業した漁師の数は約40人となっています。

長崎大学水産学部教員、日本人学生及び留学生の議論の写真

イ 若手漁業者の育成

新たに就業した漁業者が定着するためには、漁業に就業してからも経営や技術の向上を図っていくことが重要です。将来の水産業を担っていく若手の漁業者を育成するため、各地域ではいろいろな取組が実施されています。

事例浜のリーダーを育てる「大輪田おおわだ塾」(兵庫県)

若手漁業者や漁協・系統団体職員を対象として、漁村地域の指導者にふさわしい人材を育成する教育機関として、平成17(2005)年に兵庫県漁業協同組合連合会及び兵庫県水産課が主体となり大輪田塾が設立されました。同塾は、現在、一般財団法人兵庫県水産振興基金が運営しており、理事長を塾長として大学教授や水産関係の専門家で構成される「大輪田塾運営委員会」を設置し、入塾と修了の認定や講義内容を決定しています。また、事務局に塾生との円滑な意思疎通が図れるよう専属職員を配置することにより、講義内容の充実等につなげています。

入塾から修了までは原則的に2年ですが、最大3年まで延長でき、ノリ養殖やカキ養殖、沖合漁業など繁忙期の長い漁業従事者でも入塾し修了することができます。また、入塾は毎年5名程度で、在塾生10名程度の少数精鋭による受講により塾生間にもまとまりが生まれています。

大輪田塾のカリキュラムは、県職員はじめ各分野の専門家を講師に招き、さながら大学のような単位制をとっており、30単位取得が修了要件(毎月2単位程度)で、講義は漁業関係法令、流通機構、漁場環境保全、水産資源管理など充実した幅広い内容となっています。そのほか年に1回、1泊2日で県内外の漁業関連施設や漁業で使用する資材工場などを訪問し、漁業を中心に幅広い知識を習得する研修を行っています。

修了を控えた塾生は、これまでの学びや漁業者としての経験や各自の漁業地区が抱える問題点などを勘案し、修了要件となる「修了論文」のテーマ(新たに取り組む漁業、養殖業の成果、水産物消費・流通についての課題、水産物ブランド化、魚食普及活動、観光漁業等)を設定し、担当指導員である兵庫県水産業普及指導員等の助言を受け論文作成した上で、自信を持って修了論文発表会にて口頭発表しています。

大輪田塾は14年間で62名の修了生を出して、修了生は浜のリーダーとして漁協組合長・理事・監事など管理職に就任するとともに、青壮年部活動に積極的に参画し活躍しています。かつては、それぞれの浜での人付き合いで完結していた人脈が、今では県内外の漁業者・講師・指導員など新たな人脈を築くことができるようになり、塾生の大きな財産となっています。平成28(2016)年には大輪田塾OB会が設立され、塾で得られた人とのつながりを継続し、情報・意見交換の場や塾の活動をサポートする場となっています。

これからも将来にわたり兵庫県漁業を支える「浜のリーダーを育成すること」を目的に活動を行っていくこととしています。

修了論文発表会の写真
大輪田塾OB会設立の写真

事例とよはま塾」(大分県)

広い視野と優れた経営感覚を持ち、各地域で指導的な立場になる中核的漁業者の育成を目的として、大分県は平成14(2002)年度に独自の担い手対策として「豊の浜塾」を開設しました。大分県青年漁業士・指導漁業士の認定を受けた漁業者や地域の水産業の発展に積極的に取り組む漁村女性等を対象に1期(2年間)20名程度を塾生として、主に漁業経営の改善、販売対応の向上、地域活性化や環境問題、国際情勢等の講習を行うとともに、県外や海外研修も行い、閉塾した平成21(2009)年度までに中核的漁業者として4期(8年間)で64名の卒塾生を輩出しました。

閉塾後も、毎年1回卒塾生や認定漁業士等が集まって「大分県水産業の発展に向けた意見交換会」を開催しており、水産政策を提言できる漁業者の育成が図られています。

平成30(2018)年度意見交換会の様子の写真

また、全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)では、広い視野と実践力を兼ね備え、地域の漁業を牽引する将来の浜のリーダーとなる人材の育成を図るため、国の支援を受けて「浜の起業家養成塾」を平成30(2018)年度に開講しました。さらに、JF全国漁青連*1でも、平成29(2017)年度から地域の牽引役としてのリーダーとなる人材の育成のため、「青年漁業者のためのブラッシュアップ研修」を開催しています。

  1. JF全国漁青連は各都道府県漁協青壮年部の活動を強化促進し、漁業協同組合を基礎にして、日本漁業の維持・発展と漁村文化の向上の為に活動をしている。

コラム漁業経営・地域活動のステップアップを目指す(浜の起業家養成塾 主催:JF全漁連)

JF全漁連が平成31(2019)年1月に開講した浜の起業家養成塾には全国各地からやる気にあふれた若手漁師が集まりました。

養成塾は全国の若手漁業者から参加を募り、寮生活をしながら水産業や経営に関する科目を受講するプログラムで、「経営戦略・アントレプレナーシップ」「マーケティング」など経営上の課題解決に役立つ実践的な内容から、「水産概論」「水産資源学」「地域連携論」などの水産業を広い視野でとらえられるような内容まで全16科目が実施されました。

参加した若手漁師は「新しい漁業の導入・加工・販売などで経営の幅を広げたい」「他地域の取組を知りたい」「地域を活性化させたい」といった理由で参加を希望し、授業では新たな知識を得るとともに、ディスカッションやプレゼンテーションを通して「やりたいこと」を具体化していきました。

また、全国各地から集まった仲間との共同生活を通し、地域や漁業種類を越えた交流を深めていました。

養成塾修了後、参加者からは「浜に帰ったらまずは同じ志を持つ仲間を増やしたい」「塾で考えたこと、学んだことを早速実践したい」「ここで出会った仲間とのつながりを大切にしたい」といった声が聞かれました。

同養成塾は令和元(2019)年度以降も開講を予定しており、浜の起業家・リーダーとなる人材の育成が期待されます。

授業の様子(塾生同士の模擬プレゼンテーション)の写真
大学生との交流ワークショップの写真

コラム仲間を増やそう、次代へつなごう(青年漁業者のための第2回ブラッシュアップ研修)

JF全国漁青連(事務局:JF全漁連)では、青年漁業者グループリーダーの育成・資質向上並びに青年部間の交流を図ることを目的として、「青年漁業者のためのブラッシュアップ研修」を平成29(2017)年から開催しています。平成30(2018)年度には「地域を引っ張る漁協青年部へ!― 仲間を増やそう、次代へ繋ごう」をテーマに開催し、青年部組織及び地域を牽引する青年漁業者の役割の発揮に焦点を当て、地域のリーダーとして、若手漁業者や新規就業者を青年部活動や地域行事に巻き込む方法等について考えるため、成功事例者へのインタビューやグループワークでの意見交換が行われました。参加者からは「SNS*1を使った交流」など多くの知恵やアイデアが出され、今後地域を率いるリーダーの育成や、新規就業者が定着しやすい環境づくりが期待されます。

  1. Social Networking Service:登録された利用者同士が交流できるwebサイトのサービス。
研修の様子1の写真
研修の様子2の写真

ウ 漁協運営を支える人材の育成

JF全漁連では、昭和16(1941)年に全国漁業協同組合学校を設立し、「協同組合精神を持った漁協職員の養成」を目的としたJFグループ唯一の教育機関を設立し、漁協・漁村の指導者を平成29(2017)年までに約2,600名養成しています。また、平成17(2005)年からは、JFグループの役職員を対象とした階層別研修事業を行っています。

近年は、90%以上の就職率を維持しており、JFグループ等への就職希望者だけでなく、漁業者になるに当たり、所属することとなる漁協の役割や業務内容をあらかじめ学んでおこうとする学生もいます。