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(2)漁業・養殖業の経営の動向

目標8
目標11
目標14

ア 水産物の産地価格の推移

〈不漁が続き漁獲量が減少したスルメイカ等は高値〉

水産物の価格は、資源の変動や気象状況等による各魚種の生産状況、国内外の需要の動向等、様々な要因の影響を複合的に受けて変動します。

特に、マイワシ、サバ類、サンマ等の多獲性魚種の価格は、漁獲量の変化に伴って大きく変化し、近年は、不漁が続き漁獲量が減少しているスルメイカ等は高値で推移しています(図表2-4)。

図表2-4 主な魚種の漁獲量と主要産地における価格の推移

図表2-4 主な魚種の漁獲量と主要産地における価格の推移

漁業及び養殖業の近年の平均産地価格は、上昇傾向から平成29(2017)年以降は下降傾向となったものの、令和3(2021)年から回復基調にあり、令和5(2023)年は前年から31円/kg上昇し432円/kgとなりました(図表2-5)。

図表2-5 漁業・養殖業の平均産地価格の推移

図表2-5 漁業・養殖業の平均産地価格の推移

イ 漁船漁業の経営状況

〈沿岸漁船漁業を営む個人経営体の漁労所得は219万円〉

令和5(2023)年の沿岸漁船漁業*1を営む個人経営体の漁労所得は、前年から33万円減少し、219万円となりました(図表2-6)。これは、漁労収入が減少したこと等のためです。

なお、水産加工業や民宿の経営といった漁労外事業所得は、前年から3万円減少して23万円となり、漁労所得にこれを加えた事業所得は242万円となりました。

  1. 船外機付漁船及び10トン未満の動力漁船を使用した漁業。沿岸地域で、主に日帰りで行う漁業であり、一例としては、イワシ類、イカナゴ等を漁獲する船びき網漁業、マグロ類を漁獲するひき縄釣り漁業。

図表2-6 沿岸漁船漁業を営む個人経営体の経営状況の推移

図表2-6 沿岸漁船漁業を営む個人経営体の経営状況の推移

沿岸漁船漁業を営む個人経営体には、数億円規模の売上があるものから、ほとんど販売を行わず自給的に漁業に従事するものまで、様々な規模の経営体が含まれます。令和5(2023)年における沿岸漁船漁業を営む個人経営体の販売金額を見てみると、300万円未満の経営体が全体の約6割を占めていますが、このような零細な経営体の割合は、減少傾向にあります(図表2-7)。

令和5(2023)年の販売金額を年齢階層別に見てみると、販売金額300万円未満の割合は64歳以下の階層より65歳以上の階層で多く、65歳以上の階層では販売金額300万円未満が6割以上、75歳以上の階層では販売金額100万円未満が5割以上を占めています(図表2-8)。

また、全ての漁船漁業を営む個人経営体のうち、令和5(2023)年の基幹的漁業従事者*1が65歳未満の経営体の漁労所得は703万円となっています(図表2-9)。

  1. 個人経営体の世帯員のうち、満15歳以上で自家漁業の海上作業従事日数が最も多い者。

図表2-7
沿岸漁船漁業を営む個人経営体の販売金額規模別の内訳

図表2-7 沿岸漁船漁業を営む個人経営体の販売金額規模別の内訳

図表2-8 沿岸漁船漁業を営む個人経営体の基幹的漁業従事者の年齢階層別の販売金額規模別の内訳及び推計平均販売金額(令和5(2023)年)

図表2-8 沿岸漁船漁業を営む個人経営体の基幹的漁業従事者の年齢階層別の販売金額規模別の内訳及び推計平均販売金額(令和5(2023)年)

図表2-9 基幹的漁業従事者が65歳未満の個人経営体(漁船漁業)の経営状況の推移

図表2-9 基幹的漁業従事者が65歳未満の個人経営体(漁船漁業)の経営状況の推移

〈漁船漁業を営む会社経営体の営業利益は1,104万円〉

漁船漁業を営む会社経営体では、漁労利益の赤字が続いていますが、令和5(2023)年度には、漁労利益の赤字幅は前年度から1,550万円減少して3,274万円となりました(図表2-10)。これは、油費等の漁労支出が3,854万円増加した一方、漁獲物の価格上昇等で漁労収入が5,404万円増加したことによります。

また、漁労外利益は、令和5(2023)年度には、前年度から174万円減少して4,377万円となりましたが、漁労利益と漁労外利益を合わせた営業利益は1,104万円となり、4年ぶりに営業利益が黒字となりました。

図表2-10 漁船漁業を営む会社経営体の経営状況の推移

図表2-10 漁船漁業を営む会社経営体の経営状況の推移

〈10トン未満の漁船では船齢20年以上の船が全体の8割以上〉

我が国の漁業で使用される漁船について、漁船隻数は減少傾向にあり、令和5(2023)年は平成30(2018)年から約2万隻減少し、10万9,283隻となっています(図表2-11)。

また、我が国の漁業で使用される漁船については、引き続き高船齢化が進んでいます。令和7(2025)年に大臣許可漁業の許可を受けている漁船では、船齢20年以上の船が全体の約6割、30年以上の船が全体の約3割を占めています(図表2-12)。また、令和5(2023)年度に漁船保険に加入していた10トン未満の漁船では、船齢20年以上の船が全体の8割以上を、30年以上の船が全体の約6割を占めています(図表2-13)。

漁船は漁業の基幹的な生産設備ですが、高船齢化が進んで設備の能力が低下すると操業の効率を低下させ、漁業の収益性を悪化させるおそれがあります。そのため、水産庁では、収益性向上に必要な漁船等のリース方式での導入に対して、水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業(漁船リース事業)により支援を行うとともに、高性能漁船の導入等により収益性の高い操業体制への転換を目指すモデル的な取組等に対して、漁業構造改革総合対策事業(もうかる漁業事業)により支援を行っています。

図表2-11 漁船の隻数の推移

図表2-11 漁船の隻数の推移

図表2-12 大臣許可漁業許可船の船齢の割合

図表2-12 大臣許可漁業許可船の船齢の割合

図表2-13 10トン未満の漁船の船齢の割合

図表2-13 10トン未満の漁船の船齢の割合

〈燃油価格は高値水準で、かつ、不安定な動き〉

油費の漁労支出に占める割合は、直近5か年の平均で、沿岸漁船漁業を営む個人経営体及び漁船漁業を営む会社経営体で約16%を占めており、燃油の価格動向は、漁業経営に大きな影響を与えます。燃油価格は、近年、新興国における需要の拡大、産油国合意に基づく産出量の増減、為替相場の変動等様々な要因により大きく変動する中、新型コロナウイルス感染症拡大による世界的な経済活動の停滞からの回復等による影響やロシア・ウクライナ情勢による影響等もあり高値水準で、かつ、不安定な動きを見せています(図表2-14)。

燃油価格の高騰に対し、水産庁は、燃油価格が変動しやすいこと及び漁業経営に与える影響が大きいことを踏まえ、漁業者と国があらかじめ積立てを行い、燃油価格が一定の基準以上に上昇した際に積立金から補填金ほてんきんを交付する漁業経営セーフティーネット構築事業及び漁業者への省エネルギー機器の導入支援により、燃油価格高騰の際の漁業経営への影響の緩和を図っています。

令和6(2024)年12月には、基金への国費の積み増しを行うため、令和6(2024)年度補正予算において、漁業経営セーフティーネット構築事業に321億円を措置しました。

図表2-14 燃油価格の推移

図表2-14 燃油価格の推移

ウ 養殖業の経営状況

〈海面養殖業を営む個人経営体の漁労所得は1,533万円〉

海面養殖業を営む個人経営体の漁労所得について、令和5(2023)年は、前年から471万円増加して1,533万円となりました(図表2-15)。これは、ほたてがい養殖業をはじめとする漁労収入が増加したこと等により漁労収入が647万円増加したためです。

図表2-15 海面養殖業経営体(個人経営体)の経営状況の推移

図表2-15 海面養殖業経営体(個人経営体)の経営状況の推移

〈養殖用配合飼料価格の高騰〉

魚類養殖における餌代はコストの約8割を占めており、養殖用配合飼料の価格動向は、給餌養殖業の経営を大きく左右します(図表2-16)。配合飼料の主原料である魚粉は、輸入に大きく依存しており、最大の魚粉生産国であるペルーにおけるペルーカタクチイワシ(アンチョベータ)の不漁や為替相場の変動等により価格は大きく変動してきました。近年では、世界における魚粉需要の拡大に加え、新型コロナウイルス感染症拡大による世界的な経済活動の停滞からの回復等による影響やロシア・ウクライナ情勢による影響等もあり、輸入価格は上昇傾向で推移しています(図表2-17)。

このため、高効率な低魚粉養殖用配合飼料の開発や、配合飼料原料の多様化及び国産化、高成長系統の作出を目指す育種技術の開発等の取組を推進しています。例えば、低魚粉養殖用配合飼料については、昆虫や単細胞生物(水素細菌)が魚粉代替原料となり得る研究成果が得られたところです。また、配合飼料価格が一定の基準以上に上昇した際に、漁業者と国による積立金から補填金を交付する漁業経営セーフティーネット構築事業により、配合飼料価格高騰による養殖業経営への影響の緩和を図っています。

令和6(2024)年12月には、基金への国費の積み増しを行うため、令和6(2024)年度補正予算において、漁業経営セーフティーネット構築事業に321億円を措置しました。

図表2-16 海面養殖業における漁労支出の構造

図表2-16 海面養殖業における漁労支出の構造

図表2-17 配合飼料及び輸入魚粉価格の推移

図表2-17 配合飼料及び輸入魚粉価格の推移

〈養殖業の成長産業化を推進〉

世界の人口は今後も増加傾向であり、世界における1人当たりの食用魚介類の消費量は過去半世紀で約2倍に増加する一方、世界における漁船漁業による漁獲量は横ばい傾向となっています。また、我が国においても水産資源の漁獲が不安定な中、魚食を好む国民が安定して水産物を楽しむためにも、計画的で安定的に生産できる養殖に対する期待は高く、国の内外を問わない関心の高まりから養殖業を成長させる好機を迎えています。このため、水産庁では、国内外の需要を見据えて戦略的養殖品目を設定し、生産から販売・輸出に至る総合戦略を立てた上で、養殖業の振興に本格的に取り組むこととし、令和2(2020)年7月に「養殖業成長産業化総合戦略」を制定しました。同戦略では、生産中心のプロダクトアウト型から、生産から販売・輸出に至る関係者が連携し需要実態を強く意識できるマーケットイン型養殖業への転換を推進していくため、生産技術や生産サイクルを土台にし、餌・種苗等、加工、流通、販売、物流等の各段階が連携・連結しながら、それぞれの強みを活かし、弱みを補い合って、養殖のバリューチェーンの付加価値を向上させていくことが重要であり、現場の取組実例を参考に、1)生産者協業(複数の比較的小規模な養殖業者の連携)、2)産地事業者協業(養殖業者と漁協や産地の餌供給・加工・流通業者との連携)、3)生産者型企業(養殖業者からの事業承継や新規漁場の使用等により規模を拡大する地元養殖企業)、4)一社統合企業(養殖バリューチェーンの全部又は大部分を1社で行う企業)、5)流通型企業(養殖業者の参画を得るなどし、養殖から販売まで行う流通や販売を本業とする企業)の五つの基本的な経営体の例が示されています。

同戦略を着実に実行していくため、大規模沖合養殖システムの導入等の収益性向上のための実証の取組や、規模の大小を問わずマーケットイン型養殖業を実現するための資材・機材等の導入等の支援を行っています。

エ 所得の向上を目指す「浜の活力再生プラン」

〈全国で563地区が浜の活力再生プランの取組を実施〉

多様な漁法により多様な魚介類を対象とした漁業が営まれている我が国では、漁業の振興のための課題は地域や経営体によって様々です。このため、各地域や経営体が抱える課題に適切に対応していくためには、トップダウンによる画一的な方策によるのではなく、地域の漁業者自らが地域ごとの実情に即した具体的な解決策を考えて合意形成を図っていくことが必要です。このため、水産庁では、平成25(2013)年度より、漁村地域の活性化を図る方策として、各漁村地域の漁業者の所得を5年間で10%以上向上させることを目標に、地域の漁業や漁村の課題を漁業者自らが地方公共団体等と共に考え、地域ごとに解決策を取りまとめて実施する「浜の活力再生プラン」(以下「浜プラン」といいます。)を推進しています。水産庁の承認を受けた浜プランに盛り込まれた浜の取組は、関連施策の実施の際に優先的に採択されるなど、目標の達成に向けた支援が集中して行われる仕組みとなっています。

令和6(2024)年度末時点で、全国で563地区の浜プランが、水産庁の承認を受け各取組を実施しており、その内容は、地域ブランドの確立や消費者ニーズに沿った加工品の開発等により付加価値の向上を図るもの、輸出体制の強化を図るもの、観光連携を強化するもの等、各地域の強みや課題により多様なものとなっています(図表2-18)。

図表2-18 浜の活力再生プランの取組内容の例

図表2-18 浜の活力再生プランの取組内容の例

これまでの浜プランの取組状況を見てみると、令和5(2023)年度に浜プランを実施した地区のうち、54%の地区は所得目標を上回りました。所得の増減の背景は地区ごとに様々ですが、効果があった取組として、活締め等による魚価向上に向けた取組や、種苗放流等の販売量向上に向けた取組等が挙げられます。一方で、効果が認められなかった取組については、その要因として海水温の上昇等の海洋環境の変化による生産量の減少や、燃油価格や資材価格の高騰等が挙げられます。

また、平成27(2015)年度からは、より広域的な競争力強化のための取組を行う「浜の活力再生広域プラン」(以下「広域浜プラン」といいます。)も推進しています。広域浜プランには、浜プランに取り組む地域を含む複数の地域が連携し、それぞれの地域が有する産地市場、加工・冷凍施設等の集約・再整備や施設の再編に伴って空いた漁港内の水面を増養殖や蓄養向けに転換する浜の機能再編の取組、広域浜プランにおいて中核的漁業者として位置付けられた者が、競争力強化を実践するために必要な漁船をリース方式により円滑に導入する取組等が盛り込まれ、これらの取組に対し支援を行っています。令和6(2024)年度末までに、全国で148件の広域浜プランが策定・実施されています。

今後とも、これら浜プラン・広域浜プランの枠組みに基づき、各地域の漁業者が自律的・主体的にそれぞれの課題に取り組むことにより、漁業者の所得の向上や漁村の活性化につながることが期待されます。

QRコード
浜の活力を取り戻そう(水産庁):/j/bousai/hamaplan.html

事例地域ごとの実情に即した浜の活力再生プラン(福井県)

高浜たかはま地区地域水産業再生委員会

福井県高浜地区では、大型・小型定置漁業、刺網・延縄漁業、採貝藻及び養殖等が営まれています。同地域では、若狭高浜わかさたかはま漁協、高浜魚商組合、高浜町たかはまちょう、福井県漁業協同組合連合会小浜おばま支所及び福井県で構成される地域水産業再生委員会が、平成26(2014)年度から浜プランを策定し、漁業者の所得向上を目指した取組を実施しています。

同地区では、温暖化等の海洋環境の変化により、利用価値の低いサゴシ、ツバス、エソ、シイラ等の漁獲割合が増加し、これらの魚種の有効利用が課題となっていました。そこで、低利用魚種の買取り先として地域商社が加工場を運営し、漁協女性部等との協力により「食べやすさ」をコンセプトに新商品を開発しました。くわえて、漁港や市場周辺で地域商社と連携した直売イベントやECサイトでの販売、地元住民や観光客への調理販売を実施し、6次産業化による付加価値向上を図っています。

また、高浜町全体でコンパクトシティ構想に基づく都市整備を進める中で、地域の主要産業である水産業や漁港の再整備に伴い、魚の高付加価値化や販売量増加に向けて、漁業者、加工業者、販売業者等が多様な事業に連携して取り組んでいます。漁港と隣接した立地を活かしたエリアを「たらふく市場」と称し、衛生管理機能を持ちセリ見学もできる市場や6次産業施設「UMIKARA」を核とした観光と連携したビジネスを展開し、直販施設に活魚水槽を備え、購入した活魚を食堂で食べられるレストラン事業のほか、昼市や海釣り体験等にも取り組み、海の文化と恵みを丸ごと体感できる仕組みを確立しています。

これらの6次産業化や観光との連携を通じた取組は、地元水産物の魚価向上や販路拡大のみならず、地域の魅力や知名度の向上にも大きく寄与し、漁業者の所得向上及び地域活性化を実現しています。

なお、本取組は、「令和6年度浜の活力再生プラン優良事例表彰」において、農林水産大臣賞を受賞しています。

  1. Electronic Commerce:電子商取引。
商品開発した串製品(上)と地域商社運営の加工場(下)
シーフードマーケット「UMIKARA」
うみから食堂の地魚メニュー
昼市の様子

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344