(4)養殖業の成長産業化に向けて
〈世界市場への販路拡大の必要性〉
我が国の水産物市場は世界的に見ても大規模であり、我が国の養殖業にとっても重要な市場です。しかしながら、我が国の人口は減少局面に突入しており、我が国の水産物の国内需要は長期的に減少していくと見込まれます。一方、世界の水産物の需要は人口増加や経済成長に伴い増加傾向にあり、また、現在、世界の養殖業は拡大傾向にあることからも、水産物の貿易は活発化すると予想されています。そのため、我が国の養殖業も国内の需要だけを市場として考える国内需要依存型を脱却し、食用、非食用を問わず、世界市場への販路拡大を図り、「海外から稼ぐ力」を強化することで養殖業の成長産業化を実現させる好機を迎えています。
事例養殖クロマグロの輸出拡大に向けた商品づくりと更なる販路開拓
愛媛県宇和島(うわじま)市で水産物の加工・販売を行う辻水産株式会社は、県内の養殖業者と連携し、餌の品質管理や水温調整、水揚げ時の丁寧な処理にこだわったクロマグロ養殖に取り組んでいます。水揚げ後2分以内に神経締めやエラ・内臓の除去を行うなど、厳格な手順のもとで処理されるクロマグロは、初代宇和島藩主・伊達秀宗にちなんで「だてまぐろ」と名付けられ、ブランド化されています。日本国内だけでなく海外にも出荷しており、特に米国では「DateMaguro」として商標登録もされています。
同社は、水産資源の持続的利用に対する国際的な関心の高まりを受けてAEL(Aquaculture Eco-Label)認証の取得、輸出先から注文を受けた後に生け簀から取り上げ、最も新鮮な状態の魚を出荷できる仕組みの構築等、マーケットインの考え方を徹底した製品づくりによって、10年以上にわたり米国向け輸出を継続してきました。
さらに令和6(2024)年12月には、地域一体となって輸出に取り組む「フラッグシップ輸出産地」として農林水産大臣の認定を受けました。更なる輸出拡大に向け、英語の会社紹介動画の作成も行っています。また、国際展示会への出展やバイヤー招聘(しょうへい)を通して積極的にPR活動を実施しています。


事例AIによる鑑賞解析システムを活用したオンライン品評会の開催等による錦鯉の輸出拡大の取組
江戸時代後期から、新潟県を中心に養殖業が営まれてきた錦鯉は、日本の伝統文化の象徴としてアジアや欧州でも人気が高まっています。令和4(2022)年12月に農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略に定める輸出重点品目に追加され、令和5(2023)年3月には、一般社団法人全日本錦鯉振興会が認定農林水産物・食品輸出促進団体(以下「品目団体」といいます。)に認定されました。
一般社団法人全日本錦鯉振興会は、品評会を活用した販路開拓活動や、錦鯉の個体情報を一括管理し適正な流通を図るための錦鯉証明システムの開発・運用等、海外におけるジャパンブランドの確立や業界関係者共通の輸出に関する課題解決等に向けて、多岐にわたる取組を実施しています。
中でも、AIを用いた鑑賞解析システムを活用することで、自宅からでも手軽に参加可能なオンライン品評会の開催は外出が制限されたコロナ禍において人気を集め、海外での認知度向上に大きくつながりました。
また、一般社団法人全日本錦鯉振興会が発起人となり、令和6(2024)年から米国ラスベガスで毎年開催されている品評会「The All American Koi Show」は、SNSや動画配信サイトによる口コミで評判となり、米国向け輸出額は令和6(2024)~7(2025)年にかけて12億円から27億円と2倍以上に増加する等、米国における錦鯉人気の火付け役となっています。



〈初期餌料としてのカイアシ類の活用〉
人工種苗生産においては種苗として利用できる大きさになるまでの歩留まり(生き残りの状況(生残率))の改善が重要な課題であり、安定的な生産体制の確立に向けた技術開発が進められています。その一環として、公益財団法人海洋生物環境研究所において、我が国初となる純国産で高栄養価の人工種苗向け初期餌料の実用化に向けた、カイアシ類の安定生産・量産の技術開発が進められています(図表特-1-11)。水産庁としても、この研究開発を支援しています。現在、人工種苗向け初期餌料として一般に用いられているアルテミアと異なり、カイアシ類はブリ等の養殖の対象となっている魚類の稚仔魚(ちしぎょ)が自然界で食べている動物プランクトンです。カイアシ類を給餌することで、より天然の魚に近い頑健な人工種苗が育つことが期待されています。
図表特-1-11 カイアシ類を用いたマダイ種苗生産予備試験

〈第1節のおわりに〉
世界的な水産物需要の増加や漁業の生産量が増えていない状況が続いていることを背景に、今後、養殖業は食料供給の安定化に不可欠な役割を担うと考えられており、更なる成長が期待される分野です。栽培漁業を実施するために多くの種で行われてきた種苗生産に係る取組等もあって、我が国は養殖に利用可能な優れた技術を有しており、技術立国としての可能性を示す分野の一つであるといえます。
特に、我が国の養殖ブリ類は世界のブリ類養殖生産量の約8割を占めるなど、国際的に圧倒的な優位性を誇る魚種であり、完全養殖技術の確立により、一部の養殖ブリでは高付加価値ブランドが市場で評価され、魚価の向上と水産物輸出の増大に寄与しています。
一方、サケ・マス類については国内需要の大半をチリやノルウェー等からの輸入に依存していますが、近年では国内における海面養殖の取組や陸上養殖の技術開発が進展しています。これらの取組は、輸入依存度の低減に加え、国内水産業の競争力強化が期待されます。
また、カイアシ類の大量培養技術の開発等により、生残率の向上や健全な種苗の生産につながる可能性が指摘されています。こうした技術が今後の養殖の生産体制の高度化に寄与することが期待されています。
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