(3)実効性ある資源管理のための取組

ア 我が国の沿岸等における密漁防止・漁業取締り
〈漁業者以外による密漁の増加を受け、大幅な罰則強化〉
水産庁が各都道府県を通じて取りまとめた調査結果によると、令和4(2022)年の全国の海上保安部、都道府県警察及び都道府県における漁業関係法令違反(以下「密漁」といいます。)の検挙件数は、1,561件(うち海面1,527件、内水面34件)となりました。近年では、漁業者による違反操業が減少している一方、漁業者以外による密漁が漁業者による密漁を大きく上回るとともに、悪質化・巧妙化しています(図表3-15)。
図表3-15 我が国の海面における漁業関係法令違反の検挙件数の推移
アワビ、サザエ等のいわゆる磯根資源は、多くの地域で共同漁業権の対象となっており、関係漁業者は、種苗放流、禁漁期間・区域の設定、漁獲サイズの制限等、資源の保全と管理のために多大な努力を払っています。一方、このような磯根資源は、容易に採捕できることから密漁の対象とされやすく、組織的な密漁も横行しています。また、資源管理のルールを十分に認識していない一般市民による個人的な消費を目的としたものも各地で発生しています。このため、一般市民に対するルールの普及啓発を目的として、水産庁は密漁対策のWebサイトを立ち上げたほか、ポスターやパンフレットを作成し配布するなど密漁の防止を図っています。
また、悪質な密漁が行われているあわび、なまこ及び全長13センチメートル以下のうなぎ(以下「うなぎの稚魚」といいます。)を「特定水産動植物」に指定し、漁業権や漁業の許可等に基づいて採捕する場合を除いて採捕を原則禁止とし、これに違反した場合には、3年以下の懲役又は3,000万円以下の罰金が科されることになります。さらに、密漁品の流通を防止するため、違法に採捕されたことを知りながら特定水産動植物を運搬、保管、取得又は処分の媒介・あっせんをした者に対しても密漁者と同じ罰則が適用されることになっています(図表3-16)。
密漁を抑止するには、夜間や休漁中の漁場監視や密漁者を発見した際の取締機関への速やかな通報等、日頃の現場における活動が重要です。
取締りについては、海上保安官及び警察官と共に、水産庁等の職員から任命される漁業監督官や都道府県職員から任命される漁業監督吏員が実施しており、今後も、関係機関と連携して取締りを強化していきます。

図表3-16 漁業法における罰則の概要

〈特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律の施行〉
違法に採捕された水産動植物の流通過程での混入やIUU*1漁業由来の水産動植物の流入を防止することを目的とした特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律*2が令和4(2022)年12月に施行されました。同法は、特定の水産動植物を取り扱う漁業者等の行政機関への届出、漁獲番号等の伝達、取引記録の作成・保存等を義務付けており、なまこ、あわびの取引の際には既存の販売システムや納品伝票等を活用した情報伝達や取引記録の作成・保管が行われています(図表3-17)。特定の水産動植物については、国内において違法かつ過剰な採捕が行われるおそれが大きい水産動植物であって資源管理を行うことが特に必要なものを「特定第一種水産動植物」、国際的なIUU漁業防止の観点から本法による輸入規制を講ずることが必要な水産動植物を「特定第二種水産動植物」と定義しており、特定第一種水産動植物は、あわび、なまこ及びうなぎの稚魚*3、特定第二種水産動植物は、さば、さんま、まいわし及びいかとしています。
令和6(2024)年3月末時点で特定第二種水産動植物等の輸入に必要な協議が完了した国・地域は48となっています。他方で、適切な資源管理措置が確認できない国・地域については、輸入ができなくなっており、IUU漁業由来の水産動植物が我が国に流入することを防いでいます。
- Illegal, Unreported and Unregulated:違法・無報告・無規制。国際連合食糧農業機関(FAO)は、無許可操業(Illegal)、無報告又は虚偽報告された操業(Unreported)、無国籍の漁船、地域漁業管理機関の非加盟国の漁船による違反操業(Unregulated)等、各国の国内法や国際的な操業ルールに従わない無秩序な漁業活動をIUU漁業としている。
- 令和2年法律第79号
- うなぎの稚魚については、令和7(2025)年12月から適用。

図表3-17 水産流通適正化制度の概要

コラム沿岸域における密漁の撲滅に向けた取組
近年、悪質な密漁が問題になっています。特にアワビ、ナマコ等は、沿岸域に生息し、容易に採捕できることから、密漁の対象とされやすく、組織的かつ広域的な密漁が横行しています。
瀬戸内海においても、漁業者によるナマコ、サザエ等の磯根資源の増殖の取組が行われている一方、潜水器や小型機船底びき網漁船等による夜間の密漁が絶えません。さらに、アワビやナマコの密漁者は高速船を使用しています。
令和2(2020)年の改正漁業法の施行に伴い、アワビやナマコの密漁に対する罰則が大幅に強化されました。違反した者に対しては3年以下の懲役又は3,000万円以下の罰金が科され、この罰金額は、国内法における個人に対する罰金の最高額です。
このような沿岸域における密漁の撲滅に向け、水産庁では瀬戸内海に漁業取締船「白鷺(しらさぎ)」等、高速の漁業取締船を配備しています。
瀬戸内海は非常に強い潮の流れや干満差等の変化が大きく、時には海象が一変する危険な海であり、夜間の漁業取締りは豊富な知識と経験が必要です。日々鍛錬を積んだ乗組員が乗船する「白鷺」の漁業取締活動は、悪質な密漁者に脅威を与えています。
イ 外国漁船等の監視・取締り
〈我が国の漁業秩序を脅かす外国漁船等の違法操業に厳正に対応〉
我が国の周辺水域においては、二国間の漁業協定等に基づき、外国漁船等が我が国EEZにて操業するほか、我が国EEZ境界線の外側においても多数の外国漁船等が操業しており、水産庁は、これら外国漁船等が違法操業を行うことがないよう、漁業取締りを実施しています。水産庁による令和5(2023)年の外国漁船等への取締実績は、立入検査7件、拿捕(だほ)1件、我が国EEZで発見された外国漁船等によるものと見られる違法設置漁具の押収8件でした(図表3-18)。
また、北太平洋公海において、サンマやマサバ等を管理する北太平洋漁業委員会(NPFC)及びカツオ・マグロ類を管理するWCPFCが定める保存管理措置の遵守状況を、聞き取り及び16件の乗船検査により確認し、外国漁船等に対して延べ9件の違反の指摘を行い、必要に応じて旗国への通報を行いました。

図表3-18 水産庁による外国漁船等の拿捕・立入検査等の件数の推移

〈日本海大和堆周辺水域での取締りを強化〉
日本海大和堆(やまとたい)周辺の我が国EEZでの中国漁船及び北朝鮮漁船による操業については、違法であるのみならず、我が国漁業者の安全操業の妨げにもなっており、極めて問題となっています。このため、我が国漁業者が安全に操業できる状況を確保することを第一に、水産庁は、違法操業を行う外国漁船等に対し放水等の厳しい措置を行い、我が国EEZから退去させています。水産庁では、周年にわたり同水域に配備している漁業取締船に加え、我が国いか釣り漁業の漁期が始まる前の5月からは、令和4(2022)年3月に竣工した大型漁業取締船を含む漁業取締船を重点的に配備するとともに、海上保安庁と連携した対応を行っています。
令和5(2023)年の水産庁漁業取締船による退去警告隻数は延べ68隻であり、前年より30隻増加しました。
大和堆西方の我が国EEZでは、違法操業を行う外国漁船等の問題は依然として継続している状況であり、水産庁は、我が国漁業者が安心して操業できるよう、引き続き海上保安庁と連携して万全の対応を行っていきます。
お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344