(3)水産業における対応
ア 緊急経済対策等の実施と感染拡大防止に向けた対応
国は、新型コロナウイルス感染症拡大による水産業への影響に対して、以下のとおり、緊急経済対策等の実施及び感染拡大防止に向けた対応を行いました。
〈水産物の販売促進〉
新型コロナウイルス感染症拡大によるインバウンド需要の減少や輸出の停滞、外食需要の減少により、在庫の滞留や価格の低下等が生じている水産物について、学校給食への水産物の提供やインターネット通信販売の送料、PR活動等に掛かる経費を支援しました。その結果、令和2(2020)年度は、学校給食への水産物の提供を事業実施要望のあった43都道府県(延べ数約11.8万校)において実施しました。
〈輸出の維持・促進の取組を支援〉
海外における外食需要の低迷や商談機会の喪失等による水産物輸出の減少に対応し、輸出の維持・促進を図るため、海外販路開拓の取組への支援を行いました。
また、海外での見本市や商談会等の開催が延期・中止となる中で、水産物の輸出に取り組む事業者と海外バイヤーのマッチングを推進するため、令和3(2021)年度、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)による海外見本市への出展(11回)、国内外商談会の開催(31回)、加えて、世界14か所でのサンプル展示ショールームにおけるオンライン商談等を支援しました。さらに、海外で日本産食材を積極的に使用する「日本産食材サポーター店」等と連携してJETROが実施する日本産食材等の需要喚起のためのプロモーションを支援しました。
〈代替人材の確保の支援と入国制限・緩和における対応〉
入国制限措置の影響による漁業・水産加工業の経営体における人手不足に対応するため、漁業・水産加工業の経営体における他産業からの人材確保や外国人乗組員の継続就業等を支援する措置を講じました。
また、水産庁では、入国制限措置等の影響により計画していた外国人材の入国の見通しが立たずに人手不足となった漁業・水産加工業の経営体が、作業経験者等の国内人材を雇用する際の掛かり増し経費を支援する措置を講じ、約1,100人(令和4(2022)年1月集計時点)の人材の確保につながりました。さらに、入国制限措置が一時緩和された際には、水際対応受付窓口を設置し、水産業の受入責任者による入国に係る申請の事前審査等を行いました。
〈漁場の保全活動や水産資源調査の取組を支援〉
休漁を余儀なくされている漁業者が行う、漁場の耕うん・堆積物除去等の漁場保全活動や海洋環境調査・モニタリング、試験操業による資源の分布情報や生物サンプルの収集等、資源評価や管理手法の検討に資する取組に対して支援を行い、令和3(2021)年3月時点で23都道府県に対し支援しました。
〈漁業者等の経営継続を支援〉
漁業者が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を克服するため、感染拡大防止対策を行いつつ、販路の回復・開拓や事業継続・転換のための機械・設備を導入する取組等に対して、経営継続補助金により支援を行いました。
また、漁業者の資金繰りに支障が生じないよう、令和2(2020)年2月から開始した農林漁業セーフティネット資金をはじめとする各種制度資金の融資の貸付当初5年間の実質無利子化や無担保化、保証料の免除等について、令和3(2021)年度も引き続き措置することにより、漁業者の更なる資金需要に対応しました。このほか、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により減収した漁業者の経営安定を図るため、漁業共済や積立ぷらすによる減収補てん(令和2(2020)年度実績:漁業共済(漁業施設共済を除く。)共済金支払額379億円、積立ぷらす払戻額673億円)を行うとともに、積立ぷらすの漁業者の自己積立金の仮払い及び契約時の積立猶予の措置を講じました。
さらに、価格を含めた水産物の安定供給を図るため、輸出の停滞やインバウンド需要の減少、外食需要等の減少により在庫が滞留した水産物について、漁業者団体等が買取り・冷凍保管し、販売する取組に対し、令和2(2020)年は17億円支援しました。
〈漁業者団体による業種別ガイドラインの作成を支援〉
水産庁は、漁業者の健康保護とともに事業の継続と国民への食料の安定供給を行うため、令和2(2020)年3月に、「漁業者に新型コロナウイルス感染者が発生したときの対応及び事業継続に関する基本的なガイドライン」を策定し、漁業者に向けて新型コロナウイルス感染症の予防対策の徹底を要請するとともに、このガイドラインに即して、漁業者に新型コロナウイルスの感染者が発生した場合を想定した業務継続体制の構築等を呼び掛けました。
また、同年5月に、政府対策本部において「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和2(2020)年3月28日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)が改訂されたこと等を受け、感染拡大の防止と社会経済活動の維持との両立に向けて、業種別団体が業種別に実効性のある感染拡大予防ガイドラインを策定することとし、一般社団法人大日本水産会及びJF全漁連が連名で、自主的な感染防止の取組を進めるための業種別ガイドライン(以下「業種別ガイドライン」といいます。)を策定しました。業種別ガイドラインは、その後、最新の知見や漁業における新型コロナウイルスの感染者の発生状況を踏まえ、複数回改訂が行われています。この業種別ガイドラインは、農林水産省Webサイトで紹介されています。

イ 今後の影響を見据えた対応
〈新たな生活様式に対応した水産物消費拡大検討会の開催〉
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、巣ごもり消費が増加する一方で、外食需要が低迷するなど国民の生活様式に大きな変化が見られる中、水産庁としても供給サイドがこのような国民の「新たな生活様式」に合致した水産物の提供ができるよう支援し、これをテコに近年右肩下がりの水産物消費の反転を目指していくことが求められています。
さらに、令和3(2021)年は東日本大震災の発生から10年の節目ですが、復興地域の地場産業である水産業の復活はいまだ半ばです。このような状況を打破するためには、当該地域の水産物の販路拡大を単純に目指すのでは限界があることから、水産物全体の消費量が拡大する中で、当該地域産品の消費を伸ばしていくことが重要です。
このような背景から、これまでの施策の効果検証を行った上で、ウィズコロナも見据えた真に消費拡大が可能な方策を各方面の専門家と検討し、新たな生活様式に対応した水産物のより一層の消費拡大と復興水産物の消費増大を目指すため、水産庁は令和3(2021)年3~6月に「新たな生活様式に対応した水産物消費拡大検討会」を開催しました。
〈新たな生活様式に対応した水産物消費拡大方策〉
新たな生活様式に対応した水産物消費拡大検討会は、近年の消費動向及びウィズコロナにおける新たな生活様式の展開を踏まえた水産物消費拡大に向けた対応方向を取りまとめました。
まず、調理の手間などの水産物のマイナス特性への対応方向としては、1)時短・簡単・美味(おい)しいレシピの開発やオンライン料理教室の開講、調理支援器具の開発等の「調理者・購入者の負担感の解消」、2)シーフードミックスやミールキット等の「手軽で美味しい新商品の開発」、3)ネットスーパーやコンビニでの魚メニューの充実化等の「消費を加速する新たな提供方法の開発」を挙げています。
次に、水産物消費に関する機運の向上に関する対応方向として、1)企業の創意工夫により、独自の販売促進や特売メニューの提案、イベント等を行う日を制定する等の「消費行動を変化させる」取組、2)健康増進効果や旬の美味しさといったプラスの商品特性を活かした情報発信、体験要素を加えた魚食普及等の「教育・体験を通じた若者へのリーチ」に向けた取組を挙げています。

事例地魚料理のオンライン料理教室(兵庫県漁業協同組合連合会(ひょうごのお魚ファンクラブ SEAT-CLUB))
兵庫県漁業協同組合連合会は、平成21(2009)年「ひょうごのお魚ファンクラブ SEAT-CLUB」を立ち上げ、小中学校等での出前お魚講習会、魚のさばき方や浜の味の料理教室、漁業体験・産地見学等の魚食普及活動を行ってきました。特に出前お魚講習会では、漁連の職員や女性部ではなく、13名の一般の方が講師として活躍しており、年間約570件の出前お魚講習会や料理教室等を開催してきました。
しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により従来の料理教室が開催できなくなったことから、令和2(2020)年10月からオンライン料理教室を開始しました。
参加者は、地魚を含む食材セットを事前にWebサイトで購入し、当日はタブレット等でオンライン会議システムにアクセスして講師の指導を受けながら、自宅で料理をします。
オンライン料理教室では、地元の方だけでなく、北海道や東北・関東地方等からの参加者も多く、これまで兵庫県内中心であった活動が県外に広がっており、県外への兵庫県の地魚のアピールにもつながっています。
事例国産水産物を使用したシーフードミックス(JF全漁連、株式会社ABC Cooking Studio、株式会社イトーヨーカ堂)
JF全漁連、(株)ABC Cooking Studio、(株)イトーヨーカ堂は、国産水産物の消費拡大を図るため、「国産水産物シーフードミックス推進協議会」を立ち上げました。そして、家庭で簡単・手軽に魚料理を楽しんでもらい、国産水産物の消費拡大につなげるため、国産水産物のみを使用した「ごろっと国産シーフードミックス」を開発し、令和3(2021)年11月より販売を開始しました。
また、発売に併せて、さかなクンのYouTubeにて同商品を使った料理動画の配信、ABCクッキングスタジオの料理教室での活用、同スタジオの特設ページにてレシピの掲載等を行い、調理方法も発信しています。
〈おわりに〉
令和2(2020)年から世界的に流行した新型コロナウイルス感染症については、我が国では令和3(2021)年10月頃に感染者数が一時大幅に減少し、低迷していた水産物の需給も回復傾向となりました。しかし、その後も新型コロナウイルスの変異種の世界規模での流行が続いており、在宅勤務やテレワーク、外食・宴会控え、インターネットを利用した食料品の購入といった新たな生活様式は、一定程度続いていくものと予想されます。また、国内と海外の感染状況が共に改善されなければ、訪日外国人旅行者等によるインバウンド需要も見込まれないと考えられます。今後も感染再拡大のようなリスクが常にあることを認識し、水産物の需給の変動に応じた販路開拓や商品開発における柔軟な対応や新しい取組を行っていくことが必要です。
水産物の安定供給は国の最も基本的な責務の一つであることから、国は、今後も新型コロナウイルス感染症による影響の緩和に取り組むとともに、感染の発生状況等を注視し、必要な対応を行っていくこととしています。
お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097