(3)漁業の就業者をめぐる動向


ア 漁業就業者の動向
〈漁業就業者数は12万3,100人〉
我が国の漁業就業者数は一貫して減少傾向にあり、令和4(2022)年の我が国の漁業就業者数は、前年から4.8%減少し、12万3,100人となっています(図表2-19)。漁業就業者全体に占める65歳以上の割合は増加傾向となっている一方、39歳以下の割合も近年増加傾向となっています。
漁業就業者数の総数が減少する中で、近年の新規漁業就業者数はおおむね2千人程度で推移していましたが、令和4(2022)年度は1,691人となり、前年度の1,744人から3%減少し1,600人台となりました(図表2-20)。新規漁業就業者数のうち、39歳以下の割合は約7割で推移し若い世代の参入が多く占める傾向が続いています。
新規漁業就業者数について就業形態別に見ると、雇われでの就業は令和4(2022)年度は965人であり、前年度の1,076人に比べ1割以上減少しました。他方、独立・自営を目指す新規就業者(以下「独立型新規就業者」といいます。)については、令和4(2022)年度は718人であり、前年度の668人に比べ7.5%増加しました。
雇われでの就業者数の減少は、沿岸漁業において減少幅が大きく、近年の記録的な不漁等による厳しい経営環境の影響を受けていると考えられます。
近年減少が続いていた独立型新規就業者は、令和3(2021)年度から増加に転じましたが、独立型新規就業者数は年変動が大きく、都道府県の中には大きく減少しているところもあることから、今後の動向を注視していく必要があります。
図表2-19 漁業就業者数の推移

図表2-20 新規漁業就業者数の推移

コラム新規就業者の新漁法による経営効率化や水揚額向上の取組
宮崎県の日向(ひゅうが)市漁協に所属する髙田一人(たかだかずと)さんは、地元の日向市から大学進学を機に上京し、東京都のIT企業等で働いた後、日向市にUターンし一般企業に就職しました。地元のまちづくり協議会に参加する中で、「地元を盛り上げるためには、地場産業である漁業を盛り上げる必要がある」と感じて漁業者になることを決め、同漁協の紹介により大型定置網の従業員として6年間従事した後に独立し、宮崎県では行われていなかった小型底定置網の操業を開始しました。
髙田さんが新たに取り組んだ小型底定置網は、通常小型定置網では2~8人を要するところ、1人で揚網が行えることや網が水中に沈んでいるため汚れが付きにくいことから省力的な漁法であり、初期投資が少なく、雇用労賃が発生しないなど経費を抑えた操業が可能となっています。また、同漁法は、海況の影響を大きく受けず、休漁が少ないことから、近隣の小型定置網と比較し2倍近い操業回数が可能となっていることや、イシダイやスズキといった高単価の魚種が多く獲れることから、安定した水揚額が確保されています。
くわえて、ITに関わってきた知識等を活かし、水中ドローンを投入し、破網がないかなどの水中の網の状態や魚の入網状況の確認、これらの情報を活かした網の改良等により、1人で操業を行うための作業効率を向上させました。また、操業の効率化に加え、鮮度を保つ血抜き技術を用いて魚価を向上させる取組を行っています。
以上のように、独立して新たな漁法に取り組み、1人で操業可能となるように経営を効率化するとともに、工夫を重ねて水揚量の増加につなげるなど安定的な操業の取組が評価され、JF全漁連が開催した第28回全国青年・女性漁業者交流大会において、水産庁長官賞を受賞しました。
髙田さんは現在、SNS*を通じて漁業の魅力を発信する活動も行っており、将来的には観光客向けの体験漁業を行うなど、観光資源としても底定置網を活用して、漁業のみならず地元日向市の魅力も発信していきたいと考えています。
- Social Networking Service:登録された利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービス。
イ 新規漁業就業者の確保に向けた取組
〈新規就業者の段階に応じた支援を実施〉
我が国の漁業経営体の大宗を占めるのは、家族を中心に漁業を営む漁家であり、このような漁家の後継者の主体となってきたのは漁家で生まれ育った子弟です。しかしながら、近年、収入に対する不安や生活や仕事に対する価値観の多様化により、漁家の子弟が必ずしも漁業に就業するとは限らなくなっています。他方、新規漁業就業者のうち、他の産業から新たに漁業就業する人はおおむね7割*1を占めており、就業先・転職先として漁業に関心を持つ都市出身者も少なくありません。こうした潜在的な就業希望者を後継者不足に悩む漁業経営体や地域とつなぎ、意欲のある漁業者を確保し担い手として育成していくことは、水産物の安定供給のみならず、水産業・漁村の多面的機能の発揮や地域の活性化の観点からも重要です。
このような状況を踏まえ、水産庁は、漁業経験ゼロからでも漁業に就業・定着できるよう、全国各地での漁業就業相談会の開催やインターンシップの受入れを支援するとともに、漁業学校*2で学ぶ者に対する資金の交付、漁業就業後の漁業現場でのOJT*3方式での長期研修を支援するなど、新規就業者の段階に応じた支援を行っています(図表2-21)。さらに、国の支援に加えて、地方公共団体においても地域の実情に応じた各種支援が行われています。
- 都道府県が実施している新規漁業就業者に関する調査から水産庁で推計。
- 学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づかない教育機関であり、漁業に特化したカリキュラムを組み、水産高校や水産系大学よりも短期間で即戦力となる漁業者を育成する学校。
- On-the-Job Training:日常の業務を通じて必要な知識・技能を身に付けさせ、生産技術について学ばせる職業訓練。

図表2-21 国内人材確保及び海技資格取得に関する国の支援事業

〈水産高校生に対する漁業就業への働き掛け〉
漁業就業者の減少と高齢化が進行する中、他産業並みに年齢バランスの取れた活力ある漁業就業構造への転換を図るため、若者に漁業就業の魅力を伝え、就業に結び付けることが重要です。特に、漁船漁業の乗組員不足に対応するため、平成29(2017)年2月に官労使からなる「漁船乗組員確保養成プロジェクト」(事務局:一般社団法人大日本水産会)が創設され、水産庁はこの取組を支援しています。
同プロジェクトの一つに水産高校生を対象とした「漁業ガイダンス」があり、漁業者が水産高校に出向き、少人数のブース形式で生徒に対して漁業とその魅力等を説明します。漁業ガイダンス開始以降、令和4(2022)年度までの6年間で、延べ110回、3,769人の生徒が参加しています(図表2-22)。
図表2-22 漁業ガイダンスの概要と開催実績

コラム水産高校における先進的な取組
宮城県気仙沼(けせんぬま)市に所在する宮城県気仙沼向洋高等学校は、明治34(1901)年の創立以降、水産教育を通じて気仙沼市の基幹産業である水産業の発展・振興に寄与してきました。
宮城県はホヤの養殖収獲量全国一位を誇りますが、加工の際に発生するホヤ殻は、産業廃棄物としてコストをかけて処理されてきました。同校産業経済科では、令和2(2020)年より、未利用資源としてのホヤ殻に着目し、有効活用の手法について研究を続けており、今回新たに「水産廃棄物ホヤ殻の魚類餌料への転用 第3報 ホヤ殻の橙(だいだい)色は観賞魚の色揚げに関わる色素『ゼアキサンチン』か?」をテーマに研究に取り組みました。
コイ科魚類はゼアキサンチンを代謝して体色を赤色化させることから、キンギョやニシキゴイ等のコイ科観賞魚には色調改善のためゼアキサンチンを含む色揚げ餌がよく使用されます。同校では、ホヤ殻の橙色の色素がゼアキサンチンであると仮説を立て、ホヤ殻を色揚げ餌に転用できないか実験を行いました。当初、ホヤ殻を含有した餌を金魚に長期給餌したところ、金魚は赤色化したものの期待されたほどではなかったため、エタノールで色素を抽出して餌に混ぜる試みを行いました。くわえて、抽出した色素の性質を把握するため、色素の化学分析をしました。その結果、70~80%のエタノールでよく抽出できること、吸収スペクトルや色素の分離状況からホヤ殻の色素がゼアキサンチンに近いものであること等を導き出しました。
本取組は、研究内容が科学的で、論理展開がしっかりしている点が評価され、令和5(2023)年12月、第32回全国水産・海洋高等学校生徒研究発表大会にて最優秀賞を受賞しました。
現在は、抽出した色素を含んだ餌を高観賞価値魚に与えた場合の効果や、色素の同定等について、引き続き研究を行っています。
ウ 漁業における海技士の確保・育成
〈漁業における海技士の不足等に対し早期の資格取得の取組を支援〉
20トン以上の船舶で漁業を営む場合は、漁船の航行の安全性を確保するため、それぞれの漁船の総トン数等に応じて、船長、機関長、通信長等として乗り組むために必要な海技資格の種別や人数が定められています。
海技資格を取得するためには国土交通大臣が行う海技士国家試験に合格する必要がありますが、航海期間が長期にわたる遠洋漁業においては、乗組員がより上級の海技資格を取得する機会を得にくいという実態があります。また、就業に対する意識や進路等が多様化する中で、水産高校等の卒業生が必ずしも漁業に就業するわけではなく、これまで地縁や血縁等による採用が主であったこととあいまって、漁業における海技士の高齢化と不足が深刻化しています。
海技士の確保と育成は我が国の沖合・遠洋漁業の喫緊の課題であり、必要な人材を確保できず、操業を見合わせるようなことがないよう、関係団体等は、漁業就業相談会や水産高校等への積極的な働き掛けを通じて乗組員を募るとともに、乗船時における海技資格の取得を目指した計画的研修の取組や免許取得費用の助成を行っています。
このような背景から、政府は、平成30(2018)年度から、水産高校卒業生を対象とした新たな4級海技士養成のための履修コースを設置する取組について支援を行い、令和元(2019)年度から、6か月間の乗船実習を含む新たな履修コースが水産大学校で開始されました。また、令和4(2022)年度からは、5級海技士試験の受験に必要な乗船履歴を早期に取得できる取組を支援しています。これらによって、水産高校卒業生が4級又は5級海技士試験を受験するのに必要な乗船履歴を短縮することが可能となり、水産高校卒業生の早期の海技資格の取得が期待されます。
エ 女性の活躍の推進
〈漁業・漁村における女性の一層の活躍を推進〉
女性の活躍の推進は、漁業・漁村の課題の一つです。海上での長時間にわたる肉体労働が大きな部分を占める漁業においては、就業者に占める女性の割合は約11%となっていますが、漁獲物の仕分けや選別、カキの殻むきといった水揚げ後の陸上作業では約36%、漁獲物の主要な需要先である水産加工業では約60%を占めており、女性がより大きな役割を果たしています。このように、漁業・養殖業では男性による海上での活動がクローズアップされがちですが、女性の力は水産業に必要不可欠な存在となっています。
一方、女性が漁業経営や漁村において重要な意思決定に参画する機会は、いまだ限定的です。例えば令和4(2022)年の全国の漁協における正組合員に占める女性の割合は5.3%となっています。また、漁協の女性役員は、全体の0.5%にとどまっています(図表2-23)。
図表2-23 漁協の正組合員及び役員に占める女性の割合

令和2(2020)年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」においては、農山漁村における地域の意思決定過程への女性の参画の拡大を図ることや、漁村の女性グループが行う起業的な取組等を支援すること等によって女性の経済的地位の向上を図ること等が盛り込まれています。
また、令和2(2020)年に施行された漁業法等の一部を改正する等の法律*1による水産業協同組合法*2の改正においては、漁協は、理事の年齢及び性別に著しい偏りが生じないように配慮しなければならないとする規定が新設されました。
漁業・漁村において女性の一層の活躍を推進するためには、固定的な性別役割分担意識を変革し、家庭内労働を男女が分担していくことや、漁業者の家族以外でも広く漁村で働く女性の活躍の場を増やすこと、さらには、保育所の充実等により女性の社会生活と家庭生活を両立するための支援を充実させていくことが重要です。このため、水産庁は、水産物を用いた特産品の開発、消費拡大を目指すイベントの開催、直売所や食堂の経営等、漁村コミュニティにおける女性の様々な活動を推進するとともに、子供待機室や調理実習室等、女性の活動を支援する拠点となる施設の整備を支援しています。
また、平成30(2018)年11月に発足した「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」は、水産業に従事する女性の知恵と多様な企業等の技術、ノウハウを結び付け、新たな商品やサービスの開発等を進める取組であり、水産業における女性の存在感と水産業の魅力を向上させることを目指しています。これまでも、同プロジェクトのメンバーによる講演や企業等と連携したイベントへの参加等の活動が行われています。このような様々な活動や情報発信を通して、女性にとって働きやすい水産業の現場改革及び女性の仕事選びの対象としての水産業の魅力向上につながることが期待されます。
- 平成30年法律第95号
- 昭和23年法律第242号


オ 外国人労働をめぐる動向
〈漁業・養殖業における特定技能外国人の受入れ及び技能実習の適正化〉
遠洋漁業に従事する我が国の漁船の多くは、主に海外の港等で漁獲物の水揚げや転載、燃料や食料等の補給、乗組員の交代等を行いながら操業しており、航海日数が1年以上に及ぶこともあります。このような遠洋漁業においては、日本人乗組員の確保・育成に努めつつ、一定の条件を満たした漁船に外国人が乗組員として乗り組むことが認められており、令和5(2023)年12月末時点で、3,689人の外国人乗組員がマルシップ方式*1により我が国漁船に乗り組んでいます。
また、平成30(2018)年に成立した「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律*2」を受け、新たに創設された在留資格「特定技能」の漁業分野(漁業、養殖業)及び飲食料品製造業分野(水産加工業を含む。)においても、平成31(2019)年4月以降、一定の基準*3を満たした外国人の受入れが始まりました。今後は、このような外国人と共生していくための環境整備が重要であり、漁業活動やコミュニティ活動の核となっている漁協等が、受入れ外国人との円滑な共生において適切な役割を果たすことが期待されることから、国においても必要な支援を行っています。令和5(2023)年12月末時点で、漁業分野の特定技能1号在留外国人数は漁業で1,731人、養殖業で938人となっており、今後の活躍が期待されます。
外国人技能実習制度については、水産業においては、漁船漁業・養殖業における10種の作業*4及び水産加工食品製造業・水産練り製品製造業における10種の作業*5について技能実習が実施されており、技能実習生は、現場での作業を通じて技能等を身に付け、開発途上地域等の経済発展を担っていきます。
国は、海上作業の伴う漁船漁業・養殖業について、その特有の事情に鑑みて、技能実習生の数や監理団体による監査の実施に関して固有の基準を定めるとともに、平成29(2017)年12月に漁業技能実習事業協議会を設立し、事業所管省庁及び関係団体が協議して技能実習生の保護を図る仕組みを設けるなど、漁船漁業・養殖業における技能実習の適正化に努めています。
なお、外国人技能実習制度については、現在、制度の見直しが検討されており、令和6(2024)年2月9日に「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」が関係閣僚会議で決定されました。ここで示された方針等を踏まえた関連法案が同年3月15日に閣議決定され、国会に提出されました。
- 我が国の漁業会社が漁船を外国法人に貸し出し、外国人乗組員を配乗させた上で、これを定期用船する方式。
- 平成30年法律第102号
- 各分野の技能試験及び日本語試験への合格、又は各分野と関連のある職種において技能実習2号を良好に修了していること等。
- かつお一本釣り漁業、延縄(はえなわ)漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、定置網漁業、かに・ えびかご漁業、棒受網漁業及びほたてがい・まがき養殖作業
- 節類製造、加熱乾製品製造、調味加工品製造、くん製品製造、塩蔵品製造、乾製品製造、発酵食品製造、調理加工品製造、生食用加工品製造及びかまぼこ製品製造作業
お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
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