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水産庁

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(5)漁場環境をめぐる動き

目標11
目標12
目標13
目標14

ア 藻場・干潟の保全と再生

〈藻場・干潟の保全や機能の回復によって生態系全体の生産力を底上げ〉

藻場は、繁茂した海藻や海草が水中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給し、水産生物に産卵場、幼稚仔魚等の生息場、餌場等を提供するなど、水産資源の増殖に大きな役割を果たしています。また、河口部に多い干潟は、潮汐の作用により、陸上からの栄養塩や有機物と海からの様々なプランクトンが供給されることにより、高い生物生産性を有しています。藻場・干潟は、二枚貝等の底生生物や幼稚仔魚の生息場となるだけでなく、このような生物による水質の浄化機能や、陸から流入する栄養塩濃度の急激な変動を抑える緩衝地帯としての機能も担っています。

しかしながら、このような藻場・干潟は、海水温の上昇に伴う海藻の立ち枯れや種組成の変化、海藻を食い荒らすアイゴ等の植食性魚類やウニの活発化・分布の拡大による影響、貧酸素水塊の発生、陸上からの土砂の供給量の減少等による衰退が指摘されています。

藻場・干潟の保全や機能の回復によって、生態系全体の生産力の底上げを図ることが重要であり、国は、地方公共団体が実施する藻場・干潟の造成と、漁業者や地域住民等によって行われる食害生物の駆除や母藻の設置等の藻場造成、干潟の耕うん等の保全活動が一体となった広域的な対策を推進しています。

藻場の造成の様子
造成後に海藻類が繁茂している状況(黒い部分)
藻場の保全(ウニの駆除)
干潟等の保全(干潟の耕うん)

イ 内湾域等における漁場環境の改善

〈漁場環境改善のため、赤潮等の被害対策、栄養塩類管理、適正養殖可能数量の設定等を推進〉

海藻類の成長、魚類や二枚貝等の餌となる動物・植物プランクトンの増殖のためには、陸域や海底等から供給される窒素やリン等の栄養塩類が必要となります。瀬戸内海をはじめとした閉鎖性水域において、栄養塩類の減少等が海域の基礎的生産力を低下させ、養殖ノリの色落ちや魚介類の減少の要因となっている可能性が、漁業者や地方公共団体の研究機関から示唆されています。一方で、窒素、リン等の栄養塩類、水温、塩分、日照、競合するプランクトン等の要因が複合的に影響することにより赤潮が発生し、魚類養殖業等に大きな被害をもたらすことも指摘されています。

瀬戸内海においては、これらの状況に鑑み、令和3(2021)年6月に成立した「瀬戸内海環境保全特別措置法の一部を改正する法律*1」において、必要に応じて栄養塩類の供給・管理を可能とする栄養塩類管理制度の導入が盛り込まれ、水質汚濁の改善と水産資源の持続可能な利用の確保の調和・両立を進めることとしています。また、東京湾や伊勢・三河湾においても、漁業関係者や行政が連携し、栄養塩類の管理に係る研究成果等の情報共有を図っています。

また、国は、沿岸県と連携し、海域の栄養塩類が水産資源の基礎を支えるプランクトン等の餌生物等に対して与える影響に関する調査研究、適切な栄養塩類の管理のための基礎的なデータの収集、栄養塩類の供給手法の開発等の漁場改善実証試験の支援を行うとともに、赤潮による漁業被害の軽減対策として、関係地方公共団体及び研究機関等と連携して、赤潮発生の広域モニタリング技術の開発、赤潮の発生メカニズムの解明等による発生予察手法の開発、被害軽減技術の開発に取り組んでいます。

さらに、北海道太平洋沿岸において、令和3(2021)年9月中旬から赤潮が発生し、ウニやサケ等に漁業被害が発生したことから、北海道や研究機関等と連携し、調査や漁場回復の取組への支援を行っています(後述のコラム参照)。

また、有明海や八代海では、近年底質の泥化や有機物の堆積等、海域の環境が悪化し、赤潮の増加や貧酸素水塊の発生等が見られる中で、二枚貝をはじめとする水産資源の悪化が進み、海面漁業生産が減少しました。これらの状況に鑑み、平成12(2000)年度のノリの不作を契機に「有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律*2」が平成14(2002)年に制定され、関係県は環境の保全及び改善並びに水産資源の回復等による漁業の振興に関し実施すべき施策に関する計画を策定し、有明海及び八代海等の再生に向けた各種施策を実施しています。国は、同法に基づき、関係県等の事業を支援し、有明海及び八代海等の再生を図っています。

このほか、養殖漁場については、「持続的養殖生産確保法*3」に基づき、漁協等が養殖漁場の水質等に関する目標、適正養殖可能数量、その他の漁場環境改善のための取組等をまとめた漁場改善計画を策定し、これを漁業収入安定対策*4により支援しています。

また、新漁業法においては、漁場を利用する者が広く受益する赤潮監視、漁場清掃等の保全活動を実施する場合に、都道府県が申請に基づいて漁協等を指定し、一定のルールを定めて沿岸漁場の管理業務を行わせることができる仕組みが新たに設けられました。

  1. 令和3(2021)年法律第59号
  2. 平成14(2002)年法律第120号。平成23(2011)年に法律名を「有明海及び八代海等を再生するための特別措置に 関する法律」に改正。
  3. 平成11(1999)年法律第51号
  4. 図表3-12(110ページ)参照

コラム北海道太平洋沿岸における漁業被害

令和3(2021)年9月中旬から、北海道太平洋沿岸において赤潮が発生し、サケやウニのへい死等の漁業被害が発生しました。

北海道の公表によると、令和4(2022)年2月28日時点の被害見込みとしては、サケが約0.7億円、ウニが約74億円(ウニの資源回復に4年程度かかるものとして試算)など、計約82億円に及ぶとしており、被害原因の究明と漁業経営の再建が重要な課題となっています。

今回の漁業被害のうち、1)漁業共済の対象となっているサケ等については、漁業共済及び漁業収入安定対策事業により減収の補てんを行うとともに、2)漁船で漁獲していないウニ漁業については、漁業共済の対象となっていませんが、令和3(2021)年度補正予算に盛り込んだ北海道赤潮対策緊急支援事業において、国は漁業関係者等の地元関係者が取り組む漁場環境の回復の取組を支援し、経営継続を支援していくこととしています。このほか、同事業においては、1)広域モニタリング技術の開発、2)赤潮の発生メカニズムの解明等による発生予察手法の開発、3)赤潮原因プランクトンの水産生物に対する毒性の影響等の調査を行うこととしています。

これらの措置により、国は、今般の被害地域の漁業の維持・回復を図っていくこととしています。

海底でへい死した大量のウニ
えらが白くなっており、酸欠で死亡したと推測されるサケ

ウ 河川・湖沼における生息環境の再生

〈内水面の生息環境や生態系の保全のため、魚道の設置等の取組を推進〉

河川・湖沼は、それら自体が水産生物を育んで内水面漁業者や遊漁者の漁場となるだけでなく、自然体験活動の場等の自然と親しむ機会を国民に提供しています。また、河川は、森林や陸域から適切な量の土砂や有機物、栄養塩類を海域に安定的に流下させることにより、干潟や砂浜を形成し、海域における豊かな生態系を維持する役割も担っています。しかしながら、河川をはじめとする内水面の環境は、ダム・堰堤えんてい等の構造物の設置、排水や濁水等による水質の悪化、水の利用による流量の減少等の人間活動の影響を特に強く受けています。このため、内水面における生息環境の再生と保全に向けた取組を推進していく必要があります。

国は、「内水面漁業の振興に関する法律*1」に基づいて策定した「内水面漁業の振興に関する基本的な方針*2」により、関係省庁、地方公共団体、内水面の漁協等の連携の下、水質や水量の確保、森林の整備及び保全、自然との共生や環境との調和に配慮した多自然川づくりを進めています。また、内水面の生息環境や生態系を保全するため、せき等における魚道の設置や改良、産卵場となる 砂礫されき底や植生の保全・造成、様々な水生生物の生息場となる石倉増殖礁(石を積み上げて網で囲った構造物)の設置等の取組を推進しています。

さらに、同法では、共同漁業権の免許を受けた者からの申出により、都道府県知事が内水面の水産資源の回復や漁場環境の再生等に関して必要な措置について協議を行うための協議会を設置できることになっており、令和3(2021)年末時点で、山形県、東京都、滋賀県、兵庫県及び宮崎県において協議会が設置され、良好な河川漁場保全に向けた関係者間の連携が進められています。

  1. 平成26(2014)年法律第103号
  2. 平成26(2014)年策定、平成29(2017)年改正。
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内水面に関する情報(水産庁):https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/naisuimeninfo.html

エ 気候変動による影響と対策

〈顕在化しつつある漁業への気候変動の影響〉

気候変動は、地球温暖化による海水温の上昇等により、水産資源や漁業・養殖業に影響を与えます。我が国近海における令和2(2020)年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)の上昇率は+1.19℃/100年で(図表3-19)、世界全体での平均海面水温の上昇率(+0.56℃/100年)よりも大きく、我が国の気温の上昇率(+1.28℃/100年)と同程度の数値でした。一方、我が国近海の海面水温は10年規模で変動することが知られており、近年は平成12(2000)年頃に極大、平成22(2010)年頃に極小となった後、上昇傾向が続いています。さらに黒潮大蛇行等、局所的な海況の変化も日々起こっており、水産資源の現状や漁業・養殖業への影響を考える際には、これら様々なスケールの変動・変化を考慮する必要があります。

図表3-19 日本近海の平均海面水温の推移

図表3-19 日本近海の平均海面水温の推移

気候変動に関する報告書としては、令和3(2021)年7月下旬から8月上旬に開催された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第54回総会」において承認・受諾されたIPCC第6次評価報告書WG1報告書(自然科学的根拠)*1があります。この中では、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がなく、大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れているとされています。国内では、令和2(2020)年12月に環境省により作成、公表された「気候変動影響評価報告書」でも指摘されているとおり、近年、我が国近海では海水温の上昇が主要因と考えられる現象が顕在化しています。具体的には、北海道でのブリの豊漁やサワラの分布域の北上、マサバの産卵場の北上(図表3-20)等が継続して確認されています。

  1. 正式名称:「気候変動に関する政府間パネル第6次評価報告書 第1作業部会(WG1)報告書(自然科学的根拠)」

図表3-20 長期的なマサバの産卵場の変化

図表3-20 長期的なマサバの産卵場の変化

〈気候変動による影響を調査・研究していくことが必要〉

気候変動は、海水温だけでなく、深層に堆積した栄養塩類を一次生産が行われる表層まで送り届ける海水の鉛直混合、表層海水の塩分、海流の速度や位置にも影響を与えるものと推測されています*1。このような環境の変化を把握するためには、調査船や人工衛星により継続的にモニタリングしていくことが重要です。例えば、令和3(2021)年に北太平洋の西部で発生した海洋熱波の規模が昭和57(1982)年以降で最大であったことが、人工衛星によるモニタリングにより明らかとなっています(図表3-21)。このような現象は、北太平洋の東部でも確認されており、水産資源や生態系等への影響が懸念されています。また、地域の水産資源や水産業に将来どのような影響が生じ得るかを把握するため、関係省庁や大学等が連携して、数値予測モデルを使った研究や影響評価、採り得る対策案を事前に検討する取組も進められており、今後もこれらを強化していくことが重要です。

さらに、国際的な連携の構築も重要です。我が国は、各地の地域漁業管理機関のみならず、北太平洋海洋科学機関(PICES)等の国際科学機関にも参画し、気候変動が海洋環境や海洋生物に与える影響や海洋熱波に代表される現象について広域的な調査・研究を進めています。令和3(2021)~12(2030)年は、持続可能な開発目標(SDGs)「14.海の豊かさを守ろう」等を達成するための「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」です。ますます活発化する海洋に関わる国際的な研究活動に、我が国も大きく貢献していきます。

  1. 温暖化により表層の水温が上昇すると、表層の海水の密度が低くなり沈みにくくなるため、深層との鉛直混合が弱まると予測されている。

図表3-21 北西太平洋で確認された海洋熱波

図表3-21 北西太平洋で確認された海洋熱波

〈気候変動には「緩和」と「適応」の両面からの対策が重要〉

気候変動に対しては、温室効果ガスの排出削減等による「緩和」と、現在生じており、又は将来予測される被害を回避・軽減する「適応」の両面から対策を進めることが重要です。

このうち、「緩和」に関しては、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(平成27(2015)年)で採択されたパリ協定において、気候変動緩和策として、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分下回るよう抑制するとともに、1.5℃に抑える努力を追求することが示されました。また、IPCC1.5℃特別報告書(平成30(2018)年10月公表)において、将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないように抑えるシナリオでは、2050年前後には世界の人為起源の二酸化炭素排出量が正味ゼロに達するとされており、カーボンニュートラルを達成することの必要性が示唆されています。このような知見も踏まえ、地球温暖化対策を総合的かつ計画的に推進するための政府の「地球温暖化対策計画」が令和3(2021)年10月に改定され、農林水産省も、同月に「農林水産省地球温暖化対策計画」を改定しました。例えば、太陽光、風力等の再生可能エネルギーについては、「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律*1」に基づき漁村における取組を促進するほか、荷さばき所等の漁港施設の機能向上を図るための再生可能エネルギーを活用した発電設備等の一体的整備を推進することとしています。また、我が国が2050年カーボンニュートラルを宣言したことを踏まえ、令和2(2020)年12月に関係省庁連携の下で、温暖化への対応を成長の機会と捉える「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました(令和3(2021)年6月改定)。また、令和3(2021)年5月に農林水産省は、食料・農林水産業の生産力の向上と持続性の両立をイノベーションで実現するため、「みどりの食料システム戦略」を策定しました。この戦略において、水産分野では、漁船の電化・水素燃料電池化の推進等により温室効果ガス排出削減を図るとともに、ブルーカーボン(海洋生態系に貯留される炭素)の二酸化炭素吸収源としての可能性を追求すること等を改めて明記しており、この一環として、藻場の二酸化炭素吸収効果に関する研究等を行っています。他方、「適応」については、平成30(2018)年6月に、気候変動適応を法的に位置付ける「気候変動適応法*2」が公布され、これに基づき同年11月に閣議決定された「気候変動適応計画」が令和3(2021)年10月に改定されたことから、災害や気候変動に強い持続的な食料システムの構築についても規定する「みどりの食料システム戦略」等を踏まえ、農林水産分野における適応策について必要な見直しを行い、同月に「農林水産省気候変動適応計画」を改定しました。

水産分野においては、海面漁業、海面養殖業、内水面漁業・養殖業、造成漁場及び漁港・漁村について、気候変動による影響の現状と将来予測を示し、当面10年程度に必要な取組を中心に工程表を整理しました(図表3-22)。

  1. 平成25(2013)年法律第81号
  2. 平成30(2018)年法律第50号

図表3-22 農林水産省気候変動適応計画の概要(水産分野の一部)

図表3-22 農林水産省気候変動適応計画の概要(水産分野の一部)

例えば、海面漁業では、サンマ、スルメイカ、サケに見られるような近年の不漁が今後長期的に継続する可能性があることを踏まえ、海洋環境の変化に対応し得るサケ稚魚等の放流手法等を開発しています。

海面養殖業では、高水温耐性等を有する養殖品種の開発、有害赤潮プランクトンや疾病への対策等が求められています。高水温耐性を有する養殖品種開発については、ノリについての研究開発が進んでいます。既存品種では水温が23℃以下にならないと安定的に生育できないため、秋季の高水温が生産開始の遅れと収獲量の減少の一因になると考えられています。そこで、育種により24℃以上でも2週間以上生育可能な高水温適応素材を開発し、野外養殖試験を行った結果、高水温条件下での発育障害が軽減されることが観察されたことを受け、実用化に向けた実証実験を進めています(図表3-23)。

図表3-23 ノリ養殖における秋季高水温の影響評価と適応計画に基づく取組事例

図表3-23 ノリ養殖における秋季高水温の影響評価と適応計画に基づく取組事例

魚病については、水温上昇に伴い養殖ブリ類の代表的な寄生虫であるハダムシの繁殖可能期間の長期化が予測されています。ハダムシがブリ類に付着すると、魚が体を生けの網に擦り付けることで表皮が傷つき、その傷から他の病原性細菌等が体内に侵入する二次感染によって養殖ブリ類が大量に死亡することがあります。そのため、ハダムシの付着しにくい特徴を持つ系統を選抜し、その有効性を検証する試験を行っています。

内水面漁業・養殖業では、海洋と河川の水温上昇によるアユの遡上時期の早まりや遡上数の減少が予測されることから、水温上昇がアユの遡上・流下や成長に及ぼす影響を分析し、適切なサイズの稚アユを適切なタイミングで放流することで、種苗放流の効果を最大化する放流手法の開発を行っています。

また、海水温上昇による海洋生物の分布域・生息場の変化を的確に把握し、それに対応した水産生物のすみかや産卵場等となる漁場整備が求められており、山口県の日本海側では、寒海性のカレイ類が減少する一方で、暖海性魚類のキジハタにとって生息しやすい海域が拡大していることを踏まえ、キジハタの成長段階に応じた漁場整備が進められています。

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みどりの食料システム戦略(農林水産省):https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/
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農林水産省気候変動適応計画(農林水産省):https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/adapt/top.html

オ 海洋におけるプラスチックごみの問題

〈海洋プラスチックごみの影響への懸念の高まり〉

海に流出するプラスチックごみの増加の問題が世界的に注目を集めています。年間数百万tを超えるプラスチックごみが海洋に流出しているとの推定*1もあり、我が国の海岸にも、海外で流出したと考えられるものも含めて多くのごみが漂着しています。

海に流出したプラスチックごみは、海鳥や海洋生物が誤食することによる生物被害や、投棄・遺失漁具(網やロープ等)に海洋生物が絡まって死亡するゴーストフィッシング、海岸の自然景観の劣化等、様々な形で環境や生態系に影響を与えるとともに、漁獲物へのごみの混入や漁船のスクリューへのごみの絡まりによる航行への影響等、漁業活動にも損害を与えます。さらに、紫外線等により次第に劣化し破砕・細分化されてできるマイクロプラスチック*2は、表面に有害な化学物質が吸着する性質があることが指摘されており、吸着又は含有する有害な化学物質が食物連鎖を通して海洋生物へ影響を与えることが懸念されています。

我が国では、令和元(2019)年5月に、「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」が関係閣僚会議で策定されたほか、海岸漂着物処理推進法*3に基づく「海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」の変更及び「第四次循環型社会形成推進基本計画*4」に基づく「プラスチック資源循環戦略」の策定を行い、海洋プラスチックごみ問題に関連する政府全体の取組方針を示しました。

また、令和3(2021)年6月に、海洋プラスチックごみ問題への対応を契機の一つとして、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律*5」が成立したほか、令和4(2022)年3月に、海洋プラスチック汚染をはじめとするプラスチック汚染対策に関する法的拘束力のある文書の作成に向けた決議が国連環境総会で採択されるなど、国内外の海洋プラスチックごみ問題への取組が加速化しています。

  1. Jambeck et al.( 2015) による。
  2. 微細なプラスチックごみ(5mm以下)のこと。
  3. 平成21(2009)年法律第82号。正式名称:「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」。
  4. 平成30(2018)年6月閣議決定
  5. 令和3(2021)年法律第60号。令和4(2022)年4月1日施行。

〈海洋生分解性プラスチック製の漁具の開発や漁業者による海洋ごみの持ち帰りを促進〉

海洋プラスチックごみの主な発生源は陸域であると指摘されていますが、海域を発生源とする海洋プラスチックごみも一定程度あり、その一部は漁業活動で使用される漁具であることも指摘されています*1

そのような中、水産庁は、漁業の分野において海洋プラスチックごみ対策やプラスチック資源循環を推進するため、平成30(2018)年に、漁業関係団体、漁具製造業界及び学識経験者の参加を得て協議会を開催し、平成31(2019)年4月に、同協議会が取りまとめた「漁業におけるプラスチック資源循環問題に対する今後の取組」を公表しました。その主な内容は、1)漁具の海洋への流出防止、2)漁業者による海洋ごみの回収の促進、3)意図的な排出(不法投棄)の防止、4)情報の収集・発信、であり、これらの取組は前述の海洋プラスチックごみ対策アクションプラン等にも盛り込まれたものです。

また、水産庁は、1)海洋プラスチックごみ対策アクションプランを踏まえ、令和2(2020)年5月に、使用済み漁具の計画的処理を推進するための「漁業系廃棄物計画的処理推進指針」を策定し、2)海洋に流出した漁具による環境への負荷を最小限に抑制するため、海洋生分解性プラスチック等の環境に配慮した素材を用いた漁具開発等の支援や、素材ごとに分解、分別しやすい設計の漁網等のリサイクル推進を念頭に置いた漁具の検討をしています。また、水産庁は、3)操業中の漁網に入網するなどして回収される海洋ごみを漁業者が持ち帰ることは、海洋ごみの回収手段が限られる中で重要な取組と考えられるため、環境省と連携し、環境省の海岸漂着物等地域対策推進事業を活用して、海洋ごみの漁業者による持ち帰りを促進する(図表3-24)とともに、4)漁業者や漁協等が環境生態系の維持・回復を目的として、地域で行う漂流漂着物等の回収・処理に対し、水産多面的機能発揮対策事業による支援を実施しています。さらに、業界団体・企業等による自主的な取組に係る情報発信や、マイクロプラスチックが水産生物に与える影響についての科学的調査結果の情報発信を行っています。

  1. FAO「The State of World Fisheries and Aquaculture 2020」による。
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プラスチック資源循環(漁業における取組)(水産庁):https://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/action_sengen/190418.html
海岸に漂着したプラスチックごみ
海洋生分解性プラスチックを用いたフロートの試作品

図表3-24 漂流ごみ等の回収・処理について(入網ごみ持ち帰り対策)

図表3-24 漂流ごみ等の回収・処理について(入網ごみ持ち帰り対策)

カ 海洋環境の保全と漁業

〈適切に設置・運用される海洋保護区により、水産資源の増大を期待〉

漁業は、自然の生態系に依存し、その一部を採捕することにより成り立つ産業であり、漁業活動を持続的に行っていくためには、海洋環境や海洋生態系を健全に保つことが重要です。

平成22(2010)年には、生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)の下で、令和2(2020)年までに沿岸域及び海域の10%を海洋保護区(MPA:Marine Protected Area)又はその他の効果的な地域をベースとする保全手段(OECM:Other Eff ective area-based ConservationMeasures)で管理及び保全を図ることを含む「愛知目標」が採択されました。このMPA等に関するターゲット(目標)は、平成24(2012)年に開始された国連環境開発会議(リオ+20)においても成果文書に取り上げられたほか、SDGsにおいても同様に規定されています。

我が国において、MPAは、「海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性の保全及び生態系サービスの持続可能な利用を目的として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な手法により管理される明確に特定された区域」と定義されていますが、これには「水産資源保護法*1」上の保護水面や「漁業法」上の共同漁業権区域等が含まれており、漁業者の自主的な共同管理等によって、生物多様性を保全しながら、これを持続的に利用していく海域であることは、日本型海洋保護区の一つの特色になっています。また、適切に設置され運用されるMPA及びOECMは、海洋生態系の適切な管理及び保全を通じて、水産資源の増大にも寄与するものと考えられます。

  1. 昭和26(1951)年法律第313号

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344
FAX番号:03-3501-5097