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水産庁

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(2)東京電力福島第一原子力発電所事故の影響への対応

ア 市場流通する水産物の安全性の確保

〈水産物の安全性確保のために放射性物質モニタリングを着実に実施〉

東日本大震災に伴って起きた東電福島第一原発の事故の後、消費者に届く水産物の安全性を確保するため、「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」に基づき、国、関係都道県、漁業関係団体が連携して水産物の計画的な放射性物質モニタリングを行っています。モニタリング結果は公表され、基準値(100Bqベクレル/kg)を超過した種は、出荷自粛要請や出荷制限指示の対象となります(図表6-4)。

図表6-4 水産物の放射性物質モニタリングの枠組み

図表6-4 水産物の放射性物質モニタリングの枠組み

この基準値は、食品の国際規格を策定しているコーデックス委員会が指標としている年間線量1mSvミリシーベルトを踏まえて設定されています。国際放射線防護委員会(ICRP)が自然からの被ばく量の地域差の範囲内で誰でも受入れ可能な目安等として年間1mSvを示していることから、この勧告に基づいて、コーデックス委員会は年間線量1mSvを指標として定めています。

東電福島第一原発の事故以降、令和7(2025)年3月末までに、福島県及びその近隣県において、合計21万7,923検体の検査が行われてきました。基準値超の放射性セシウムが検出された検体(以下「基準値超過検体」といいます。)の数は、時間の経過とともに減少する傾向にあり、検出限界値*1未満の検体数は水産物全体で約97%となっており、福島県においては、海産種では令和4(2022)年2月以降、淡水種では同年12月以降、福島県以外においては、海産種では平成26(2014)年9月以降、淡水種では令和2(2020)年5月以降、基準値超過検体もありませんでした(図表6-5)。

  1. 分析機器が検知できる最低濃度であり、検体の重量や測定時間によって変化する。厚生労働省のマニュアル等に従い、基準値から十分低い数値になるよう設定。

図表6-5 水産物の放射性物質モニタリング結果(放射性セシウム)

図表6-5 水産物の放射性物質モニタリング結果(放射性セシウム)
QRコード
水産物の放射性物質調査の結果について(水産庁):/j/housyanou/kekka.html

〈国際原子力機関が、「日本の分析機関が高い正確性と能力を有している。」と評価〉

我が国は、国際原子力機関(IAEA)の支援により、平成26(2014)年度から海洋モニタリングデータの信頼性及び透明性の向上に取り組んでいます*1。令和5(2023)年10月に実施した共同での海洋モニタリングの報告書が令和7(2025)年1月にIAEAから公表され、「海域モニタリングを実施する日本の分析機関が高い正確性と能力を有している。」と評価されました。

また、IAEAでは、令和4(2022)年度から、東電福島第一原発におけるALPS処理水*2の取扱いに関する安全性レビューの一環として、日本の海域における水産物や海水のモニタリング結果の信頼性を裏付けるための取組を実施しています。令和5(2023)年10月に採取した試料の分析結果に関する報告書が令和7(2025)年3月にIAEAから公表され、「ALPS処理水に係るトリチウム分析などについて、日本の分析機関の試料採取方法は適切であり、かつ、海洋モニタリングの結果から、参加した日本の分析機関が高い正確性と能力を有している。」と評価されました。

  1. 水産物については、平成27(2015)年度から実施。
  2. 多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)等によりトリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たすまで浄化処理した水。トリチウムについても安全基準を十分に満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄める。

〈出荷制限等の状況〉

放射性物質モニタリングにおいて、基準値を超える放射性セシウムが検出された水産物については、国、関係都道県、漁業関係団体等の連携により流通を防止する措置が講じられています。

その上で、検査結果が基準値を下回るようになった種については、順次出荷制限の解除が行われ、海産種については令和6(2024)年10月以降、全ての海産種で出荷制限が解除されました。

また、淡水種については、令和7(2025)年3月末時点で、3県(宮城県、福島県及び群馬県)の河川や湖沼の一部において、合計9種が出荷制限又は地方公共団体による出荷・採捕自粛措置の対象となっています。

イ 福島県沖での本格操業に向けた取組

〈試験操業から本格操業に向けた移行期間として水揚げの拡大に取り組む〉

福島県沖では、東電福島第一原発の事故の後、沿岸漁業及び底びき網漁業の操業が自粛され、漁業の本格再開に向けた基礎情報を得るため、平成24(2012)~令和3(2021)年3月末まで、試験操業・販売(以下「試験操業」といいます。)が実施されました。

試験操業の対象海域は、東電福島第一原発から半径10km圏内を除く福島県沖全域であり、試験操業への参加漁船数は延べ2,183隻、平成24(2012)年に122tだった水揚量は、令和2(2020)年には4,591tになりました。試験操業の取組で漁獲される魚種及びその加工品には放射性物質の自主検査が行われるなど、市場に流通する福島県産水産物の安全性を確保するための慎重な取組が行われました。

試験操業終了後の令和3(2021)年4月からは、操業の自主的制限を段階的に緩和し、地区や漁業種類ごとの課題を解決しつつ、水揚げを震災前の水準へと回復することを目指しており、令和6(2024)年の水揚量は6,640t(震災前の平成22(2010)年と比べ26%)、水揚金額は36億円(同39%)と未だに回復途上にあります(図表6-6)。

福島県産水産物の販路を拡大するため、多くの取組やイベントが実施されています。福島県漁業協同組合連合会では、全国各地でイベントや福島県内で魚料理講習会を開催しています。このような取組を着実に行っていくことにより、福島県の本格的な漁業の再開につながっていくことが期待されます。

水揚げの様子(写真提供:福島県)
料理教室の様子(写真提供:福島県漁業協同組合連合会)
イベントの様子(写真提供:福島県漁業協同組合連合会)

図表6-6 福島県の漁業(沿岸漁業及び底びき網漁業)及び海面養殖業の水揚量・水揚金額

図表6-6 福島県の漁業(沿岸漁業及び底びき網漁業)及び海面養殖業の水揚量・水揚金額

コラム新規漁業就業者の増加(福島県)

令和5(2023)年度の福島県における新規漁業就業者については30人となり、東日本大震災以後最も多くなりました。これは、東日本大震災前の直近2か年度の同県における新規漁業就業者数を上回っています。また、39歳以下の割合は全国平均を上回っています。

こうした中、同県いわき市のいわき市漁協では、新規漁業就業者は現時点では増加傾向にはないものの、同じ漁協内でも30代以下の若い世代同士の交流機会が少なくなっていたことから、30代以下の若い漁業就業者等の間で、地域の同世代のつながりを築くため、令和5(2023)年1月に20代から30代の漁業者等の5人で、任意団体「いわきfisher's Network」を発足しました。同団体は、漁業関係者間での定期的な情報交換や勉強会を行うといった自主的な活動に取り組んでおり、沿岸漁業に従事する若手漁業者を中心に地元漁業の将来に向けた活動を展開しています。今後も積極的に新しい取組を行ったり、他の漁業関係者にも波及することで若手を中心とした地域の活性化につながることが期待されます。

漁業就業者の定着に向けた漁労技術習得研修の様子 写真提供:福島県
いわきFisher's Networkと漁協職員 写真提供:いわきFisher's Network

ウ 東京電力福島第一原子力発電所事故による風評の払拭

〈最新の放射性物質モニタリングの結果や福島県産水産物の魅力等の情報発信〉

消費者庁が平成25(2013)年2月から実施している「風評に関する消費者意識の実態調査」によれば、「放射性物質を理由に福島県の食品の購入をためらう」と回答した消費者の割合は、令和7(2025)年1月の調査では、6.2%となりました(図表6-7)。

しかしながら、これまでも風評被害が発生してきていることに鑑み、継続的に対応していく必要があります。

風評被害を防ぎ、一日も早く復興を目指すため、水産庁は、最新の放射性物質モニタリングの結果や水産物と放射性物質に関するQ&A等をウェブサイトで公表し、消費者、流通業者、国内外の報道機関等への説明会を行うなど、正確で分かりやすい情報提供に努めています。

また、被災地県産水産物の販路回復・風評払拭のため、大型量販店において福島県産水産物を「福島鮮魚便」として常設で販売し、専門の販売スタッフが安全・安心とおいしさをPRするとともに、水産物が確実に流通されるよう共同出荷による消費地市場への流通拡大の実証を支援しました。さらに、海外向けに我が国の情報を発信するウェブサイトでの福島県を含む被災地県産水産物の安全性と魅力をPRする活動等を行いました。これらの取組を通じ、消費者だけでなく、漁業関係者や流通関係者にも正確な情報や福島県産水産物の魅力等の発信を行い、風評の払拭に努めていきます。

図表6-7 「放射性物質を理由に福島県の食品の購入をためらう」と回答した消費者の割合

図表6-7 「放射性物質を理由に福島県の食品の購入をためらう」と回答した消費者の割合
QRコード
東京電力福島第一原子力発電所事故による水産物への影響と対応について(水産庁):/j/koho/saigai/

〈令和6(2024)年に1地域で輸入規制措置が撤廃〉

東電福島第一原発事故に伴い、55か国・地域において、日本産農林水産物・食品の輸入停止や放射性物質の検査証明書等の要求、検査の強化といった輸入規制措置が講じられました。これらの国・地域に対し、政府一体となってあらゆる機会を捉えて規制の撤廃に向けた粘り強い働き掛けを行ってきた結果、令和6(2024)年度には、輸入規制措置が仏領ポリネシアで撤廃、台湾で緩和され、規制を維持する国・地域は6にまで減少しました(図表6-8)。

図表6-8 原発事故に伴う諸外国・地域の食品等の輸入規制の概要(令和7(2025)年1月時点)

図表6-8 原発事故に伴う諸外国・地域の食品等の輸入規制の概要(令和7(2025)年1月時点)

お問合せ先

水産庁漁政部企画課

担当者:動向分析班
代表:03-3502-8111(内線6578)
ダイヤルイン:03-6744-2344