(2)海業の推進



ア 海や漁村に関する地域資源を活かした「海業」の推進
〈水産基本計画等において海業を位置付け推進〉
漁村では、全国平均を上回る速さで人口減少や高齢化が進行していること等により、地域の活力が低下しています。
一方、全国の漁村においては、水産物直売所等の交流施設数の増加等もあり、都市漁村交流人口は近年増加傾向で推移し2千万人前後となっています(図表5-4)。漁村には、四季折々の新鮮な水産物、水産物の市場への水揚げの風景、非日常の漁業体験に加え、豊かな自然環境や漁村の景観、親水性レクリエーションの機会等の様々な地域資源を有しています。漁村の活性化のためには、それぞれが有する地域資源を十分に把握し最大限に活用することが重要です。
このような中、地域における水産業活性化の取組と併せて、豊かな自然や漁村ならではの地域資源の価値や魅力を活かした「海業」の取組の推進により、地域の所得向上と雇用機会の確保を図ることが必要となっています(図表5-5)。
海業は、水産基本計画等において、「海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用する事業」と定義し、漁業利用との調和を図りつつ地域資源と既存の漁港施設を最大限に活用し、水産業と相互に補完し合う産業である海業を育成し根付かせることによって、地域の所得と雇用の機会の確保を目指しています。
図表5-4 全国の漁港及びその背後集落における水産物直売所等の交流施設及び漁村の交流人口

図表5-5 海業の主な取組

イ 海業推進のための施策等
〈海業の推進に向けた改正漁港漁場整備法が施行〉
令和6(2024)年4月、海業の推進等を図るため、漁港について、漁業上の利用を前提としてその有する価値や魅力を活かし、水産業・漁村を活性化する漁港施設等活用事業制度の創設等を含む改正漁港漁場整備法(漁港漁場整備法*1及び水産業協同組合法*2の一部を改正する法律*3)が施行されました。同法により、漁港施設等活用事業(漁港施設、漁港内の水面等を活用した水産物の消費増進や交流促進に寄与する事業)の推進に関する計画の策定や、当該計画が策定された漁港において、漁港管理者の認定を受けて漁港施設等活用事業を実施する者に対し、当該事業を安定的に実施するための漁港施設の長期貸付け等が可能となりました(図表5-6)。
- 昭和25年法律第137号
- 昭和23年法律第242号
- 令和5年法律第34号。同法により、法律名が「漁港漁場整備法」から「漁港及び漁場の整備等に関する法律」に変更。
図表5-6 漁港施設等活用事業制度の概要

〈海業の推進に必要な調査、活動、施設整備等を支援〉
農林水産省においては、海業の推進に当たり、地域人材の育成や漁港機能の有効活用に関する調査、地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げる活動支援、漁港施設・用地の再編・整序、地域水産物普及施設の整備等の支援事業を実施しており、水産庁では、令和6(2024)年10月には「計画課」から「計画・海業政策課」に課名を変更するなど海業の推進体制を強化しました。
また、海業に係る支援は多岐の分野にわたることから、水産庁では、これから海業に取り組む民間企業や個人、海業を推進する地方公共団体等が、国の関連施策やその担当部署等を速やかに調べられるよう、関係府省庁の協力の下、海業に取り組む際に活用可能な施策をまとめた「海業支援パッケージ」を公表しています。さらに、同パッケージの一環として、関係府省庁の協力の下、海業振興に取り組む方々に向けて海業振興に係る相談を総合的に受け付ける「海業振興総合相談窓口(海業振興コンシェルジュ)」を開設しています。

〈「海業の取組事例集」等により先行的な取組を紹介〉
各漁村において、漁業生産活動の状況、地理的な状況、漁村が有する地域資源の中身等置かれている状況が異なる中、それぞれが持つ強みを活かし、多様なニーズを有する来訪者を受け入れ、新鮮な水産物の販売、飲食、漁業体験等の機会を提供することにより、地域に新たな所得と雇用を生み出した先行的な事例があります。
水産庁では、海業に関する各地の取組がより一層進められるよう、漁港施設についての有効活用に関する制度、留意すべきプロセス、全国の取組事例等を取りまとめた「漁港施設の有効活用ガイドブック」及び「有効活用事例集」、また、海業に関する各地の取組のうち一定の効果が発揮されている取組や、更に効果の発現が期待される取組について取りまとめた「海業の取組事例集」など、これまでに行われている事例集等を作成し、公表しています。
また、水産庁では、漁村地域に宿泊・滞在しながら漁村ならではの伝統的な生活体験や地域の人々との交流を楽しめるものを「渚泊(なぎさはく)」として推進しており、各地の渚泊の取組事例等を取りまとめた「渚泊取組事例集」や持続的なビジネスとして実施できる体制の構築に役立つ「渚泊推進対策取組参考書」を公表しています。
漁港における増養殖の取組については、漁港機能の再編・集約等により生じた空いた漁港の水域や用地等において行われており、水産庁では、「漁港水域等を活用した増養殖の手引き」を公表し、この一層の利用促進を図っています。
〈「海業の推進に取り組む地区」の公表等により取組を積極的に支援〉
水産庁では、5年間(令和4(2022)~8(2026)年度)でおおむね500件の漁港における新たな海業等の取組実施に向けた目標を設定し、令和5(2023)年度までに151件の取組が展開されています。この目標に向け、個別に水産庁から助言や海業の推進に関する情報提供等を行い、取組を積極的に支援する地区を「海業の推進に取り組む地区」として、令和5(2023)年度に54地区を公表し、令和6(2024)年度に32地区を追加しました。
くわえて、水産庁は、令和7(2025)年2月に「海業の推進に取り組む地区」の担当者及び関係者を対象に「海業推進全国サミット」を開催し、各地の海業の取組や検討作業から浮上した課題、その解決に向けての方策等について共有・検討しました。
さらには、令和5(2023)年12月及び令和7(2025)年2月に地方公共団体、漁協・漁業関係者、民間企業、民間団体等の海業に関心を持つ幅広い関係者を対象に「海業推進全国協議会」を開催し、情報共有を図るとともに優良な取組事例の発表等により海業への理解の促進と取組の普及、全国展開を推進しました。
また、海業を推進し漁港の魅力を伝えるため、「海業親善大使」をはじめ3体のマスコットキャラクターが誕生し、水産庁WebサイトやSNS、関係イベントなどで海業をPRしていくこととしています(図表5-7)。
図表5-7 海業PRの漁港マスコットキャラクター

事例都市部との交流人口増加に向けた施設整備や漁業体験等の充実(北海道)
北海道根室(ねむろ)市にある歯舞(はぼまい)漁協は、平成20(2008)年より漁業者宅での渚泊や、同漁港を発着拠点として、日本の本土最東端の納沙布(のさっぷ)岬、貝殻島(かいがらじま)灯台の間近まで巡るパノラマクルーズを実施しています。
パノラマクルーズは、納沙布岬周辺海域が日本でも有数の海鳥の飛来地であり天然記念物のオオワシ等の鳥類に加え、鯨類やラッコ等が観られることから野鳥ファンを中心とした多くの参加者がいます。また、多言語対応の翻訳機付き拡声器とタブレットを導入したことで、米国やアイルランド、シンガポールなど、様々な国から多くの参加者が訪れています。
また、同漁協では、加工・保管・直販の機能が一体となったコンブ加工保管施設と市場見学スペースなどの施設を新たに整備し、令和4(2022)年8月から供用を開始しました。同施設の整備に併せ、旅行会社と連携し、競りの様子やコンブの加工等の見学や、直売所の立ち寄り、漁協食堂での食事をセットにしたツアーを充実させ、地域水産物をアピールできる場を作りました。これらにくわえ、他地域の大学や地元自治体と連携のもと、担い手不足解消に向けたコンブ漁就労体験のモニタリング事業の実施のほか、地元小学生を対象とした地曳き網漁や、あさり潮干狩り等の漁業体験など、地域資源を活用した都市漁村交流活動に取り組んでいます。
これらの取組により、歯舞漁協は都市部との交流人口増加に対する受け入れ態勢を充実させ、集客人数の増加を図っています。


事例多様な取組の連携による海業の推進(岩手県)
岩手県大槌町(おおつちちょう)の吉里吉里(きりきり)漁港では、東日本大震災により多くの漁業関連施設が甚大な被害を受けながらも、魚市場を一部再開させることができましたが、漁業者は震災以降減少の一途を辿っており、近年では秋サケの不漁や魚種の変化、磯焼けによるウニ・アワビの水揚不振など多くの課題を抱えています。
こうした中、課題を解決するため、令和元(2019)年度から「サーモン養殖」及び「藻場再生」の事業を開始しました。
不漁が続く秋サケに代わる漁協の新たな収入源確保のために開始したサーモン養殖は、漁協を中心に民間事業者の連携による試験事業を経て事業化することができ、現在では関係者一丸となって「岩手大槌サーモン」のブランド化に取り組んでいます。
藻場再生事業は、飼料不足によるウニやアワビの身痩せを解消するために磯焼けが進むエリアを中心にウニの密度管理や海藻の種苗設置を行うもので、地元漁業者を中心に漁協、地域住民、ダイバー、行政で構成される「大槌町藻場再生協議会」が主体となって通年で活動を行っています。
サーモン養殖事業と藻場再生事業が開始されて以降、その二つを中心に教育や観光など様々な事業主体による漁港周辺資源を活用した取組が開始され、地域資源の活用と共有、保全、産業連携を進めることで、持続可能な海業の推進を図っております。
そして、既存の五つの事業「サーモン養殖」、「藻場再生」、「瘦せウニ蓄養」、「ブルーツーリズム」及び「海洋教育」を海業の振興のために一体的となって取り組み、相互連携を行いながら多様なニーズに応える形で進め、地域の生業と賑わいの創出による所得と魅力の向上を図っています。


事例カキ小屋常設化による水産物の消費増進(福岡県)
福岡県糸島(いとしま)市の船越(ふなこし)漁港では、船びき網や釣り、刺し網等の様々な漁業が営まれていますが、冬季はシケが多く、出漁が困難な日が多くありました。
そこで、冬季の収入源確保としてカキ養殖を導入し、更に漁業者によって漁港内に仮設によるカキ小屋の経営を平成16(2004)年から開始しました。その後、新たな漁業者の参入、品質の向上や販売ルートの拡大にも積極的に取り組んだ結果、糸島カキの認知度が高まり、そこで令和3(2021)年秋に鉄骨平屋建てのカキ小屋を建築し、常設化と規模拡大を図り、九州最大級の収容人数となるカキ小屋となりました。
カキ小屋の整備により、消費者に、より快適な空間でカキ等の新鮮な水産物を提供でき、毎年行っていた仮設小屋の設置及び撤去に係るコスト削減が図られました。この結果、カキ小屋には、年間約30万人が来場し、水産物の消費増進とともに新たな雇用創出に繋がっています。










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