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第1節 海洋環境の変化の状況

本節では、気候変動の影響等による海水温の上昇、海流の変化等、我が国近海を中心とした海洋環境の変化の状況を記述しています。

(1)我が国近海等での海洋環境の変化

〈我が国近海の平均海面水温の上昇は世界平均を大きく上回る〉

世界の海面水温は、数年から数十年のスケールの海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なり合って変化しています。令和6(2024)年までのおよそ100年間にわたる世界全体での海面水温(年平均)の上昇幅は、+0.62℃/100年であり、また、令和6(2024)年の海面水温の平年差は+0.44℃で、統計を開始した明治24(1891)年以降最も高い値となり、過去10年間(平成27(2015)~令和6(2024)年)の値は、全て歴代10位以内の値となりました。

一方、我が国近海における令和6(2024)年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)の上昇幅は+1.33℃/100年で、世界全体での平均海面水温の上昇幅や北太平洋(+0.65℃/100年)の2倍を超える割合で上昇しています(図表特-1-1)。また、令和6(2024)年の我が国近海の平均海面水温は、世界の平均と同様に、統計開始以降最も高い値となった令和5(2023)年の平均海面水温を超えました。このような中、例えば日本海中部(+2.01℃/100年)と三陸沖(+1.20℃/100年)とで海面水温の上昇幅の大きな差がみられるなど、我が国近海においても海域ごとに海面水温の上昇幅にばらつきがみられます(図表特-1-2)。さらに、三陸沖における令和5(2023)年以降の海面水温が平年より約6℃高い状態にあり、これは世界の中でも最大の上昇幅であるという報告があります。海面水温の上昇は、深層に堆積した栄養塩類を一次生産が行われる表層まで送り届ける海水の鉛直混合*1にも影響を与えるものと推測されています。

また、全世界での海洋内部の水温も長期的に上昇しています。水深2,000mまでの平均水温は、昭和30(1955)年から令和6(2024)年の間に約0.17℃上昇しており、この昇温は1990年代半ばから加速しています。また、本州太平洋北部海域の底水温の長期的上昇が認められます。

  1. 上層と底層の海水が互いに混ざり合うこと。鉛直混合の発生により底層にたまった栄養塩類が上層に供給され、植物プランクトンの繁殖が促進されて海域の生産性が向上する。

図表特-1-1 日本近海の平均海面水温の推移

図表特-1-1 日本近海の平均海面水温の推移

図表特-1-2 日本近海の海域平均海面水温の上昇幅

図表特-1-2 日本近海の海域平均海面水温の上昇幅

〈海洋熱波の発生が顕在化〉

数日から数か月にわたり急激に海水温が上昇する現象である海洋熱波は、IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書*1によると20世紀を通して頻度が増加するようになり、1980年代以降頻度は、ほぼ倍増しているとされています。

我が国周辺においても、平成22(2010)年頃から海洋熱波の発生が顕在化しており、令和3(2021)年に北太平洋の西部で発生した海洋熱波の規模が昭和57(1982)年以降で最大であったことが、人工衛星によるモニタリングにより明らかとなっています(図表特-1-3)。

図表特-1-3 北西太平洋で確認された海洋熱波(令和3(2021)年)

図表特-1-3 北西太平洋で確認された海洋熱波(令和3(2021)年)

〈黒潮大蛇行等海流が変化〉

我が国周辺海域において、代表的な暖流である黒潮の流路の変化や寒流である親潮の南下の弱まり等、海流の流れや位置の変化がみられています。

我が国の南岸を流れる黒潮が紀伊半島から東海沖で大きく離岸して流れる状態が続く黒潮大蛇行*2について(図表特-1-4)、1970年代後半から1990年代初めまで頻繁に発生して以降、一部の時期を除き非大蛇行の状態が続きました。その後、平成29(2017)年に12年振りに黒潮大蛇行が発生してから蛇行状態が継続し、令和6(2024)年12月には継続期間が7年5か月と昭和40(1965)年以降では継続期間が最も長い大蛇行となっています。

黒潮大蛇行により、潮流の離岸が大きい紀伊半島沖では海水温が下がる一方、黒潮が接岸する関東沖及び東海沖では海水温が上昇する傾向があります。また、三陸沖では令和4(2022)年秋以降、黒潮続流*3が三陸沖まで北上していることが原因で、三陸沖の海洋内部の水温が記録的に高くなっていることが報告されています。また、近年、対馬暖流の流量は強い傾向にあり、日本海の水温上昇と関係していると推測されます。千島列島に沿って南下し我が国の東に達する親潮は、海水温・塩分が低く栄養分の豊富な海水を運びます。親潮は、例年1月頃から本州東岸に沿って南下し、4月頃最も南に張り出して宮城県沖付近まで達し、その後11~12月頃には釧路沖付近まで後退しますが、近年このような季節による親潮の南下に長期的な弱まりがみられています(図表特-1-5)。

  1. 正式名称:気候変動に関する政府間パネル第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)
  2. 気象庁では、黒潮大蛇行の判定に、(1)潮岬で黒潮が安定して離岸していること、(2)東海沖(東経136~140度)での黒潮流路の最南下点が北緯32度より南に位置していることの二つの条件を用いている。
  3. 黒潮は、日本南岸に沿って流れた後、房総半島沖から東向きに流れ、この房総半島以東の流れを黒潮続流という。

図表特-1-4 黒潮の典型的流路

図表特-1-4 黒潮の典型的流路

図表特-1-5 親潮の春季南限位置の変動

図表特-1-5 親潮の春季南限位置の変動

〈海洋酸性化が進行〉

大気中のCO2が海水に吸収されることによる海洋酸性化が世界的に進行しており、酸性度を示す水素イオン濃度指数(pH)は、世界の海洋の平均で10年当たり約0.02の割合で低下傾向にあることが明らかになっています。日本近海のpHは、平成10(1998)年から令和6(2024)年までの期間で10年当たり0.022の割合で低下しており、世界平均と同程度の割合で酸性化が進んでいます。

貝類、ウニ、サンゴ等の様々な生物が炭酸カルシウムの骨格や殻を作りますが、海水のpHが低下することでこれらの生物が骨格や殻を作りにくくなります。日本沿岸でこのような酸性化の影響は現時点で確認されていませんが、飼育実験や短期観測により将来的なリスクが懸念されています。

〈海面水位の上昇等が進行〉

過去100年程で見ると、世界の平均海面水位の上昇が見られています。一方、水域ごとの上昇の度合いは異なり、我が国沿岸では、1980年代後半以降は上昇傾向となっており、近年では世界平均の上昇と同程度となっています。

我が国沿岸における高波について、気候変動の影響によるものであるかは明確でないものの、昭和45(1970)年からの35年間において増加傾向がみられ、特に太平洋側で顕著であるという報告があります。

また、高潮については、極端な高潮位の発生が、昭和45(1970)年以降全世界的に増加している可能性が高いことが指摘されています。

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344