(3)漁港・漁場における取組
〈藻場の造成等の漁場再生等の取組〉
藻場は、水産生物の産卵・生育の場として重要な役割を担っており、CO2の吸収源としても期待されています。近年、高水温等による海藻の生育不良や植食動物の摂食行動の活発化による食害等の影響で藻場が衰退する中、藻場の保全や機能の回復により、海洋生態系全体の生産力の底上げを図ることが重要です。
各地では、地方公共団体による藻場等の造成や、漁業者や地域住民等によって構成される活動組織が行う藻場の保全活動(植食動物の駆除や母藻の設置等)等の対策が全国で実施されています。なお、国は、全国沿岸で取り組まれている藻場・干潟の造成等が実効性のある効率的なものになるように、実施に当たっての基本的な考え方とともに藻場・干潟の衰退要因やハード・ソフトが一体となった対策等を記した「藻場・干潟ビジョン」(令和5(2023)年12月改訂)(図表特-3-1)*1を取りまとめ、藻場・干潟の保全・創造対策を推進しています。同ビジョンに基づき、都道府県において、全国約80の各海域の藻場・干潟ビジョンが策定(令和6(2024)年度末時点)され、それぞれの状況に応じた取組が進められています。また、毎年、全国で取り組まれている優良な磯焼け対策や海水温上昇に対応可能な藻場造成手法などの新たな技術の横展開を図り、各地の藻場保全の取組を強化することを目的に磯焼け対策全国協議会が開催されています。
漁港においても、防波堤等の漁港施設に藻場造成機能を付加し、施設整備と一体的な藻場造成を推進しています。
- 平成28(2016)年に初版を策定。令和5(2023)年12月の改訂では、多様な主体による保全活動への参加促進、カーボンニュートラルへの貢献の推進等の観点が位置づけられた。
図表特-3-1 藻場・干潟ビジョンの概要








事例藻場再生の取組(長崎県)
長崎県壱岐(いき)市においては、近年、高水温やイスズミ等の植食動物による食害により藻場の衰退が進み、平成30(2018)年ごろにはそのほとんどが消失していました。これを受け、同市は、令和2(2020)年に「壱岐市磯焼け対策推進計画」を策定しました。本計画に基づき、同市、長崎県、同市内の漁業協同組合(以下「漁協」といいます。)及び壱岐栽培センターを構成員として設立された「壱岐市磯焼け対策協議会」を中心として、市全体で藻場造成に取り組んでいます。
食害対策として、同市は、令和元(2019)年度から食害魚等捕獲事業を開始しました。この事業では、刺網及び定置網で漁獲されたイスズミを同協議会が1匹当たり150円で買い取っており、令和5(2023)年度までに合計11,153匹を買い取りました。また、令和2(2020)年度からは刺網と潜水漁業者を対象に、漁協を通じイスズミを専門に漁獲する「イスズミハンター」として雇用する事業を開始しました。雇用された漁業者は、刺網と潜水漁業者の組み合わせのチームで駆除に取り組んでいます。イスズミが生息している場所を熟知している潜水漁業者と、網で大量に捕獲できる刺網漁業者がチームで活動することで、より効率的に捕獲することが可能となるとともに、安全性の向上も図られ、活動意欲の向上にもつながっています。「イスズミハンター」により捕獲されたイスズミは1匹当たり500円で買い取られており、令和5(2023)年度までに合計19,398匹が買い取られました。買い取られたイスズミの一部は肥料・飼料に加工されています。令和4(2022)年からは、イスズミに加え、アイゴ等の買取も行われています。
これらの植食動物の駆除に加え、同協議会はホンダワラ類を利用した藻場再生にも取り組んでいます。ホンダワラ類は短期間で一気に伸長し、比較的植食動物の食害が少ないうえ、高水温にも強く、近年の壱岐周辺での環境でも残存している海藻です。壱岐栽培センターでは、このホンダワラ類の種苗を生産し磯焼けが発生している地域に移植することで、短期間での藻場回復を後押ししています。活動当初は激しい磯焼け状態となっており、ほとんどの海藻が無い状態でしたが、現在は藻場を構成している海藻の種類が増加しました。この取組を継続し、将来的にはより多種多様な藻場の復活を目指しています。
また、協議会の構成員である壱岐市では、海洋環境学習の一環として小中高校生を対象に「水産教室」を実施しており、令和元(2019)~5(2023)年の5年間でのべ2,325名の小中高生が参加しました。磯焼け対策によって回復した藻場を教材として、学生に海洋環境について学習してもらう機会をつくっています。
磯焼けから回復するためには磯焼け対策の長期的な継続が必要です。現在、主に壱岐市郷ノ浦町(ごうのうらちょう)の地先を中心として、約330haの藻場が回復しています。今後も取組を継続し、壱岐市全域での藻場の回復を目指しています。




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