(2)我が国の資源管理




〈漁業法に基づく水産資源の保存及び管理を適切に実施〉
資源管理とは、漁業活動(採捕の数量)を調整し必要な資源量の水準を確保しながら水産資源の持続的な利用を図る取組であり、その手法は、1)漁船の隻数や規模、漁獲日数等を制限することによって漁獲圧力を調整する投入量規制(インプットコントロール)、2)漁船設備や漁具の仕様等を規制することによって漁獲圧力を調整等する技術的規制(テクニカルコントロール)、3)漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)の設定等により漁獲量を直接調整する産出量規制(アウトプットコントロール)の三つに大別されます(図表3-4)。
図表3-4 資源管理手法の相関図

我が国においては、これまで様々な資源管理の取組を行ってきましたが、一方で、漁獲量が長期的に減少傾向にあるという課題に直面しています。その要因は、海洋環境の変化や、周辺水域における外国漁船の操業活発化等様々なものが考えられますが、より適切に資源管理を行っていれば減少を防止・緩和できた水産資源も多いと考えられました。資源管理に関する従来の公的な規制は、インプットコントロールとテクニカルコントロールが主体でしたが、技術革新によって漁獲能力が増加したことにより、これらの間接的に採捕数量を調整する手法は限界を迎えつつありました。このような状況の中、将来にわたって持続的な水産資源の利用を確保するため、平成30(2018)年、漁業法が抜本的に改正され、水産資源の保存及び管理を適切に行うことを国及び都道府県の責務とするとともに、MSYを実現するために維持し、又は回復させるべき資源量の水準の値を資源管理の目標とし、また、目標達成のための手法はTACによる管理(以下「TAC管理」といいます。)を基本とすることとされました。資源管理の目標を設定することにより、関係者が、どのように管理に取り組めば資源状況はどうなるのか、また、それに伴い漁獲量がどのように変化すると予測されるかが明確に示されます。これにより、漁業者は、将来の資源の増加と安定的な漁獲を見込めるようになり、長期的な展望を持って計画的に経営を組み立てることができるようになります。この資源管理の目標、漁獲シナリオや管理手法を決定する際には、実践者となる漁業者をはじめとした関係者間での丁寧な意見交換を踏まえていくこととしています。
漁業の成長産業化のためには、その発展の基礎となる水産資源を適切に管理することが重要です。このため、資源調査に基づいて資源評価を行い、漁獲量がMSYを実現するために維持し、又は回復させるべき資源量の水準の値を目標として資源を管理するという、国際的にみて遜色のない科学的・効果的な評価方法及び管理方法の導入を進めています。近年、海洋環境が大きく変化する中において、資源管理の取組による水産資源の持続的利用の確保が益々重要となっています(図表3-5)。
なお、TAC管理の基本となる漁獲量等の報告については、漁業者に課せられた義務として、違反に対する罰則も含め漁業法に位置付けられており、漁業者には、国や都道府県とともに適切な資源管理に取り組んでいくことが求められています。また、TAC管理に加え、これまで行われていた操業期間、漁具の制限等のTAC管理以外の手法による管理についても、資源の特性や漁業の実態を踏まえて組み合わせて実施され、水産資源の保存及び管理を適切に行うこととしています。

図表3-5 資源管理の流れ

〈沿岸漁業における漁業権制度及び沖合・遠洋漁業における漁業許可制度で管理〉
沿岸の定着性の高い資源を対象とした採貝・採藻等の漁業、一定の海面を占有して営まれる定置漁業や養殖業、内水面漁業等については、都道府県知事が漁協やその他の法人等に漁業権を免許します。他方、より漁船規模が大きく、広い海域を漁場とする沖合・遠洋漁業については、資源に与える影響が大きく、他の地域や他の漁業種類との調整が必要となる場合もあることから、農林水産大臣又は都道府県知事による許可制度が設けられています。この許可に際して漁船隻数や総トン数の制限(インプットコントロール)を行い、さらに、必要に応じて操業期間・区域、漁法等の制限措置(テクニカルコントロール)を定めることによって資源管理を行っています(図表3-6)。
図表3-6 漁業権制度及び漁業許可制度の概念図

〈資源管理の推進のための新たなロードマップの策定〉
水産庁は、令和2(2020)年9月に、改正された漁業法に基づく資源管理体制の構築のため、科学的な資源調査・評価の充実、資源評価に基づくTAC管理の推進等の令和5(2023)年度までの具体的な目標と工程を示した「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」を公表し、漁業法に基づく資源管理を推進してきました。
その結果、令和5(2023)年度末までで資源評価対象種を192種まで拡大したこと、500市場以上で産地水揚げ情報の電子収集体制を構築したこと、漁獲量ベース*1で65%をTAC管理としたこと、大臣許可漁業の11漁法・資源で漁獲割当て(IQ: Individual Quota)管理を導入したこと、全ての資源管理計画を資源管理協定に移行したことなど一定の基盤がおおむね整いましたが、同時に、解決を要する課題が浮かび上がってきました。
これらを踏まえ、令和6(2024)年度以降は、課題を解決しながら資源管理の高度化・安定化等を図る新たなフェーズへと移行し、漁業者をはじめとした関係者の理解と協力を得た上で取組を進め、適切な資源管理を通じた水産業の成長産業化を図ることとしました。また、令和12(2030)年度に444万tまで漁獲量*2を回復させることを目指すための目標と工程を示した「資源管理の推進のための新たなロードマップ」(以下「新ロードマップ」といいます。)を令和6(2024)年3月に公表しました(図表3-7)。
新ロードマップでは、1)評価の高度化と精度向上に資する調査の強化を図ること、2)MSYベースの資源評価対象資源を現在の38資源から45資源程度に拡大すること、3)令和12(2030)年度にMSYベースの資源評価が行われている資源の6割以上についてその資源量をMSY水準以上にすることを目指し、令和7(2025)年度までに漁獲量ベースで8割の資源でTAC管理を開始すること、TAC導入は資源評価の進捗状況、漁業経営や地域経済上の重要性、資源の動向などを踏まえ優先度に応じて推進し、関係漁業者との丁寧な意見交換を踏まえ、管理の段階的導入により課題解決を図りながら進めていくこと、4)IQの実施状況を検討し運用面の課題解決(移転手続の簡素化等)を図ること、大臣許可漁業におけるIQ管理を拡大すること、5)資源管理協定の効果検証と取組内容の改良などに関するガイドラインを令和7(2025)年度に作成し、検証で「効果あり」と判断された協定の割合を令和10(2028)年度に8割とすること、6)クロマグロを目的とする遊漁については届出制導入の検討など管理の高度化を図ったのち、管理の運用状況や定着の程度を踏まえTAC管理への移行を推進すること、クロマグロ以外で優先度が高いものは採捕量などの情報収集と推計を推進し、管理手法の検討と試行を推進すること、7)現場の漁獲報告の負担感を軽減するデジタル化を推進すること、水産庁行政システム(データ収集・管理システム)を高度化すること等を記載しました。
令和4(2022)年3月に閣議決定された現行の水産基本計画においても、「海洋環境の変化も踏まえた水産資源管理の着実な実施」が柱として掲げられ、「資源調査・評価体制の整備を進めるとともに、漁業者をはじめとした関係者の理解と協力を得た上で、科学的知見に基づいて新たな資源管理を推進する。」とされており、漁業者をはじめとする関係者の理解と協力を得た上で、資源管理の取組を着実に実施しているところです。
- 遠洋漁業で漁獲される魚類、国際的な枠組みで管理される魚類(かつお・まぐろ・かじき類)、さけ・ます類、貝類、藻類、うに類、海産ほ乳類は除く。
- 海面及び内水面の漁獲量から藻類及び海産ほ乳類の漁獲量を除いたもの。
図表3-7 資源管理の推進のための新たなロードマップ


〈資源管理基本方針等の策定〉
漁業法に基づく資源管理の基本的な考え方や水産資源ごとの具体的な管理については、資源評価を踏まえて、資源管理に関する基本方針(以下「資源管理基本方針」といいます。)を農林水産大臣が定めることとされており、水産庁では、令和2(2020)年に資源管理基本方針を策定しました。
資源管理基本方針には、資源管理に関する基本的事項や水産資源ごとの資源管理の目標、特定水産資源、TAC管理に必要となる大臣管理区分の設定や大臣管理区分及び都道府県へのTACの配分基準等を定めています。
また、都道府県における資源管理の基本的な考え方や都道府県内の水産資源ごとの具体的な管理については、資源管理基本方針に即して、都道府県知事が都道府県資源管理方針を定めることとされており、各都道府県において同方針が定められ、TAC管理に必要となる知事管理区分の設定や都道府県に配分されたTACに関する知事管理区分への配分基準等が規定されています。
このように、資源管理基本方針や都道府県資源管理方針が漁業法に基づく資源管理を支える基本原則であり、水産資源ごとの資源管理の進捗に応じて必要な見直しを行っていきます。
〈漁業法の下でのTAC管理の推進及び拡大〉
漁業法では、TAC資源は、資源管理基本方針において「特定水産資源」として定められることとなっています。特定水産資源については、それぞれ、資源評価に基づき、目標管理基準値や限界管理基準値等の資源管理の目標と、漁獲シナリオを設定し、これらに則してTACが決定されるとともに、限界管理基準値を下回った場合には目標管理基準値まで回復させるための計画を定めて実行することとされています。
TAC資源の拡大については、資源評価の進捗状況、漁業経営や地域経済上の重要性、資源の動向等を踏まえ、優先度に応じてTAC導入を推進していくこととしており、令和7(2025)年度までに、漁獲量ベースで8割となることを目指しています。令和7(2025)年4月時点では、漁獲量ベースで7.6割を占めています。
TAC資源拡大に向けた検討プロセスとして、まず、資源評価結果を漁業者をはじめとする関係者に説明したのち、現場の漁業者の意見を十分に聴き、必要な意見交換を行うため、農林水産大臣の諮問機関である水産政策審議会の下に設けられた資源管理手法検討部会において、水産庁から資源評価結果や現時点における検討内容を報告の上、水産資源の特性及びその採捕の実態や漁業現場等の意見を踏まえた論点や意見の整理を行います。また、同部会の結果を踏まえ、資源管理の目標及び漁獲シナリオについて、その案を公表し、周知した上で、水産庁は資源管理方針に関する検討会(ステークホルダー会合)を開催し、漁業者や加工流通業者等に対して説明をし、その意見を聴くための機会を設けます。その後に、同検討会での整理を踏まえ、水産政策審議会の資源管理分科会への資源管理の目標及び漁獲シナリオの案の諮問を経てTAC管理が導入されます(図表3-8)。
TAC資源拡大に向けた検討状況として、令和7(2025)年3月末時点で、20種35資源について資源管理手法検討部会を開催し、6種13資源について、ステークホルダー会合を開催しました(図表3-9)。
このうち、カタクチイワシ及びウルメイワシ対馬暖流系群については、令和6(2024)年1月から、マダラの四つの資源(本州日本海北部系群、本州太平洋北部系群、北海道太平洋及び北海道日本海)について同年7月から、カタクチイワシ太平洋系群、瀬戸内海系群及びマダイ日本海西部・東シナ海系群について令和7(2025)年1月から、ブリについて同年4月からTAC管理を開始しました。これらの資源においては、通常のTAC管理への移行までのスケジュールを明確にした上で、TAC管理導入当初は柔軟な運用とし、課題解決を図りながら段階的に順次実施する「ステップアップ管理」を導入し、TAC管理の課題解決に向けて、ステップアップ期間中を含め引き続き丁寧に議論し、関係する漁業者の理解と協力を得た上で実施していくこととしています(図表3-10)。ベニズワイガニ日本海系群(知事許可水域・大臣許可水域)については、令和7(2025)年9月からのTAC管理開始に向けて、準備を進めています。
このように、水産庁では、順次、TAC資源の拡大に向けた議論を進めており、今後も議論を継続していきます。
図表3-8 TAC資源拡大に向けた検討プロセス

図表1-9 TAC資源拡大に係る進捗状況

図表1-10 TAC管理導入当初の柔軟な運用(ステップアップ管理)

〈11漁法・資源でIQ方式による管理が導入〉
TACを個々の漁業者又は船舶ごとに割り当て、割当量を超える漁獲を禁止することによりTAC管理を行うIQ方式は、産出量規制の一つの方式です。
これまでの我が国EEZ内のTAC制度の下での漁獲量の管理は、漁業者の漁獲を総量管理していたため、漁業者間の過剰な漁獲競争が生じることや、他人が多く漁獲することによって自らの漁獲が制限されるおそれがあることといった課題が指摘されてきました。そこで、漁業法では、TAC管理は、船舶等ごとに数量を割り当てるIQを基本とすることとされ、11漁法・資源(ミナミマグロ、大西洋クロマグロ及びクロマグロ(大型魚)のかつお・まぐろ漁業、サバ類、マイワシ及びクロマグロ(大型魚)の大中型まき網漁業、クロマグロ(小型魚及び大型魚)のかじき等流し網漁業等、スルメイカの大臣許可いか釣り漁業並びにサンマの北太平洋さんま漁業)において、IQ方式による管理が導入されています(図表3-11)。今後は、新ロードマップに基づき、IQ方式による管理の拡大を図るとともに、運用面の課題解決を図ることとしています。
図表3-11 IQ方式による管理の導入のイメージ

〈IQ方式による管理の導入が進んだ漁業は船舶規模に係る規制を見直し〉
漁船漁業の目指すべき将来像として、漁獲対象資源の相当部分がIQ方式による管理の対象となった船舶については、トン数制限等の船舶の規模に関する制限を定めないこととしています。これにより、生産コストの削減、船舶の居住性・安全性・作業性の向上、漁獲物の鮮度保持による高付加価値化等が図られ、若者にとって魅力があり、かつ、競争力のある船舶の建造が行われるようになると考えられます。なお、このような船舶については、他の漁業者の経営に悪影響を生じさせないよう、国が責任を持って関係漁業者間の調整を行い、操業期間や区域、体長制限等の資源管理措置を講ずることにより、資源管理の実施や紛争の防止が確保されていることを確認することとしています。
〈資源管理協定による漁業者の自主的な資源管理を推進〉
我が国では、国や都道府県による公的規制と漁業者の自主的取組の組合せによる資源管理を推進しており、とりわけ、TAC資源以外の水産資源について、漁業法に基づく資源管理協定の活用による漁業者の自主的な資源管理を推進しています。
資源管理協定を策定する際には、1)資源評価対象種については、資源評価結果に基づき資源管理目標を設定すること、2)資源評価が未実施のものについては、報告された漁業関連データや都道府県水産試験研究機関等が行う資源調査を含め、利用可能な最善の科学情報を用いて資源管理目標を設定することとしており、同協定は、農林水産大臣又は都道府県知事が認定・公表します。
資源管理協定の参加者は、その取組による資源管理の効果の検証を定期的に行い、取組内容をより効果的なものに改良していくこととしており、農林水産大臣又は都道府県知事がその検証結果を公表することで、透明性を確保した運用を図っていくこととしています(図表3-12)。
また、このような資源管理協定に参加する漁業者は、漁業収入安定対策による支援の対象となります(図表3-13)。
図表3-12 資源管理協定のイメージ

図表3-13 漁業収入安定対策の概要

〈遊漁におけるクロマグロ等の資源管理の高度化を推進〉
遊漁におけるクロマグロの資源管理について、以前は、遊漁者に対して、漁業者の取組に準じて採捕停止等の協力を求めてきましたが、一層の資源管理の実効性を確保するため、漁業者が取り組む資源管理の枠組みに遊漁者が参加する制度を構築することが課題となっていました。
遊漁に対する規制は、不特定多数の者が対象となることから、罰則を伴う規制の導入には十分な周知期間を設け、試行的取組を段階的に進めることが妥当であるため、いきなりTAC制度を導入するのではなく、広域漁業調整委員会指示*1により管理を行うこととしました。具体的には、令和3(2021)年6月以降、小型魚は採捕禁止(意図せず採捕した場合には直ちに海中に放流)、大型魚を採捕した場合には重量や採捕した海域等を水産庁に報告しなければならないこととするとともに、大型魚の採捕数量がクロマグロの資源管理の枠組みに支障を来すおそれがある水準に達した場合には遊漁による大型魚の採捕を禁止することとしました。
新ロードマップにおいては、現行措置の強化を図った後、届出制導入の検討など管理の高度化を図り、本格的なTACによる数量管理への移行を推進することとしており、令和6(2024)年12月に広域漁業調整委員会の下に漁業者、遊漁関係者及び学識経験者を構成員とする「くろまぐろ遊漁専門部会」を設置し、管理の高度化に向け検討を進めているところです。
また、クロマグロ以外の資源については、新ロードマップにおいて、漁業におけるTAC化の進展等に応じ、実態把握等の優先度が高いものについて、採捕量等の情報収集・推計や遊漁の管理手法の検討・試行を推進することとしています。
- 広域漁業調整委員会は漁業法に基づき設置され、水産動植物の繁殖保護や漁業調整のために必要があると認められるときは、水産動植物の採捕に関する制限又は禁止等、必要な指示をすることができる。委員会指示に違反した場合、直ちに罰則が適用されるわけではないが、指導に繰り返し従わないなどの悪質な者に対しては、農林水産大臣が指示に従うよう命令を出すことができ、その命令に従わなかった場合、漁業法に基づく罰則が適用される。
お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344