(1)食料安全保障に関する現行の取組
ア 世界の水産物需給及び我が国の水産物輸入の現状
〈食料・農業・農村基本法における規定〉
我が国の食料の安定供給の確保や食料安全保障のための施策を展開していく上で、その根幹となる法律は、食料・農業・農村基本法*1です。同法第2条では、食料の安定供給の確保を食料・農業及び農村に係る施策の基本理念として位置付けています。同条第1項では、食料は、人間の生活の維持に欠くことのできないものであり、健康で充実した生活の基礎として、量、質の両面から安定的に供給されることが求められている旨が規定されています。また、同条第4項では、凶作や輸入の途絶等の不測の要因により、国内における食料需給がひっ迫するような場合においても、国民が最低限度必要とする食料の確保が図られなくてはならないことが規定されており、これを受けて、第19条では、その実現のために国が具体的な施策を講じていくべき旨が明確化されています(図表特-2-1)。
- 平成11年法律第106号
図表特-2-1 食料・農業・農村基本法(抜粋)

〈水産基本法における規定〉
他方、我が国の水産に関する施策の基本理念及びその実現を図る上で基本となる事項を定めた水産基本法*1においては、第2条第1項で水産物の安定供給について規定されており、第2項では、水産資源が限りあるものであることに鑑み、その持続的な利用を確保するため、水産資源の適切な保存及び管理を行うことに加え、水産動植物の増殖及び養殖を推進することが規定されています。さらに、同条第3項では、水産物の安定供給は、我が国の漁業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入とを適切に組み合わせて行うことが規定されています。
また、同法第12条において、食料である水産物の安定供給の確保は食料・農業・農村基本法及び水産基本法第2節に定めるところによるとされており、特に、不測時の食料安全保障について見てみると、水産基本法では直接的な規定はなく、食料・農業・農村基本法に委ねられています。これは、食料・農業・農村基本法における食料の安定供給は、水産物のうち食料であるものも対象となっており、不測時における食料安全保障は、食料を全体として捉えて初めて意味を持つ施策であるためです。
一方、水産物の安定供給の確保に当たっては、水産資源の保存及び管理に関する施策のように、食料・農業・農村基本法には規定されておらず、水産施策独自の観点から取り組む必要のある施策もあります。また、水産加工業・流通業の健全な発展、水産物の輸出入に関する措置等、農業分野と同様に水産施策の主要施策として位置付けられる政策分野もあります。これらの施策については、水産物の安定供給の確保に資する施策として水産基本法に規定を設け、関連施策の推進に取り組んでいるところです(図表特-2-2)。
- 平成13年法律第89号
図表特-2-2 水産基本法(抜粋)

イ 緊急事態食料安全保障指針
〈不測時における食料の供給〉
農林水産省は、不測の要因により食料供給に影響が及ぶおそれのある事態に政府として講ずべき対策の内容等を示した「緊急事態食料安全保障指針」を策定しています。同指針では、平素からの取組のほか、事態の深刻度(レベル0~レベル2)に応じて、国民が最低限度必要とする食料の供給の確保が図られるよう、対策を整理しています(図表特-2-3)。また、不測時の食料供給確保の具体的な方策について、事態ごとのシナリオによりシミュレーションを実施し、対応手順の実効性の検証、必要に応じた見直しや更なる充実を図っています。
図表特-2-3 緊急事態食料安全保障指針の概要


〈水産物に関する対応〉
「緊急事態食料安全保障指針」では、水産物の対応についても記載されており、平素の取組としては、食料自給率を高め、食料自給力の維持向上を図るため、漁業就業者の育成及び確保や、我が国周辺水域における水産資源の適切な保存及び管理等に取り組むこととしています。
また、特定の品目の供給が平時の供給を2割以上下回ると予測されるレベル1の事態では、国民に対する動物性たんぱく質供給において大きな役割を果たす水産物については、水産資源の持続的利用が確保される範囲内で生産の増大を図るとともに、非食用(養殖用の餌料等)から食用への転換を行うこととしています(図表特-2-4)。
図表特-2-4 緊急事態食料安全保障指針のうち水産物に関する対応(抜粋)

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