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水産庁

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(2)ニーズに応じた水産物供給の取組

ア おいしさの確保と情報発信の取組

消費者が水産物に求める重要な要素の1つがおいしさです。このニーズへの対応として、漁業・養殖業等の現場では、氷締め、活締め、神経締めや急速凍結等の高鮮度化の様々な取組が広く行われています。また、こうした取組を価格の向上につなげるためには、販売先とのコミュニケーション等を通じて適切な評価を受けることも極めて重要です。

例えば、琵琶湖の水産業を本気で何とかする会は、全国的に知名度が低く流通範囲も限られていたビワマスについて、消費者や顧客のニーズを踏まえて高品質冷凍フィレ商品を開発するだけでなく、SNSを活用した宣伝と販路拡大の取組を行うことで非常に大きな売上拡大につなげています(事例5)。また、三重県の鳥羽磯部とばいそべ漁業協同組合等は、サワラのブランド「答志島とうしじまトロさわら」の基準の1つにおいしさを保証する客観的な指標を採用することで販売先からの高い評価につなげています(事例6)。

事例5全国の有志たちと琵琶湖の宝「ビワマス」を売り込め!(琵琶湖の水産業を本気で何とかする会)

ビワマスはサケ科の琵琶湖固有種で、旬の夏には上質な脂が全身に乗り大変美味と言われています。しかし、琵琶湖の水産物流通は相対取引*1が中心で、生産者の多くは特定の取引先のみに販売してきたため、ビワマスの全国的な知名度は低い状態が続いていました。そうした中で、今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で魚価が大きく下落したことにより、生産者の多くは十分な売上を確保することができなくなりました。そこで、全国の有志者が生産者と一体となって、任意団体「琵琶湖の水産業を本気で何とかする会」を立ち上げ、これまでの販売や経営を見直していきました。

夏が旬の琵琶湖固有種「ビワマス」

同団体はまず、従来の関西圏への卸売販売に加えて、HPやECサイト等Web上での小売販売も強化することで消費者が24時間購入できる環境を整えました。また、「誰もがいつでも最高の」ビワマスを食べることができるよう、血抜き・神経締め等の活締め処理が施された、皮無し・骨抜きのリキッドフリーザー凍結による高品質冷凍フィレ商品を開発しました。これによって、魚をさばくことができない人でも、切るだけで刺身を作ることができ、かつ最もおいしい旬の夏のビワマスが年中食べられるようになりました。

さらに、同団体は、これらの活動をSNS上で公開し、単純なモノ消費*2からイミ消費*3へ転換する販売・PR戦略を展開したところ、あるECサイトでは登録からわずか2か月で関西地域での農林水産物人気ランキング1位を獲得するようになり、一晩で300件以上の注文が入ったほか、東京の大手流通や小売販売店での取扱いが決まるなど、顧客に高く評価されるとともに急速に注目されるようになりました。この他、同団体は、SNSで得られた消費者からの意見に積極的に対応して、ビワマスの加工形態を工夫した商品開発や、梱包・発送方法の改善等も進めました。

これらの取組の結果、新型コロナウイルス感染症拡大が水産業に大きな影響を及ぼす中においても前年漁期比約300~400%という販売実績を達成し、翌年の事業拡大に向けた施設整備を行うことができました。

  1. 生産者と小売業者が、販売価格及び数量について競りを通さず、直接交渉のうえ販売する方法。
  2. 消費者が商品そのものに価値を見いだす消費傾向のこと。
  3. 「地域活性」や「生産者応援」等、その商品が付帯的に持っている社会的・文化的な価値を見いだす消費傾向のこと。
船上で血抜き・神経締めされたビワマス
リキッドフリーザー「凍眠」
リキッドフリーザーで凍結した皮無し・骨抜きビワマスのフィレ。解凍後切るだけで刺身ができる。
ビワマスの卵(ビワコ)で作ったビワマスの親子丼

事例6客観的な指標でおいしさを保証したブランド化の取組(鳥羽磯部漁業協同組合、鳥羽市、鳥羽市観光協会)

三重県鳥羽市で水揚げされるサワラは、伊勢湾の脂の乗ったイワシ等を捕食して大きく育つため、よく脂が乗りおいしいと言われていたものの、知名度が低く、その品質に取引価格が追いついていない状況にありました。こうした状況を打破すべく、鳥羽磯部漁業協同組合は、鳥羽市や地元の観光協会と一体となって「鳥羽市・漁業と観光の連携促進協議会」を設立し、学識経験者とも連携し、「答志島トロさわら」のブランドを立ち上げました。

前述の通り、答志島トロさわらの特徴は脂の乗りの良さにあります。同協議会が消費者向けに行ったアンケートでは、脂肪率が10%を超えると「おいしい」という回答が多数となることがわかりました。そこで、答志島トロさわらのブランド基準の1つに「脂肪率が10%以上」という客観的な指標でおいしさを保証するための項目が採用されました。脂の乗りの良い10月~翌1月をブランド期間とし、この時期に漁獲されたサワラは、魚を傷つけずに脂肪率を測定することができる品質状態判別装置を用いて個体毎に脂肪率が測定され、10%を上回った個体が答志島トロさわらの候補となります。このほかにも、当日に一本釣りにより漁獲された個体に限るなどの多くのブランド基準があり、答志島トロさわらのおいしさにつなげています。

こうした客観的な指標でおいしさを保証するなどの取組は販売先から高く評価されており、令和2(2020)年度ブランド期間中の対象サイズ帯の平均単価(浜値)はブランド化前の平成29(2017)年度比41.4%増、ブランド認定品については同期比68.9%増となりました。

答志島トロさわら
品質状態判別装置で脂肪率を計測している様子

イ 多様なニーズに応える加工の取組

水産加工の分野においては、消費者のニーズの多様化や食の簡便化志向が進んでいること、業務用の商品でも取扱いが容易なもののニーズが高まっていること等に対応して、工夫を凝らした様々な加工形態の商品の開発が行われています。

近年では、水産物の輸出拡大に伴って輸出先国・地域のニーズを踏まえた加工品の開発・供給の取組も広がっています。

例えば、三重県の尾鷲おわせ物産株式会社は、国内外の様々なニーズに応じて養殖魚を加工した商品を提供しています(事例7)。また、島根県の株式会社SOL JAPANは、地元の市場で買い付けた旬の魚を刺身用等にカットして急速凍結した商品によって、海外の簡便化ニーズにも対応しつつ地元の魚の価値向上と販路拡大を図っています(事例8)。

事例7国内外のニーズに応じた加工の取組(尾鷲物産株式会社)

三重県の尾鷲物産(株)は、養殖のブリ、カンパチ、タイ等の国内販売及び輸出を行う企業です。同社は商談会や展示会における商談を通して顧客(小売店、外食店等)のニーズを探り、商品の開発や案内を行っています。

同社の加工事業は、マーケットの「必要な部位を必要なだけ仕入れたい」というニーズに応えるため、「部位別加工」技術に注力しており、多様なニーズに応じた商品製作が可能となっています。

例えば、国内では、魚を上手にさばける人材の確保が困難となりつつある小売店や飲食店向けに、スライス等の加工処理の進んだ形態の商品の提供を増やしています。また、海外では、国・地域毎に好まれる部位が異なることから、フィレやカマのような部位ごとに顧客のニーズに応じて加工した商品を提供することで、売上を伸ばしています。

ニーズに応じた多様な加工形態の商品

事例8ニーズに対応した加工で地元の魚を海外に販売(株式会社SOL JAPAN)

島根県の(株)SOL JAPANは、同県産の水産物にこだわって加工及び国内外への販売を行う水産加工会社です。同社は、輸出を行う取引先からの要請に応え、地元の市場で買い付けた旬の魚を刺身用にカットし、1トレーずつ真空パックにして急速凍結した商品を供給しています。これにより、海外においても、鮮度の良い刺身を、必要なタイミングで必要な量だけ提供することが可能となっています。

また、同社では、地元の漁業の活性化とマーケットのニーズの更なる取り込みに向け、漁獲量が不安定であるため安値で取引されることが多いレンコダイを冷凍加工した姿造りの商品を開発するなど新たな挑戦を行っています。

ヒラマサを使った冷凍真空パックの刺身スライス

ウ ニーズに対応した量の供給や販路の選択の取組

漁業においては、一部の地域で、販売先のニーズに対応した量の供給を図る取組やニーズに応じて水揚地を選択する取組等が行われており、魚価向上の効果が見られています。こうした取組は、漁業種類によっては魚種の選択ができないなどの理由で困難である場合もありますが、それぞれの漁業の実態や地域の実情に即した取組を行うことで魚価の向上が期待できます。例えば、神奈川県の真鶴まなづる町漁業協同組合の定置網では、水揚げが不安定であっても販売先である直売所や飲食店における需要とのバランスを取るべく、定置網の一部に魚を生きたまま保管しておくための生簀いけす網を設け、大漁の時に出荷調整を行うことで供給の安定化が図られ、単価の向上が見られています(事例9)。また、大阪府鰮巾着網いわしきんちゃくあみ漁業協同組合等によるシラスを対象とした船びき網漁業の取組では、仲買人との取引の相対から入札への移行、沖で操業中の漁業者が市場での需要を即時に把握できる仕組みの導入、鮮度保持能力の向上等の取組によって単価の向上が見られています(事例10)。さらに、宮城県沖合底びき網漁業協同組合による取組では、市場関係者との需給情報に関する定期的な情報交換に基づく水揚量の上限の設定、買受人の計画的購入に資する各船団の操業情報の提供、従来の水揚地以外の市場の需要に応じた供給の取組によって単価の向上が見られています(事例11)。

事例9需要に応じた水揚げのための定置網漁業での取組(真鶴町漁業協同組合)

神奈川県の真鶴町漁業協同組合の定置網では、漁法の特性上、日々の漁獲量にばらつきがあり、大漁時に魚価が下落していました。また、県内の直売所や県外の飲食店から直接販売の需要が高いマアジやスルメイカ等は、水揚げが不安定なため注文に応じることができない場合もあり、需要と供給のバランスを取ることが課題となっていました。

そこで、網の敷設位置を見直すなどの改革に取り組んだところ、需要の高い魚種の割合が従前の14%から33%(平成26(2014)~令和元(2019)年の平均)に増え、直接販売の回数も増加しました。さらに、魚を生きたまま保管しておくための生簀網を定置網の一部に設け、大漁の時に出荷調整を行うことで、単価下落を最小限に抑えながら、安定供給の維持につなげています。

これらの取組の結果、漁獲物の平均単価は従前の98円/kgから233円/kgに大きく向上しました。

事例10需要に応じた水揚げのための船びき網漁業での取組(大阪府鰮巾着網漁業協同組合)

大阪府鰮巾着網漁業協同組合は、岸和田市及び大阪府とともに岸和田臨海地区地域水産業再生委員会を立ち上げ、平成26(2014)年から「浜の活力再生プラン」に基づく取組を実施しています。この取組の中では、船びき網漁業に関し、漁業者と仲買人との取引を相対から入札へ移行するとともに、入札情報を沖で操業中の漁師のスマートフォンで確認できるようにしました。これにより、漁業者は、「どこの漁場のシラスにいくらの値段が付いているか」、「どこでシラスが多く獲られているか」という市場での需要を即時に把握できるようになったことから、高価格のシラスがいる漁場への移動や、取引が不調な時の漁の切り上げ等の効率的な操業が可能となりました。また、この他に、沖での水揚げから荷さばき施設に至るまでの鮮度保持能力の向上、共同運搬船で船団が水揚げした魚の海上での回収等の付加価値向上とコスト削減のための取組も合わせて実施しました。

これらの取組の結果、シラスの単価は286円/kg(平成22(2010)~26(2014)年の平均)から419円/kg(平成26(2014)~28(2016)年の平均)へと、約1.5倍になりました。

事例11需要に応じた水揚げのための沖合底びき網漁業での取組(宮城県沖合底びき網漁業協同組合)

宮城県沖合底びき網漁業協同組合は、東日本大震災の被災を契機に、平成24(2012)年9月から、沖合底びき網漁業の収益性の回復を図り、地域水産業の復興に寄与することを目的として、「がんばる漁業復興支援事業」を活用したプロジェクトに取り組んできました。

このプロジェクトにおける取組の中では、需要に応じた水揚げによって魚価の安定を図るため、同組合、石巻いしのまき魚市場及び石巻魚市場買受人協同組合の3者の間で漁獲物の需給状況に関する情報交換を定期的に行い、その結果を踏まえて必要に応じて1航海当たりの水揚量の上限を設定したほか、買受人が計画的に購入できるよう各船団の操業情報(操業位置、漁獲魚種、漁獲量等)を買受人へ提供しました。また、従来の水揚地である石巻以外の市場の需要に応じた供給の取組として、女川おながわ魚市場への直接水揚げや塩釜魚市場への陸送も実施してきました。

こうした取組の結果、平均販売単価は、震災前(平成20(2008)~22(2010)年漁期の平均)の121円/kgから徐々に向上し、平成26(2014)年漁期には190円/kgとなりました。

* 水産庁では、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の影響で経営に支障を来している漁業者・養殖業者を対象に、震災後の環境に対応した収益性の高い操業・生産体制の構築を図る取組に必要な経費を支援する「がんばる漁業復興支援事業」を平成23(2011)年11月から実施している。令和2(2020)年度までに漁船漁業54件、養殖業75件の取組が認定されている。

養殖業については、定質・定量・定時・定価格の生産物を供給できる特性を生かして売り先のニーズへの対応を一層推進していくことが期待されています。その実現のためには、生産、加工、流通、販売等の機能が連携・連結し、効率性を高めることが重要です。例えば、愛媛県の株式会社宇和島うわじまプロジェクトは、養殖事業者と連携して養殖生産、加工、販売を行っており、国内外のマーケットニーズの把握・対応を積極的に行うことで、「みかんブリ」等のブランド養殖魚の国内外での販路を拡大しています(事例12)。

事例12需要に応じた養殖生産のための取組(株式会社宇和島プロジェクト)

愛媛県宇和島市の(株)宇和島プロジェクトは、同市内の養殖業者と連携した養殖生産、加工、販売事業を実施しており、販売先のニーズに的確に対応することに力を入れ、養殖業者と販売先とのビジネスマッチングの架け橋としての役割を果たしています。

同社は、平成24(2012)年、地元養殖業者及び愛媛県農林水産研究所と共同で、地域資源である柑橘と養殖魚を組み合わせ、血合い部分の褐変防止に加え、魚臭さの低減、柑橘系の風味で食べやすいといった、外食産業や消費者にとってのメリットを訴求した「みかんブリ」を開発・ブランド化しています。みかんブリの普及のため、販売先の選定等を目的として外食企業等への試食アンケートを行い、大手回転寿司チェーンへの販売を開始しました。このアンケートではさわやかな柑橘風味が特に女性から好評が得られたことから、その後も、女性をターゲットとして同様のポイントを訴求した「みかん鯛」や「宇和島サーモン(みかん銀鮭)」を開発しました。これらのブランド養殖魚は、国内の外食チェーンや量販店へ直接販売されるとともに、海外での食品見本市に出展することで来場者から高い評価を得て商談の成立につながっています。

また、平成28(2016)年に中東地域での販路開拓を目的として養殖魚(マグロ、スマ)で国内初のハラール認証を取得しました。さらに、中東地域での商談を通して特に好評であった宇和島サーモン等の商品に興味をもった現地の日本料理店の料理長や飲食店バイヤーを日本に招き、養殖生産や加工の現場の視察を通じて商品の理解を深めてもらう取組を通じて、先方からのニーズに合った量の商品を出荷できる体制を確立しました。一方で、生産者も販売先を訪問することによって、マーケットニーズを実感しています。

今後、このようなマーケットニーズの把握・対応を積極的に行う取組が広がることで、養殖魚の新たな海外販路の開拓が進むことが期待されます。

* ハラール認証とは、対象となる商品・サービスがイスラーム法に則って生産・提供されたものであることをハラール認証機関が監査し、一定の基準を満たしていると認めること。

柑橘系の風味等によって国内外から好評を得ている養殖魚

水産物流通については、最大の流通経路は産地卸売市場・消費地卸売市場を経由したものですが、近年、売り手・買い手双方のニーズに対応した別の流通経路の利用が広がりを見せています。その1つとして、電子商取引(EC*1)のサービスを利用した産地の事業者と各地の小売事業者の間の取引は、スーパーマーケット等の事業者の購買の効率化や産地の販路拡大につながっています。例えば、みらいマルシェ株式会社が提供するサービスでは、産地の販売者とスーパーマーケットとの直接取引が可能となっており(事例13)、株式会社ウーオが提供するサービスでは、産地市場の漁協や仲買業者に鮮魚の買い付けを依頼することが可能となっており、産地での販路の拡大につながっています(事例14)。また、インターネットや直売所を利用した産地から消費者への直接販売の取組によっても、漁業者の収入確保や販路拡大といった成果が見られるようになってきています。

  1. インターネットを利用して、受発注がコンピューターネットワークシステム上で行われること。

事例13産地とスーパーの直接取引をアプリで効率化(みらいマルシェ株式会社)

みらいマルシェ(株)は、全国の産地とスーパーマーケットが鮮魚を直接取引する法人向けのスマートフォンアプリによるサービスを提供しています。令和2(2020)年12月末の時点で、45社200店舗のスーパーマーケット及び約45社の産地の販売者がこのサービスを利用しています。

購入の際には、商品の情報をリアルタイムで確認し、注文することができます。近年、スーパーマーケットにおいて、これまでのような伝票作成や電話での注文等の作業を見直す動きがある中で、利用者であるバイヤーからはこのサービスの利便性が評価されています。

一方、産地の販売者は、日々の漁の状況や顧客のニーズ等を考慮して、商品の規格と単価の提案を自由に行うことができます。これまでネットワークがなかったスーパーマーケットとも直接取引が可能となること自体も大きなメリットになっています。

令和2(2020)年には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でバイヤーが産地に足を運びにくくなるとともに、多くの産地で販売先の確保が難しくなった中で、全国の産地とスーパーマーケットにおける利用者が大きく増加しました。

アプリ「みらいマルシェ」の画面

事例14アプリから産地市場での買い付けを依頼(株式会社ウーオ)

株式会社ウーオは、産地市場のセリに並ぶ鮮魚をスマートフォンのアプリから簡単に発注できるサービスを提供しています。同社は鳥取港及び網代あじろ港で買参権を持っているほか、100以上の漁港とパートナーシップを組んでおり、これらの漁港で水揚げされた魚をアプリで注文することができます。同社の代表は、従来の流通では「情報の透明性」、「受発注業務の負担」に改善の余地があると捉えており、同社のサービスによってこれらの課題を解決していくとしています。

ユーザー(小売店の鮮魚バイヤー等)は本サービスのアプリを通じて多くの漁港の情報を得ることができ、この情報を基に鮮魚の買い付けのリクエストを送ることができます。リクエストを受けた産地では漁協の直販課や仲買業者が実際にセリに参加して鮮魚を買い付け、ユーザーへ送る仕組みとなっています。これにより、ユーザーは馴染みの漁港が急な天候不良で仕入れができなくなっても、移動することなく他漁港から仕入れることができます。また、魚の漁獲日や直近の相場といった情報が可視化され、情報の透明性が確保されるとしています。

同社は、本サービスを利用するバイヤーが増加し、仲買業者の販路が拡大することにより、バイヤー間での競争が生まれやすい環境となることから、産地市場のセリでの競争が生まれやすくなり、産地価格が上昇することで漁業者の応援をしていくとしています。

アプリ「UUUO」の画面

水産加工業においては、ニーズに対応するために生産能力の向上を図っている場合があります。特に、東日本大震災の被災地においては、多くの水産加工業者が震災の影響で失われた販路・売上の回復に向けて販売先のニーズに対応するための生産能力の向上の取組を行っており、販路の回復・拡大といった成果が見られています。例えば、青森県の三富さんとみ産業株式会社は、取引先が求める数量のイカソーメンの生産を可能とするため自動盛り付けラインを導入することで、更なる注文の増加につなげています。また、岩手県の重茂おもえ漁業協同組合では、取引先からの受注量の伸びに対応するため、半自動計量器やシール貼り付け機等を導入することで、収益性の向上、新規規格の商品製造、販売先の取引再開につなげています(事例15)。

事例15水産加工業における生産能力の向上によるニーズへの対応

東日本大震災の被災地域の水産加工業においては、生産能力の回復に比べて売上の回復が遅れており、失われた販路・売上の確保等が課題となっています。国は、販路回復に向けた取組を行う被災地の水産加工業者等を支援するため、平成27(2015)年度から「復興水産加工業等販路回復促進事業」(以下「販路回復事業」といいます。)を行っています。この事業を通じ、多くの水産加工業者が、販売先のニーズや需要を考慮しながら機器導入による生産能力の向上を含む取組を実施し、販路・売上の回復を実現しています。

(1)三富産業株式会社

青森県八戸市の三富産業(株)は、イカ等の加工を行う水産加工会社です。同社は、イカソーメン等の加工原料であるスルメイカの水揚げが近年大幅に減少して価格が高騰していることや、スーパーマーケットのバックヤードで加工の手間を省くニーズがあることを踏まえ、比較的安価なヤリイカのイカソーメンを開発しましたが、取引先が求める数量に十分に対応するためには、生産能力の不足が課題となっていました。特に、イカソーメンをトレーに乗せる工程は人手と時間がかかるため、現在の人手不足の状況下では対応が困難でした。

そこで、販路回復事業を活用して自動盛り付けラインを導入することで取引先が求める数量の供給が可能となり、更なる注文の増加にもつなげることができました。

自動盛り付けライン

(2)重茂漁業協同組合

岩手県宮古市の重茂漁業協同組合では、既存の取引先からのカットワカメ等乾燥袋詰製品の受注量が伸びていましたが、手作業で袋詰めしているため生産性が低く、需要に対応した製造ができない場合があり、新規取引先からの依頼にも応えられていませんでした。また、震災後、加工業の従業員が大幅に減少したため、工場の稼働率が悪く、生産量の維持・拡大が困難で、売上高の回復が難しい状況でした。

そこで、製造効率の向上のため、販路回復事業を活用して半自動計量器、シール貼り付け機、パレット積み補助機等を導入し、従来よりも少人数で大量の製造を可能にするとともに、歩留り率を向上させました。その結果、収益が向上するなどの成果が見られたほか、新規規格のボイルワカメ・コンブの製造も可能となったことにより震災以降取引を停止していた販売先との取引再開につながりました。

半自動計量器

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097