(8)水産物の流通・加工の動向





ア 水産物流通の動向
〈市場外流通が増加〉
近年、水産物の国内流通量が減少しています。また、消費地市場を経由して流通された水産物の量も減少傾向にあり、令和2(2020)年度の水産物の消費地卸売市場経由率は約46%となりました(図表2-31)。
図表2-31 水産物の消費地卸売市場経由量と経由率の推移

〈産地卸売市場数は横ばい、消費地卸売市場数は減少〉
水産物卸売市場の数については、産地卸売市場は近年横ばい傾向にある一方、消費地卸売市場は減少しています(図表2-32)。
一方、小売・外食業者等と産地出荷業者との消費地卸売市場を介さない産地直送、漁業者と加工・小売・外食業者等との直接取引、インターネットを通じた消費者への生産者直売等、市場外流通が増加しつつあります。
図表2-32 水産物卸売市場数の推移

イ 水産物卸売市場の役割と課題
〈卸売市場は水産物の効率的な流通において重要な役割〉
卸売市場には、1)商品である漁獲物や加工品を集め、ニーズに応じて必要な品目・量に仕分けする集荷・分荷の機能、2)旬や産地、漁法や漁獲後の取扱いにより品質が大きく異なる水産物について、公正な評価によって価格を決定する価格形成機能、3)販売代金を迅速・確実に決済する決済機能、4)川上の生産や川下のニーズに関する情報を収集し、川上・川下のそれぞれに伝達する情報受発信機能があります。多様な魚種が各地で水揚げされる我が国において、卸売市場は、水産物を効率的に流通させる上で重要な役割を担っています(図表2-33)。
一方、卸売市場には様々な課題もあります。まず、輸出も見据え、施設の近代化により品質・衛生管理体制を強化することが重要です。また、産地卸売市場の多くは漁協によって運営されていますが、取引規模の小さい産地卸売市場は価格形成力が弱いこと、販売体制維持のための固定経費や、生鮮・冷凍品であるため保冷に係る流通経費が負担となること等が課題となっており、市場の統廃合等により市場機能の維持・強化や価格形成力の強化を図っていくことが求められます。さらに、消費地卸売市場を含めた食品流通においては、物流等の効率化、ICT等の活用、鮮度保持等の品質・衛生管理の強化、及び国内外の需要へ対応し、多様化する実需者等のニーズに的確に応えていくことが重要です。
このような状況の変化に対応して、生産者の所得の向上と消費者ニーズへの的確な対応を図るため、各卸売市場の実態に応じて創意工夫を活かした取組を促進するとともに、卸売市場を含めた食品流通の合理化と、その取引の適正化を図ることを目的として、「卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律*1」が平成30(2018)年に成立しました。卸売市場法*2の一部改正については、令和2(2020)年に施行され、この新制度により、中央卸売市場及び地方卸売市場においては、共通の取引ルールを遵守し、公正かつ安定的に業務運営を行うこととされ、その他の取引ルールについては、その市場の関係者の意見を聞いて開設者が決めることになりました。卸売市場を含む水産物流通構造が改善され、魚の品質に見合った適正な価格形成が図られることで、1)漁業者にとっては所得の向上、2)加工流通業者にとっては経営の改善、3)消費者にとってはニーズに合った水産物の供給につながることが期待されます。
- 平成30年法律第62号
- 昭和46年法律第35号
図表2-33 水産物の一般的な流通経路

ウ 水産加工業の動向
〈食用加工品生産量が減少傾向の中、ねり製品や冷凍食品は近年横ばい傾向〉
水産加工品のうち食用加工品の生産量は、総じて減少傾向にありましたが、ねり製品や冷凍食品の生産量については、平成21(2009)年頃から横ばい傾向となっています(図表2-34)。
また、以前は生鮮の水産物を丸魚のまま、又はカットやすり身にしただけで凍結した生鮮冷凍水産物の生産量が食用加工品の生産量を上回っていましたが、平成7(1995)年以降は食用加工品の生産量の方が上回っています。このように、水産物は、ねり製品や冷凍食品等、多様な商品に加工され、供給されています。
図表2-34 水産加工品生産量の推移
エ 水産加工業の役割と課題
〈経営の脆弱性や従業員不足が重要な課題〉
我が国の食用魚介類の国内消費仕向量の約7割は加工品として供給されており、水産加工業は漁業と共に車の両輪を担っています。また、水産加工場の多くは沿海地域に立地し、漁業と共に漁村地域の活性化に寄与しています。
水産加工業は、腐敗しやすい水産物の保存性を高める、家庭での調理の手間を軽減するといった機能を通じ、水産物の付加価値の向上に寄与しています。特に近年の消費者の食の簡便化志向の高まり等により、水産物消費における加工の重要性は高まっており、多様化する消費者ニーズを捉えた商品開発が求められています。
しかしながら、近年では、経営体力不足、従業員不足、原材料の調達難等が、主な水産加工業の課題となっています。このため、生産・加工・流通・販売が連携しマーケットニーズに応えるバリューチェーンの構築等の取組や、産地全体の機能強化に資するよう、水産加工業協同組合等が漁協等と連携して行う共同利用施設を整備する取組を支援しています。
また、外国人技能実習生や特定技能外国人の円滑な受入れ、共生を図る取組を行うとともに、省人化・省力化を図るためのICT、AI、ロボット等の新技術の開発・活用・導入を進めていくこととしています。
さらに、近年のイカ、サンマ等の不漁による加工原材料不足の問題に対し、資源状況の良い魚種への加工原材料の転換等の推進を図り、原材料転換に対応した生産体制を構築するため、魚種の転換に係る機器整備や水産加工業者への加工原材料の安定供給等の取組を支援しています。くわえて、産地全体の機能強化・活性化を図るためには、産地の取りまとめ役となる中核的人材や次世代の若手経営者を育成することも必要です。このため、各種水産施策や中小企業施策の円滑な利用が進むよう、国及び都道府県レベルにワンストップ窓口を設置し、水産加工業者の悩みや相談に迅速かつ適切に対応していくこととしています。
オ HACCPへの対応
〈水産加工業等における対EU輸出認定施設数は119施設、対米輸出認定施設数は589施設〉
HACCP*1は、食品安全の管理方法として世界的に利用されていますが、EUや米国等は、輸入食品に対してもHACCPの実施を義務付けているため、我が国からこれらの国・地域に水産物を輸出する際には、我が国の水産加工施設等が、輸出先国・地域から求められているHACCPを実施し、更に施設基準に適合していることが必要です。
政府は、輸出促進のため、EUや米国への輸出に際して必要なHACCPに基づく衛生管理及び施設基準等の追加的な要件を満たす施設として認定を取得するため、水産加工・流通施設の改修等を支援しています。特に、ALPS処理水*2の海洋放出開始以降の中国、香港等による輸入規制強化を受け、中国等からEU・米国へ輸出先を転換するに当たり、これらの国等が定めるHACCPの要件に適合する施設及び機器の整備並びに認定手続を支援しています。
また、水産物の流通拠点となる漁港等において高度な衛生管理に対応した荷さばき所等の整備を推進しているほか、冷凍・冷蔵施設の老朽化が進行しており、その更新が課題となっていることから、生産・流通機能の強化と効率化を図りつつ、冷凍・冷蔵施設の整備を推進しています。
特に、認定施設数が少数にとどまっていた対EU輸出認定施設については、認定の加速化に向け、厚生労働省に加え農林水産省も平成26(2014)年10月から認定主体となり、令和6(2024)年3月末までに71施設を認定し、厚生労働省の認定数と合わせ、我が国の水産加工業等における対EU輸出認定施設数は119施設*3となりました。同月末時点で、対米輸出認定施設数は589施設となっています(図表2-35)。
なお、国内消費者に安全な水産物を提供する上でも、卸売市場等における衛生管理を高度化するとともに、水産加工業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入を促進することが重要です。平成30(2018)年6月には食品衛生法等の一部を改正する法律*4が公布され、水産加工業者を含む原則として全ての食品等事業者を対象に、令和3(2021)年6月から、HACCPに沿った衛生管理の実施が制度化されています。
- Hazard Analysis and Critical Control Point:危害要因分析・重要管理点。原材料の受入れから最終製品に至るまでの工程ごとに、微生物による汚染や金属の混入等の食品の製造工程で発生するおそれのある危害要因をあらかじめ分析(HA)し、危害の防止につながる特に重要な工程を重要管理点(CCP)として継続的に監視・記録する工程管理システム。国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会がガイドラインを策定して各国にその採用を推奨している。
- 多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)等によりトリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たすまで浄化処理した水
- 令和6(2024)年3月末時点で国内手続が完了したもの。
- 平成30年法律第46号
図表2-35 水産加工業等における対EU・対米輸出認定施設数の推移

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代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344