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水産庁

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(1)ニーズの把握の取組

 

マーケットインの取組を考える場合に、マーケットのニーズを把握することは最も重要です。マーケットのニーズの把握については、新聞、テレビ、インターネット等の情報媒体からの情報収集のほか、消費者への販売活動、顧客への営業活動、商談会への参加等により関係者とのコミュニケーションを通じて情報を得ることも必要です。

漁業の現場では、鳥取県賀露かろ地域の沖合底びき網漁業、鳥取県境港さかいみなと地域の日本海べにずわいがに漁業及び長崎県長崎地域の以西底びき網漁業の事例のように、漁業者が市場関係者と協力体制を構築してマーケットのニーズを把握し、その情報に基づき水産物の価値向上等を図る取組も見られています(事例1)。これらの取組においては、魚価の向上・安定化等の漁業者の所得向上につながる効果も見られるとともに、市場関係者にとっても求めていた水産物が入手しやすくなっており、双方にとってより良い状況が生まれていると言えます。

また、水産加工業においては、岩手県の小野食品株式会社の事例のように、従来の営業方法の転換や、消費者や顧客とのコミュニケーションを積極的に図ることによって消費者や顧客のニーズの把握に努め、商品開発等の取組に生かすことによって売上の増加や販路拡大を実現している事例も見られます(事例2)。東日本大震災の被災地においても、青森県の株式会社ディメールの事例で見られるように、多くの水産加工業者が震災の影響で失われた販路・売上を回復しようと積極的にマーケットインの取組を行っているところです(事例3)。

さらに、海外マーケットのニーズの把握については、水産関係事業者ごとの営業活動等を通じた情報収集のほか、海外バイヤー等が参加する商談会や見本市の場も活用されています。また、諸外国・地域における食品のマーケット情報や規制等に関する情報については、農林水産省や独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が公表している情報が広く利用されています。今般、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、国内外での営業活動や商談会等を従来のように行えなくなっていますが、こうした状況下においても輸出の機会を確保していくため、JETROは最新の海外市場動向について情報発信を行っているほか、オンラインによる商談機会の提供を行っています。海外マーケットについては、株式会社きざすの事例のように、国内マーケットとは大きく異なるニーズがあることも想定しながらニーズの把握に努めることで、新たな販路の開拓につながることが期待されます(事例4)。

事例1漁業者と市場関係者が協力した市場のニーズの把握と対応の取組

水産庁では、地域の漁業・養殖業を収益性の高い構造へ転換するため、平成19(2007)年度から、新たな操業・生産体制の実証事業である「もうかる漁業創設支援事業」を継続しています。令和2(2020)年度までの14年間で183件の取組が認定され、収益性向上の成果が見られています。

これらの取組の中には、漁業者が市場関係者と協力して市場のニーズを把握することで、魚価の向上を図っているものがあります。

(1)沖合底びき網漁業の事例(鳥取県賀露地域)

鳥取県漁業協同組合が実施主体となった沖合底びき網漁業の事例(取組期間:平成20(2008)~25(2013)年度)では、賀露鮮魚仲買協同組合や賀露中央海鮮市場組合等と連携し、高鮮度流通の取組を進めました。具体的には、鮮度と色合いを重視する仲買人のニーズに対応し、シャーベット氷で漁獲物を保冷し、高鮮度処理を示す船名名札を魚箱に付与する取組を開始しました。

その結果、取組期間の平均単価は、従前(平成19(2007)~20(2008)年)と比較し、松葉ガニ(鮮魚)2,907円/kg→4,256円/kg、ハタハタ269円/kg→290円/kgと向上しました。また、従来は煮付け用か加工用とされていたハタハタ、アカガレイ等について、より単価の高い刺身用として引き合いが出るようになりました。

高鮮度処理を示す船名名札

(2)日本海べにずわいがに漁業の事例(鳥取県境港地域)

鳥取県漁業協同組合が実施主体となった日本海べにずわいがに漁業の事例(取組期間:平成21(2009)~26(2014)年度)では、境港魚市場株式会社等と連携し、高付加価値化の取組を進めました。具体的には、生鮮小ロットの需要の発生に対応して小口製品(6kg)の出荷・販売を新たに開始しました。その結果、加工向けコンテナ製品(30kg)の平均単価206円/kgに対し、小口製品の平均単価は569円/kgと、大きな単価向上が見られました。

(3)以西底びき網漁業の事例(長崎県長崎地域)

一般社団法人長崎県以西底曳網漁業協会が実施主体となった以西底びき網漁業の事例(取組期間:平成28(2016)~30(2018)年度)では、長崎魚市株式会社等と連携し、付加価値向上の取組を進めました。具体的には、小さいサイズのキダイの出荷において、従来は時間をかけて出荷用の箱に並べていましたが、作業負担が大きいという課題がありました。このため、市場のニーズを確認し、用途に応じて箱詰め方法を一部簡素化することで、作業時間が短縮され、乗組員の作業負担軽減と鮮度向上につながりました。その結果、販売単価(1年目 3,364円/箱、2年目 3,204円/箱)についても、取組を行っていない比較対象の船の平均販売単価(1年目 3,306円/箱、2年目 3,163円/箱)に比べて平均1.5%高くなりました。

キダイの箱詰め方法の簡素化

事例2ニーズを掴むため、顧客との活発なコミュニケーションに取り組む(小野食品株式会社)

岩手県釜石かまいし市の小野食品(株)は、直販事業と業務用商品事業の両面でマーケットのニーズを直接把握し、魚料理商品(煮魚・焼魚等)の開発に反映することによって売上を伸ばしています。

昭和63(1988)年に創業した当時は、卸売業者等の納入先が価格を決める薄利多売なビジネススタイルでしたが、徐々に消費者向けの直販事業(魚料理の頒布会等)を拡大してきました。消費者と直接コミュニケーションを取るために本社併設のコールセンターの設置や、返信用ハガキ等でフィードバックを受ける仕組み作り等を行いました。毎月数百通来る顧客からのハガキに対しては全て個別に御礼の返事をしています。さらに、顧客からの要望を分析し、課題に優先順位をつけ、既存品の改善や新商品開発に取り組んでいます。

例えば、塩分についての商品改善が挙げられます。同社の顧客には高齢者も多く、近年、塩分が気になるという声を受けるようになりました。そこで、特に塩分が気になるという声が多かったサバやサンマ等の煮魚について商品をお届けする度に調味料の配合を変えていき、それに対する顧客の評価を確認することを実施しています。漬け込みや下煮、タレ等塩分に関連する工程は複数ありますが、酒や出汁等塩分をあまり含まないものを組み合わせながら味の調整をしています。味の他にも直販セット商品のメニュー構成、商品サイズ、固さ、骨、価格、産地、注文方法等の要望についても改善を行っています。

顧客からの声

また、同社は高齢者介護施設・病院向けの業務用商品についても売上を伸ばしていますが、この事業では東京の営業所が中心となって、エンドユーザーとコミュニケーションを取っています。展示会や紹介等新規ユーザーとの接触機会を作り、他社商品と比較される中で商品提案と失敗を繰り返すことで、「どのような提案であれば安易な値下げをせずにお客様にメリットが出せるのか」を模索しています。さらに、この結果を反映して、小野食品(株)としてのナショナルブランドの品ぞろえを毎年、改廃しており、徐々に効果が出てきています。

* メーカーが製造した自社製品に付与するブランド

事例3営業手法を転換してニーズを把握(株式会社ディメール)

青森県八戸はちのへ市の水産加工会社(株)ディメールは、東日本大震災の前には商品を作るだけで売り方は問屋に任せていました。しかし、震災後、失った販路を回復させるために営業手法を大きく転換し、問屋と一緒に量販店等の現場を直接訪問し、商品のコンセプトや消費者への訴求ポイントも伝える働きかけを行うようになりました。直接売り場を訪問して関係を構築することによって小売店のニーズも把握できるようになったことから、得られた情報は商品開発に活かされるようになっています。

平成28(2016)年春には、ある量販店からの提案を元にしたしめ鯖の商品を開発し、売り場での消費者の反応をヒントにして訴求ポイントを意識したパッケージにして発売しました。この商品は大ヒットにつながり、第27回全国水産加工品総合品質審査会で「農林水産大臣賞」を受賞しました。

こうした取組によって徐々に個食パック向けの販路が拡大しており、従来にはなかったニーズに対応すべく引き続き新商品の開発に取り組んでいます。

第27回全国水産加工品総合品質審査会で農林水産省大臣賞を受賞した商品

事例4発想の転換で沖縄の魚のニーズを海外に見出す(株式会社萌す)

(株)萌すは、沖縄県内でせり落とした鮮魚を、シンガポール、台湾、タイ、香港等のローカル飲食店へ直接卸す貿易事業を主軸とする企業です。

日本では、従来、魚は北へ行くほど脂が乗っておいしいと考える人が多いことや、沖縄近海の魚種は九州以北ではなじみが薄いこともあり、沖縄県産の魚は県外の魚と比べて売りにくいと言われていました。

そうした中で、同社の創業者は、国内最大のマーケットである東京ではなく、逆に沖縄より南の海外マーケットに注目し、輸出を開始しました。東南アジアでは、沖縄県産の魚は見慣れた魚種であり、北限近くの脂が乗ったおいしい魚との評価を得ています。

現在、アジアの国々では生活水準が上がり、おいしいものを食べたいというニーズが高まっていることを受けて、同社の輸出の売上は急成長しています。

ミーバイ(ヤイトハタ)の調理イメージ

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
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