(4)資源を積極的に増やすための取組

ア 種苗放流の取組
〈全国で約70種を対象とした水産動物の種苗放流を実施〉
多くの水産動物は、産卵やふ化の後に捕食されるなどして、成魚まで育つものはごく僅かです。このため、一定の大きさになるまで人工的に育成し、ある程度成長してから放流することによって資源を積極的に増やすことを目的とする種苗放流の取組が各地で行われています。
現在、都道府県の栽培漁業センター等を中心として、ヒラメ、マダイ、ウニ類、アワビ類等、全国で約70種を対象とした水産動物の種苗放流が、地域の実情や海域の特性等を踏まえて実施されています(図表3-18)。
なお、水産庁は、種苗放流等は資源管理の一環として実施することとし、1)従来実施してきた事業は、資源評価を行い、事業の資源造成効果を検証し、検証の結果、資源造成の目的を達成したものや効果の認められないものは実施しない、2)資源造成効果の高い手法や対象魚種は、今後も事業を実施するが、その際、都道府県と適切に役割を分担し、ヒラメやトラフグのように都道府県の区域を越えて移動する広域回遊魚種等は、複数の都道府県が共同で種苗放流等を実施する取組を促進すること等により、効果のあるものを見極めた上で重点化することとしています。
また、「秋サケ」として親しまれている我が国のサケ(シロサケ)は、親魚を捕獲し、人工的に採卵、受精、ふ化させて稚魚を河川に放流するふ化放流の取組により資源が造成されていますが、近年、放流した稚魚の回帰率の低下により、資源が減少しています。気候変動による海洋環境の変化が、海に降りた後の稚魚の生残に影響しているとの指摘もあり、水産庁は、環境の変化に対応した放流手法の改善の取組等を支援しています。
図表3-18 種苗放流の主な対象種と放流実績

コラム第41回全国豊かな海づくり大会
全国豊かな海づくり大会は、水産資源の保護・管理と海や河川・湖沼の環境保全の大切さを広く国民に訴えるとともに、つくり育てる漁業の推進を通じて、明日の我が国漁業の振興と発展を図ることを目的として、昭和56(1981)年に大分県において第1回大会が開催されて以降、令和2(2020)年の新型コロナウィルス感染症拡大の影響による延期を除き、毎年開催されています。
令和4(2022)年は、「第41回全国豊かな海づくり大会兵庫大会~御食国(みけつくに)ひょうご~」が、天皇皇后両陛下の御臨席の下、「広げよう 碧(あお)く豊かな 海づくり」を大会テーマに兵庫県明石市(あかしし)で開催されました。兵庫県では昭和57(1982)年の第2回大会以来2回目の開催となりました。
式典行事では、豊かな海を願い、天皇皇后両陛下によるマダイ、キジハタ及びアユの稚魚並びにノリ糸状体のお手渡しが行われ、お手渡しを受けた稚魚等は、後日、兵庫県内の各地で放流等が行われました。
また、式典行事終了後に行われた放流行事では、天皇皇后両陛下により、マダイ及びヒラメの稚魚が放流されました。
次回の第42回大会は、令和5(2023)年9月に、「守りぬく 光輝く 豊かな海」を大会テーマに北海道厚岸町(あっけしちょう)で開催される予定です。
イ 沖合域における生産力の向上
〈水産資源の保護・増殖のため、保護育成礁やマウンド礁の整備を実施施〉
沖合域は、アジ、サバ等の多獲性浮魚類、スケトウダラ、マダラ等の底魚類、ズワイガニ等のカニ類等、我が国の漁業にとって重要な水産資源が生息する海域です。これらの資源については、種苗放流によって資源量の増大を図ることが困難であるため、資源管理とあわせて生息環境を改善することにより、資源を積極的に増大させる取組が重要です。
これまで、各地で人工魚礁等が設置され、水産生物に産卵場、生息場、餌場等を提供し、再生産力の向上に寄与しています。また、水産庁は、沖合域における水産資源の増大を目的として、ズワイガニ等の生息海域にブロック等を設置することにより産卵や育成を促進する保護育成礁や、上層と底層の海水が混ざり合う鉛直混合*1を発生させることで海域の生産力を高めるマウンド礁の整備を実施しています。保護育成礁については日本海西部地区において整備中であり、マウンド礁については五島西方沖(ごとうせいほうおき)地区及び隠岐海峡(おきかいきょう)地区で完成、対馬海峡(つしまかいきょう)地区及び大隅海峡(おおすみかいきょう)地区において整備中です。これらの整備では、沖合の深い海域に魚礁やブロック等を正確に設置するため、作業船を誘導し測量ソナーで確認しながら投入量や投入位置をコントロールするシステムを導入するなど、ICT技術を積極的に活用しています。整備後は、水産資源の保護・増殖に大きな効果が見られています(図表3-19)。
- 上層と底層の海水が互いに混ざり合うこと。鉛直混合の発生により底層にたまった栄養塩類が上層に供給され、植物プランクトンの繁殖が促進されて海域の生産力が向上する。
図表3-19 フロンティア漁場整備事業(国直轄)の概要

ウ 内水面における資源の増殖と漁業管理
〈資源の維持増大や漁場環境の保全のため、種苗放流や産卵場の整備を実施〉
河川・湖沼等の内水面では、漁業法に基づき、水産動植物の採捕を目的とする漁業権の免許を受けた漁協及び漁業協同組合連合会には水産動植物を増殖する義務が課される一方、遊漁者の採捕を制限する場合には遊漁規則を定め、遊漁者から遊漁料を徴収することが認められており、遊漁料により増殖費用が賄われています。これは、一般に海面と比べて生産力が低いことに加え、遊漁者等、漁業者以外の利用者も多く、採捕が資源に与える影響が大きいためです。このような制度の下、内水面の漁協等が主体となってアユやウナギ等の種苗放流や産卵場の整備を実施し、資源の維持増大や漁場環境の保全に大きな役割を果たしています。
このような内水面における増殖活動の重要性を踏まえ、令和2(2020)年12月に施行された漁業法等の一部を改正する等の法律による水産業協同組合法*1の改正によって、内水面の漁協における個人の正組合員資格について、従来の漁業者、漁業従事者、水産動植物を採捕する者及び養殖する者に加え、「水産動植物を増殖する者」を新たに追加するとともに、河川と湖沼の組合員資格を統一しました。
- 昭和23年法律第242号
お問合せ先
水産庁漁政部企画課
担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344